IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第三十四話

 

 

 

『シュヴァルツェア・レーゲン』

 ドイツの第3世代型IS。通称「schwarzer regen:黒い雨」

 大型レールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀等の武装により近接から遠距離射撃までこなす万能型の機体。

 

 

 そして、

 

 

『ッ……なん、だこれは……!』

 

 

「そうだ、それでいい。身動きも取れないだろう」

 

 

『AIC(アクティヴ・イナーシャル・キャンセラー』

 ラウラ自身が「停止結界」と呼称する、元々ISに搭載されていたPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を発展させたもの。

 対象を任意に停止させることができるが、使用するには相当な集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器との対面では効果が薄い。

 

 

『面倒な物積みやがって……!』

 

 

「貴様の機体は、見たことのないタイプだな。全身装甲《フルスキン》のISとは」

 

 

『お前には、関係のないことだ……!』

 

 

「それもそうか。

 ……どうせ今から貴様は死ぬのだから、そんなことも関係なくなるしな」

 

 

 口元を大きく歪ませるラウラ。

 その姿はまるで、歴史的な書物に記された悪魔と呼ばれる存在を具現化した様な表情だった。

 

 

『ぐっ……がぁぁぁぁ!!』

 

 

「ほう、力尽くでAICを破るか。面白い」

 

 

 黒龍の性能は、並大抵のISを凌駕する。

 篠ノ之束が手をかけたのだ、半端な力ではないし、橘 龍也個人の実力も高い部分に位置している。

 

 

『ーーーーッ!』

 

 

「ちっ、目障りな……!」

 

 

『羽』を巧みに利用し、縦横無尽に駆け回り斬撃を叩き込んでいく。

 ISの動きというよりは空を飛ぶ兵器のような相手に、ラウラは苛立ちを隠せなかった。

 

 

「(なんだ……?レーゲンのSEの減りが早い。痛手になるような攻撃は食らっていないはずだが)」

 

 

 龍也は、戦法を攻めに取るより慎重に行動することに決めていた。

『斬魔』はまさしく攻守一体の武器、se奪取により持久戦になっても戦えるからだ。

 

 

『(千冬さん、俺は……)』

 

 

 千冬から託された言葉を思い出す龍也。

 

 

 

 

 

『ーーーラウラを、止めてくれ。手遅れになってしまう前に』

 

 

 

 

 

『俺はお前を止めるぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。間違った道に進ませない為にもな』

 

 

「ほざけ。私の目的を、貴様如きが歪めるな」

 

 

 二人は、正面からぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー私が今日から、ここの部隊で教官を務める織斑 千冬だ。よろしく頼む』

 

 

 

 

『おい、お前。こんな所で何をしている』

 

 

 

 

『ラウラと言ったな。お前、強くなりたいか?』

 

 

 

 

『良くやったぞ、ラウラ。その調子だ』

 

 

 

 

『隊長就任おめでとう。ハーゼのみんなも、お前なら適任だと言っていたぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー私が教える事は、もう無い。今までご苦労だった』

 

 

 

 

『後は頼んだぞ、ラウラ』

 

 

 

 

 いやだ、嫌だ嫌だ。私は、貴女と、

 

 

 

 

 

 

 ずっと一緒に居られれば、それだけでいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もう少し……後、ほんの少しで辿り着く。私の……)」

 

 

『ッ、ふっ!』

 

 

「!ぐっ……」

 

 

『戦闘中に他所事を考える暇があるのかよ!』

 

 

「ぐうっ……ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

『しまっ……!』

 

 

 ラウラの停止結界に掛かってしまう。

 動きを止められ、宙に浮く的となる。

 

 

「捕まえたぞ……!」

 

 

『くそっ!』

 

 

 AICから抜け出せず、身動きの取れない龍也。

 

 

『(やばい、もうSEが……!)』

 

 

 危機を感じる龍也。

 

 

 だが、続く攻撃はない。代わりに、

 

 

 

 

「ぐっ、ぁぁぁ……わ、たしは……っ!」

 

 

『ボーデヴィッヒ……?』

 

 

 

 

 ラウラがその場にうずくまり、頭を抱え何かに苦しんでいる姿がそこにはあった。

 

 

「私は……ただ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー教官、貴女に『家族』と認められたかった。それだけなのに。

 

 

『ッ、ボーデヴィッヒ……』

 

 

「はぁ、はぁ、ふふっ……二度目はないぞ。確実に貴様を切り裂いてやる」

 

 

『!マズい……』

 

 

 ゆっくりと近づいてくるラウラ。

 

 

『(こいつは、多分……)』

 

 

 こんな状況だが、推測を自分の中で立てる。

 

 

『……ボーデヴィッヒ。一つ聞きたいことがある』

 

 

「ほう。貴様こそ、戦闘中に他所事とは」

 

 

