烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
内政の時間ですよ。元親さま。……ってワケですよ、
そうでしょう。
さあ始まりました、長曽我部小昼元親の一族建て直しのための内政の時間がですよ。
小昼、堤防を作っている間にも、堤防以外にも手を出していたんですよ。堤防は国康叔父上と小昼の生徒に丸投げですぶっちゃけ。
「こちらをご覧ください。材料の素材など判る範囲で右上に書き込んであるので無理ではないかなと」
「姫様、はいそうですか。と引き受けれるものとそうじゃない物がありますぜ。以前の炭焼き小屋くらいなら、まだ作れたんですが、……」
「……解せぬ」
「なにぶん、初めての作業になるものが多く……この水車なるものはまず、歯車の制作からになります。歯車というものも初めて目にするものなので、思い通りこの、設計書?なるもののままの姿で完成するには一年間は待って戴かないと」
「待ちましょう。やってくれるのですね?」
「うちだけじゃなく、ここに居る職人の総意ですが……姫様の持ってくる設計書はやる気を起こさせてくれて、十二分に働かせて戴きます。とお返事を出来れば良いのですが……なにぶん、その技術を持っておりません」
具体的に言うと、書き貯めていた設計書を元にあらゆる分野の職人と会って、作って貰い運用する為に。
「解せぬ……紙はこうして使って、悪くないものになっているではありませんか」
幼く小さい頃から必要に迫られて早くから職人を育てていた紙の生産は順調な事になっていた。出来はまだまだ和紙に劣るゴワゴワな出来だけど小昼が使う分には問題無いのです。
牛乳パックを解して煮詰めて自作したなんちゃって和紙より、まだゴワゴワしている感がありますが。
字を書けれて、設計書に利用出来ればそれでもいいのです。
「姫様、次はわたしどもの方から申し上げさせて戴きます。歯車さえ出来れば風車を使っての粉引き?でしたか?可能であると申し上げまする」
「それは嬉しい返事です。では、歯車が届くまえにそれ以外を仕上げて、お願いしますよ」
設計書には他にシンプルな水車から風車、時計のような歯車とゼンマイも書き込んでこれを作れる職人を育成しています。
「姫様、時計……というのは……本当にこの通り作ったらば時を刻むのですか?」
「南蛮ではすでに実用されて皆が使えていると聞いていますので、時計はこの通り作動してくれるものと思います。心配しないでよろしい」
まだ、作れる職人がいなかったのです。これだから文化圏、経済圏から外れた土佐は、って地団駄踏むことになる。
「ではこちらからよろしいですか?」
「大工衆には大八車の改良をお願いしたく、手元の設計書の通り作って貰えばそれで良いのです。何か?」
「ははっ。この通り改良致します。発言の機会を戴きましたのは、姫様の設計書に感服した次第。これは岡豊以外にも売れる品に御座いました。是非お礼をいいたく」
「なんだ、そんなこと?ありがとう、って言ってくれるだけで良いのよ。小昼も武士になりました。以前よりおおっぴらに開発が出来て嬉しいだけなのね。それに付き合わせてるだけなんだから。逆に、こっちがお礼をいいたいくらいよ。──皆さま、本当にありがとうございます。小昼のわがままに付き合わせてしまって」
他にも大八車を改良する、いわゆるリヤカー制作の設計書とか、鍛冶屋を訪ねてのツルハシや土木用具の制作の依頼と注文も。
そんなやり取りから、小昼の目の前に座る下座の一群から、大工衆の棟梁が前に進み出て額を床に擦り付けるものだから、申し訳なくなって小昼も上座に座って、敷いていた座布団を降りて下座側の棟梁の目の前で並ぶように同じ格好で頭を下げる。
と、上座でも下座でも無いところで事態を見守っていた吉田の爺からお叱りを貰いました。
「元親どの。このような場で民に不躾な様を晒すものではありませんぞ?」
普段の爺の声音でしたが、場の空気を凍りつかせる迫力の一言。
