スイーツに砂糖は要りません、いや本当に   作:金木桂

8 / 13
上手く書けないので挫折してたけど千夜の誕生日が近いので四苦八苦して書きました。

前回までのあらすじ:シャロが宇治松家にお泊り会


肉食生物の檻に迷い込んだアリス

「イッエーイ!ここに7つお菓子があるわ!全部食べましょう!」

 

「シャロちゃん、もう3つもないわ」

 

カフェインで酔い潰れたシャロさんを介抱しようとするが、如何せん酒の力は強いのか姉は暴徒と化したシャロさんを取り押さえることが出来ない。寧ろ力負けして引きずられて行く始末だ。

ズルズルと雑巾の様になりながら姉は必死そうに目配せしてきた。

 

「金ちゃんも手伝って……!」

 

「そうだなぁ甘兎庵の経営権を諦めるなら手伝うよ」

 

「金ちゃんの鬼!悪魔!利権の犬!」

 

なんて罵詈雑言をするんだこの姉は。危うくこのまま見捨てて部屋に戻り読みかけの本を開くところだったまである。何とか理性で耐えたが。

 

「冗談だよじょーだん、僕が可愛い姉の事を見捨てる訳ないでしょ?」

 

「じゃあ人助けと思って甘兎庵の社長の座を渡して?」

 

「そういや今日大人気小説新刊の発売日だったなぁ早く書店行かないと売り切れちゃうかもなぁ」

 

「待って待って」

 

 

一瞬本気で見捨てかけたがともかく、僕はどうにかこうにか酔っ払ったシャロさんの魔の手から姉を救出することに成功した。未だにシャロさんは泥酔しているが暴れすぎたせいか先程よりも元気がなくなっている。このままなら自然と眠ってしまうのも時間の問題だろう。

 

「シャロちゃん、そこ布団敷くわよ」

 

「えーっ。私刑務所で寝たくないー……」

 

「ここは甘兎庵よ」

 

「沢庵?」

 

「甘兎庵!」

 

にしてもどんな酔い方をしたらこんな酷い酔いつぶれ方をするのだろうか。もしかしたらシャロさんはアルコールよりもカフェインの方が耐性が無いのかもしれない。いやまあそれにしてもちょっと行き過ぎてる感じがあるけども……。

 

「千夜ーおんぶ」

 

「寝なさい?」

 

「さもないと多重債務にしちゃうわぁ……」

 

「それは止めて」

 

どんな脅し方だよ。

シャロさんは姉にあやされること数分、遂に気力が尽きたのか眠り始めてしまった。多分それ以前の疲れもあったのだろう、かなりぐっすり寝入った様子だ。

布団に入ったシャロさんの前で姉は困ったように呟いた。

 

「……夕飯どうしましょ」

 

「シャロさんのだけカップラーメンにするとかどう?」

 

「流石にそれは良心に罅が入るわ」

 

「……良心、あったんだ」

 

「ん?金時何か言った?」

 

「いえ、何も。サーッ!」

 

「さーっ?」

 

今懐からいつも羊羹を切るのに使っている包丁を取り出したのを僕は見逃さなかったぞ。いや怖い、マジで怖い。その日本人形みたいな容姿に笑顔で包丁はシャレにならない。ヤンデレごっこは好きな相手が出来たら存分にやって欲しいまである、だから僕にその凶器を仄めかすのは止めて。

 

「まあでもシャロさんも一応健康的な生活を送っている訳だしすぐ目が覚めるんじゃないかな。と言うか普通に起こすという発想は無かったの?」

 

「いやだってシャロちゃんを起こす用のクラッカーの在庫が今無いし……」

 

「いやさ、なにしてんの」

 

何だかシャロさんがウチに泊まった時に限って早朝妙に破裂音みたいなのが聞こえると思ってたんだけどオマエの仕業か。この不良娘。

姉は恥ずかし気に頬を染めながら。

 

「だってシャロちゃんが甘兎庵に泊まる機会があんまりないから嬉しくって……つい」

 

「普通にご近所迷惑だし金時迷惑だからクラッカーは禁止」

 

「ごめんなさい……」

 

「だから今後は僕が監修してるときのみ早朝ドッキリを可とします」

 

「流石私の見込んだ金時ね!よ!甘兎庵次期副社長!」

 

「その話は長くなるからやるならまた別の機会ね」

 

姉はシャロの前髪をサラッと撫でると、「じゃあ後は任せたわね」

 

「うん勿論。任せといて、シャロさんの頬の保証はしないけど」

 

「ホント!じゃあ期待してるわ~!」

 

