IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
時系列が度々変化します、ご理解の上読んでいただければと。
「(……ッ、なん、だ?)」
「ーー経過は良好、もう時期目を覚ますかと思います」
「了解。ありがとねクーちゃん」
「いえ。それより彼は、一体……」
「結局この束さんの頭脳でも『アレ』は解析できなかった。こいつに直接聞くしかないだろうねー」
「危険要素がなければ良いのですが」
「IS相手に瀕死まで追い込まれてるから、そこは大丈夫だと思うよ」
「(だ、れかの、声が、する)」
少年は目を覚まさない。
意識は朦朧としていて、自身が置かれている状況は理解できない。
「ーーそれと、織斑 千冬の方にはどうされるのですか?」
「黙っておくよ、ちーちゃんには。こいつを拾っておいたことはね」
「よろしいのですか?」
「うん。別に善意で助けたわけじゃないからね。もし用済みだと判断したら、すぐ処分する」
「そうですか」
淡々とした会話。
そこには情など一切なく、あくまで都合のいい道具のようでしかない。
「(ち、ふゆ、さん……?)」
「……ごめんね、いっくん。お友達をすぐに返してあげられなくて」
「束様……」
「……行こっか、クーちゃん。束さんお腹空いちゃったなぁ」
「はい。それではお夕食にしましょう」
「うん」
「(いち、か……り、ん……)」
2人が部屋を出ると同時に、少年の意識も再び闇へと沈んでいった。
******
「なあ、千冬姉、どこ行ってたんだよ!?」
「…………いち、か」
「その、手に持ってるおもちゃみたいなのは?」
「……わからない」
「千冬姉……」
家を急に飛び出したかと思えば、土砂降りの雨の中傘もささずに帰ってきた千冬。
「……とりあえず、お風呂沸かしておくから。風邪引くといけないから身体だけ拭いて」
「……ああ、すまないな一夏」
風呂を沸かしに向かう一夏。
玄関先に立っている千冬は濡れた髪を乾かす事もなく考える。
「(何処に行ってしまったんだ、龍也……)」
ギリッ、と歯をくいしばる。
指定された場所へ行ったのはいいが、橘 龍也本人はおらず、あったのは今手に持つおもちゃのような物だけ。
そしてーー
「(…………あの血は、一体)」
ーー引き摺られるように続いていた、何者かの血痕と思われるもの。
考えたくはない。だが、状況が状況だけに嫌な想像をしてしまう。
「(何に、追い詰められていたんだ、お前は。世界最強の私であってさえも、頼りにならなかったというのか)」
力には自信があった。
生身、IS問わずそれこそ世界最強を張れる程には、と。
それでも彼には頼られる事すらなかった。
「(私は…………)」
何が起きていたか把握はしていない。
もしかしたら思い過ごしなのかもしれない。
だが、千冬の中に渦巻く虚無感は、一晩を越しても消えることはなかった。
******
「……………知らない天井だ」
スッと目を覚ました少年。
意識は寝起き(?)だと言うのに完全に覚醒している。
周りを見渡せば、見慣れぬ機械や装置が山程。
「此処は……それに、俺は……ッ!!」
少し考えて思い出す。
自分が何をしていたか、そして意識を失う前にどんな状況に置かれていたか。
「(どうして生きてる……!?出血量的に、もう助からなかったはずだ)」
抉れていたであろう、腹の辺りを触るが、特に痕も残っていない。
「(俺の身体、人間のままだよな?)」
改造されてサイボーグにでもされたか、そう解釈せざるを得ない。
身体中の痛みに我慢しながら、立ち上がろうとしたその時、
「ーーーまだ起き上がっちゃダメだよ。傷は完全に治っていないから」
「ぐっ…………え?」
「聞こえなかった?傷はまだーー」
「い、いえ、それはわかりました」
目の前に突如現れた女性に驚く。
「あの、貴女は?」
「『篠ノ之 束』って言えば、わかるかな?」
「なっ……!!」
テレビやニュース、そして友人から聞いたことがある。
iS開発者にして『天災』、篠ノ之束。
「物事の理解はできるようだね。
後遺症は残っていないはずだけど、どうかな?」
「あ、はい。痛み以外は特に感じないですけど」
「そう」
淡々とした返事、すると次には、
「早速だけど」
「え?」
拳銃を突きつけられる。
「ーーお前は、何者かな?」
「……俺、ですか?」
「男なのに『ISらしき物に乗って戦っていた』。これを嘘だと言わせないよ?」
「……さすが篠ノ之博士、ご存知でしたか」
「あれだけ派手にぶっ壊してくれればね。
まぁ、世間一般的に悪人と言われる人達のだけだったけど」
最初は疑問でしかなかった。
だが、軽く調べを進めると破壊されたIS搭乗者の特徴は、ほぼ全員が女性権利団体の人間であったり、裏では名の知れた悪名高い人物であった。
「俺は……」
天災の目を見て、はっきりと答える。
「俺は、『ダークネス』。
この世界の悪を裁くために戦っている、ただの戦士です」
『橘 龍也』は言った。
ISが普及したこの世界での、異物の名を。
そして自分をーーー戦士と。
******
〜1ヶ月後〜
「千冬さん、こんな場所に来てくれなんていきなりどうしたんですか?」
「……来たか、凰、一夏」
人気のない場所、千冬に呼び出され一夏と鈴はいた。
「なあ、千冬姉。何か進展があったのか?龍也の事について」
「ッ!本当ですか!?」
突如行方を眩ませた2人の親友。
街での聞き込みや自分達の足での捜索など、できる限りのことはしていたが成果はなかった。
「………………今からお前達に言うことは、全てが事実だ」
「千冬姉?」「千冬さん?」
明らかに様子がおかしいのは一目瞭然だった。
そう、まるでーーー何かに苦しんでいるような。
「……橘 龍也は、死んだ。現場の血痕からDNA鑑定で判明した。遺体の存在は、不明だそうだ」
「「……………………は?」」
「………………」
「は、はは、何の冗談だよ、千冬姉」
「そ、そうですよ!何を、いきなり……」
声が震える。
脳が理解を拒否する。
だが、無理にでも理解をせざるを得なくなる。
「………………っ、うっ、くっ…………」
ーーー織斑 千冬が、泣いている。
「ち、ふゆねえ……」
「すまない、すまない2人とも……」
決して人に弱みを見せることのないあの世界最強が。
今、2人の少年少女の前で、涙を流している。
「う、そよ」
「嘘じゃない」
「そんなこと、あるわけ……」
「全て、真実だ」
「……ッ、うそだうそだうそだ!!!!
だって、龍也は、あたしの、料理を、食べて、くれるって‥‥」
「鈴……」
「あ、あああ、ああああああああっ……」
膝から崩れ落ちてしまう鈴。
「そんな……どうして………」
一夏は、唇を強く噛み、手を血が滲むほど握りしめ、下を向き顔を震わせる。
「ーーーどうしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!龍也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
少年少女は、絶望した。
親友の死という、避けられない現実によって。