IS×とある   作:まるっぷ

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とりあえず、過去に書いていた分を載せます。


第三話

IS学園から離れた場所にある街中のカフェテリアのオープンテラスに一組の男女がいた。

 

男は金髪にサングラス、服装はアロハシャツに金のネックレスと言う、如何にもアレな格好をしている。

 

一方の女の方は水色の髪をしていたが、その格好は白を基調とした清潔感のある制服で、世間一般的にはそれがIS学園の制服であると広く知られている。

 

雰囲気からはこの二人は正反対のように見えるが、見る者から見れば、この二人が良く似た空気を纏っていることに気が付くだろう。

 

女はミルクと砂糖がたっぷり入った甘いコーヒーを、男は苦味の強いブラックコーヒーを飲みながら、久しぶりの再会に軽い談笑をしていた。

 

「久しぶりねぇ元春くん。最近はあんまり連絡くれないから、お姉さん心配しちゃったわ」

 

「こっちも色々あるのさ。そんなにちょくちょく連絡は出来ねぇよ」

 

「むぅ。女の子が心配してるって言ってるのに、その態度は無いんじゃないのかな?」

 

「はいはい、悪かったよ更識」

 

更識と呼ばれた女の不平を軽く受け流した男の名前は土御門元春という。学園都市と魔術サイドを行き来する多重スパイであり、魔術師でもある。

 

女の方は更識楯無という。裏の人間なら知らぬ者はいないと言われる、更識家の現当主でありISのロシア代表でもある。

 

同じ暗部ではあるが、本来住む場所の違う二人がなぜこうして顔を合わせているのか?その理由は男の方から切り出された。

 

「さて。そろそろ本題に入らせてもらうぞ、更識。雑談しにわざわざここまで来た訳じゃ無いんだしな」

 

「ええ。残念だけどお仕事の話に切り替えましょうか」

 

楯無は残念そうにため息を吐いたが、気を引き締め直し、顔をあげて土御門を見る。

 

「それで?私と直に話したいって聞いて来たんだけど、どんな内容なの?」

 

楯無がそう言うのを確認した土御門はコーヒーを一口飲み、足元のスーツケースからタブレットを取り出して楯無に見せる。画面には英語で書かれた資料が映し出されており、楯無はそれがISのコア紛失に関する資料だと分かった。

 

「三日前、アメリカの極秘軍事施設からISのコアが強奪された。数は現場にあった二つとも。お前も耳にはしているだろう?」

 

「それどころか、こっちでも今調べてる案件よ。なんで貴方が知ってるの?これはアメリカの一部の人間と、私たち更識家だけしか知らないはずなんだけど……」

 

「学園都市のトップは世界中に監視の目を向けているからな。何かあれば、たとえそれが世界の裏側だってリアルタイムで分かっちまう」

 

学園都市の相変わらずの常識外れっぷりに呆れる楯無。それを尻目に土御門は淡々と説明していく。

 

「今のところ、まだこの事件は世間には流れていない。だがアメリカ合衆国大統領ロベルト・カッツェや、メディア王オーレイ・ブルーシェイクは既に感付いているようだ。こうなっちまうと世間に露見するのはもう時間の問題だな」

 

「アメリカの軍上層部もてんてこ舞いね。コアを奪われた挙句、隠し持っていた事もばれてしまうかも知れないし。まあ自業自得だから仕方ないんだけれど」

 

ISのコアは各国で保有数に制限があり、それはアラスカ条約において厳格に定められている。もしも隠し持っていることが判明すれば、他国から経済制裁されかねない事態に陥ることとなる。

 

よってそのようなことは今まで無かったのだが、軍上層部の欲が出たのか、今回のような事態が起こってしまった。

 

「でもこの事件がどうかしたの?確かに一大事だけど、別にあなたが出てくるようなことでも無いわよね?」

 

「ところがそうでも無いんだ。これを見てくれ」

 

そういって土御門はタブレットの衙門を指でスライドさせ、次の画面に切り替えた。そこに映っていたのは周囲を深い森に覆われた建物であった。しかしそれは無残に破壊されており、辛うじて原型が残っているだけの瓦礫の山となっている。

