IS×とある   作:まるっぷ

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ここまでが書き溜めた分です。

以降は投稿までに時間がかかると思います。


第四話

時は過ぎ、放課後。

 

一夏を始めとする一年生の専用機持ちたちは食堂に集まって雑談をしていた。

 

この時間帯は授業終わりと言う事もあり多くの生徒がおり、やれこのメーカーのISスーツはイケてるだの、やれここのデザートはカロリーが高いだの、思い思いの話題で話し合っている。

 

しかし本日、生徒たちの話題はある一点に注がれていた。そしてそれは一夏たちも例外では無く……。

 

「へぇ、それじゃあ千冬さんの代わりにやって来たその先生たちって学園都市の人なんだ」

 

「うん。それでね、そのリュドミラ先生は座学担当だったんだけど、教えるのがすっごく上手なんだ」

 

「確かに、リュドミラ先生の授業は分かり易かったって、クラスの子たちも言ってた」

 

「あら、簪さんはもうリュドミラ先生の授業を受けましたの?」

 

「うん。今日の3限目に」

 

鈴と簪は組が異なるので今朝の段階では二人の存在を知らなかったが、その後いくつかのクラスでは既にリュドミラは授業を行っていたらしい。その評判は中々に上々で、加えてあの容姿の影響もあってか彼女の存在は学園中に広まっていた。

 

一方の黄泉川はと言うと本日は実技の授業は無かったので、あまり話題には上がらなかった(麻耶との関係に興味があった生徒たちの間では大人気だったが)。

 

「あ、そう言えば明日は朝から黄泉川先生の授業があったな」

 

「確か元代表候補生との事だったか?と言う事は山田先生と同等の実力を持っているという事か」

 

「もしかしたらそれ以上かも知れんぞ。何しろ学園都市ではアンチスキルとしても活躍していたらしいからな」

 

「アンチスキル?」

 

ラウラの口にした聞き慣れない単語に疑問の表情を浮かべる鈴。そこにすかさず簪がフォローを入れる。

 

「学園都市で犯罪を犯した能力者たちを取り締まる、教師で構成された組織の事だよ」

 

「へぇ、そんな組織があるんだ」

 

「超能力を使った犯罪ですか、そう聞くと何やら物騒ですわね」

 

「アンチスキルか……」

 

何でも学園都市には犯罪に手を染めた能力者に対抗する手段として、教師陣で構成されたアンチスキルと言う組織があるらしい。

 

能力者の力は千差万別だが、それでも何の特殊能力も持たない者が対抗するのは至難の業だ。そんな事をしている黄泉川と言う人物はやはりすごい人物なんだろうな。と一夏はふと思った。

 

「何じゃん、私の事で随分と盛り上がってる様子じゃん?」

 

と、話に花を咲かせていた一夏たちの前に、件の人物が現れた。服装は朝に見た時と変わらず緑色のジャージ姿で、如何にも体育教師といった空気をかもし出していた。

 

「よ、黄泉川先生!?」

 

「どうしてここに……?」

 

「いや、ちょっと息抜きがてら校内を散歩してたらちょうどお前たちの話が聞こえてきたからな、せっかくだし生徒と親睦を深めておこうと思っただけじゃん」

 

言うが早いが一夏たちが座っているソファの一角に腰かける黄泉川。その場所はラウラの座っている隣の場所で、黄泉川は非常に親しげに(あるいは図々しく)ラウラの肩に腕を回した。

 

二人の身長差ゆえ黄泉川のその爆乳はラウラの顔のすぐ横に迫っており、ラウラは何とか逃げようとするも肩に回された黄泉川の腕はラウラの逃亡を許しはしなかった。

 

(シ、シャルロットっ!メーデー、た、助けてくれっ!?)

