IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
泣いているセシリアを慰めること数分、ようやく泣き止んだセシリアは赤くなった目元を恥ずかしそうに隠しながら言った。
「す、すいません。お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ」
「い、いや、いいんだ。俺もあんなこと言って悪かったな」
暫しの気まずい空気。
だが先ほどまでの重苦しい雰囲気は無くなった。
「……わたくしも、少し考え直して見ますわ。貴方に言われたことを忘れずに」
「うん、そうしてくれ。考えた結果、オルコットさんがまだ復讐を続けるって言うんなら、その時はまた俺が止める」
「ふふっ、それじゃあ結局考える意味がないじゃないですか」
「え?ああ!いや、別にそういうことじゃなくて!単にISで復讐させるのは止めるけどってことで……」
「あら、事件の火種は、未然に防いでおいた方がよくてよ?」
「勘弁してくれオルコットさん……」
「ふふふっ」
笑うセシリア。冗談を言えるくらいには、もう大丈夫なようだ。
「……そろそろ部屋に戻るか。今日の疲れもまだ取れてないだろ?」
「そうですわね、保健室のベッドにいたとはいえ、しっかりと身体を休めなくては」
ベンチから立ち上がる二人。
歩き始めようとする前に、セシリアが声をかける。
「あ!織斑さん!」
「ん?なんだ?」
「クラス代表の件ですが、貴方にお譲りしてもよろしいでしょうか?」
「……どうして?」
「わたくしがなるより、推薦された貴方の方がクラスの皆さんの期待に応えられますわ。
それに、試合結果も織斑さんの勝ちでしてよ?」
「でもなぁ……やっぱり、俺まだ初心者だし、クラス代表は荷が重いっていうか」
「大丈夫ですわ。近接武器の訓練はわたくしにはできませんが、ISの操縦技術や知識なら教えられます。わたくしは代表候補生でしてよ?」
「やる気がないのなら、無理に押し付ける気はありませんけど」
一夏は考える。
「(俺の目的のためにも力を付けておく必要がある。それに……クラスのみんなからも、託されてる。その期待に応えないわけにはいかない。
……何より、まだここにいない《あいつ》も、代表候補生並の力を付けているはずだしな)
わかった。俺がやるよ、クラス代表」
一夏が宣言すると同時に、セシリアは安堵の表情を浮かべる。
「わかりました、それではそういうことで織斑先生の方にはわたくしから直接言っておきますわ」
「悪いな、頼んだ」
「いえ、お気になさらず。それではまた会いましょう、織斑さん」
「ああ、またな。オルコットさん」
セシリアは先に部屋へと戻っていく。
だがそこへ、狙ったかのようなタイミングで一人の女子生徒が話しかけてくる。
「随分と長い間話し込んでたみたいね、一夏君?」
「……生徒会長ですか。盗み聞きとは趣味が悪いですね」
「えー、こんなところであんな話をしてるあなた達もどうかと思うけどなーお姉さんは」
「……………」
セシリアがいなくなった途端に接触をしてきた更識楯無。
何かしらの目的があって近づいてきていると一夏は気づいていた。
「ふふっ、警戒心が強いのね。それぐらいの賢い人の方が私は好きよ?」
「何か用ですか?」
「んー、用って程のことじゃないけど、一つ確認したいことがあってね」
「何ですか」
「……君は、今《ダークネス》の力が何処にあるか知っているのかしら?」
一夏の心臓が急速に音を立てる。
「(………ッ!この人、知ってる……!ダークネスを。何より、それで俺に接触してきたってことは、ある程度勘付いているってことか)
……さあ、俺には分かりません」
面白げに楯無は笑う。
「ふふっ、嘘は苦手なのね。動揺が隠せてないわよ?一夏くん♪
……それに、私の家系は『暗部』なの。しっかりと情報は握ってるわ。
君が、二人目のダークネスだってこともね」
「………なッ!!」
今度こそ驚きを隠せない一夏。
「ちなみに暗部の中でも、更識は『対暗部用暗部』なの。一応自己紹介のついでに、説明をね」
そんなことはどうでもいい。
この人は俺がダークネスであることを知っていて、何が目的で近づいて来たのか。
「(この人は女性権利団体側の人間なのか?復讐に来たのもあり得るが、だとしたら組織全体に情報を回して、夜寝てる時にでも襲撃すればいいだけの話だ。一体どうして……)」
「ふふ、別に君に何かしようって訳じゃないわ。この前と違って、ちゃんと挨拶しておこうとおもってね」
「……どうして俺がダークネスだと知っているんですか」
「昔、会ったことがあるのよ。一夏君じゃない、ダークネスにね」
「……え、それって」
「……その話はまた今度にしましょう。今日は、知っているわよって伝えに来たかっただけだから。
それじゃあまたね、一夏君。クラス代表頑張って」
言うだけ言って去っていく楯無。
今まで戦って来た相手、ましてや一般人に素顔を晒すような真似はしないよう厳重な注意を払って来たはずだが、楯無は知っていた。
「……こりゃあ、千冬姉と束さんに話してみないとダメかなぁ……はぁ」
何はともかく、今はもう休みたい気分だ。
セシリアと怒鳴り散らすような会話もしたし、楯無には精神的に疲れさせられた。身体もまだ全開とは言えない。
少し肩を落とした一夏は、そのまま部屋と戻って行った。
ーーその頃、とある場所では
「ん〜やっぱりこれじゃあダメかぁ、ISと上手く《ダークネス》の力が混ざらない。
白式をプレゼントしたけど、やっぱり『こっち』を使えた方がいっくんも戦いやすいはずだしねぇ」
そう言って《Darkness》のメモリを上に掲げるのは、一人の『天災』。
「それに、いっくんの周りにも面白い子がいたみたいだしね、ふふ、似てる。似てるよ、イギリスの………なんだっけ、えーと」
思い出そうと少し悩んでいる天災に、後ろから声をかける男が一人。
「ーーセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生だよ」
「ああー!そうそう!セシリアちゃんだよ〜あの子はいっくんと話す前も、話した後もなかなか『いい目』をしてたね〜」
後ろから話しかけた男は、怪訝そうな目で天災を見る。
「相変わらず悪趣味だね、束さんは」
「えーそんなこと言わないでよ〜。キミだって見ててそう思ったでしょ?
ね、『りゅーくん』?」
「………彼女はいい方向に道を選べた。
間違いなく、一夏のおかげだと思うよ」
「いっくんも成長したねぇ。『一年前』は、あんなに弱くて、脆い子だったのに」
「……………」
男は黙って聞いている。
天災は何かを懐かしむような目で語る。
「強くなったよ、いっくんは。力だけじゃない、心も、ちゃんとね」
「らしくないじゃないか束さん。そんなこと言うなんて」
「ふふふ、昔から知ってる可愛い子が成長するのは嬉しいことなのだよ!
さーて!箒ちゃんにも早くとびっきりのサプライズプレゼントを贈るぞ〜!」
天災はすぐにまた研究に意識を向ける。
男はもうここにいる意味はないと判断し、部屋を出た。
そして、
「………まだ足りない。一夏には。
あいつ自身で見つけなければいけない、《強さ》がある」
一人言を呟き、部屋を後にした。