IS×とある   作:まるっぷ

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とりあえず、過去に書いていた分を載せます。


第二話

 

第三次世界大戦が終結して早二週間が経過した11月13日の朝、世界初の男性IS操縦者こと織斑一夏はIS学園内の食堂にいた。今朝はたまたま早起きしたために食堂に来てみたが、やはり早朝という事もあり生徒の数はまばらだった。

 

一夏は食堂の自販機で買ったお茶を飲みながら、食堂内に取り付けられた大型テレビに視線を向ける。流れているのは情報番組のバラエティコーナーで、いかにもアイドルですと言った風貌の男性が笑顔を振りまきながら女性アナウンサーと談笑していた。

 

「はい、ありがとうございました!今日のゲストはアイドルの一一一(ひとついはじめ)さんでした、それではスタジオにお返ししま~す!」

 

しばらくぼうっと見ているとこのコーナーが終わったらしく、切り替わった画面には中年の男性キャスターが映っており、今朝のニュースを伝えていた。

 

「――――では続いてのニュースです。第三次世界大戦終結から今日でちょうど二週間が経過しましたが、主な戦場となったロシアでは連日の激しい吹雪の影響で復旧の目途が立たず、未だ墜落した戦闘ヘリなどの残骸が多く残っている状況です。現地メディアの情報によりますと――――」

 

淡々と原稿を読み上げるキャスターを見ながら、一夏は改めて感じた。

 

(本当にあったんだな、第三次世界大戦なんて)

 

第三次世界大戦。

 

10月18日にロシア大統領ソールジエ・I・クライコニフが学園都市に宣戦布告をしたために起こった、ロシアと学園都市との間での戦争。一夏が小学生のころの社会の授業で第二次世界大戦を習った時には、もうこんな戦争は二度と起きないだろうと思っていた。しかし、まさか自分が成人する前に第三次世界大戦が実現するなど夢にも思わなかった。

 

最初その事実がニュースで報道された時などは、学園中がパニック寸前の状態だった。それもそうだろう、何せIS学園には世界中から生徒が集まっている。その中には当然ロシア出身の生徒もいて、中には体調を崩す生徒も出た。自国が戦争を仕掛けたのだから当然と言えば当然の反応だろう。

 

それだけが原因だった訳では無い。ここIS学園は、戦争を仕掛けられた学園都市とそう距離が離れていないのだ。いつミサイルが飛んできてもおかしくない、それどころか手違いでIS学園にとばっちりが来るかもしれない。

 

学園の教員たちが学園にミサイル等が飛んできても生徒たちが被害を受けぬよう24時間体制で学園を警備していたが、それでも不安感を完全に拭いきる事は出来なかった。頭ではIS相手に通常の兵器などは通用しないと分かっていても、初めて直面する戦争という重苦しい雰囲気に、大半の生徒は怯えていた。

 

しかし、その緊張は唐突に解ける事となる。

 

ロシア大統領の宣戦布告からわずか12日後の10月30日、第三次世界大戦は突如として終結を迎えた。理由としては大戦終盤に起きた超自然災害が原因とされており、これを機に学園都市側の要求を飲む形でこの不毛な戦争を終結させると、ロシア成教総大主教、クランス・R・ツァールスキーは終戦宣言をおこなった。

 

こうして第三次世界大戦はあっけなく終結した。戦時中や終戦当初は一日中、第三次世界大戦の状況がテレビを独占していたが、二週間経った今では普通にバラエティ番組などもやっており、世界は再び平穏を取り戻しつつあった。

 

「なんだか知らないうちに全部終わってたって感じだなぁ」

 

飲みかけのお茶をさらに一口飲みながら、一夏はポツリと呟く。

 

「ふわぁ~あ。なにが終わったって?」

 

そこに若干寝ぐせがついたままのツインテールに眠そうな顔の少女、凰鈴音が声をかけてきた

 

「鈴。なんだ、今日はずいぶんと早起きなんだな?」

 

「昨日は早く寝ちゃったのよ。ついさっき起きて何か飲もうと思ったら冷蔵庫に何も無くって、そんでここの自販機まで買いに来たってわけ」

 

