IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
夜、鈴は自室でシャワーを浴びていた。
一日で身体を流れた汗を全て落とす為、そして少しの考え事をする為に。
「………ふぅ」
シャワーの栓を止める。
今日一日で色々あった。
まずは、中学時代の同級生との再会。
別れを言うこともなく去ってしまった大事な友達の一人。
そして新しい知り合いもできた。
「(セシリアに箒、か)」
『あの日』から自分のプライベートで他人に関わることをやめた鈴。
そんな鈴も一夏の友達だからと言って関わりを持とうとしたのだ。
「(あたしもまだ甘いってことなのかな)」
別にそこまで徹底していたわけではなかった。
一人では出来ないこともある、中国では色々と親切にしてくれた人もいたからだ。
少なくとも、鈴はそういった人達を友人だと思っていた。
「…………一夏」
一夏は、自分とは別の考え方をしていた。
死んだ龍也を見続け、彼を忘れることなく、彼の為に復讐をする。
辛くて苦しいこの感情から早く抜け出したい。彼を忘れ、自分が先に進む為に復讐をしようとする鈴とは、対照的だ。
「龍也、あたしは……」
鈴には迷えない。この一年を全てISの為に、全てを復讐の為に注ぎ込んできたのだ。
「あたしは、必ず成し遂げてみせるからね、復讐を」
少し冷えてきた、濡れたままの自分の身体を拭くために鈴はシャワールームを出た。
次の日の朝、鈴は教室でクラスメイトに呼び止められる。
「あ!凰さん!ちょっといい?」
「……なに?」
「凰さん、2組のクラス代表になる気はない?」
突然告げられた代表への誘いに内心困惑する。
「なんで?」
「えっとね、2組ってまだクラス代表がいないんだ。1組と4組は代表候補生がいるけど他のクラスは違うからね。
でね、うちのクラスの代表を凰さんにお願いできないかなって思って。代表候補生だし、実力も十分だろうって。どう、かな?」
言われたことは理解した。
つまり、一般の生徒では代表候補生に勝てる見込みがないから自分の所に来たのだと。
鈴はクラスへ目を向け問いかける。
「あんた達は、あたしでいいの?まだここに来て一日目だし、代表候補生だからって勝てるほどの力があるとは限らないわよ」
「うん」「みんなで話し合ったんだよー昨日の放課後に」「鳳さんが嫌なら無理にとは言わないけど」
「それにね、凰さん。もし他のクラスの人達に力が及ばなくたって、みんなで作戦考えたりすればきっと勝てるよ!」
クラスメイトは屈託のない笑顔で言う。
「……失礼じゃないの、あたしの力が及ばないなんて。まだなんにも見せてないでしょ」
「あっ、いや、違うんだよ!?そういうことじゃなくて……」
あわわ……と目に見えて慌て出すクラスメイトに鈴も苦笑する。
「わかったわよ。……あんた達がそう言うなら、あたしにやらせてもらえるかしら、クラス代表」
「えっ、本当に!?」
「ええ。それに、あたしがクラス代表になるからには、必ず勝利を持ってくることを約束するわ」
鈴は不敵に笑う。
「ーーーあたしは、負けないからね」
鈴の発言にみんなが歓喜する。
「わーい!」「か、かっこいい」「頑張ろうね、凰さん!」
各々が盛り上がる中、鈴は密かに思う。
「(………何よ、暖かい人達ばかりじゃない、このクラスは)」
その頃、一夏達は。
「ーーですから箒さん。織斑さんはもっとISの基本操縦に慣れるべきだとさっきから」
「いや、一夏にはもっと剣の道を鍛えてもらうべきだ。より鋭く、より一点を狙うことが精密にできればそれで十分だろう」
「そんなことを言っていても相手のレベルが高ければ寄せ付けてもくれませんわ。
わたくしでも、今の織斑さんなら近づかれることなく倒すことができましてよ?」
「一夏は出来る男だ。ISの操縦くらい、自分でなんとかできるだろう!それより剣をだな……」
「(はははは……はぁ。勘弁してくれ)」
揉めていた。
クラス対抗戦まで日もない。訓練を見るセシリアと箒はその内容を決めているのだが、この有様である。
「一夏はどうしたいのだ!?」「織斑さん?どうされますか?」
「えーっと……(正直、今は剣よりIS操縦技術を上達させたいんだけどなぁ)」
内心はセシリアの方に賛同しているのだが、この頑固な幼馴染は一向に引く気配がない。
一夏も一夏で、箒の押しの強さによってセシリアの案に賛同できず困り果てるだけだった。
「(ああもう!ほんとに大丈夫なのか俺はぁぁぁぁぁ!!!)」
悲痛な叫びも、声に出さなければ誰に聞こえないのであった。
酢豚のくだりは鈴が一夏に惚れていないので無しで。