IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- 作:陽夜
少しの間、無言が続いた。
重苦しい空気の中、一夏が口を開く。
「これが俺の過去だ。俺は、復讐者なんだ」
「………あなたの復讐は、まだ終わってないのですか?」
「ああ。龍也を殺した女性権利団体、その中でも直接龍也に手を下した奴を探し出して、殺すまでは終われない」
「……………」
セシリアは黙り込む。
数秒目を閉じ考えた後、口を開く。
「貴方は、死んだ人間に対して、その報いをして差し上げることがその人の救いになると思いですか?」
「……どういう意味だ」
セシリアは意を決し、この男に、織斑一夏に自分の過去を話すことを決めた。
「………わたくしには、両親がいました。オルコット家を支えていた立派な両親が」
「ですが、ある日、突然帰らぬ人となってしまいました」
「……………」
一夏は黙って聞いている。
「列車事故との事でした。当時、まだ10歳にも満たないわたくしには、受け入れ難い事でした。
両親が死んだ事が親戚や、色々な方面へ知れ渡ってからは、様々な殿方がオルコット家の財産を狙って、未熟で若輩者のわたくしに取り繕ってご機嫌取りをしに来る毎日でしたわ。
わたくしは、そんな男達の思い通りにならないようにと、必死だった………そんな、ある日の事です。」
『おいおい、ったく、いつになったらオルコット家の財産は俺達の物になるんだよ、【話】と違えじゃねえか』
『そう焦るな。じきにあのガキも観念するさ。
今はじっくり、時間をかけて親密度を上げるのが先だろ?』
『あんな小娘にご機嫌取りしなきゃいけねえなんて、やってらんねえよ全く。
あーあ、せっかく邪魔な二人を消したってのに、肝心の財産が手に入らねえんじゃ意味がねえ………いっそのこと、あのガキでも喰うか?』
『お前、ロリコンだったのか?いくら美人でも、あんな乳臭いガキはないな。利用価値もない』
「そんな………」
一夏は唖然とする。
「仕組まれたものだったのです。列車事故は。両親を殺すために、関係の無い人も巻き込んで」
「その事をたまたま聞いてしまったわたくしは、ずっと御付きになってくれていたチェルシーというメイドにすぐに話しました。
結果として、その二人は他にも何やら悪事をしていたようで、捕まったらしくその後は姿を見せなくなりました。でも、『話と違う』と仰っていた為、裏で操っていた者がいたとわたくしは考えております。………ずっと、ずっと探していますが、未だに見つかりません。もしかしたら、今も刑務所にいるその二人だけの犯行であったのかもしれません。
ですが、そうだとしてもわたくしは、両親の仇を取らなくてはなりません。それがわたくしにできる、二人へのせめてもの手向けにでもなれば、と……」
「その二人が出てきたら、どうするんだ?」
「………殺しますわ。両親を殺した罪を、受けて貰います。牢屋に入ったからといって、消える罪ではありませんわ」
「………そっか」
「この時から、わたくしは男というものが大嫌いになりましたわ」
「弱く惨めでISにも乗れず、女に取り繕って頭を下げることしかできない。それでいて、非道な考え方をする心が腐りきった男がいる。
……わたくしには、とても耐えられないことでした」
「だからこそ、強くならなくてはいけない。強くなって、誰にも指図されることなく、わたくしがわたくしである為に、強者でいなくてはならないのです」
「オルコット家の誇りを、守る為に………」
「………だからお前は、ISを使って、代表候補生まで上り詰めたのか?その男達への復讐の道具として、ISを使う為に」
「ええ。幸い、わたくしのIS適正値はAランクでした。操縦するのにも苦労はありませんでしたわ」
「……………そんなの、駄目だ。間違ってる」
「え?」
一夏は目を閉じ、考える。
ISとは何か、篠ノ之束がどの様にして開発し利用しようとしたのか、一夏は知っていた。
自身がまだ幼い頃、束から聞いたことがある。
