IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
「一夏」
「ん?あ……鈴」
休み時間に鈴は1組へ来ていた。
「どうした?何か用か?」
「あんた、1組のクラス代表なんだって?」
「お、おう、そうだけど」
「ふーん、やっぱり」
腕を組み目つきを尖らせる。
「ーーあたし、2組のクラス代表になったから、よろしくね」
「…………まじで?」
廊下へと出て来た二人。
壁に寄りかかる鈴へ問いかける。
「ーーで、何で鈴がクラス代表なんだ?」
「別に大したことじゃないわ。
朝クラスに入ったら言われたのよ、みんなにやってみないかってね」
「……それだけか?」
「それだけかって何よ。他に何があるわけ?」
「いや、その……」
言い淀む一夏にため息を吐く。
「あんたとの個人的な戦いもあるけど、今のあたしは2組のクラス代表だから。
悪いけど、クラスのみんなの為に負けるわけにはいかないわ」
その決意は固く、一切の揺るぎを感じさせないのを一夏は感じた。
「で、クラスの子に聞いたら1組の代表はあんただって言うから。今日は軽く宣戦布告に来たってわけ。それだけよ」
背を向け手を背後に振りながら歩いていく鈴。
残った一夏はその場に立ち尽くす。
「鈴がクラス代表、か……
(勝てるのか?俺は……いや、駄目だ、こんな弱気じゃ。勝って、あいつの考えを正すんだ)」
「…………………」
そんな一夏の様子を背後から見ていた一人の少女がいた。
「織斑さん」
「オルコットさん?」
放課後、いつも通り訓練をしようとしていた一夏をセシリアは呼び止めた。
「ちょっとよろしいですか?」
「え?ああ、うん。いいけど」
「今日の訓練は、わたくしと模擬戦を致しませんか?」
「いいのか?」
「ええ。そちらがよければ」
「じゃあ、お願いするよ」
砂埃が舞う。
場所は変わり、アリーナ。
一人は膝を折り、地面を両手に付け息を切らしている。
もう一人はそんな様子を眺めている。
「ーーーっ、はぁ、はぁ、はぁっ……」
「………その程度ですか、織斑さん」
二人の模擬戦の様子は、セシリアの完封だった。
今この試合を観戦している者はいない。もしいたとしたら『なぜ一夏はクラス代表決定戦で勝てたのか?』と誰しもが思うであろう。
「どうして、いきなり模擬戦なんて」
「随分と、悩んでいらっしゃるようなので」
「……なんでそんなこと」
「大方、鈴さんと何かあったのでしょう?今日の朝からの貴方の様子でわかります」
「…………」
セシリアに完全に見透かされている一夏は何も言えない。
セシリアは問いかける。
「貴方は、何を考えているのですか」
「俺は、あいつをどうすれば止められる「そうではありません」か…………え?」
「そんな事は、わたくしの知る範疇ではありません」
息を吸い、セシリアは大声で言う。
「ーーッ、貴方は!!わたくし達の、1組のクラス代表でしょう!?何を迷っているのですか!!!」
「皆さんから託されたはずです!!それを貴方は、自分だけの為に戦うおつもりですか!?」
「……………!」
はっとする一夏。
「わたくしは、貴方達の事情の一部しか知りません。昨日何があった等興味もありませんわ。でも」
「クラスの皆さんの信頼を裏切ると言うのなら、わたくしは許しませんわ」
「………戦うことの意味を、履き違えないでくださいまし」
そう言い付け、アリーナを出るセシリア。
「(はは、最近、迷ってばっかだな、俺)」
「(オルコットさんは強い女だ、本当に。俺とは大違いの)」
「(俺は………)」
ピットへ戻ってきたセシリア。
今日、放課後になる前に箒に言われたことを思い出す。
『ーー頼む、セシリア。今の私では、一夏を変えることができない。私では……一夏に遠すぎる。力不足なんだ』
悔しそうに自分の手を強く握りしめながら、唐突にそう告げてきた箒。
だが、大方どういったことなのかセシリアには理解できていた。だからーー
『わかりましたわ、箒さん。わたくしにお任せください』
ーーセシリアは、その役目を引き受けた。
「(まったく、あんなに貴方を想ってくれる人がいるというのに……)」」
少し一夏に呆れるセシリア。
「後は……貴方が『自分の信じる信念』をどれだけ貫けるかですわ、織斑さん」
セシリアは、一夏によって考えを改めると決めた。
だから今度はーー自分が、彼を救う時だ。
「ーー任せましたわよ、1組のクラス代表は貴方なのですから」
少女は託した。一人の少年に。