貴方はヒャダインを使えるレベルの賢者に手加減出来ますか?
地底魔城から、次々と出撃するアンデッド軍団。
対するは、パプニカの賢者と魔法使い。
魔法攻撃で数を減らされても、アンデッド軍団はその努力をあざ笑うかの如く湧き、
魔力が尽きた魔法使いから順番に殺害されていく。
既に国土のほとんどはアンデッドが制圧し、残るは…神殿に立てこもるパプニカ軍のみ。
頃合いだ。ヒュンケルはそう判断すると最前線に出撃する。
敵の新手、と見て魔法が次々と放たれるが、鎧の魔剣は電撃以外は通じない。
剣を一閃させ、最後の防衛ラインを守っているパプニカ兵を切り捨てるヒュンケル。
ベギラマが通じず、呆然とする魔力が尽きたパプニカ王にその刃を突き刺し…
「…これで終わり、か。魔軍司令殿、に報告しなければ、な」
不甲斐ないせいでバルトスが命を落とす要因になったハドラーを、ヒュンケルは快く思って居ない。
だがあの日。失態に対して業火でもって罰すると告げた大魔王は、ハドラーに対しても連帯責任を求めた。
今は不本意だろうが協力してやらねばなるまい。クロコダインとバランはともかく、フレイザード、ザボエラは…
ミストバーンはどうだろうか?相手はカール。
他の戦線に想いを馳せていたヒュンケルの所に、腐った死体が近づいてくる。
敵では無い。腹心の一人だ。
「ヒョッヒョッヒョッ…」
「モルグか」
「ヒュンケル様、制圧おめでとうございます」
「フン…まだ国は6つある。クロコダインとバランに増援は無用だろうが…」
「大魔王バーン様から、勅命が出ております…」
「?!俺に?!」
「はい、なんでも」
「パプニカ王女レオナとその護衛は、バルジ島に逃げ込む。入り込んだら気球を破壊し、確実に抹殺せよ、と」
その言葉に絶句するヒュンケル。
「…バーン様は、どこまでご存知なのか?」
「悪魔の目玉を通して見ておいでなのでは無いでしょうか?」
「そう、だな。大事なのはどうやって知ったかでは無い。俺が何をするべきか、だ。しかし王女か…」
「女性は殺したくありませんか?」
「まぁな」
「…ご命令通り、女性は捕えましたが…全員地底魔城に幽閉するおつもりで?」
「女性に手をあげるな、父の教えだ」
一国を攻め滅ぼしておきながら、女性だけは全員捕えろ。
鼻白むモルグ。だが、それよりも…
「…では、バルジ島へ出撃しますか?」
「勅命とあれば」
「ヒョッヒョッヒョ、では手はずを整えましょう」
地底魔城にて、モルグは主君に説明をする。
バルジ島は大きな渦があり、入るには渦を迂回していくしかない。
気球があるとなると、パプニカ残党は空から入っているのだろう。気球とはそういう事だろう。
「まずは気球をどうにかするしかない、か」
「その件ですが、魔軍司令様が増援を送ってくださいました」
「何?」
一瞬目つきが鋭くなるヒュンケルだが、自分が失態を犯せば揃ってあの業火に焼かれる。
魔軍司令殿も必死と言う訳か。
「親衛隊のガーゴイルです…おや、到着されたようで」
「む…」
入って来たのはガーゴイルだった。がに股で歩いてくる。
「ヒュンケル様、ガーゴイル部隊到着しました!」
「…ご苦労」
内心快く思わないハドラーの直属。表面上のねぎらいはかける。
それに対し、ガーゴイルは深々と頭を下げる。
「…ヒュンケル様、非礼を承知で申し上げます」
その様子に反応するヒュンケル
「我らは死力を尽くして任務遂行に励みます。ヒュンケル様はどうやらハドラー様に思う所があるご様子。
ですが。」
キッと顔を上げるガーゴイル。
「三か月の間、我慢頂けませんか?」
三か月。その刻限が何を意味するのか分からないヒュンケルでは無い。
「…努力はしよう」
「我らはマホトーンを得意とします。必ずや気球を破壊し、敵の退路を断って見せましょう!」