烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど!   作:ぴんぽんだっしゅ

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32.争いの後始末

「さあ。どうぞ、このしわがれ首を持っていってくださいな」

 

そんな事言っていい笑顔でにこやかに言われても──困る。

いまのいままで小昼の殺して来た足軽なんかはどれも敵だった。大きな縛りで敵だった。

殺さなきゃ殺られるくらいの空気を漂わせる、もしくはそうでなきゃ、潜在的な敵で小昼の姿を見たら即敵判定して斬りかかってくる。だろうって思って、そう頭で切り替えて。

 

大きく、『敵だから殺らなきゃ』って区切りをつけて殺した。血に染まった。それは今この時も変わらない。

 

現に小昼は手柄首を探して戦場をうろついてたわけなのですよ。

動員人数でいえば敵も味方も合わせて二千ていど。

でも、土佐ではどこも小競り合いを演じてるのが精々で二千を動員する決戦なんて年に何回もあるわけじゃない。

 

年始までに首のひとつもあげてないと、父上の見方も変わってくるかも知れないのですよ。

この首、すぐにも欲しい。喉から手が出るくらいに欲しい。

 

だといって、無抵抗の敵を敵だと言って、斬ってしまえない、そんな割りきりの良さは持ってない。

ましてや、この香宗我部の老身は矢傷と刃傷でボロボロだ。

 

そんなお爺さんが、何故か爺─吉田孝頼と重なる。顔も爺よりふとまってて全然にてない。なのに、どうしてか爺と重なるんです。

 

今すぐにも、覇気を発っして、お覚悟!って斬りかかってくれたら反撃でまだまだ子供な小昼でも楽に止めをさせそうな、そんなお爺さん。

 

「見逃します。投降してください」

 

勿体無い。だけど、跳ねてくれといわれてもあ、はい!となんて首を跳ねることなんて出来ない。知ってますか?首って漫画みたいに簡単にすぱって跳ねてしまえないんですよ。

いや、当たり前だと思うんですけどそうなんですよ。いろいろ条件があって、そうじゃないと大抵の場合、骨で止まります。

 

今の覚悟完了も出来ない小昼じゃ途中で、骨で止まっちゃう。血管を傷つけるだけ傷つけてその先を上手くすぱっと斬る技術が無い。

ぶっ刺して殺し、引き摺って帰ってもokなんでしょうけど、いくらなんでも物欲だけで人を刺せるほど、達観出来てないですよ。

 

通り魔とか絶対許せない質だったんだよね。

強盗じゃあるまいし。

 

逆にそこまで追い込まれた人生あるんならサイコ堕ちして首を量産できるかも知れません、絶対殺せないとは言いません。

 

小昼だって、未練たらたらなのですよ。自らの命を他人の命と天秤に架ける訳には行きませんけど、そうゆうことです。

人間だもの。

 

一思いに振り抜く無の心ですぱっと首を跳ねてあげれないとそれだけ、苦しませてしまうんです。

 

小昼にその覚悟はないですし、先達の達人たちのような振りを極めた一閃なんて出来ませんから。

 

お爺さんには捕虜になって貰ってその分、香宗我部から金なり馬なりを引き出す交渉条件としましょう。

 

「フハハハ!下れと言うか。若輩が。殿の香宗我部は飲まれよう、国親に従って苦渋を飲まされるくらいなれば、この世に未練など無いわ。ハハハハ……」

 

今、お爺さんと小昼は天満宮の廻りの林を入ったとこで合敵しているのです。

辺りは、黒から青に変わって視界もだんだん晴れて朧気にはっきりとしてきています。もう、朝が明けようかという時間なんですね。やっと夜が終わる。

 

「な、そんな事無い。父上だって可愛いとこあるんです。酷いことなんて無いわ、たぶん。貴方にだって残してきた家族があるのでしょう?」

 

お爺さんは丁度良い大きさの石に座って休みを取っていて、そこに小昼が現れたってトコですか。

武器は小昼は刀と小刀。

お爺さんは刀より太い刃の太刀と脇差し。

 

これはまるで、真田幸村と名前は忘れちゃいましたけど手柄首をとった若武者の場面とぴったり重なりませんか。寺と林に転がる石の上とまるで全然違うって思うんですけどね。

でも、小昼には妙にこの老将が真田幸村に見えて変な気分なのです。

 

「ハー、斬りかかってくる敵の家族の心配などせぬでしょう?未練と言えば残してきた孫の大きくなった姿を見れぬことくらい。息子もみな大谷や五十蔵との戦にて務めを全うし、散り申した。今……儂の務めは若い者の手柄に自らの首を差し出す事くらい」

 

長く話しました。最後だから、人生を全て吐き出そうとでもいうんですか。お爺さん、朝になっちゃいますよ。

あーこの空気、微妙よね。

斬る気失せたわ。最初から無かった?んなこと無いよ、父上を納得させる将の首が欲しくて探してたの。ホントだよ?

 

「生きよう!可愛い孫がいるなら。未練あるじゃない!」

 

「香宗我部には、この身を返す銭は御座らぬ。秋には証文の取り立てに首が回らなくなりましょう。帰るに負担となるくらいなら──侍さんなら判るのでないかな?」

 

言い合いになってるだけで進展が無いのです。小昼がしっかりしてないから斬って終わりにしてあげれない。……実際、首より人質と馬を交換してもらった方が今の我が家には利益あるんですよ、証文も馬を担保にしてまだまだ引き延ばせるはずなのです。

爺からそう聞いてます。

 

農耕馬と軍馬は育て方から違うので大きく価値も上がりますしね。質代えは軍馬を求めます、農耕馬は駄馬とも言い、軍馬との価値は全く違っていますから、駄馬を渡されたら条件違えたと人質は返せません。

なんて、駄馬が決して悪いとは言いませんよ?

