もしもバーン様が逆行したら?   作:交響魔人

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原作知識を知っている、というのが実に強いと実感しています。


パプニカ王女、カール女王の捕縛

 パプニカのバルジ塔で、異変が起きる。

 反撃の機会を練っていたレオナ達だが、そこに不死騎士団が急襲してきたのだ。

 

 

「うわぁああああああ!」

「ど、どうして!どうしてここが分かったの?!」

 

 パプニカ重装歩兵を容易く切り伏せ、ヒュンケルはパプニカ残党と対峙する。

 

「パプニカ王女だな?」

「くっ、パプニカの女性ばかり捕える魔王軍め!何が目的だ!」

「目的?」

 

 国を取る為以外にないと思っているヒュンケルは困惑する。

 マリンとエイミはヒュンケルを睨み付ける。

 

「くっ、マリン、エイミ!姫様を頼む!ここは私が!」

 

 三賢者アポロは単身ヒュンケルに挑む。勝ち目が無いのは百も承知。

 そもそも、バルジ塔ですらこうもたやすく突き止められた以上、逃げ場などあるのか分からない。

 

 

「メラゾーマ!」

「無駄だ」

 

 魔界の名工が作り上げた鎧の魔剣は、電撃以外は通さない。

 効かない、無駄と分かっていてもアポロは構わず放ち続ける。

 

 最後にアポロが見た光景は、自身の心臓が貫かれる光景だった。

 

 

 

 

「姫様、こっちへ!気球で」

「マホトーン!」

「?!」

 

 

 屋上から脱出しようとしたとたん、魔軍司令ハドラー直属のガーゴイル軍団が一斉にマホトーンを唱え、一行の魔法を封じる。

 

「ケケッ、魔法を封じられた魔法使いなど、ひ弱な人間と変わらん!」

「これでパプニカ王家はお家断絶!」

 

 レオナを貫こうとしたガーゴイルの眼前に、剣が突き刺さる。

 

「そこまでだ。女に手を上げるな」

 

 ゆっくりとそちらを向くガーゴイル。彼は以前からヒュンケルに問いたかった事をここで聞く事にした。

 

 

「…ヒュンケル様、それでどうするつもりですか?」

「何?」

「ハドラー様が、いや、大魔王バーン様が王女を殺せと勅命を下すまで殺さないつもりですか?」

「お前に答える義務はない」

「そうですか。貴方にとっては大した相手では無いかもしれませんが我ら魔王軍の兵士にとっては強敵である事、ご理解して頂きたい。」

 

 ヒャダインを使えるレベルの賢者。マホトーンをかけているからこうして自分達は無事だが、これが効かなければ全滅させられる強敵だ。

 

 

 レオナはバルジ塔の屋上から地上を見下ろす。既にアンデッドの群れが島を包囲している。

 

「チェックメイトだ、パプニカ王女よ」

「……」

 

 言いたい事があるが、マホトーンで呪文を封じられ、何も言えないレオナはヒュンケルを睨む。

 

「つれていけ、これでパプニカ制圧は完了だ」

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 ヒュンケルの師でもあるミストバーンはカール女王とその近衛兵が立てこもる砦を強襲する。

 魔影軍団最強の駒、デッドアーマーを東、西、南から攻め込ませる。北だけは開けている。何故か。

 

 そこには自分が待ち構えるからだ。

 

 

 

「ふ、フローラ様!敵軍、城門を突破!進入して来ます!」

「カール重装歩兵隊、苦戦中!」

 

 次々ともたらされる凶報。ここを拠点に再起を図ろうとしていた直後である。

 

「フローラ様!お逃げください!ここは我らが」

 

 こんな時彼なら。彼ならどうしただろうか?逃げの一手だろうか?いや…きっと。

 

 彼なら、敢然と立ち向かうだろう。

 

「報告します!フローラ様!北は手薄です!」

「おお!お聞きしましたか!北へ逃げれば」

「罠ね。ここまでの強襲をしてきた相手が、北だけ手薄な訳が無いわ。全軍!西門へ!一点突破を図ります!」

 

 自身も武装し、西門へ向かう。

 

 

 

 ミストバーンは北門周辺でカール女王、フローラが出て来るのを待ち構えていた。

 敵兵が先ほど偵察した後、戻っていくのが見えた。

 後は獲物が罠にかかるのを待つばかり。

 

 

 

 

 

 西門を担当していたミストバーンの分身、シャドー。

 

「…あれはカール女王?何故北から逃げずにこちらへ…?」

 

 当惑したが、直後に思考を切り替える。彷徨う鎧から、デッドアーマーに入り込む。

 

 

『ここまでだ、カール女王フローラよ』

「?!指揮官ね!ならここで」

『ここで散れ』

 

 シャドーは西門に配置されているデッドアーマー全機を投入する。

 これで勝敗は決した。そう思っていたのだが…

 

『ぐっ…』

 

 デッドアーマーは細かい傷をつけられているが、全機無事。だがさまよう鎧の損耗率が激しい。

 

『…ここを生き延びて、まだ勝ち目があると思うのか?カール女王よ』

「何をそんなに焦っているのかしら?」

『?!』

 

 見抜かれたー?いや、カマをかけただけか?

 一瞬思考が停止する。

 

 直後、デッドアーマーの一つが転倒させられ、脆い関節部分を徹底的に斧で叩かれ、動けなくさせられる。

 残りは二機。南門、東門を突破したデッドアーマーだが、カール兵が作り上げたバリケードをマヒャドで氷漬けにされているせいか、中々合流出来ない。

 

 

 

『み、ミストバーン様ぁ!』

 

 本体を彼は呼ぶ。その叫びは北門にて、デートの待ち合わせ場所に早く来すぎた男のように、待ちぼうけをくらっていたミストバーンまで届く。

 

 

『?!西門か!』

 

 想定外だったが、敵がそちらに来ているなら好都合。ミストバーンは合流するべく、リリルーラを唱える。

 

 

 

 

 デッドアーマー三体のうち、二体が行動不能にされ、シャドーが直接操る一機は苦戦を強いられる。

 死を目前とした状況から、勝利への糸口が見えたというこの状況はカール王国軍の士気を大いに上げていた。

 

 故に気づかなかった。その足元に奇妙な糸のような物が伸びている事に…

 

 

「よし、後は一騎!」

「…そこまでだ。カール女王よ」

「?!」

 

 新手?!空を見上げたフローラの前に、奇妙な恰好の男が浮かんでいる。

 

「…闘魔滅砕陣!」

「?!きゃあああああっ!」

「うわぁああああ!」

 

 ミストバーンが暗黒闘気でその場の全員を縛り上げる。

 それと同時に、ここに投入した戦力がどうなっているのかを把握する。

 デッドアーマーを9体投入、三つの門に三体ずつ配置していたが…二体も行動不能に追いやられている。

 流星は燃え尽きんとするまさにその時、最も輝くと言うが…これが死を目前とした人間の底力、か。

 

「…死ね」

 

 弟子と違い、女性だろうと立ちはだかるなら始末するのみ。

 冷酷なミストバーンはカール王家を断絶に追い込んだ。


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