IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

27 / 54
龍也と鈴

 

 

 

 

「(あー、なんか入りづらいわ)」

 

 

 1組の教室の前へ来た鈴。

 だが、他クラスということもあり気が引けたのか少し躊躇う。

 

 

「(気持ちの問題かしらね………よし)」

 

 

 普段であればそんなこと気にしないのだが、状況が状況である為か。

 

 

 そして、ドアを開けようとした瞬間、

 

 

「鈴?」

 

 

「ひぃっ!?い、一夏!?」

 

 

 後ろから飛んできた声の主は、旧友である織斑 一夏。

 

 

「な、なんだよ、そんなに驚くことでもないだろ」

 

 

「急に声かけてこないでよ!びっくりするじゃない!」

 

 

 もうっ!と顔を赤くして怒る鈴。

 何で怒られなきゃいけないんだ?と疑問に思う一夏。

 

 

「で、1組の前で何やってるんだよ。誰かに用事か?」

 

 

「そんなところ。ちょっとあいつにね」

 

 

 視線を教室の中へ向ける。

 そこには龍也の姿が。

 

 

「龍也か。呼んできてやろうか?」

 

 

「いいわよ、自分で行くから」

 

 

 一夏と会話して少し落ち着きを取り戻す。

 

 

 そのまま1組へ入り、龍也の席の近くへ歩いて行く。

 

 

「龍也、ちょっといい?」

 

 

「ん?あ……鈴」

 

 

「(な、なんでちょっと気まずそうな顔するのよ)」

「(やべっ、しかめっ面してるし怒られんのかな)」

 

 

 話しかけたのはいいが、互いに黙り込んでしまい空気が重くなる。

 そんな2人を見かねた近くの席のクラスメイトが助け舟を出す。

 

 

「凰さん、橘君に用があるんじゃないの?」

 

 

「へ?あ、ああ、そうよ。龍也今日放課後空いてる?」

 

 

「放課後は、空いてるけど」

 

 

「えっと、じゃあ、その……」

 

 

 言い淀んでいたが、覚悟を決めた顔になる鈴。

 そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー話したいことがあるの、時間ちょうだい」

 

 

 

「……ああ、いいぞ。俺も鈴と話したいことがあったんだ」

 

 

「そう、ならちょうどいいわね。場所は屋上でいい?」

 

 

「おう」

 

 

「ん、それじゃまた後で」

 

 

 言い終えたら終えたですぐ教室を去る鈴。

 

 

 放課後何言われるんだろうなぁ、と少し暗めな思考で1人考えていた龍也だが、気づけば周りのクラスメイトが静かになっていることに、そしてこっちを見ていることに気づく。

 

 

「な、なんだよみんな、どうしたんだ?」

 

 

「た、橘君………」

 

 

「?」

 

 

 なかなか言わないクラスメイトに疑問符を浮かべる。

 すると、1人のクラスメイトがーー

 

 

 

 

 

「橘君さ、凰さんのこと好きなのー?」

 

 

 

 

 ピシッ、と空気が固まる。

 

 

「な、ななななななに言ってんだよいきなり!?」

 

 

「えーだってねー」

「さ、さっきの会話って、その、放課後の呼び出しじゃないの?」

「橘君も話したいことあるってことは、もう既に両思いだったりして!」

 

 

【放課後の呼び出し→話したいことある→両思いか?→→→告白される】

 

 

 いくら鈍い龍也でも、これだけヒントがあればすぐに答えにたどり着いた。

 

 

「ち、違うって!告白とかじゃなくて、普通に鈴に話があるだけで……」

 

 

「橘君が違くても、凰さんはわからないよー?」

「ねー」

 

 

「…………え?」

 

 

「もしかしたら本当に告白されるかもしれないよ」

「さっきの凰さんの感じだったら尚更ね」

 

 

「い、いや、鈴に限って、そんな事は……」

 

 

 中学時代に毎日を共に過ごしていた鈴がまさか、とは思う。

 しかし今はもう世間的には高校生である年齢、中国から帰ってきた鈴は女性らしくなっていたし、そういう年頃であるのは間違いない。

 

 

「(お、落ち着け俺。俺の早とちりだ。大体あの鈴が俺に告白なんてあるわけーー「りゅ〜くん?」ーーは、はい?」

 

 

 後ろから届く威圧感を含んだ声。

 振り返ればそこには顔は笑っているが目が笑っていない布仏 本音が。

 

 

「りゅ〜くんは告白なんてしないよねぇ?」

「え、いやだから……「しないよねぇ?」は、はい!しませんっ!」

 

 

「そうだと思ったよ〜私の勘違いかぁ」

 

 

「(こ、こえええええ今の本音ちゃん!)」

 

 

 後に龍也は語った。のほほんとした面影は実は偽りの姿で、本当は人間の仮面を被った(小)悪魔なのではないのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

 あれから全ての授業を終え、時間は放課後。

 屋上にいる龍也と鈴だが、外を眺めるだけで会話が始まらない。

 

 

「(ど、どうすればいいんだ俺は。やっぱり謝るべきか?いや、でも何のことで怒ってるかもわからないのに謝るのはーー)」

 

 

「ねえ、龍也」

 

 

「お、おう!どうした?」

 

 

 普通に声をかけられただけなのだが、思案していた為驚いてしまう。

 すると、異変を感じたのか鈴は、

 

 

「………あんたさ、昼間からなんかよそよそしくない?」

 

 

 ジト目で龍也に問いかける。

 

 

「い、いや、そんなことないぞ?」

 

 

「じゃあなんで焦ってるのよ」

 

