IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
「へぇ、あいつらが戦うのか」
面白いものを見つけた子供のようにモニターを見る一人の男。
「どっちもお友達だよね〜今りゅーくんのことで言い争ってる」
隣には一人の天災が。
「ーーはは、俺が生きてるって知ったら、あいつらなんて言うのかなぁ」
楽しむような、それでいて困っているような声で言う。
「多分、今は出て行かない方がいいと思う。こっちが落ち着いたとはいっても、まだ二人はーー」
「わかってるよ、束さん」
二人を見極めるのは『既に死んだはずの少年』
「ーーさて、お前らの言う復讐とやらがどうなるのか、俺に見せてもらおうか?一夏、鈴。」
「…………」
ーーだが天災も、何かを企んでいるように横で画面を眺めていた。
クラス対抗戦、当日。
1組《織斑 一夏》vs2組《凰 鈴音》の試合開始までもう時間はない。
二人はそれぞれのピットに入っていた。
「ーー頑張ってね、凰さん!」
「ええ、ありがと。必ず勝ってみせるわ」
「うん!負けたら一週間学食のパフェ奢りだからね〜」
「は!?ちょっと「それじゃあ私は観客席で見てるから〜ばいばーい」あ!……ったく」
この数日間、何かと世話になったクラスメイト。
鈴の負けられない気持ちが強くなった日々だった。
「(……一夏、半端な覚悟で復讐を、そして『クラスを背負う』なんて言うなら、あたしが捻り潰してあげるからね)」
今この瞬間、鈴の目に復讐は映っていなかった。
「(ーーあたしだって代表候補生。自分を信じてくれる人の信頼に応えるくらいの心得は持ってるわ)」
ーーあるのは、2組の為に戦う、覚悟のみ。
反対に、一夏のいる1組側のピット。
いつもはうるさいくらいに騒いでいるクラスの人々が、今日はいなかった。
一夏が一人にしてほしいと言った為だ。
いるのは、担当教師の千冬のみ。
「そろそろだ。行けるな、織斑」
「はい、先生」
「よし、それじゃあ「千冬姉」……なんだ、いきなり」
「俺、絶対に勝つから。俺を信じてくれた、クラスのみんなの為に。
期待を裏切るわけにはいかないもんな」
「お前………ふっ」
微かに笑う千冬。
一夏の目は、ここからは見えないアリーナをまっすぐ見つめていた。
「わかっているならいい。勝てよ、一夏。
相手はスーパールーキー《期待の新人》だ。そう甘くはないがな」
「うん」
「……そろそろ時間だな。私もここを出る。また後でな」
ピットを出る千冬。
成長した自分の弟の姿に少し『姉』としての笑みを浮かべる。
「(一夏のやつ、わかっているじゃないか。クラス代表が誰のために戦うべきなのか。
代表候補生が持つべきものと同じ誇りを、既に持っていたか)」
「織斑 一夏『白式』でます!」
「凰 鈴音『甲龍』でるわよ!」
そして、二人はアリーナに降り立った。
「…………」「…………」
交わす言葉はない。
だが、互いにわかっているであろう。
「(ふっ、いい目できるじゃない、一夏)」
「鈴」
「なに?」
「負けないからな」
「……あたしだって、負けるわけにはいかないわよ」
『それではこれより、1組『織斑 一夏』対2組『凰 鈴音』のクラス対抗戦を始める。
始めッ!!』
試合開始のアナウンスが告げられた。
先に動いたのは、鈴。
「(あいつの剣、千冬さんの『雪片』に似てる。深く斬られるのは避けた方が良さそうね)」
第3世代型IS『甲龍《シェンロン》」
燃費と安定性を第一に造られた機体であり、近距離または中距離の範囲で戦えるパワータイプ。
『双天牙月《そうてんがげつ》』
大型の青龍刀。
鋭さで切り裂くというより重さで叩き斬るような形をしている『甲龍』の主な武装。
名前の通り2基装備されており、二つを繋げることでブーメランのように投擲武器として使用することができる。
第3世代型兵器『龍咆《りゅうほう》』
空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。
砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴である。
砲身の稼動限界角度はなく、通常の砲撃仕様の他に近距離用の散弾仕様にも変更することができる。
鈴は双天牙月を二刀流で構え突撃する。
低空飛行で一夏に接近すると、そのままの勢いでクロスするように振り上げる。
「はぁっ!」
だが、その攻撃は通ることなく雪片弐型に受け止められる。
「やるじゃない」
「まだほんの序の口だろ?」
「そうね……ふっ!」
「ぐっ……!」
剣同士の競り合いは鈴が押している。
「(くそ、このままじゃ押し負ける!)」
そう思った一夏は後方に下がり距離を取る。
「距離を取ればいいなんて甘いわよ!」
「何……?ぐぁっ!!!」
『見えない何か』からの衝撃を受け吹っ飛ばされる一夏。
「(なんだ!?何が起きた!?)」」
「考え事してる時間なんてないわよ!」
攻撃の手を休めることのない鈴。
一夏と鈴では基本的な技術が違った。
それもそのはず、いくら一夏が努力して上達したとはいえまだ初心者の域を出ない。
おまけに相手はこの一年IS漬けだった超天才、一夏ではまだこのレベルは早すぎた。
「(おそらく一夏に遠距離武装はない。なら、適度に懐に飛び込みつつ、龍咆でダメージを与えればいける!)」
鈴にとってこの試合は多くの人の想いを背負った戦い。
自分を信じてくれた、クラスメイトの為に。
その一心で鈴は今戦っていた。
「ふっ、あたしが人の為に戦うなんてね」
「どうしたんだいきなり」
「いや……あんたには関係のない話よ!」
そう言いながら龍咆を左右の肩から撃ち出す鈴。
全てを避けることは出来なくとも『戦いの勘』から被弾を減らしつつあった一夏。
「(おそらく、これは衝撃咆。あの肩の武装から見えない砲弾が出てるんだ……!)」
上下左右に動き回り避ける一夏。
鈴も一夏の変化に気づきつつあった。
「(こいつ、龍咆の特性に気付いてるのね。流石と言ったらいいのかしら)
面白いわね、それくらい出来なきゃあたしの相手にはならないわよ!」
だがいつまでも避けるだけではジリ貧になり、いずれSEが0になってしまう。
そんな状況でも一夏は冷静だった。
自分の武装の最大の特徴は『一撃で相手を沈められる』ことにある、そう理解していた一夏にはチャンスを伺うだけのメリットがある。
相手の鈴はこちらの特性をまだ理解しておらず、自分から近づかずとも向こうから接近し攻撃をしてくるのだ。そこを狙えばいい。
「(さっきから鈴は、あの剣での切り込みと肩の武装の砲撃を繰り返してる。
なら、狙い所はーーー)」
鈴が、砲撃を放った瞬間。
「(ーーーここだッ!!!!)
うおおおおおおおおおおっ!!!!」
「なにっ!?」
瞬時加速《イグニッション・ブースト》
ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。
その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速する。
使用中は加速に伴う空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えることができず、直線的な動きになる。
セシリアとの訓練で覚えた、今の一夏の正真正銘『必殺技』になり得る技術。
『ーー貴方の機体の出力スペックは、わたくしのブルー・ティアーズよりも上。
そして、その単一仕様能力《零落白夜》はこういった技があってこそ輝く。言うならば、究極の初見殺しというやつですわ』
「(こいつッ……!)」
驚きを隠せない鈴。
後方に下がろうとするが既に一夏はーー
「これで………決めるっっっ!!!」
ーー鈴の懐に入っている。
そして、一夏が剣を振るその瞬間、
「きゃぁっ!な、何?」
「な、何あれ……!」
観客は動揺する。
ーーーアリーナのシールドを突破し、一機のISが乱入してきた。