 

「南米のとあるジャングルの写真だ。この建物は第一次世界大戦時にどこぞの軍によって建てられた旧軍事施設、ちょっと前まではただの廃墟だったようだがな」

 

「廃墟だった(・・・)?」

 

「ああ。実はここ、さっきのコア強奪グループの拠点だったらしい」

 

「えぇ!?」

 

ガタンッ!と音を鳴らして立ち上がった楯無。彼女の突然の行動に、周りの一般客が何かあったのかと不審な目を向ける。それに気付き慌てて座りなおす楯無だったが、土御門は呆れた視線を彼女に向けた。

 

「……お前、更識家の当主だろ。もうちょっとそれっぽく振る舞えないのか?」

 

「あ、あはは。ちょっと動揺しちゃって……」

 

呆れる土御門を笑って誤魔化す楯無。土御門はやれやれと言ったふうに首を振り、再び話を続ける。

 

「話を再開するぞ。この建物はその強奪グループの拠点だった。と言っても最初からこんなふうに壊されていた訳じゃあない。その証拠に中にはコアは無く、あるのは犯人達の死体だけだった。何か鋭利なもので惨殺された、な」

 

「死体?という事はコアを狙った別のグループにばれて、全員殺されたってことなのかしら」

 

「その線は薄いだろうな、死体は犯人達のものしか無かった。アクション映画じゃあるまいし、襲った奴がどんなに手練れだろうが、武装した奴らを相手に一人も死人を出さずに制圧するのは難しい。それに現場に散らばっていた薬きょうは、すべて犯人達の持っていた銃のものと一致した」

 

「じゃあ、襲った奴らは銃を使わずにナイフか何かで殺していったってこと?それこそ映画みたいじゃない」

 

「ああ、その通り。襲った奴がただの(・・・)傭兵や軍人ならな」

 

土御門のその発言に、楯無はある結論に達する。しかしそれはあまりに馬鹿げている。なぜなら……。

 

「魔術師が犯人、だって言いたいの?」

 

魔術師。

 

科学の栄えた現代においてそんなものを信じていると言われればまず笑われるだろうが、魔術は確かに存在する。

 

呪文を唱えて掌から炎を出したり、水を意のままに操ったりといった学園都市の超能力に酷似したものもあれば、御使堕し(エンゼルフォール)連合の意義(ユニオンジャック)といった、超能力では説明のつかない大規模術式なんてものもある。

 

しかし、本来魔術は道具の質よりも儀式の手順といった方を重視する。よってISのコアなんて大層なものを狙うメリットはあまり考えにくい。そもそもISのコアなんて手の込んだものを使う魔術的儀式は、楯無には考え付かなかった。

 

「現場の死体を見る限り、その線が濃厚だろうな。もちろん何処かのグループが、学園都市並みの武装で固めて強奪したって可能性もあるがな」

 

「むしろそっちの可能性の方が高い気もするけど……」

 

「これを見てくれ」

 

未だ魔術師が絡んでいることが納得できない楯無に、土御門はさらにタブレットの画面をスライドさせ、新たな画像を見せる。

 

それはこの旧軍事施設内にあった監視カメラの映像らしく、解像度はあまり高くはないが、女性らしき人物が映っているのが見て取れる。

 

女性の格好はジーパンにTシャツといった簡素なもので、銃を持った軍服だらけのこの施設には似つかわしくない格好だった。

 

「俺の読みではこの女が施設を襲った魔術師だと睨んでいる。何の目的があってこんな事をしたのかは不明だが、とりあえず警戒しておいて損は無いだろう」

 

「まあ、元春くんの言ったことが全て本当だとして、なんでそれを私に教えたのかしら?貴方は学園都市側の人間。私はどちらかと言えばIS側の人間ね。お互いに属する世界が違うのに、わざわざ教えるメリットは無いでしょう」

 

「そう考えるのが普通だろうな。確かに学園都市の一部でもISの研究は行われているが、あまり積極的ではない。学園都市には関係の無いような事件に見えるのも無理も無い」

 