 

(ごめんラウラ……僕、この人にはどうしたって敵いそうにないよ)

 

顔を引きつらせてシャルロットに助けを求めるラウラだが、その肝心のシャルロットは申し訳なさそうな笑顔で親友の助けをやんわりと断った。

 

絶望に染まるラウラとそれに申し訳なさげな笑顔で応えるシャルロット、そしてその様子を苦笑いで見ている一夏たち。中々話しづらい雰囲気にも関わらず、その空間を作り上げた本人は実に楽しそうに話し始める。

 

「IS学園かぁ~。いやぁまさか学園都市の教師になってからこの学園の臨時教師になるなんて夢にも思ってなかったじゃん!本当、人生は何が起こるか分からないじゃん、はっはっは!」

 

黄泉川はそう言ってラウラを自分の方向に引き寄せた。その結果、当然の如くラウラの顔面は黄泉川の胸に埋まってしまう。

 

むぐぅむぐぐぅ!?とラウラは手足をばたつかせて脱出を試みるも、その行為は空しく失敗に終わってしまう。こんな形で窒息させられる事など軍にいた頃も無かったので、対処法も分からないままに時間だけが無為に過ぎてゆく。

 

「あ、あの!黄泉川先生は学園都市で教師をなされていたのですわよね?でしたら、やはり能力者などもたくさんいたのですか?」

 

ラウラを窒息死させない為にもセシリアは勇気をもって黄泉川に話題を振ってみる。それに気が付いた黄泉川は抱き寄せていたラウラを解放してセシリアの方に向き直る。

 

「おう!まぁ私のいた学校には能力者はいなかったんだが、常盤台中学校や長点上機学園なんかには能力者はたくさんいるじゃん。特に常盤台は全生徒がレベル3以上の能力者だ」

 

「あの……その、レベルと言うのは一体……」

 

黄泉川の説明に出てきた『レベル』と言う単語が良く分からずに質問を重ねる簪。

 

「あー、外の人間はあんまりそこら辺は分からないか。レベルってのは、まぁ強さの度合いみたいなもんじゃん。レベル0からレベル5まであって、このレベル5ってのは学園都市にも七人しかいない超能力者って言われてるじゃん」

 

まぁ私にとってはみんなかわいい子供みたいなもんだけどな、と笑う黄泉川。

 

「その、黄泉川先生は学園都市ではアンチスキルという組織に属していると聞いたんですが、怖くはないのですか?私は超能力と使った犯罪など、ひどく物騒なものだと思いまして」

 

「ふむ……」

 

セシリアの質問に黄泉川はあごに手をあてて考え込む素振りを見せる。少しの間を置いてセシリアに向き直ると、黄泉川は唐突にこう質問した。

 

「お前は能力者の事を怖いと思ってるじゃん?」

 

「はい。単身で武装しているようなものですので」

 

「それじゃあちょっと聞くが、お前は友達がISを使った犯罪を起こしたらどう思うじゃん?」

 

「なっ……!?」

 

その質問にその場にいた全員が驚いた。まさかそんな質問が来るとは思いもしなかったからだ。なまじISを用いた犯罪に直面した経験があるので、自分の仲間が犯罪者の側に立たされる事など想像したことすらなかった。

 

「ありえませんわ、そんなこと!!」

 

よってこの反応ももっともである。自分の大切な仲間が犯罪者になったら?などという質問はセシリアにとって、仲間を侮辱されたことも同然である。

 

「そうとも。お前たちが犯罪に手を染めるとは私だって思ってないじゃん。だが、世間の皆までそう思っているとは限らない」

 

セシリアはハッと目を見開いた。構わずに黄泉川は更に続ける。

 

「学園都市の生徒には特別な能力を持つ奴もいる。そういった世間一般から外れた力が犯罪に使われたら誰だって怖いと思う、それは当たり前じゃん。でもそれを持つのはお前たちと何も変わらないただの学生だ。学園都市にいる人間だって、ISが犯罪に使われたら怖いって思うのは当たり前だと思わないか?」

 

「で、でも現に学園都市では超能力を使った犯罪が!」

 

