もしもバーン様が逆行したら?   作:交響魔人

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獣王とハドラーの受難

 硬直していたハドラーは、我に返って叫ぶ。

 

「な、何をして居るッ!さっさと任務につけッ!」

 

 軍団長が出撃した後の広間にて、ハドラーは震える。

 たかが人間の子供相手に、あれほどの攻撃。一体彼は何者だったのか?

 いや、今更考えても意味は無い。それよりも…

 

 地上の世界地図を広げ、ハドラーは頭をかきむしる。

 三か月以内に落とさねばならない、落とした軍団を苦戦している戦線に投入していくしかない。

 しかし、いくら考えても分からないのは「三か月」という刻限。

 一年という切の良い区切りでも無い。

 

 

 ラインリバー大陸。南西部に位置するロモス王国。

 その王宮は何時になく慌ただしかった。

 最近は魔の森から魔物が現れ、その対処に苦労していたのだが、今日は事情が違う。

 

 元々、ロモスは強国では無い。クロコダインは自分が出るまでも無く落とせる。そう思える程度の質と数しか持っていない。

 故に期限三か月と定められ、業火を見ても担当地域についてはさほど心配していない。あくまでも通過点に過ぎない、と。

 そしてその考えは正しかった。

 

 百獣魔団の猛攻の前に、兵士は一人、また一人と倒れ、防衛戦線は瓦解していく。

 

「こ、国王様!魔の森から多数のモンスターが襲撃してきます!」

「なっ、なんじゃと?!」

「陥落は時間の問題かと…お逃げください!我々がお供します!」

 

 たしかに詰み、ではある。だがロモス国王シナナは逃げるわけにはいかない。

 

「何を言う!城の者達を見捨てて逃げるわけにはいかん!

戦うのじゃ、最後の最後まで希望を捨てずに!神は逃げ出した者に奇跡を与えはせんぞ!」

「!!」

「王の逃亡は敗北と同じじゃ!わしは非力な年寄りじゃが…断じて逃げるわけにはいかんのじゃ!」

 

 逃げれば敗北を認めた事になる、未だ命がけで戦っている兵士がいるのに。

 主君の覚悟に応えようと、決意を新たに立ち向かう覚悟を決めた彼ら。

 

 アバンは死んだ。だが、希望が完全に尽きた訳では無い。

 

 

 獣王に率いられ、進軍する百獣魔団のモンスター。

 共に最前線で力押しをするクロコダインは勝利を確信していた。

 そんなクロコダインの所に一報が入る。

 

「ガルッ!」

「?老人が立ち向かってくる?しかも一人で?こんな国に手古摺っている暇など無い。」

 

 忠誠を誓った大魔王バーンとハドラー、彼らにロモス制圧の報告を早急に入れたいクロコダインは部下の一人を差し向ける。

 ライオンヘッド、ベギラマを得意とする精鋭の一匹だ。老人如き、一ひねり。

 

 思考を切り替え、ロモス王宮へ攻め込もうとした直前にまた一報が入る。

 

「…ライオンヘッドが敗れた?オレが行こう」

 

 時間的余裕があれば、強者の登場に戦意高揚していたであろうクロコダインだが、そんな余裕はない。

 獣王痛恨撃を放つべく、闘気をためる。最初の一撃で終わらせる。

 

 そんなクロコダインの様子をガルーダは訝し気に見つめる。

 彼の良く知る主君ならば、こんな一見無茶かつ合理的な戦術はとらない。

 何をそんなに焦っているのか?

 ややあって現れる老人にガルーダは目を向ける。

 

 

「ギッ!」

「…あれか」

 

 老人だが、素早い身のこなしで自軍を翻弄している

 咆哮を上げ、それを聞いた百獣魔団のモンスターは即座にその場を退避。

 こちらに目を向けた老人に向かって、獣王痛恨撃が放たれる!

 

 大通りをさらに拡張させ、動く物が無いと確認したのち、クロコダインは城へ目を向ける。

 

「クエッ!」

「ぬっ?!」

 

 忠臣、ガルーダの警告を聞いてそちらを見たクロコダインは

 直後、青空を仰ぎ見ていた。

 

 

 自分が投げ飛ばされた事を悟ったのは、地面に叩きつけられてからだった。

 

 

 

「ぐっ…」

 

 真空の斧を構え、眼前の老人を睨むクロコダイン。

 対峙していた老人…ブロキーナもこれが大将と判断し、構える。

 

 

 容易ならざる相手、だが。城を落とせば全ては終わる!

 部下に総攻撃を命じようとした次の瞬間。

 

 

 老人とは思えぬラッシュがクロコダインを襲う!

 頑強なクロコダインも耐えきれず、ダウンしてしまう。

 

 ありえない光景に、周りの百獣魔団のモンスターが硬直する。

 

「クエエエエエ!」

 

 忠臣、ガルーダがクロコダインを掴み、大声を上げる。

 軍団長に何かあった、と悟った他の戦線で戦っていた百獣魔団のモンスター軍団達も撤退を開始する。

 

 敵の老人が追撃してくるのでは?と思い警戒していたガルーダだったが、不思議な事に追撃は無かった。

 敵は撤退していくが、受けた損害は深刻であり、とても凌ぎきったとは思えないロモス王国軍。

 

 

 

 

 

 魔の森のアジトにて

 

「…何故ひいた、ガルーダ」

「クエッ」

「時間が無い…ぐっ」

 

 ダメージが大きい、薬草を食べて体力は回復したが…怪我は癒えて居ない。

 悪魔の目玉が洞窟内に入り込んでくる

 

 

「む、これは…」

『クロコダインか、ロモス攻略は』

「お、おお…魔軍司令殿…不覚を取った」

『なっ?!ば、馬鹿な!ロモスにそんな戦力があるはずが…』

「やたら強い老人がいた、武道家だろうが…恐ろしい手練れだった』

 

 老人で武道家。ハドラーはある人物を思い出した。

 アバン、マトリフと共に刃向かって来た相手…

『老人、武道家…?!アバンの仲間にそのような者が居た!お前でも倒しきれなかったか…。

分かった、しばし休め。』

 

 

 

 

 鬼岩城にて、ハドラーは頭をかきむしる

 アバンに協力していた武道家の老人。奴がまだ生きていて、しかもクロコダインが撃退されるとは!

 

 第一報が凶報だった事で、ハドラーの不安は増大する…。

 かつての己でも討ち取れなかった相手だった。今の軍団長で奴を倒せる者は…バランだろうか?

 

「ま、まずい!まずいぞこれは…」

 

 ハドラーの胃がギリギリと痛む。

 


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