烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
大谷城──大谷一族が拠点とする城。大谷一帯をここから基点に支配している。金剛山の西斜面にあるらしい。マイナー過ぎて、小昼が知らない城ですよ。
池宮のお爺さんの案内で大谷城を目指します。
金剛山は東側の斜面が崖になってて、登れなくはないくらいに大変骨が折れる。
ってことで城を出て北か南を選ぶ事になって、拾った棒で倒れた方へ進むと決めた。
──北だった。道すがらお爺さんと話していると、金剛の山の頂上に金剛童子さんと住人から慕われる金剛道寺というお寺があるというのです。
えーと、夕方には城に着くらしいんですけど一度そのお寺で一息つきましょうという事だったので、それには頷いてそうですねって返事をした。
今の気持ちはと言うと複雑だ。爺にも秀通にも付いてくるな!と言ってしまったのですよ。
だからって……。本当に二人で出掛ける事になりますか?山登りですよ?ま。ちょっと辛いってだけのハイキングコースと思ってたんですよ。
思えば、北に行ったことからケチがついたのかな。
結果というと、山登り自体は岡豊の山の寺に行く道の方が大変かな──山賊はいないけどね!
辺りに殺気が満ち満ちてます。どこで襲い掛かってくるか判らないけど、気配が着いてくるとお爺さんが小声でそっと囁いてきた。
賊が岡豊で出れば大エースさんが飛んでいくし、そうじゃなくても、誰かの家臣が逸って蹴散らしに行くのを見てるのです。
「まだやるっ!?」
粗方、襲ってきた奴ら血袋になったか反撃できないくらいに伸した。
平成の日本にもちろん山賊なんて居ないから緊張の糸が切れてた……なんてこともなく、大谷が威力偵察に出てきて迎撃してくるかもってことも頭に置いておいて、道々話しながらでもおかしな空気がしたらすぐに反応出来るくらいには、自らの身は自分で守る意識は常に持っているので、勿論のこと反撃できる。
「問答無用で斬りかかってくるんだから、問答無用で斬られても。納得できるでしょっ!」
城のこんな近くに山賊とか、ちょっと考えられませんって。
握った刀に着いた血糊を一振りに飛び散らせて一歩踏み込む。
大谷城だってこの山の西の斜面にあるんですよ。
小昼の正面には物分かりの悪そうな男が居て、般若のような顔をして近寄ってくる。
「くくっ、城の兵隊がこの道を使うたーなっ」
二人だけだから、兵隊……つまり大谷への使いだと思ってるのか。
体を低くして、地を蹴り飛び込むように握った刀で賊の懐に入り込み刺突。
賊がなんか言ってる。どーでもいい。
刺さった。それはいい。
足だった。斜面に草を刈ってない獣道で襲われ、その場で戦闘になったのです。
山の斜面に草を刈っただけの獣道のような道。その脇にぽつぽつと切り株もあるけど、そこかしこに枝葉を大きく広げた木がざっとみても数十。
そんな中で襲ってきた。
こっちが二人だったから、って身ぐるみ剥がして盗るもの盗るつもりだったんだよね。刀に気づけなかったのか。気付いてて、特に何の驚異でもないと思ったのか。
小昼は髷は無いけど、お爺さんはしっかり髷あるんだよ?
それでも襲ってきたんだから、自業自得。と諦めて?ってね。
山賊退治も治世の助けとなりますからね。こんな山賊退治は勘弁だけどさ。
普段、賊は城の武士を襲いません。抗う術の無い民衆をその凶刃にかけるのです。
判りきった悪に小昼は躊躇する意識はもってません……斬る。
気づけば二の腕に切り傷を負い、十数ヶ所かすり傷になってて血はあちこち出てますかね。
襲ってきた山賊は十人。声を上げてかかってくるから、反撃で一人をお爺さんが見たこと無い形相で斬り伏せた。
その後は混戦。
チィィィィン──!
鞘走りを響かせながら振り抜き、勢い返す刃をその隣に叩きつける。
ザクシュッ!
そうやって小昼は二人を斬った後、振り返ってもう一人を倒した。どいつが大将!?