「なるほど」

 

眠そうに目をぐしぐしとこすりながら鈴は財布を取り出そうとポケットに手を突っ込む。しかし部屋に忘れてきたらしく、鈴の手はむなしく空を掴むばかりであった。

 

「あれ、おかしいわね。部屋に置いてきちゃったかな」

 

「はは、なにやってんだよ鈴。まだ寝ぼけてるんじゃないのか?」

 

「う、うっさいわね!別に寝ぼけてなんかないわよ!」

 

若干顔を赤くしながら否定する鈴。まるで子猫のようにわめく鈴を一夏は笑いながら軽く受け流す。一夏はお茶をさらに一口飲み、それを鈴に差し出す。

 

「喉が渇いてるんなら、お茶でも飲むか?俺の飲みさしで良ければだけどな」

 

「え。これ、あんたの飲みかけ…?」

 

「そうだぞ……ってすまん。男が口をつけたのは嫌だよな。ちょっと待ってろ、今なんか新しいのを買ってきてやるから」

 

鈴の反応を拒絶と受け取った一夏は自分の財布を手に取り席を立とうとするが、それを鈴が慌てて止める。

 

「良い!一夏、それで良いからっ!」

 

「そうか?別に無理しなくても良いんだぞ?」

 

「全然っ!無理なんてしてないから!」

 

「でも……」

 

「あぁもうくどいわね!良いからさっさとそのお茶を渡しなさいよ!」

 

「お、おう」

 

鈴の剣幕にたじろぎつつも、一夏は自分の飲んでいたお茶を差し出した。顔を赤くしたままの鈴はそれをひったくるように掴むと、急に黙り込んで、じっと手の中にあるお茶を見つめる。

 

(こ、これ、いま一夏が飲んでたやつよね?うわ、うわぁあどうしよう!?)

 

「どうした?飲まないのか?」

 

「ふぇえ!?の、飲むわよ!?いただきます!!」

 

とは言ったものの、なかなかその口を付けられずにいた。

 

 

 

「ほう……随分と嬉しそうじゃないか、なぁシャルロットよ」

 

「そうだねラウラ。こんなに顔が赤くなった鈴、僕初めて見たかも」

 

 

 

ビックゥ!!と鈴の方が大きく震える。ゆっくりと鈴が振り返ると、そこには二人の人物が立っていた。奈落の底のようなその四つの瞳はじっと鈴を見つめていた。

 

一人は迷彩柄のズボンに無地の黒い半袖のシャツを着た長い銀髪を持つ小柄な少女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

もう一人は上下共に白を基調としたジャージを身に着けた、ラウラや鈴よりも女性らしい体つきをした金髪の少女、シャルロット・デュノア。

 

「ら、ラウラ。それにシャルロット……」

 

「おお、二人ともおはよう。どうしたんだ、その格好?」

 

一夏も二人に気づき声を掛ける。

 

「ラウラが朝のランニングを始めたって言うから、僕も一緒に走ってきたんだ」

 

「二週間前までは警戒態勢ということで極力外には出るなと言われていたからな、体がなまってしまわぬよう三日前から朝はランニングするようにしたのだ」

 

「へぇ、すごいな二人とも。俺にはちょっと出来ないぞ」

 

「まぁ今はそんな事はどうでも良い。それよりも……」

 

再びビックゥ!!とラウラの絶対零度の視線を受け、肩を震わせる鈴。恐る恐る鈴は二人に尋ねる。

 

「い、いつから見てた…?」

 

「そうだねー、鈴が‘飲みかけ’って所に反応してた辺りからかな?」

 

「うっ!?」

 

それを聞き、鈴は顔を赤くしながら項垂れた。さすがに恥ずかしかったのだろう、そんな鈴を尻目にラウラは一夏に向かって

 

「それはそうと嫁よ、私にもそのお茶をくれ。走り回ってさすがに喉が渇いたのでな」

 

と言った。

 

「はぁ!?何言ってんのよあんた!?」

 

「そ、そうだよラウラ!いきなり何言い出すの!?」

 

