オーザム王国。極寒の地であり、王国はあれどさほど強国では無い。
その国に、フレイザードが攻め込む。
「ぎゃあああああ!」
「うわぁああああ!」
「クカカッ!脆い、脆すぎるぜ!この程度のレベルが最強の騎士か?」
高笑いを上げるフレイザードは、村を、街を焼き尽し、王都へと追い込ませる。
「フレイザード様、人間どもは王都へ集中していますが…」
「これでいい。まとめて始末する。それにここに集結させれば『アレ』を使うにはうってつけだろう?」
「な、なるほど…」
「だが、念には念を入れねぇとな。爆弾岩を配置しろ。フレイム軍団は炎魔塔、ブリザード軍団は氷魔塔を作り出した後、守り抜け。
連中が塔の破壊を狙わず、ただ結界外へ逃げようとしたら…」
「ドッカーン、と言う訳ですね…」
「念入りに準備しろよ…この一戦で確実に、潰す」
そう言っているフレイザードの目は、オーザム王国の吹雪もかくや、と言うほど冷たく、冷酷だ。
一方、オーザム王国の王宮は。
「み、皆の者!心配する必要はない!奴らが攻め込んで来ようと、王都にて迎え撃てばよい!」
「リンガイアへの救援要請も出した!そうすれば魔物如き」
「お、おお!確かリンガイアには英雄ホルキンス殿と、猛将バウスンとそのご子息、ノヴァ殿も居るとか…」
「実に頼もしい!内外から攻めたてれば魔物どもなど」
「オーザム王都に籠城するもよし、城壁内に敵を誘い寄せて分断することで各個撃破も出来る!」
「情けない」
静かな声が放たれると、王宮の喧噪はシン、と静まる。
「貴方達は恥ずかしくないのですか?リンガイアからの増援に縋り、王都の防壁に縋り。
私達は、オーザム王国軍ですよ。」
「メアリー殿」
メアリー、と呼ばれた少女は冷たい目で周りの将軍と参謀を見渡す。
「田畑を焼き、村を焼き。ここまで国土を蹂躙されて、何故戦おうとしないのですか?」
「我が国最強の騎士が手も足も出ずに討たれました。我らはもはやリンガイアの増援が間に合うのを神に祈るしか」
「王都の城壁に縋り、リンガイアの増援に縋る。我々が王都に籠城させようとしている事に、何故気が付かないのですか?」
「な、何の為に!」
ため息をついて、メアリーは告げる。
「我々を一人も生かして帰さないため。そう考えれば敵の行動は理に適って居ます。
辺境の村や町を焼き、徐々に王都へ迫る。王都を落とすだけならば、そんな事をせず王都を強襲すればいい。
今までの戦い方を見るに、敵将は炎の如き暴力性と、氷の如き冷徹さを兼ね備え…そして、非常に用心深い。」
「ではどうしろと?」
「…皆さま方は王都の防衛に当たって頂き、私は直属を率いて出撃しましょう」
「か、勝てるのですか!」
「王都を戦場にしてどうするのですか!」
カツカツカツ、と音を立てながらメアリーは王宮から立ち去る。
王宮の一角に辿り着くと
「メアリー様。ご命令通り、出撃準備は整っております」
「そう……全員、出撃せよ!我々の、オーザム王国の為に!」
直属を率いているメアリーは、思考を巡らす。
敵将はこちらの士気が低く、守りに徹すると思っている。故にその守りを打ち砕き、しかる後に殲滅出来るだけの準備を
整えようとしている。つまり。この状況で出撃してくるとは思って居ないはず!
フレイザードが手勢の配置を確認していると、一報が入る。
「オーザム王国軍が出撃してきただとぉ!」
「は、はい!」
「ケッ、ここまで蹂躙すれば出てこないと思って居たら…手間が省けた!一人も生かして帰すなッ!」
出撃したフレイザードは、オーザム王国軍を眺める。
「全く、また我こそはオーザム王国最強の騎士、とでも言うのかぁ?何人いるんだ。」
片手を持ち上げて、フレイザードは煽る。
「オーザム王国最強の騎士様は、よ?」
その煽りに、笑い声をあげるフレイム軍団とブリザード軍団。
メアリーは一切動じずに、杖を構える。
「ん?」
「イオラッ!」
中級の爆裂魔法が炸裂する!フレイザードはとっさに躱すが、砕け散った氷の欠片がフレイム軍団に当たり、
動揺が広がる。
「イオ系が得意、か。ケッ、メラ系、ヒャド系なら…まぁいい。こっちの番だ!メラゾーマ!」
「バギマッ!」
バギ系も使える事にフレイザードは目を細めるが、直後に大きく見開かれる!
迎撃では無く、身を守るように張り巡らした為だ。
「…なるほどなぁ、真空のバリアーで俺様のメラゾーマを遮断した訳か、意外と頭が回るみてぇだな。」
今まで始末してきた相手とはレベルが違う、と判断し、フレイザードは攻勢に出る!だが
「メ・ラ・ゾ・-?!」
フィンガーフレアボムズを放とうとすると、イオラが飛んでくる。メラゾーマ、マヒャドを試しても真空のバリアで届かない。
呪文のランクを落とし、メラミを連発して数を稼いでも、相手はちょこまかと回避する。
「チッ…おい、お前はメラ系やヒャド系も使えないのか?俺様の炎の半身に、ヒャド系をぶつけようとは思わねぇのか?」
「そうしたら片方の手で呪文のエネルギーを吸収するのでしょう」
思わず黙るフレイザード、それが正解であることをメアリーは確信する。
30分程の戦闘ではあるが、互いに魔力が尽きる。
「く、くそっ!この女!」
「引き上げよ!」
王都へ戻ったメアリーは、部下の報告を聞く。
「メアリー様、爆弾岩を複数確認しました、やはり敵は…」
「包囲殲滅が狙いみたいね…それが分かっただけでも十分だわ。」
一方、フレイザードは
「あ?オーザム王国兵が偵察に来たが突破を狙わなかっただぁ?」
「はいっ、フレイザード様」
「…まずいな、さてはあの女、俺との対決を避けて爆弾岩を狙い撃ちにして突破口を開くのが狙いだな?」
「?!も、もしもオーザム王家を取り逃がせば」
「俺の氷の半身はこの世から消滅しちまう…氷岩魔人を護衛に当て、爆弾岩の間隔を開けろ。誘爆したらたまったもんじゃねぇ…」
楽勝と思っていたオーザム王国攻略だったが、不穏な気配が立ち込める。