『お前にとって、復讐とはなんだ。千冬さんに代わってとはどういう意味だ』

 

 

 質問と同時に足を止めるラウラ。

 

 

「……聞いていたのか」

 

 

『答えろ』

 

 

 

 

「……私にとって、織斑 一夏は邪魔でしかないのだよ」

 

 

「教官の歴に、弟の存在は不要だ」

 

 

「彼奴の存在が教官を弱くする。迷わせる。心に居続け、他を寄せ付けなくなる」

 

 

「それでは駄目なのだ。私が……」

 

 

 

 

「私が、あの人に認められる為には」

 

 

『お前は……』

 

 

「代わって復讐など、ただの戯言に過ぎない。もっと言えば、私個人の織斑 一夏に対する逆恨み……復讐でしかないのさ」

 

 

『ッ、そこまで分かってて、どうして!?』

 

 

「…………余計な口を開き過ぎたか。そろそろ終わらせる」

 

 

 危機がピークに迫る。

 しかし、龍也の中では、ある考えが浮かぶ。

 

 

『(…………一夏)』

 

 

 今のあいつなら、きっと。

 

 

『(信じてるぞ。こいつを、ボーデヴィッヒを)』

 

 

 俺の親友なら、きっと。

 

 

 

 

 

『(ーーーーボーデヴィッヒを、復讐者から引き摺り下ろしてくれるって)』

 

 

 少年は託した。

 

 

 これから先の運命を、決めるのは自分ではないと判断して。

 

 

 

 

「ーーーー死ね」『ッッ!!!』

 

 

 

 

 ブレードは、今度こそ振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑君!デュノア君!」

 

 

「ん?相川さんに、鷹月さん?」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「はぁはぁ……た、大変だよ!橘君が……!」

 

 

「ッ、お兄ちゃんが、どうしたの!?」

 

 

「アリーナで、ボーデヴィッヒさんと……」

 

 

「なっ!…………くそっ!」

 

 

「あっ、ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

 

 ラウラの名を聞いてすぐに駆け出していく一夏。

 シャルルも後を追う。

 

 

「(嫌な予感がする……龍也……!)」

 

 

 胸騒ぎが止まらない二人。

 

 

「無事でいてくれ……!」「お兄ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

「りゅ、うや……」「うそ、ですわよね」

 

 

「ふん、こんなものか」

 

 

 首元を掴み、宙に吊り上げる。

 龍也は意識もなく、顔の装甲は半分が砕け素の顔がさらけ出されてしまっている。

 そこから見える半面には、額から血が滴っていた。

 

 

「呆気なかったな。もう貴様は用済みだ」

 

 

 横に龍也を捨てるように投げる。

 

 

「所詮、ここの生徒もこんなものか」

 

 

「待ちなさいよ……!」

 

 

 鈴の制止に耳を傾けることもなく、アリーナを去ろうとしたその時ーー

 

 

 

 

「おにい、ちゃん……?」

 

 

 

 

「ッ、デュノアさん!?」

 

 

「貴様は確か、フランスの……」

 

 

「な、に、やってるの?」

 

 

「見てわからないか?ーー私が潰したのだ。完膚なきまでにな」

 

 

「ーーーーーーッッッッ」

 

 

 シャルルの顔が悲痛に歪む。

 しかし、そこにーー

 

 

 

「シャルル、龍也達を連れて保健室へ」

 

 

「………!くっくっくっ、来たか……!」

 

 

「一夏……」

 

 

 

 

「テメェだけは、絶対に許さねえ……!!」

 

 

「織斑……一夏ァ!!!」

 

 

 復讐者と、狙われる獲物。

 互いに引けを取る気はなく、ぶつかり合う闘気だけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!!」

 

 

「デュノア、龍也を先に連れて行って……」

「わたくし達は、後で構いません。今は龍也さんを……!」

 

 

「ッ、うん!」

 

 

 龍也を抱え、アリーナを後にするシャルル。

 

 

「…………どうして」

 

 

「なんだ?」

 

 

「どうして龍也や、鈴達を狙ったんだ」

 

 

「貴様をおびき出すためだ。その為の餌でしかない」

 

 

「ッ、お前は、腐りきってる……!」

 

 

「好きに言え。どの道、私に此処で殺される運命だ。貴様はな」

 

 

「そんな運命なんてない。俺の未来は、自分で決める」

 

 

 白式を展開し、構える。

 応戦体制に入った一夏を見てニヤリと笑うラウラ。

 

 

「ーーー来い」「はぁぁぁぁっ!!!」

 




小説名を変更させていただきました。
活動報告のタイトル案に書き込んでいただいたお二人の意見を見て思いつきました。アルファささみ様、izu様、ありがとうございます。
ヒロインアンケートの方は随時募集しているので、気軽に書き込んでください!

いつも見ていただいてる方には、変わらず応援していただけると嬉しいです。

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