かなめさん、ぺぺさん、感想ありがとうございます!
銀刺さん、誤字報告ありがとうございます!
報告会から数週間が経ち、中間テストまでのこり1週間となった。クラスのほとんどが、その一週間のうち最初の5日間を難易度の高い問題を解くのに使い、残りの2日で基礎の確認といったところだろう。しかも今までとは比べ物にならない程ピリピリとした空気が漂っている。最初のテストということもあり、皆もここで躓くわけにはいかないのだろう。
だがそんな空気の中、事件は起こってしまった。
HRの時間に今後のクラス方針を先に統一してしまおうという話になったのだ。このタイミングで決める意図としては、テスト終了後にはまた動き出すクラスがあってもおかしくなく、いざとなったときに方針が中途半端だと、付け入られてしまう可能性があるからだ。
Aクラスは他のクラスと違い、勢力が2つに分かれてしまっている。それが未だに方針が決まっていない理由でもある。主に坂柳さんと葛城さんの意見の対立によるものだが......。
今まではクラスで何かを行うたびにお互いに妥協し合いながら決めていたが、今回ばかりはそうはいかない。テスト終了後、ポイントを稼ぐために必ずどこかのクラスが大きな動きを見せる。それに対する我がクラスの行動として何をするのかが議題として挙がった。
葛城さんは傍観を提案する一方、坂柳さんは他クラス間の衝突に便乗して潰すということを提案する。守りと攻め。明らかに正反対のこの意見は今まで無く、内容的に妥協案で片づけられるものでもない。
さらにお互いに引くつもりも無いらしく、このままではまず決まらない。
双方のクラスメイトも、お互いのリーダーを下げさせるような事を言わないためこのままでは本当に埒が明かない。
HRの時間がもうほとんど残っていない中、坂柳さんがある提案を口にする。
「では、こういうのはどうでしょう? 次の中間テスト、私達と葛城さん達で平均点を競い、より高い方の案を採用する。」
クラスの仲で少しざわめきが起こる。Aクラス内での点数の分布は恐ろしいほどに集中している。ということは、一つのミスでも命取りとなるということだ。
さらに、クラスの人数は30人。だが実際に坂柳さんと葛城さんに付いている人数は双方10人ずつ。残りの10人は中立である。よって10人での平均点となり、先ほど言ったミスがどれほど重いものなのか分かるだろう。その証拠に、俺達坂柳派も苦い顔をしている。
「分かりました。それでいきましょう。」
「次の中間テスト、楽しみですね。」
そこで授業終了のチャイムが鳴り、今まで張り巡らされていた殺気が落ち着く。
丁度最後の授業だったため、それぞれが支度をして帰っていく。
俺たちもいつも通り、坂柳さんや神室さん、森重たちらと共に下校した。
その道中、俺たちの間ではいつもよりも空気が重かった。
「なあ槙野。」
「どうした森重。」
今俺は、突然俺の部屋を訪ねてきた森重と今日のことについて話していた。
「次の中間テスト、勝てると思うか?」
「お前にしては随分弱気だな。」
「そんなこと言ったってよ......DやCクラスで内でテストの点数競うんならまだやりやすいけど、俺たちAクラスじゃもう運勝負じゃねえか? 坂柳が何を確信してそんなことを言ったのか、全然分かんねぇよ。」
「奇遇だな。俺も坂柳さんの意図が読めない。」
「珍しいな。槙野って結構坂柳と一緒に行動してるから、今回の事も何か伝えられてんじゃないかと思ってたよ。」
森重の意外そうな表情に、俺は恒例のため息をつく。
「あのな森重。ほとんどパシリだかんな? しかも断れば杖で殴られるし......。」
「まあ、ある程度は坂柳にも補助が必要だけど、お前も大変だな。」
「同情すんなら代わってくれ」
「槙野.........犠牲は最小限に留めるべきだ。」
それから一週間が経ち、テスト当日を迎えた俺たちは、普段なら感じない程の異様な空気を感じながらも全てのテストを終えた。
後は結果を待つだけとなった。
「退屈ですね。」
「.........。」
「本当に退屈です。」
「.........。」
「何か言いたいことはありますか?」
「すみませんでした......。」
俺と神室さんは今、膝を折り曲げ、両手とでこを床に付けていた。俗に言う土下座である。なぜこんなことになっているかは、もうほぼほぼ予想が付くだろう。
俺たち坂柳グループは、葛城さん達のグループとの平均点勝負で負けた。
それぞれの平均点自体はほとんど差は無く、勝敗を分けたのはたった一人の点数。
つまり戦犯は俺である。
元々Aクラスの仲でも高い方ではなかったが、何とかなるだろうと思っていたのだが、いざ蓋を開けてみると俺以外の坂柳さんグループの生徒は全員が全てにおいて90点以上。それでも90点というのは低い方で、ほとんどが95点前後。俺に至っては80前半の科目があったりした。
「別に優璃さんを責めてるわけではないんですよ? 私たちももう少し点数を上げれたはずですので。それに優璃さんには監視カメラの映像確認も行ってもらっていました。この結果は必然です。なのでそこまで気を落とす必要はありませんよ? なので顔を上げてください。」
要約すると、映像確認ごときで点数に影響するとは思っていなかったけど、そこまで期待はしていなかった。ということだ。
しかも坂柳さんは全ての科目で100点を取っているので、なおのこと心が痛い。
口では許すと言っているが、醸し出す雰囲気には殺意が込められていた。
その証拠に顔を上げろと言われても、俺の頭は杖で押さえつけられているので上がらない。
許してもらえる気がしない......。
「災難だったね槙野。」
「生きた心地がしねぇ......。」
「しょうがないよ。監視カメラの件は絶対に中断できないし、もし私がそれやったとしても、絶対点数下がって結局負けてたと思うし。」
「真澄さん優しいな......。」
「ま、その気持ちは素直に受け取ってや......さらっと名前で呼ぶな!」
何とか坂柳さんの静かな怒りを収めた俺の元に、神室さんがやって来て励ましてくれる。
今の俺には大変ありがたいことである。坂柳さんによって粉々にされた心が、再び集まって形を形成していくのを感じる。
「それにしても、坂柳があそこまで落ち込むとは予想外だった。切り替えとか直ぐに出来ると思ってたよ。」
「ま、あの人も女の子だってことだよ。平静に装うとしても、不満は隠しきれないものだ。」
「ふふっ、確かにそうかも。でも、後で挽回しないと......。」
「それは分かってるって……。坂柳さんの顔に泥を塗ったんだからな。早いうちに今回の事を帳消しにして、さらにお釣りも来るような事をするさ。」
「それは楽しみね。」
俺を励まし終えた神室さんは自分の部屋へと戻っていった。
その直後、坂柳さんから外食の出頭命令のメールが来た。今すぐ来いということなので、勿論秒で支度を済ませ、その後の飯代も何のためらいも無く彼女の分まで払ったのだった。
次回から夏の特別試験編です!