ラウラの突然の発言の詰め寄る鈴とシャルロット。しかしラウラは素知らぬ顔で平然と答える。

 

「なに、ランニングも終えたのでな。ちょうど嫁がお茶を持っていたので貰おうと思ったまでだ」

 

「そんな、ラウラだけズルい!僕もお茶飲みたいよ!」

 

「シャルロット、お前はランニングの前に小銭を持ってきただろう。ならそれでお茶を買えば良いではないか」

 

「ラ、ラウラだって、自分は食堂の冷水器の水で十分だって言ってたよね!?」

 

「そ、それは……!」

 

「あぁもう二人とも!そのお茶は一夏が私にくれたのよ、絶対あげないんだから!」

 

「別にあげたつもりは無いんだが……。て言うかそんなに喉が渇いてるんだったらいっそ俺が新しく三人分のお茶を買ってきて……」

 

「「「一夏(嫁)は黙ってて(ろ)!!!」」」

 

一夏は言い争いになり始めたその場を抑えるべくフォローしようとしたが、逆に怒鳴り返されてしまう。どうしたものかと頭を抱えていると、食堂の入り口に新たな人影が、それも三つほど。

 

「朝から何を騒いでいるのだ、一夏」

 

「あらあら、ずいぶんと賑やかですわねぇ」

 

「一夏、おはよう」

 

黒髪ポニーテールの篠ノ之箒、金髪お嬢様な雰囲気のセシリア・オルコット、水色の髪に眼鏡をかけた更識簪。この三人が一夏の目の前に現れる。

 

その瞬間、一夏は理解した。

 

今までの経験上、この三人もこの不毛な言い争いに参戦し、最終的になぜか自分に非があるという結果になるのだ。

 

久しぶりにゆったりした朝を迎えられると思ったのに、と肩を落とす一夏。その脳裏になぜか見覚えのないツンツン頭の少年の顔が浮かぶ。

 

少年は優しく微笑みかけ、サムズアップして一夏にこう言った。

 

ドンマイ☆、と。

 

 

 

 

 

結局、数分の間をおいて一夏は全員に謝罪をするはめになった。

 

ゆったりとした朝とは程遠いものではあったが、それでも一夏はこの何気ない日常が戻って来た事を、改めて噛みしめた。

 

 

 

 

 

早朝の一悶着の後、朝食を終えた一夏たちは授業を受けるため教室へと移動した。

 

鈴と簪はそれぞれ一夏たちの教室とは別のため、現在一組にいるのは一夏、箒、セシリア、ラウラ、シャルロットの五人であった。食事中も若干針のむしろ状態だったため、一夏はろくに食事も喉が通らぬまま朝のSHRを迎える事となった。

 

「はーい皆さ-ん、朝のSHRを始めますよー!」

 

ぼんやりしながら机に突っ伏していると、いつの間にか檀上には出席簿を持った山田麻耶が立っていた。

 

「あれ、今日は山田先生だ」

 

「ほんとだ。いつもは千冬様なのにね」

 

クラスの誰かがそう呟き、それを聞いた一夏もいつもとは違う空気を若干新鮮に感じた。千冬姉は何かあれば朝から容赦なく出席簿でぶっ叩くからなぁ、と思っていると、麻耶はクラスがざわついているのを諌め、朝のSHRを始めた。

 

「皆さん、おはようございます。いつもは織斑先生がやっていますが、今日から織斑先生は出張のため不在になります。その間は私が一組の主任と寮監となりますが、皆さんも怠けちゃだめですよ」

 

は~い、と分かったのかどうか怪しい返事がクラスに響く。麻耶は少し苦笑いしつつも次の連絡を伝えていった。

 

一夏はその連絡をなんとなく聞きつつ、千冬の出張について考えていた。

 

(千冬姉は出張か。でもそんなこと言ってたか?)