山ばかりのここ土佐では山を荷を載せて登り下りするような用途なら、駄馬が断然便利だと教わりました。

 

土佐馬は高い山に登って戦うにはぴったりだったのです。

山の上で戦う、って余り想像できませんけどね。

……野戦しかまだ経験なかったりするんです。

猪相手になら山を駆け回って仕留めたこともしょっちゅうなんですけど。

 

後はそうね狼退治なんかもありましたね。

 

「では、香宗我部が無くなれば人質の価値はなくなりませんか?投降しても帰る場所が無いと言うなら、我が家が乗っ取れば良い。実力で臣下に取り立てることだってありますよ。どうですか?」

 

「南無三。武士として、死なせてはくれませぬと言うのか……老いぼれを笑い者にすると言うのか!」

 

「もー!めんどい人だなっ!こっちだって疲れてるの!もう休ませてよ。天満宮まで歩いてください!」

 

「意気地なしか。では、儂がやろう」

 

「大人しくしててね!」

 

蹴っ飛ばした。転ばせて太刀と小刀というお爺さんの武器を奪い天満宮に連行する。

結局、このお爺さん、首に換えることは出来なかったのです。

 

その後、着いてみると天満宮には入りきらない数の人で犇めいている。降服した細川兵もなかなかな数が居たってことを今さら知った。

細川の領民だって、こんな巻き添えみたいな戦で死にたくはなかったんじゃないかな?

細川の土地を、自分達の棲みかを守る戦ならこの人たちだって長宗我部に最後の一噛みに至るまで戦ったんだ、たぶん。

 

一方、ボロ負けした形になった香宗我部の兵はと言うと、側面を強襲されて対処出来ずに巻き添えを食らった将官が出たとか、兵が逃げ出したため戦にならなかったとか、で。

香宗我部秀通を筆頭に武将格がずらっと捕虜になったんだ。そうらしい。

 

こちらは、香宗我部から軍馬10頭と香美郡の全ての城と一帯の領地と引き換えに命は取らないと決まった。

それと引き換えと言うと大きすぎるんだけど、父上は矢傷が酷い事になった。

戦最中はアドレナリン出っぱなしで痛みを感じてなかったんだね、たぶんね。

 

父上がぐったりしたのは戦が終わった後だって話だから、はりつめた緊張の糸が解れちゃったんで急に痛みがやってきたように思ったんじゃないかな?

 

何にしても、論功行賞の場に父上は姿が無かったのです。

天満宮前での沙汰は着々と進んでいき、父上から後を任された爺がつらつらと読み上げていく。

 

「──香宗我部は城代を置き、統治は長宗我部主導で行う旨認められたし。尚城代には長宗我部元親を任じる。秦一門元親の補任として吉田孝頼を着け、香宗我部を内より建て直すものである」

 

ん?聞き間違え、かな……。城代を元親。にーさま、じゃない!

 

元親って小昼の事だよね!

 

あれれ?おっかしいぞー?

 

本人知らないところで、城持ちの領主にされてましたよ。爺と目が合う。

 

とても良い笑顔で微笑みを返されました。こちらは絶望の眼差しだったと思うんですが、小昼……喜んでる風に思われちゃった?

 

いや、違うから。爺、岡豊離れることになるんだよ?一緒に香宗我部に飛ばされるんだよ?左遷だよ!

 

立派になりましたなぁ──なんて、考えてる空気をビンビンにカンジますけど、そうじゃない。そうじゃないんだよ、爺。

 

小昼は、城なんて、いらない!土地も要らない!

 

こーゆー些事は大物家臣が就くものじゃないの?

小昼なんて、まだまだ経験値を稼ぎ始めた……内政に手を着け始めたところなのに!ガチガチに内政をして、安全を確保してから、一領具足の用兵力で他勢力を圧倒するのが長宗我部の生き方じゃないですか!

 

──少なくとも、ゲームじゃそうだったんですよ。一領具足もまだゲットしてないのに、先の段階に進まれても困るんですって。

ちなみに一領具足とゆーのは、半農半士政策とでもゆーのでしょうか。農業の傍ら、軍の訓練を受け、戦時は一揃えの武具を携えて戦場に駆け付ける、サラリーマンする傍ら訓練を受ける自衛隊の予備役みたいな制度ですかね。これで何が言いたいかは判って貰えると、思うんです。伝わったと思うんです。そんな、素敵な兵士育生プログラムが花開くにはまだ、少し早い……今の時期に、小昼を手放すんですか?岡豊ではまだまだ建築ラッシュが終わったわけでもない、こんな時に……小昼は、旅立つ事になりました。

詳細図と設計図があれば、用無しですか?

ともかく、切り替えていかないとダメなのですよ。

 

今はしゃきっとしないと!

ぺちん、と両手で頬を叩いて気合いを入れました。ちょっと強かったですかね、痛かったですよ……

 

香宗我部に旅立ちます。

って言っても……物部川さえ越えちゃえば半日掛からない位置所なんですよね……やっかいなのは、すぐ氾濫してくれやがる物部川なのです。

 

いろいろ言いたいことはあるけど、とうとう小昼は一国一城の城主にさせられちゃいましたよ。




ここまで読んでくれてありがとうございます!

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