IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第三十一話

 

 

 

 第2世代型IS 『ラファール・リファイブ』

 フランスのデュノア社製IS。

 第2世代の機体だが、スペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体。

 中でも特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立している。

 また、装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能である。

 

 

 今、山田 真耶が搭乗している機体がこのラファール。専用機×2との対決という一見不利かと思われるようなこの戦いだが、本人は極めて冷静だった。

 

 

「(凰さんは、間合いの詰め方と攻撃間隔、そして武装の扱いが非常に上手です。一撃一撃でジリジリと相手のスタイルを崩して追い詰めて行くタイプですね)」

 

 

 二人に攻められる状況でも、分析を欠かさない。

 

 

「(衝撃砲は砲身が見えず回避し辛いですが、撃つ時に凰さんの目が此方を厳しく見つめてきますね。それに気付ければ避ける事も可能でしょうか)」

 

 

 そう、鈴は龍砲を発射させる時に僅かだが相手を目で睨む癖があった。

 最も本人は気づいておらず、今まで対戦してきた人や、一夏でさえも気づいてはいなかった。それほど些細な癖なのだ。

 

 

「(そして、オルコットさん。私の一番苦手なタイプです。状況分析によく長けている、射撃は絶対に外さない、暗殺者《スナイパー》の様な人ですね)」

 

 

 鈴が前衛なら、セシリアは後衛。

 だが、決してサポートに回るのではなくいつでも遠距離から相手を仕留められるように構えている。

 

 

「(此方が手を出そうとすると良い所に射撃を撃ち込んできますね。厄介ですが……それだけでは甘いです)」

 

 

「ちっ……!」

 

 

「鈴さん!?」

 

 

 セシリアのレーザーを鈴が食らった。

 その様子を見て下から見る龍也は感心した。

 

 

「(上手く誘導したのか、セシリアの射撃の線上に)」

 

 

「あたしは大丈夫だから!あんたは撃ち続けなさい!」

 

 

「わかっていますわ!」

 

 

「そうはいかないですよ」

 

 

「ぐっ!」「これでは撃てませんわ……!」

 

 

 セシリアへはアサルトライフルでの行動の抑止になる射撃を、鈴には確実にSEを削る射撃を行う。

 逃げ道を塞がれた二人は徐々に近付いてしまい、固まってしまう。そしてーー

 

 

「ーーーーーーふっ」

 

 

 山田 真耶の銃身の下部に付いたグレネードランチャーから、グレネード弾が発射され二人に叩き込まれる。

 

 

「(……勝負あったな)」

 

 

 決着を確信する龍也。

 爆発の中から出てきた二人は、地面に落下し衝突する。

 

 

「あっ、だ、大丈夫ですか、二人とも!?」

 

 

「いたたた……だ、大丈夫ですよ」

「お強いですのね……山田先生」

 

 

 墜落した二人に駆け寄る。

 

 

「お二人も、非常に良いコンビネーションでしたよ。今の代表候補生はレベルが高いですね」

 

 

「お前達が負けたのは、実力不足もあるが相手が格上だったからだ。これからも精進するように」

 

 

「「はい」」

 

 

「そして、これでIS学園に所属する教師の実力の高さがわかっただろう。

 これからは教師に敬意を払うように、いいな!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「よし、それではこれから簡単な操縦訓練を行う。各自専用機持ちの所に班として振り分けるから、よく聞いておけ」

 

 

 各クラスの生徒が均等に振り分けられる。

 龍也の班には、本音や清香達など見覚えのある生徒が何人か。

 

 

「やったーりゅ〜くんとおんなじ班だ〜」

「橘君、よろしくね」

 

 

「おう、それじゃあ早速始めるか」

 

 

 今回の訓練は搭乗から歩行、そして機体から降りるまでを一通り行うものだ。

 元々人に教えることが上手な龍也の説明は特に問題がなく、順調に進んだ。

 

 

 他の班はというと、一夏は四苦八苦しながらも一生懸命教えているのだがそのせいで班の女子達との距離の密着度がえらいことになっている。

 セシリアはまるで高度な授業のようで、説明の言葉が難しいのだが班員は真面目に聞いており、問題はなさそうだ。

 シャルルも言わずもがな、持ち前の人当たりの良さも加えて楽しく和気藹々とやっている。

 鈴は感覚的すぎて、班員に伝わり辛く苦労していた。

 

 

 そして、ラウラはーー

 

 

「安心しろ、私が見ているんだ。背中を預けるようにして乗れ」

 

 

「う、うん。ありがとうボーデヴィッヒさん」

 

 

「(……意外と上手くいってるんだな)」

 

 

 シャルルや龍也に引けを取らないほど、順調に授業が進んでいた。

 その姿はまるで、指導をする軍人。つまり、

 

 

「(千冬さんの教え方に、似てるな)」

 

 

 織斑 千冬のようであった。

 

 

「(真似事のつもりか知らないけど、何もないならそれに越したことはないか。まぁ千冬さんも見てるしな)」

 

 

 一夏の件もあったので、少し気を張っていた龍也だが、授業中にその必要はないかと判断した。

 