土御門はそう言ってコーヒーに手をやる。すでに温くなりかけているそれを一口すすり、再び口を開いた。

 

「だが、俺たちはあくまで暗部の人間だ。上の命令には疑問を持つ前にまず行動する、それが大原則ってもんだ。違うか?」

 

「……」

 

つまりは余計な詮索はせずに素直に情報を受け取れ、という事だ。土御門自身、特に何も言われず上からこの情報を楯無に渡せと命令されて来たのだろう。

 

「分かったわよ。ひとまずは貴方からの、もとい学園都市からの情報を聞いてあげる。さ、続きをどうぞ」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

諦めたように話の続きをうながす楯無に、土御門はにやりとしながら続きを話す。

 

「上の読みでは、こいつはISのコアを狙っている。そしておそらく次に狙われるのは、おそらくIS学園だろうとのことだ。正確にはIS学園地下特別区画内に不法所持している未登録のコアをな」

 

「!!」

 

楯無は驚愕した。

 

施設を襲った犯人はコアが目的である事は、先程の土御門の説明から想像はつく。驚いたのはそこではなく、IS学園がコアを不法に隠し持っていた事だ。楯無は自分が自意識過剰という訳ではないが、そんな大事なことを隠されるほど信用が薄いとは思ってもみなかった。

 

恐らくコアの存在を知っているのは、織斑千冬と彼女の側近のような位置にいる山田麻耶、そしてIS学園の事実上の運営者である轡木十蔵だけであろう。さらに考えるなら、楯無に意図的に知らせなかったもの、あの老人の指示によるものと考えられる。

 

「あの狸爺……そんな重要なことを黙っていたなんて。山田先生には知らせてなんで私には知らされてなかったのよ」

 

「恐らくその山田とか言う教師は、ただ織斑千冬から口止めされていただけだろうな。こんな重要な事にただの教師を深く関与させるほどあの老人も、織斑千冬もバカじゃない」

 

「それはそうだろうけど……って、元春くんはなんで知ってるのよ!?さっきの話だと、その三人しか知らないはずじゃ……!」

 

思案顔から一転、土御門に詰め寄る楯無。その剣幕に押されながらも。土御門は理由を説明する。

 

「そ、そう噛み付くな!さっき言っただろう、世界中に監視の目を向けているとな。その気になればIS学園だろうがホワイトハウスだろうが、どこからでも情報を引き出せる」

 

土御門からそう説明を受けた楯無は、改めて学園都市の馬鹿げた科学力に呆れ果てた。どうやらまともに相手にするだけ労力の無駄だと分かったらしい。

 

楯無はため息を一つ吐き、コーヒーを飲みながら土御門に自分の考えを述べる。

 

「つまりはこういう事?IS学園内にある未登録のコアが狙われている、そしてそれを教えてくれた元春くんは私と一緒に戦ってくれる……上の命令付きっていうのが気に入らないけど」

 

「俺がいなくてもお前ひとりで何とかなるだろう」

 

「ええ。でも仲間がいるってだけでモチベは変わってくるわよ?」

 

そういって楯無は椅子から腰を上げ、土御門に小型の電子端末を渡す。

 

「持ってて。何かあったらすぐ連絡を取り合えるように」

 

「……」

 

土御門はそれを無言で受け取り、無造作に胸ポケットに押し込んだ。その動作を確認した楯無は満足げに頷き、最後の一口となったコーヒーを飲み干して席を立つ。

 

「ふふ。まるであの時みたいね、元春くん♪」

 

楯無は去り際にそう言い残し、IS学園へと帰って行った。小さくなっていく楯無の後ろ姿を見ながら、土御門は大して飲んでもいないのに冷めてしまったコーヒーを手にし、一気に煽る。

 

冷めてなお心地よい苦味が体に沁みていくのが分かる。しかし、それとは裏腹に土御門の表情は冴えなかった。

 

「……悪いな、刀奈」

 

土御門は胸ポケット越しに電子端末を軽く握り、小さく呟いた。

 

本人の前では決して口にしない彼女の本名は誰にも聞こえる事は無く、人で溢れる街中の喧騒に掻き消えて行った。

 


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