ばつが悪くなって、
「そこまで言わなくても……」
爺を白い目で見ながら上座の座布団に戻ります。
べつに評定の場というわけでもないんですし、不様なものでも無いでしょう。頭を下げるだけで職人衆の心をがっちり掴めるなら小昼は下げますよいくらでも。
「続けましょう。白黒の生産は間に合ってますか?」
白黒というのはオセロのことです。岡豊にも娯楽は必要と思いましたので──ぶっちゃけ、退屈な時に遊べるので最初は小昼、自分のために作らせたのですよ。
それを目をつけた職人に『作らせて貰っていいか?』と問われて今があります。
他に簡単に出来そうな娯楽と言えばベーゴマやメンコになるのでしょうか。
版画技術の知恵を授けてみれば以外とハマるかもしれません。
「木工は我ら彫師にお任せあれ。順調に数を増やしております。将棋に変わる娯楽として市井に広まっておりますぞ。将棋より覚えること少なく、駆け引きと頭の回転が養われると噂を蒔いたのが吉と出ました」
「うん!よし、続けて」
更に、食から健康を作るて事で塩尽くしの食卓をバッサリ変えました。正確には、一条の叔父様に知恵を授けて醤油…魚醤なら幼い時に作って貰っているのですが、これをいよいよ醤油に。
「魚醤の改良と言われることでしたが、今少しの時間が戴きますよう申し上げます」
「解せぬ……熟成の段階のものが出来ているでしょう」
細々作っている所はあるものの、商品にはなっていない為に小昼の口にも入ってこないから自主的に。
醤油は紀州の僧、覚心が作ったものって説明も簡単だし試作品の味も良かったので皆に使って貰える商品となるでしょう。醤ひしおだけでは物足りなさを感じるのですよ。どうしても。
一条から取り寄せた技術と、紹介して既に魚醤を作る職人は育成に成功していましたので、これに醤油の技術と味噌の技術を教え込んでようやく完成したのでした。
「満足いく出来にございません。同じく味噌も熟成の段階では御座いますが……」
「塩ばかり、魚醤ばかりだと飽きがでます……良いものをお願いしますよ」
「ははー」
そんな感じで内政の時間が問題なく終わり、次の日の朝。
呼ばれて、評定の場に連れていかれます。小昼なにかやらかしましたか?
評定の場ではとんとんと話が進んでいるところでした。
「北より西内の兵がちょっかいをかけてきて困っているとのこと」
「香宗我部より、五百蔵への備えに応援を頼むとの使者が参っておりまする」
「南の百姓からはこちらにも堤を作ってくだされと頼まれております」
「おお元親どの。遅かったな、ささ此方へ」
「で、儂からはその堤防の件でな。見事なものを作った元親どのにこたびの件任せてはいかがであろうか?相違ござらぬか」
様々な意見が続けて出てくる評定の場に、元親こと小昼の名が飛び交い始めました。
「元親どのと言えば、最近職人衆を率いてなんぞやられていると言うぞ」
「俺もそう聞いたぞ。新しく白黒……という娯楽を民に流行らせたと聞いたが」
「儂らは魚醤は元親どのが中村より持ち込んだと聞いておる。塩漬けになった以前の飯よりずっと食事が豪勢になったものだ。感謝する」
「元親どのと言えば、こちらからも良いか。薪よりずっと保ちのよい炭を中村から取り寄せて作らせているとか、飯炊きが捗ると噂を聞いておる。こちらからも感謝する」
「なんの、こちらからも良いか。知り合いに彫師がおるのだが、版画というのを教えてもらったと言うぞ。何でも、木彫り一枚から同じ文、同じ絵を写せるのだということだ。坊主どもの写経も捗るな。感謝いたす」
みなさんの豪快な顔から発するにこにこ笑顔が小昼の全身に刺さる刺さる。
照れるな、もう!
頬が熱いったら。風邪でもないのに暑い暑い。
吉田親子に、江村親家に、福留さんに、中島さんに、広井さんに、その他たくさん。
この周辺に住んでる家臣団が勢揃い総勢二十四名の四十八個の瞳で小昼に注目するものだから、立つ瀬ないってゆーか、もう!
