IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第十三話 相対する思い

 

 

 

 残りの午後の授業を終え放課後に。

 鈴と一夏は二人で話すために誰もいない屋上に来ていた。

 

 

「ここなら誰も来ないわね」

 

 

「なあ、屋上って入っていいのか?俺来たことないから不安なんだけど」

 

 

「そんなのあたしが知るわけないでしょ。今日来たのよ今日」

 

 

「あ、そっか」

 

 

「……あんた、今日変よ?そんなにあたしに会うのが嫌だったの?」

 

 

「そ、そんなわけないだろ!」

 

 

「じゃあどうしたのよ」

 

 

「……なんて言うのかなぁ。色々、あったからさ。鈴もそうだろ?」

 

 

「……そうね。『あの日』から、あたし達の見る世界は変わったもんね」

 

 

「別れの挨拶もないまま中国へ帰っちゃうんだもんな鈴は。

 辛かったんだぞ?俺だけじゃない、弾やみんなだって」

 

 

「あの時は悪かったわよ。まだ完全に立ち直れてたわけじゃないし、いいかなって思ってたからさ」

 

 

「まったく……」

 

 

 一年ぶりに再会したのだ、話すことはたくさんある。

 だが、そんな世間話をするために二人は来たわけではない。

 

 

「鈴は、中国へ行った後すぐISを?」

 

 

「そうよ。とにかく『力』が必要だと思ったから。

 わかりやすいでしょ?この世界で、何を持てば『強く』なれるのか」

 

 

 ISに乗れるというだけで、全く関係のない一般女性も権力を振りかざす時代。

 強さを手に入れるなら手っ取り早い方法であった。

 

 

「戻ってすぐ、色々調べたわ。ISについて。

 代表候補生になるつもりはなかったんだけどね、他人と力を比べ合うことになんて興味無かったし。

 ただ、色々と融通が効くのよ、代表候補生って。今も現にこうして学園に入学できたしね」

 

 

「そう、か」

 

 

 少し複雑な心情になる一夏。

 

 

 セシリアは、ISを使って自分の復讐を成し遂げようとしていた。

 力を付けたという事は、おそらく鈴も同じなのであろう。

 

 

「(……俺に、止められるのか?鈴を。

 いや、そもそも鈴を止めるべきなのか?最終目標《ターゲット》は同じ相手なんだ、俺は……)」

 

 

「一年間ずっとIS漬けだったわ。

 ……どんなに辛くても、死んじゃった龍也のことを考えると、多少の辛さなんてすぐ消えたわ」

 

 

「あんたは何してたのよ。あたしがこんだけやってるのに、何もしてないなんてことないわよね?」

 

 

「俺は……」

 

 

 鈴に話すべきか、否か、悩んでいる。

 同じ復讐者《仲間》である鈴には、今の自分の素性を明かしてもいいのだろうか。

 

 

 そして、一夏はーーー

 

 

 

 

 

 

「ごめん、言えない」

 

 

「………は?言えないって、何よ」

 

 

 急に隠し事をされ、目付きが鋭くなる鈴。

 

 

「何もしてなかったわけじゃない。でも、鈴には……言えない」

 

 

 ーー隠し通すことを決めた。

 

 

「(俺は今、死んだ龍也の力で、『あいつの想いを受け継いでるつもり』で戦ってる。

 鈴には、鈴で出来ることがあるんだ。ならこの力は、龍也の力は鈴には言わないでおくんだ。)」

 

 

「……そう。あんたは、あんたで『あいつの仇』を取るつもりなのね」

 

 

「ああ」

 

 

「じゃあ、あたしとは、組む気はないわけね」

 

 

「そういうことじゃ………!」

 

 

「いや、いいわ。協力しろなんて言わないし、協力するとも言わない。

 あんたがその気なら、あたしもあたしであいつらに『復讐』する」

 

 

「………なあ、鈴。覚えてるか?前に、龍也と三人で話したことを」

 

 

「どれよ。たくさんありすぎてわかんないわよ」

 

 

「俺が、ISの造られた本当の目的を言ったことを。

 そして、龍也が言った『あいつの想い』をだ」

 

 

「………ああ。ISが宇宙に行くためのなんだかって話?」

 

 

「そうだ。ならーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーくだらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………な、に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のあたしは『復讐者』よ。この力を使って、権利団体の奴らに復讐するの。

『そんなこと』に縛られてたら、何も出来ない」

 

 

 

「お前………ッ!!」

 

 

 

 怒りを隠せない一夏。束の夢を、そして何より龍也自身を否定するような言い方を、許せなかった。

 

 

「龍也を、否定するつもりか、鈴」

 

 

「あんたこそ、いつまでそんな子供染みたことに縛られてるのよ」

 

 

「縛られてるとかそういうことじゃない。

 俺たちが、あいつを否定するのか」

 

 

「否定なんかしないわよ。それに、今更そんなことしたって、何にもなりゃしない」

 

 

「ならお前は……!」

 

 

 しつこく言いつけてくる一夏。

 

 

 だが、鈴にもーー譲れないものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……龍也はもう!!!死んだのよ!!!!

 

 

 あたしは、先に進むために復讐をする!!!!

 

 

  いつまでも過去に‥‥すがりついてんじゃないわよ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

「はあ、はあ………あんたは、ずっと昔のまま。『あの日』から何も変わっちゃいない。ずっと過去に縛られてるだけよ」

 

 

 

 

 

「………なんで、」

 

 

 

 

 

「何よ。…………言いたいことがあるなら、さっさと言いなさいよ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「……ッ!お前は!!!!『あの日』から、龍也が死んだことから逃げてるだけだ!!!!」

 

 

 

 

 

「なん、ですって………!」

 

 

 

 

 一夏の胸倉を掴み柵に押し付ける鈴。

 

 

 

 

「お前は、力を使って、復讐して、それで自分の苦しみを晴らしたいだけだ!!!!!!」

 

 

「それの何が悪いのよ!!!!

 もうあいつはいない!!!! なら、せめてあいつを殺した奴らに復讐するのが、龍也に対するあたし達の出来る『報い』なんじゃないの!?」

 

 

「違う!!!俺は……」

 

 

「……もう、いいわ」

 

 

 手を離す鈴。

 

 

「これ以上あんたと話してても、何も変わらない。

 あたしを止めたければ、力ずくで止めなさい」

 

 

 屋上から去っていく。

 

 

 一人残された一夏。

 

 

「(俺は、復讐するために今まで戦ってきた。それなのに、鈴を、認めることができない。あいつと同じはずなのに)」

 

 

 頭の中に浮かぶ疑問に、答えは出ない。

 

 

 一体自分はどうすればいいのか。

 

 

 今までしたきたことはなんだったのか。

 

 

 

 結局は俺もーーー自分の為に戦っていただけなのか。

 

 

「(俺は……)」

 

 

 陽は落ち、暗闇が押し寄せる。

 

 

 

 

 結局一夏はこの日、自分の中の結論を出すことはできなかった。

 


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