「残念ながら事実じゃん、けど犯罪を起こした奴らにもそれなりの理由があるじゃん。決して擁護する訳じゃないが、成績の伸び悩み、人間関係の問題、いじめ、劣等感……そういう感情があいつらを犯罪の道に引き込みやすくしてしまうじゃん」

 

「……」

 

誰も、何も言えなかった。

 

思春期特有のそう言った感情は、時に正常な思考能力すら奪ってしまう。一度暴走した経験があるラウラなどは、特に真剣に黄泉川の話を聞いていた。

 

「ま、私が言いたいのはつまり、学力だの成績だのに関係なく心を通わせられる友達を作れって事じゃん!何かあったら相談できる、支えられる。そういう友達を作るのは学業なんかよりもよっぽど大切な事じゃん!」

 

そう言って、隣にいるラウラの肩を強く叩く黄泉川。軍人でもあるラウラからしてみれば何てことない衝撃だったが、何故かそれ以上に重く感じた。

 

「それじゃあ若者たち!青春を謳歌するじゃん!!」

 

はっはっは!!と高笑いしながら食堂を後にする黄泉川の後ろ姿を、一夏たちはただ茫然と見ている事しか出来なかった。

 

「……敵いませんわね」

 

ポツリ、とセシリアが呟いた。その呟きに反応し、一夏たちも彼女の方に向き直る。

 

「わたくしが愚かでしたわ。超能力が使える、それだけで、まるで武装した乱暴者のように扱ってしまうなんて……」

 

「セシリア……」

 

自らの浅はかさを突き付けられて項垂れるセシリアに、箒が気遣うように声を掛ける。他の皆も何を言って良いか分からず、口をつぐんでいる

 

この空気を変えようとした一夏はグッと拳を握り、勢いよく立ち上がる。

 

「よし!皆、放課後にISの訓練しようぜ!」

 

「い、一夏?」

 

「急にどうしたの?」

 

いきなり立ち上がった一夏に動揺する鈴とシャルロット。しかし一夏は満面の笑みを持って、彼女達に宣言する。

 

「大丈夫だって!皆が犯罪に手を染めるようなヤツじゃないってのは、俺がよく知ってる!もしも道を踏み外したとしても、俺が引っ張り上げてやる!!」

 

一夏のその笑顔に、箒たちは一斉に顔を赤らめる。揃って顔を伏せた彼女たちに困惑した一夏であったが、その混乱も他の女子生徒たちの追及に飲み込まれてしまう。

 

「あー!?一夏君ったらまた女の子誑かしてるー!?」

 

「ずっるーい!あたしたちも仲間にいれてよぉ!!」

 

「おりむーったらスケコマシー」

 

「ちょ、待っ!?誤解だぁぁあああああああ!?」

 

一夏渾身の叫びではあったものの、彼の悲鳴はIS学園の食堂に空しく木霊するだけ。箒たちは今や生ける石像となるばかりで、彼の誤解を解く者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「オイ、ここがIS学園で間違いねぇか?」

 

『うん、間違いないよ。今君が立っている場所こそがIS学園敷地内、そして目の前に見える建物こそIS学園校舎だ』

 

「そうか。なら人払いのルーンの準備に取り掛かる。テメェは頃合いになったら知らせろ」

 

『おっけー。俺も時間になったらそっちに行くからさ、後で合流しようよ』

 

「なに仲良し子好しみてぇな事言ってやがる。キメェんだよ」

 

『わーぉ辛辣。それじゃあ俺はもう切るね』

 

ブヅンッ、と無線の切れる音がした。

 

場所はIS学園敷地内にある森林内。自然溢れるこの空間に似つかわしくない電子音を響かせた人物は、手にした黄金色(・・・)の槍を肩に担ぎ、かったるそうに歩きだす。

 

耳に嵌められた無線機をいじりつつ、Tシャツにジーパン姿のその人物は口の端を邪悪に歪ませながら声を発した。

 

「さぁて。今からテメェの最愛をぶっ壊しに行ってやるよ……織斑千冬ぅ」

 


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