意気揚々と姉は部屋から出ていった。僕はそれを見送ると、ズボンのポケットからマジックペンを取り出した。キュポンという音と共にキャップを外すと、その黒いペン先が早く黒く染める物を寄こせと言わんばかりに震え始めた。いや震えているのは僕の指先なんだけどね。ただこの純白できれいな肌を汚すのかと思うと、武者震い、もといワクワクしてくるのだ。

 

「安心しろ、水性だ......」

 

僕はそ~っとシャロさんの頬にペンを近づけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はシャロさんの部屋で携帯ゲームをしていると、午後七時になっていた。何だろう、無為に時間を過ごした感がすごい。こう、ゲームして時間を潰してしまうと虚無感のようなものを感じざるを得ない。嗚呼、今日も有益な時間になり得る潜在的可能性を秘めた一日を無駄にしてしまったんだなぁ、そんな感情が胸に溢れて罪悪感が氾濫するのである。まあでもゲームの進捗を進めただけでも未だマシか、シャロさんなんて突発性鬱ってカフェイン酔いして寝て一日が終わったんだし。まるで穀潰しみたいだ、なんて思いつつ意識的に白い目で見たらシャロさんもコチラをジッと見ていた。どうやら起きていたようだ、数秒間パチパチと互いに無言で瞬きする。目と目が合う~瞬間好きだと気付いた~。

 

「……何よ、そんな空っぽの財布を見るような目をして」

 

「いや、シャロさんの寝顔って脳みそ空っぽ……じゃなくて能天気そうで可愛いなと思いまして」

 

「誹謗中傷を全くフォロー出来てない!」

 

ガバッと起き上がりながら突っ込むシャロさん。その頬にはウサギの絵が描かれている。うん、可愛い。我ながら洗練された筆遣いの良い出来だ。

 しかしシャロさんは全く気付いていないようだ。小首を傾げた。

 

「……?何よそんな気持ち悪い目して?」

 

「いや、何だろう。ちょっと言葉にはし辛いけど……シャロさんはそのままが良いです」

 

「どういう意味よ……全く」

 

シャロさんは布団から抜け出すと、部屋を出ようと立ち上がった。僕も一人で残っていても仕方ないのでテクテクと雛のように親鳥に付いていく。それにそろそろ晩御飯だしリビングに行っても何の問題も無いだろう。

 

「そう言えば私どのくらい寝てた?」

 

「二時間くらいですね、因みに今日の晩御飯は姉が上機嫌で随意作成中です」

 

「……なんか嫌な予感がするんけど」

 

どこか寒いのか腕を摩るシャロさん、全くもって嫌な予感がするのは同感だ。あの姉が唯の美味しい晩御飯を作るはずがない。確実に何かやらかす、……ちょっと外食したくなってきた。

 

「シャロさん、今日外で食べません?姉にはメール入れとくので」

 

「する訳ないでしょ!?度々思うけどやっぱりアンタって千夜の弟よね!」

 

「いやいや姉には及びませんよシャロさん、所詮僕は姉より生きた年数が少ない弟ですから」

 

「そんな謙遜して言うことじゃないから!」

 

でも実際の事として僕は姉より鬼畜さ加減で遅れを取ってる。その代わり飴と鞭のバランス具合は姉より優れてると自負してるけど。姉はすぐやり過ぎる……シャロさんに対しては特に。最近はリゼちゃん(笑)にもやってるようだし、我が身内ながらまるで見境がない。……流石にそろそろ注意すべきかな。これから末永く付き合っていくために。

 

リビングでは既に姉がテーブルに料理を並べていた。今日はどうやらハンバーグのようだ、姉はコチラに気付いたようで笑顔で言った。

 

「今日はハンバーグよ」

 

「う~ん、見た感じは大丈夫そうね……」

 

そうシャロさんはハンバーグを見てぼそりと呟くが、甘い。甘々の甘兎庵としか言いようがない。

 例えばこのハンバーグ、確かに見た目だけでは何の問題もなさそうに思える。しかし姉と同じく厨房に立っていた祖母の表情が非常に微妙そうなのを見れば何かしらの細工をしたのは自明の理だ。そして極めつけに微かに漂う薔薇の匂い……これは多分何かを刺激の強い香辛料の芳香を隠した証拠だ。順当にいけば唐辛子、パクチー。大穴で灰汁抜きしていない鹿肉などだろうか。これだけ分かっても姉の入れた物に全く予想がつかない。ホント恐ろしい実姉だよ本当に。

 流石に何度もやられているからか、警戒心を剥き出しで席に座ったシャロさんは更に料理をマジマジと見る。

 

「……まあいいわ。どうせ食べるまで分からないんだし」

 

「流石シャロちゃん!よっ男前!」

 

「余計な事言うな!」

 