斬り伏せた男たちに手応えは無かった。厳しく訓練を受けた武士と素人の山賊では二ランクくらいには技術の差が開いているように感じたんだ。
爺の、吉田孝頼の剣筋の方が重く、迅い。
構えを崩さずに背に大木を背負って右、左と窺う。
視界に捉えたのは、お爺さんが残りの山賊から総攻撃を受けてるとこだった。
──お爺さんの方が倒しやすそうとでも、思っちゃったのかなー?ドンマイ山賊たち。
駆け出す。お爺さんに向かって。
辿り着くまでに、三人ほど賊が果てて転がってた。
走っていく間にも、一人斬りかかったとこをくるりと反転したお爺さんに斬り伏せられるシーンが飛び込んでくる。
……疲れてないとこでこのお爺さんとあの時会ってたら──考えるだけで背筋が凍る。そんな剣筋を見せてくれる。
「姫殿、ご無事でっ!」
お爺さん、こっちに気付いて声をかけながら一閃。
また一人片付けた。
無抵抗な人を相手に斬る能力しかない山賊じゃ、どのみち相手になんないね、流石!
「お爺さん、大丈夫。こいつら猪より弱いもん。それより、流石!年の功です」
振り返って小昼を見留めるそのひげ面した山賊は、迫ってくる小昼の事を鬼でも見たように目を剥いておののいていたのが目に焼き付いた。
駆けてきた勢いそのままに小昼も目の前の一人を斬り捨てて、お爺さんを心の底から褒める。
お爺さんが若かったら、惚れてたかも知れない。
見事な剣術でした。
思わず、ほうと息がこぼれて音を出す。
お爺さんにとって、もっと絶望的な死地を乗り越えて今も生きてるんだ。
修練を重ねた武士を斬って捨て、倒し伏せて、進み歩いてきた修羅の道。
こんなちゃちな山賊なんてものの数じゃあ無かったんだろうね。
「ちっ!」
逃げに転じても生きれないと覚って、それでもまだ山賊は斬りかかってくるんだから、学習能力が低い。
いや──戦国の世だからか。
「ぐ、あはっ」
サシュッ
またそんな山賊がお爺さんの見事な剣捌きの犠牲となって血袋に変わる。
なんか、まるで他人事で時代劇の後半のチャンバラのいちシーンを見てるみたいにバタバタとさ、賊がまた一人倒れて行く。
「山賊か……。こんなののさばらせてるくらい、あなた達が手が回らなかったんだねって思ってるよ」
刀を一振りして血糊をぴっぴっと出来るだけ散らしてから鞘に納める。
頭に回っていたアドレナリンが今緊張が解れて、切れちゃったのかな?
気付けば、肩で息をしていた。……疲れたよ。
「面目も無いことです」
そう言うお爺さん、池宮成秀はまた柔和ないつもの凄みのひとかけらも匂わせない、しわがれた老人の普段の姿に戻って居た。
武人の片鱗を見せたあの形相と卓越した剣術を鞘に納めて。
その場に居た山賊を皆殺しに斬り捨てて、血袋に変えた。そのままにしておくと獣や、血肉を食らう狼がやって来そうだけど、片付けるだけの時間が惜しい。
「着きましたね。金剛童子さんってお寺でしょ」
それから暫く、簡単に布で巻いたり当て布を傷に当てただけで山頂を目指します。刀を振って山賊退治に暴れたので疲れたよ。
もう、歩きたくないです。
「もう山頂ですからなぁ、……ふぅ。そうです。ハー、あれに見えますのが金剛道寺。……ふぅ」
もっと暴れてたお爺さんは、少し体力を消耗し過ぎたのか小昼より遅れてゆっくり一歩一歩着いてきます。
小昼が振り返って、前に向かって指を差し示すのを視界に捉えると、お爺さんが息苦しそうに息切れを交えながらも、小昼ににっこり笑って答えてくれたのでした。
小昼の指差す先には確かにそれっぽい瓦屋根が見え、廻りを囲ってるだろう柵が見えたのです。
取り敢えずの目標。中継地に最初からしていた金剛道寺さんの姿に違いありません。
「少し腰を下ろさせて貰いましょう。にしても、剣の腕。凄かったです」
「年寄りですからなぁ。数えきれぬ数を血に染めてきた数多いる修羅の一人で御座るよ」
そんな、先程の山賊退治の腕前を褒めながら目の前に現れた金剛道寺に足を軽やかに歩を二人して進めるのでした。