『IS《インフィニット・ストラトス》はね、宇宙へ、大空へと翔ぶ為の翼なんだよ!』と。
そして、親友の龍也は言っていた。
『ふむ、そうなのか。……そっか、ISは、宇宙へ行く為の翼か。
いいなぁ、俺もいつか空を駆け回ってみたいぜ、な!一夏!鈴!』
《ISは誰かを苦しめたり、戦争で利益を生む為の兵器じゃない》と、一夏はずっと思っていた。
【二人の想い】を知っているからこそ一夏は、裏の世界で悪事を働く人々や、その力を自分の為に動かす事を許せなかった。
だから戦っていた。それはきっと、龍也も同じだったのだろう。
そんな一夏の前に今、ISを自分の復讐の為に使おうとしている少女がいる。その手を汚そうとする一人の人間がいる。
「(俺が偉そうに言えることじゃないかもしれない。
でも、今ここでISを人殺しの道具にさせる事を認めちまったら、俺だけじゃない。死んだ龍也の想いに対しての冒涜にもなる。託されたんだ、俺は。龍也から)」
自分が手を汚す覚悟は出来ている。
でも、この少女ーーーセシリア・オルコットにはそんなことをさせるわけにはいかない。
「ISは、人々が争い合う為のものじゃない。
篠ノ之束が、空を、宇宙を飛ぶ為に作った翼なんだ。
お前に、ISを人殺しの道具にして欲しくない。そんなクズの連中と同類になんか、させたくない」
「………なら」
「なら、わたくしはどうすればいいのですか!!!!!
今までずっと、両親を殺した二人を憎んで、わたくしは、ここまで来たのですよ!!!!
それを、ここまできてやめる?復讐を取り消す?………そんなこと、できるわけないじゃありませんか!!!!」
「お前のことを否定するつもりなんて、ない。
………でも!!!お前の両親が!!死んじまった二人の両親が!!そんなこと望んでるとでも思ってんのか!!!!!」
「……………それ、は……」
「それに、お前は自分で言ったんだ。《死んでいった人間の報いをすることが、本当に救いになると思っているのか》、って」
二人は叫ぶ。
同じ復讐者として、互いに譲れないものがあるから。
「………俺には、親の記憶がない。俺が物心つく前に、死んじまったらしい。それからずっと、千冬姉と二人きりだ」
「千冬姉は、その時高校生だった。親戚の人が集まって、遺産と俺達の身をどうするかを決めていたらしい。
でも、誰一人として、俺達を率先して引き取ろうと言ってくれたところはなかった」
「親戚達は遺産が目当てだった。俺達二人は、《必要のない物》だったんだ」
「誰からも必要とされなかった千冬姉と俺だったけど、ずっと俺を育ててくれた千冬姉を、俺は尊敬してる」
千冬が唯一信頼し、頼りにしていた篠ノ之家にも、一夏は感謝している。
そのおかげで大事な幼馴染にも出会えた。
そして、ISを、命を奪える程の力を持つ物の本当の使い方を知れた。
「俺には、親の愛なんてわからない。
でもきっと、君の両親は君のことを、ずっと愛していたんじゃないか?
千冬姉が‥‥俺を、愛してくれたように」
二人の境遇は似ていた。
親を亡くし、遺産目当てですり寄って来る人々。
どんなに辛い状況でも、千冬もセシリアも負けなかった。
一夏は、そんな姉の背中を見て育ってきた。
ーーー止めなきゃいけない。
この少女を救えなくなる前に。
手遅れになってしまう前に。自分が。
「だから、復讐なんて駄目だ。
オルコットさんはオルコットさんらしく、自分の家を、オルコット家を守っていけば、それでいいじゃないか」
「…………っ、わた、くしは、」
下を向き、俯くセシリアの頭を撫でる一夏
「もう、いいんだ。
今までずっと、頑張ってきたんだな、オルコットさん」
「…………ッ!う、ううう、うああああああ、あああああっ………」
泣き崩れるセシリア。
今まで誰からも、そんな言葉を貰うことはなかった。
セシリアの中で、何かが崩れた音がした。
今までずっと積み上げてきた、復讐の為に積み上げてきたものが。
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