 

どうもそんな記憶は無いが、IS学園では姉弟ではなく教師と生徒の関係なので、いちいち気にするような事では無いかと結論づけた。

 

「―――――です。それでは最後の連絡をします。これが一番重要ですので、よく聞いてて下さいね」

 

一夏が別のことを考えていると、気が付けばもう連絡は最後にまでなっていた。一番重要な連絡だと言っていたので、こればかりは一夏もちゃんと聞こうと檀上にまっすぐに視線を送る。

 

「先ほど織斑先生が不在と言いましたが、その間のISの実践授業を担当してくれる臨時教師の方たちが来ています。皆さん、くれぐれも失礼の無いようにして下さい。それではお二人ともお入り下さい」

 

麻耶の呼び声とほぼ同時に教室の扉が開き、二人の人物が入ってくる。

 

一人はジャージ姿に長い黒髪をポニーテールにした女性、もう一人は濃い紺色のスーツに身を包み、クリーム色の髪を肩口で切り揃えた女性だった。満面の笑みを浮かべる黒髪の女性とは対照的に、スーツ姿の女性は口を堅く閉じた無表情のままである。

 

「それではお二人とも、自己紹介をお願いします」

 

「おう!私は黄泉川愛穂って言うじゃん。今は学園都市で教師をやってるけど昔はISの代表候補生だったから、ISの操縦に関してはなんでも聞いてくれ。ちなみに麻耶とはその頃からの仲だから、麻耶の趣味とかスリーサイズとか詳しく聞きたい奴はいつでも来るじゃん」

 

「ちょ、黄泉川先生!何を言っているんですか!?」

 

「おいおい麻耶、何じゃんその他人行儀な喋り方は?昔みたいに愛ちゃんって呼んでも良いじゃんよ?」

 

「もう!愛ちゃんったら!」

 

「ははっ!やっとそう呼んでくれたじゃん!」

 

黄泉川愛穂と名乗ったジャージ姿の女性は麻耶よりも頭一つ分ほど背が高く、手をぶんぶんと振る麻耶を軽くなだめていた。そうする度に互いの大きな胸がたゆんたゆんと揺れ、クラス中の女子に衝撃が走る。

 

(何あれ!?ヒマラヤ!?)

 

(マヤっちと同等……いや、下手したらそれ以上!?)

 

(こんなの、勝てる相手じゃ無い!!)

 

一見静かに、しかし内心は終末戦争並みに荒れる心を制御できずに気を失う生徒もいる中、麻耶と愛穂は未だに騒いだままだった(主に愛穂が麻耶をおちょくっているのだが)。そんな二人を無視し、もう一人の女性が愛穂とは対照的に短く自己紹介した。

 

「リュドミラ・N・カプラノワです。一応ISは操縦できますが、山田氏と黄泉川氏の方が技術的には上なので、主に座学を担当します。よろしくお願いします」

 

隣で未だに麻耶と愛穂が騒いでいる中、リュドミラと名乗った女性は淡々と自己紹介を終えた。この間も彼女はまったくの無表情だったのだが。

 

(なんだか随分と賑やかな人だな、黄泉川先生って)

 

一夏は愛穂を見ながらそう思った。自身もそうだが、周りのみんなもやはり出会ったことの無いタイプの教師らしく、若干引いているように見えた。大丈夫かと不安になりながら次にリュドミラの方を見た一夏だが、

 

(あれ?今、リュドミラ先生、俺のこと見てなかったか?)

 

そう。一瞬ではあったが、リュドミラがこちらを見ているように感じたのだ。今はすでに無表情で教室全体を見ているのでどうかは分からないが、なぜが一夏はそう感じた。

 

(まぁ、たまたま目があったとかそんな感じだろう、考えすぎだな)

 

一夏はそう結論付けたが、その後ろにいたラウラはリュドミラに鋭い視線を向けていた。最近はあまり見せなくなったラウラのその様子に、隣にいるシャルロットが声をかける。

 

「どうしたの?そんなに怖い顔して」

 

「シャルロット。……いや何、少し気になってな」

 

ラウラはそう言って、再びリュドミラに視線を向けながら自分なりに観察してみた。

 

(あの二人よりも弱い?どうも私にはそうは見えんのだが……)

 

結局ラウラの疑念は解ける事はなく、朝のSHRは終了し、一限目の授業が開始されるのだった。

 


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