ちっさくなって消えてしまいそうに思えちゃうので、もう注目しないでくれますか?
……恥ずい。ぶっちゃけ、裏のない感謝するの言葉にのぼせるくらいくらくらする。けど、感謝の雨ってキモチイイ!
そう感じてしまう。
そうなると自然と黙ってみている父上と目が合う。父上からの称賛はまだ無い。父上、何を企んでらっしゃるのですかね?
「それくらいで許してやれにゃ。元親も我が長宗我部の立派な武士よ。そう娘っ子にするように色目を使ってやるにゃ。怯えて俺を見るしかなくなっておるではないかにゃぁ」
父上からフォロー?戴きました。ええ、判っているじゃないですか。人見知りでもないのですけどそこまで猫っ可愛がりされると流石に直視できなくなる。
ですので自然と父上を見るか、俯くしかなくなってしまうなのです。
「しかし、そうよな。西内に五百蔵か、挑発しておれば食い付くと判っておらんようにゃ。山田めが」
顎に手を当てがい考え込む父上。
「それに堤を作れとにゃあ、銭が泡のように消えるがやらんわけにはいかぬか」
そこで父上がモゴモゴと口を動かしながら、吉田の爺に視線を動かして訊ねます。
「孝頼、お主ならどうするにゃ?この挑発に乗ってやる訳にいくか?しかし、西内にやられ放題では放っておけぬにゃ」
「殿、この孝頼に考えが御座いますが宜しいで御座いますか?」
「続けよ」
「では、続けましょう。寺子屋堤の件でも元親どのは見事な采配で国康どのを使ってみせ、その手腕は素晴らしいもので御座いました。そこでですな。この西内の挑発の件……元親どのに任せてはいかがでしょうな」
「元親よ、ということやにゃ。山田の三下でしかない西内くらい……我が家の一門であるお前ならこの件、任せてもよいとは思うがにゃ?皆にも聞こう!
元親に任せてよいかにゃあ!」
「ははっ」
「殿、お待ちください。元親どのは此度はまだ初陣もなされておらず。西内ごとき、畏れること無いとは思いますが、……なにぶん。その、経験が御座いません。そこで某が西内なぞ蹴散らして見せましょう!」
話が小昼の出陣に傾いていたのを、ぐぐっと丸書いて引き戻したのは若大将でもある、江村親家。
本来の歴史だととっくに山田を潰しているはずで、その時の手柄を総取りにする働きをしたのが彼、江村親家だ。
吉田家から養子にいって江村氏を名乗っているけど、気風は父親の吉田重俊ゆずりで武名豊かな武闘派な長宗我部の中でも群を抜いて血の気が強いのですよ。
「江村どの。元親どのに経験が無いと言うなら何よりのいい機会で御座ろう。殿が任せてはどうか?と言っているのをお主は横槍を入れておると知れよ」
息子の江村親家に厳しく叱咤を入れて、空気を元に戻そうとするのは父親の吉田重俊。
こちらは大備後と言われて一目置かれる、我が長宗我部の大エース。
「二人の意見、ごもっとも。であればこの孝頼が元親どのに戦の場の手合いを致すとしましょう。江村どのは経験がないのが心配で?大備後の方は経験がなければ積ませる場という。であれば、話を持っていったこの孝頼に全てお任せあれ。──これで如何であるかな?お二人とも」
声を挟むような空気でないめまぐるしい瞬間が続いて、あれよあれよと。そうすると吉田の爺──吉田孝頼との手合いが決まっていたのです。
「───え?」
解せぬ……。
いつかは初陣もあるだろうけど、小昼を心配する江村親家が代わって自分が!と手を上げた格好になったのを、大備後・吉田重俊が一喝で潰し、最後にその場を締めたのは吉田孝頼の決定権をバッサリ斬って有無を言わさぬ静かな迫力だった。
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