 

「ボーデヴィッヒ」

 

 

「はい!如何されましたか、教官」

 

 

「教官はやめろ、ここでは先生だ。

 お前の班は順調に進んでいるか?」

 

 

「はっ、滞りなく進んでおります!」

 

 

「……そう、か。ならいい」

 

 

 立ち去っていく千冬。

 

 

 その後ろ姿をじーっと眺めるラウラ。

 

 

「(ふふ、ああ教官……もう少しで、もう少しで『貴女』をーー)」

 

 

 内なる考えは誰にも悟られない。

 表情では分かることもなく、周りの空気に変化も感じられない。しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーー貴女を私だけのものに、邪魔者を消しさって……ふ、ふふっ)」

 

 

 その目は確実に、殺意を秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、誰もいないな」

 

 

 時間は昼、転校生のシャルルを連れて龍也、一夏、鈴、本音、セシリア、箒が来たのは屋上だ。

 ラウラは一夏の事があるから、誘うことはなかった。

 

 

 食事を始める前に、改めてシャルルの自己紹介が始まる。

 

 

「えっと、シャルル・デュノアです。デュノア社のテストパイロットと、この度フランスの代表候補生になれたのでこの学園に編入することになりました。よろしくお願いします」

 

 

「デュノア社長の御子息というわけですか」

 

 

「うん、そういうこと」

 

 

「それにしてはあんた、随分女っぽいわね」

「そうですわね、中性的といいますかなんというか…」

 

 

 鈴とセシリアに食い入るように見られ困惑するシャルル。

 

 

「そ、それより早く食べようぜ!俺お腹減ったな〜」

 

 

 あからさまな話題逸らし。

 箒とセシリアからは怪訝な目で見られたが、それ以外には通用したので効果はあったようだ。

 

 

 ちなみに、この日の龍也の昼食は鈴の手作りである。交代制となっており、明日は本音のようだ。

 

 

「はい、龍也。今日は酢豚にしたから」

 

 

「サンキュー。やっぱ酢豚は鈴のじゃなきゃな」

 

 

「そ、そう?そっか……えへへ」

 

 

「りゅ〜くんりゅ〜くん、明日は何食べたいー?」

 

 

「本音ちゃんが作るのなら何でもいいよ。俺、本音ちゃんの料理の味好きだから」

 

 

「んーじゃあ考えとくね〜♪」

 

 

「(あ、甘い、甘すぎますわぁぁ!)」

 

 

 胃もたれがとまらないセシリア。

 チラリと反対に視線を移せば、

 

 

「一夏。ほら」「ありがとな箒」「別にいい」

 

 

「(何しれっとお弁当を作ってきていますの、箒さん!?)」

 

 

 いつの間にか一夏の胃袋を掴もうとしている箒、意外とデキる女である。

 

 

「(……デュノアさんは、特に気にしていないようですわね)」

 

 

 微笑ましいものを見るようにしながら自分の食事を摂るシャルル。

 だが、その内心は、

 

 

「(何なのあの二人お兄ちゃんにベタベタして!僕だってお兄ちゃんにお昼くらい作ってあげるし、なんなら一緒に住んでそのままお世話だってできるのに。大体お兄ちゃんは無自覚で女の子と距離縮めちゃうんだからあんまり近寄らないで欲しーーー)」

 

 

 表情とは真逆に荒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、龍也が自室へと戻るとルームメイトの楯無が何やら物の整理をしていた。

 

 

「何してるんです?楯無さん」

 

 

「んー、お引越しの準備をね」

 

 

「え?楯無さん此処を出て行くんですか?」

 

 

「………何でちょっと嬉しそうなの?」

 

 

「い、いや、そんな事ないですよ?はい」

 

 

「うう、龍也君の対応が厳しくてお姉さんショックだなー」

 

 

 シクシク、と泣く演技をする楯無。

 そんな楯無を無視して質問をする。

 

 

「それで、どうしてお引越しなんですか?まさか監視が終わりとか」

 

 

「それは別よ。まだ本音ちゃんと親しいことぐらいしか分かっていないもの」

 

 

「いやまぁ間違ってはないですけど……」

 

 

「それは置いておいて、理由としては二つかしら」

 

 

「二つ?」

 

 

「ええ。一つは織斑先生が代わるように言ったから。もう一つはこれから同居人になる人の事を考えてのことよ、面識がある方がいいでしょ?」

 

 

「それって、どういうーー」

 

 

 コンコンコン

 

 

『あ、あの、すいません』

 

 

「あら、来たみたいね」

 

 

「え、今の声ってーーー」

 

 

 楯無が部屋のドアを開ける。するとそこに居たのは、

 

 

「えっと、ここの部屋が今日から僕の寮室になると聞いて……って、お、お兄ちゃん!?」

「シャル!?」

 

 

「ふふっ、こういうことよ♪」

 

 

 今日何度目かの再会に驚く二人と、ドッキリ大成功といった感じの楯無だった。

 




この為に同居人を楯無さんにしておいたのさ!はっはっは!

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