姉はそんな抗議をそよ風の如く受け流してシャロさんの対面に座る。これシャロさんの表情を観察するためだ、僕には分かる。そして必然的に僕はおばあちゃんと対面に座ることになった。

 いただきます、と日本古来から食前の挨拶として交わされている……かどうかは知らないけども少なくとも我が家では毎日三回やる習慣を行い、皿の上に目を落とす。あるのはハンバーグにレタスとトマトにドレッシングの掛かったサラダ、ご飯に味噌汁といった一般的な夕飯である。

 シャロさんは中身を慎重に割って、ジッと見つめたり臭いを嗅いだりしている。けれでも全く意味は無いだろう、姉がそれだけで判断のつくような二流の仕事はしないだろう。寧ろ本命はハンバーグでは無く別のものであると僕は思う。

 

「……む!このハンバーグは美味しいわね……」

 

「やった!シャロちゃんに褒められた!」

 

「素直に褒めてない!」

 

そんなやり取りを尻目に僕は味噌汁を啜り、吹き出しそうになるのを何とか堪えポーカーフェイスで耐える。……甘い!甘すぎる!これ確実に味噌に交じって大量の餡子が溶けてる!あの薔薇の臭いはもしかしなくともシャロさんではなく僕を騙すためのブラフ……!てかマジ無理……一瞬胃液が口内まで滝登りしてきたのを何とか根気で飲み込んだ。

 ふと姉の方を見れば、僕のそんな様子を気付き愉し気に微笑んでいる。クソ、腐っても14年来の付き合い、機敏に僕の感情を読み取ってきやがるあのマイシスター。

 

「金ちゃん、美味しい?」

 

終いには不味いのを承知でそんなことを聞いてきた。本当に鬼か悪魔の成り代わりだと思う。うん、何でシャロさんはこんな鬼畜に和服を着せたような女と僕を同程度の系列に語るのか真剣と書いてマジと読む方で分からない。ここまでやるかという気持ちが正直なところだ。

 

「───うん、さすがお姉ちゃん。美味しいよ」

 

でもしかし、だがけれど。僕とて程度の差さえあれどそんな姉である千夜の血とおんなじそれを引いてしまっているわけで。つまりはこれを飲んだリアクション芸人シャロさんがどのような反応をするのかという事象に知的好奇心が奪われてしまったのだ。これはもう血族的な呪縛なのである、だから「偶には真面目に作るのね、見直したわ千夜」と徐々に警戒を解きつつ食事のペースを上げるシャロさんにこのことは伝えることは出来ないししたくない。うん、それに驚きは新鮮な方がいいもんね、餡子味噌汁とか普通に生きてたら飲めないよ。だからと言って僕に飲ませたのは絶対に許さないが。絶対にだ。倍返し、覚悟してろよ……?

 

なんて鉄血の誓いを立てていると、遂にシャロさんも味噌汁に手を掛けた。淀みのない動作で何の疑いも無くその謎味と化したスープを普通に口に含んだ。そして直ぐに顔色を苦しいものに変える。そして苦しそうに呻いた、必死に飲み込もうそしている様子である。いやはやご愁傷さまです。

 

「うっ……!……何よこれ!?」

 

「甘兎特製あんこ味噌汁よ~自信作なの!とても美味しいわよ!……たぶん」

 

「あんたちゃんと味見したの!?」

 

「……初めてはシャロちゃんと金ちゃんって決めてたから」

 

何て言い方だ。思わずといった感じで祖母もゴホゴホと蒸せている。年寄りに何て酷な事をするんだこの姉は、ぽっくりと殺す気か。

 「おばあちゃん大丈夫?」と元凶が介抱している内に僕は自分の味噌汁と姉の味噌汁をすり替えら。秘技燕返しである。

 

「……でもまあ、悪くはないわね」

 

「……え」

 

……そう言えばシャロさん、何だかんだで見た目に騙されそうになるけどかなり味覚がおかしい方だった。

 と、のんびり眺めていると姉は味噌汁を蒼褪めた顔で口にしていた。よし、飲んだな。

 

「オエ……ッ!」

 

女の子が凡そ出してはいけないこと音を発しながら姉はゲホッゲホッと咳き込んだ。思わずニヤリとする、自分だけ普通の味噌汁を食べようとしてもそうは問屋が下ろさない。

 なんて策の成功を内心喜んでいるとシャロさんもニヤニヤとし始めた。

 

「さては千夜、金時にすり替えられたわね……?」

 

「金ちゃん……裏切ったわね!?」

 

「裏切るも何も仕込んだのはお姉ちゃんじゃん、不可侵条約を先に破ったんだから当然の報いだよ」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

「いやぐぬぬじゃなくて」

 

そんあ様子を呆れた面持ちでおばあちゃんは見守っていた。





むりぃ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。