今日はシチューを作ろう。
ビーフシチューかシンプルにクリームシチューにしようか悩みますが、どっちにしようかな?
やっぱりビーフシチューの方が栄養もありそうでしょうか?
お肉をしっかりと食べた方が大きくなれそうな気もしますが……余計なところにだけお肉がついて大きくなってしまうのが少し心配な気も……
ココアさんからも抱き心地が、ふわふわってよく言われてしまってますし……クリームシチューにしよう。
野菜が少し多くなってしまいますが、嫌いな物を入れなければいいですし、乳製品なら背だけでなく、あわよくば胸の成長にも……
私と同じくらい好き嫌いがあるはずなのに……ココアさんはずるいです
いつか絶対に追い越して、リゼさんや千夜さんのように……
「あれ? 確か昨日までは普通に通れたはずなのに」
スーパーを目指して歩いている道中、工事の看板に行く手を阻まれてしまった。
建物の改装工事の様ですが、ここって何のお店だったかな?
普段からよく通る道だから、お店も目にしているはずなのに、いざ隠されてしまうと意外と覚えていないものですね。
覚えていてもらうためにも、やっぱお店の外観やインパクトは大事なんでしょうね。
結構大きい工事みたいですが、そのせいで近くの道まで塞がれてしまってますし、これは少し回り道しないといけないですね。
建物と塞がれてる道の横を通り過ぎる手前で、ゆっくり振り返り、通行止めの看板とその奥の道をジッと見つめる。
ふぅ……あまり使いたくはないのですが、この際仕方ありませんね。
まだ見習いなので、上手く制御できるかわかりませんが、私のバリスタとしての能力を――
意識を集中すると胸の中で熱く強い力がどんどん高まっていくのを感じる。
今日は思ったよりも調子がいいみたいですね。これならちゃんと制御できそうです。
あとは、この力を目の前の障害に向かって解き放つだけ――
――いきます。これが……私のバリスタの力ですっ!! ……っていうのは、さすがに我ながら影響されすぎでしたね。
「チノ。チノが目指しておるバリスタにはそんなことはできんぞ」
「!? わ、わかっています。ちょっとマヤさんの影響を受けてしまっただけです」
つい悪ノリしてしまいましたが、声に出してないはずなのに、どうしておじいちゃんにバレてしまったんだろう。
考えていたことがバレてしまったのが恥ずかしかったし、頭の上のティッピーに呆れた様な溜め息をつかれたのが、少し悔しいです。
「あれ? チノちゃん?」
「!?」
また誰かに見られてしまった!?
うぅ……こんなことなら、やるんじゃなかった……
「ごめんね。急に声掛けちゃったからビックリさせちゃったわね」
「い、いえ。私の方こそ驚いてしまってすみませんでした。シャロさん、こんにちはです」
振り返ると、私を驚かせてしまったと、少しだけ申し訳なさそうな顔をしているシャロさんが立っていました。
……よりによってシャロさんに見られてしまうなんて……きっと幻滅されてしまう。
「これからお買い物? 工事の看板をじっと見てたみたいだけど、やっぱ急にこの道が塞がれちゃって不便になっちゃったよね」
良かった。偶然私を見つけただけで、気づいてないみたいです。
ホッと胸をなで下ろしつつ、シャロさんの様子を改めて軽く確認してみる。
「は、はい。シャロさんは……お仕事中みたいですね」
『フルール・ド・ラパン』の制服で、いっぱい紙を抱えているので、チラシを配ってお店の宣伝中かな?
シャロさんのお店のチラシは上手く言えませんが、すごく大人な感じがします。
お店もお洒落でしたし、やっぱりこういう感じのお店の方が人気が出るんでしょうか?
『ラビットハウス』も、大人っぽいカッコいいチラシを配れば……………………残念ながら無理ですね。
私は絵が下手っぴですし、ココアさんはユルすぎますし、リゼさんのは物騒な感じになってしまいそうです。
「情けないけど、しっかり働いてお給料頂かないと生活できないからね」
「そんなことないですっ。勉強もできて、とても仕事熱心で、シャロさんは私にとって憧れです!」
「ありがとう。チノちゃんにそう言ってもらえて嬉しいわ」
「あ、すみません。お仕事中なのにお邪魔になってしまいますね。そろそろ行きますので、お仕事がんばってください」
少し名残惜しいですが、あまり足を止めさせてしまってはいけませんね。
「そんな気にしなくていいわよ。っていうか、私の方からチノちゃんに話しかけちゃったんだし」
「ですが……」
「まぁ、チノちゃんもお買い物の途中みたいだし、あんまりのんびりもしてられないわね。……あ、そうだ」
何か思い出したみたいですが、さっきまでの優しい笑顔から一転して少し緊張した表情になってます。
「り、リゼ先輩って、今日ラビットハウスに来る?」
「はい。午後からアルバイトに来て頂くことになってます」
「じゃ……じゃあ、私も午後からラビットハウスにお邪魔させてもらってもいいかな?」
「はい! シャロさんに来て頂けるのなら歓迎です!!」
リゼさんに何か用事があるみたいですけど、シャロさんが来てくれるなら、すごく嬉しいです。
「ありがとうチノちゃん!! バイト終わったら、必ず行くからね!!」
「はい! お待ちしてますのでぜひ来てくださいね!!」
リゼさんへの用事のお邪魔はできませんが、ゆっくり色んなお話ができるといいな。
できれば、もっとコーヒーを好きになって頂ければ嬉しいのですが……シャロさんはコーヒーを飲んでしまうと少しアレなので無理強いはできませんが。
ココアさんみたいになってしまいますけど、もしかしたら普段からいっぱいストレスを溜めこんでしまってるのかもしれませんし、
それなら『ラビットハウス』でいっぱい発散して頂くのもいいかもしれませんね。
例え色んな面を見てしまったとしても、私にとって普段のシャロさんは理想の年上の女性そのものですから。
営業スマイルの時の眩しすぎる笑顔よりも抑え目だけど、その分温かみを感じる優しい笑顔で手を振ってくれるシャロさん。
こちらも手を振り返し、再びスーパーを目指し歩き出す。
午後からの嬉しい予約が入ったことで、足取りが軽くなっていた。