 

「別に焦ってなんてねえよ」

 

 

 視線を逸らし、冷や汗をかいているのを見れば焦っていることは一目瞭然なのだが。

 

 

「………そっか、あんたも変わったのよね」

 

 

「え?何をーー」

 

 

 

 

 

「ごめんね龍也、もう関わらないようにするから」

 

 

 

 

 

「……は?お前何言ってーーー」

 

 

 そう言って横を通り抜けようとする鈴の腕を掴み引き止める。

 

 

「待てよ」

 

 

「ッ、離してよ!」

 

 

「訳の分からねえこと言って立ち去る奴を、そのままにしておくわけないだろ」

 

 

「……………………」

 

 

 俯き黙り込んでしまう鈴。

 

 

「なあ、なんでそんなこと言うんだよ」

 

 

「だって、あんたが……」

 

 

「やっぱり、俺が悪いことしたのか」

 

 

「違うッ!!」

 

 

「え?………じゃあ、なんで」

 

 

 自分の推測が外れていたことに内心驚く龍也。

 

 

「……一つ聞いてもいい?」

 

 

「ああ、いいぞ」

 

 

「あんたにとって、あたしはどんな存在?」

 

 

「俺にとっての、鈴?」

 

 

「真剣に答えて」

 

 

 真っ直ぐ目を見て問いかけてくる。

 そんな鈴に向き合うために目を閉じ考える。

 

 

「んーそうだなぁ」

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー帰るべき場所、かな?」

 

 

「…………は?」

 

 

 思わぬ返答に気の抜けた返事がでてしまう鈴。

 

 

「お前と一夏は、俺が『ダークネスになる前から』の友達だったんだ」

 

 

「力を手に入れる覚悟をした時、真っ先にお前らの顔が浮かんだ。

 俺が悪事を働く人間と戦って、平和を守れば、そこにはお前達がいてくれる。それを壊したくなくて、ダークネスになった」

 

 

「だから勝手にだけど、2人には俺が生きて戻ってきた時に、笑って、馬鹿なことをできる日常になってもらってた」

 

 

「何よ、それ」

 

 

「はは、ちょっとキザ過ぎたかな、わるーーー」

 

 

 

 

 

「ーーーあんたはそんなこと言って、あの日帰って来なかった!!!!!」

 

 

「………………ッ」

 

 

「あたしと一夏が、どれだけ、どれだけ辛かったか……!」

 

 

 まだ溶けきっていなかった想いが、溢れる。

 1年以上溜め込んだ辛さを、一夏の時とは違って本人へぶつける。

 

 

「争いなんてあたし達には関係のないことだった!あのままずっと毎日を楽しく過ごせてたら、それでよかったじゃない!!」

 

 

「…………それも、よかったのかもしれないな」

 

 

「だったら……「でも」……え?」

 

 

 

 

「俺は、後悔はしてない」

 

 

 

 

 

「……どう、して?」

 

 

「この世界には、権利団体からの迫害を受けて苦しんでる人達が少なからずいる。それはもう鈴も知ってることだろう。

 それなのに誰からも処罰されることなく、のうのうと人々を苦しめ続けて生きてる奴らがいる。それが俺には、放っておけなかったんだ」

 

 

「確かに、誰かがやればそれでいいのかもしれない。

 でも、俺は自分の意思で『仮面ライダー』になった。世界の悪意に、抵抗するために」

 

 

 

 

 

 

 

「…………そんなの、自分勝手よ」

「他人に左右されることじゃないからな」

 

 

「あたし達の気持ちなんて、ちっとも考えてないじゃない」

「ごめん」

 

 

「約束だって、守ってくれなかったし」

「忘れた事なんてなかったけどな、中華だろ?」

 

 

 

 

 

 段々と下を向いていき、声と身体が震え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………も、う、いなくなったり、しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーああ。絶対にもう、勝手にどっか行ったりしないよ。今度こそ、約束だ」

 

 

 

 

「う、ん……!約束、して……!」

 

 

 

 

 瞳から涙が溢れる。

 そんな鈴の頭を撫でる龍也。

 

 

 

 鈴が落ち着くまでは、数分必要とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恥ずかしいところを、見せたわね」

 

 

「気にすんなって、そんなの今更だろ?」

 

 

「ふふ、それもそうね」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべる鈴。

 何か憑き物が落ちたような、そんな顔をしている。

 

 

「あー、それでさ、俺の話なんだけど」

 

 

「ん、何?」

 

 

「その、勘違いだったらいいんだけど、なんか最近鈴に避けられてたのかなー、って思ったからさ」

 

 

 少女のように視線を逸らしながら聞いてくる龍也に、苦笑を浮かべる。

 

 

「あんたが女の子に囲まれてるから、声かけ辛かったのよ。それだけ」

 

 

「なんだよそれ、そんなの気にしなくていいのに」

 

 

「(そんなこと言ったって、ズカズカと踏み込んでいくだけの勇気なんてないわよ)」

 

 

 内心少し呆れる鈴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は他の人達より、鈴と一緒にいたいけどな」

 

 

 

「ーーーーーーーーッ」

 

 

 

「1年も会えなかったんだ、失った分の時間を取り戻さなきゃな」

 

 

 

 優しい笑顔で、手を差し出す龍也。

 少し呆気にとられるが、すぐに意識を現実に戻す。

 そして、差し出された手を取りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそうね。この先ずっと、一緒にいましょう?」

 

 

 

 

 花が咲くような満面の笑みで、鈴はそう言った。

 










プロポーズですか?いいえ、違います()

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。