調と錬金術師(仮)   作:キツネそば

1 / 1
切歌ちゃんもいいけど調ちゃんもいい。


01

「ま~る描いてま~る描いて三角ふったつ~♪」

 

「…ねえ、いつも歌ってるけど何なのその歌。絵描き歌か何か?」

 

秋の涼しい風が頬を撫でる、そんな昼下がりの繁華街。今日の分の買い物を済ませていると隣から声がかかる。顔を向けるとそこにはきれいな黒髪をツインテールにした小柄な少女がじーっと効果音がつきそうな程こちらを見つめていた。

 

彼女は月読調、ここ最近仲良くなった女の子である。ファーストコンタクトが中々にスリリングだったために始めは警戒されていたが何度か会ううちに少しづつ打ち解け今では買い物を共にするまでになった。というかまた歌っていたのか…

 

「まあそんなもんだな。すまん、気に障ったか?」

 

「そんなことない。でもいつも歌っているなって思ったら気になっちゃって。それ初めて会った時も歌ってたよね。何の歌?」

 

「嬉しいときとか安心できるときについ口ずさんじまうんだよな。あと気抜いてるときとかリラックスできるとき…てどうかしたのか?顔紅いぞ調、大丈夫か?」

 

「なっなんでもない!それよりなんの歌なの?」

 

「ん~、まあちょっとしたおまじないみたいなもんかな」

 

「…ふ、ふ~ん」

 

そういうと調は顔を背けるように歩みを速めた。ほのかに顔が紅かった気がするが…はて、何か悪い事でも言ってしまっただろうか。それともファーストコンタクトを思い出しているのだろうか、…イヤ、これ以上はやめておこう。いくら歳とは言えあの時の感覚はなかなか刺激的過ぎだ。煩悩退散煩悩退散…

 

なんとか平静を保とうと意識していると前を歩いていた調が急に立ち止まった。何か気になる物でもあったのかと視線を追うと道の端で白猫と黒猫が日向ぼっこをしているところだった。

 

どうやら今回はあの二匹が気になるようだ。その証拠に口でじーっと言っている。この状態の調は梃子でも動かない。前にこうなったの雑貨店のショーウインドウに飾られていた猫のネックレスを見た時だっただろうか、あの時もしばらく動こうとしなかったからな。もしかして調は猫派だろうか。

 

この状態の時は調が興味を持っている物を一緒に見てやるとその後の機嫌がいつもの二割増しにいい。感想を述べると尚機嫌がよくなる。

 

逆に調を置いてどこか行こうものならとてつもなく機嫌が悪くなる。というか以前こうなった調を置いて他の店を巡っていたらやけに怒られた。置いて行ったのがよほど嫌だったのだろう、それ以来こうなった時は必ず一緒にいるようにしている。

 

しかし今回はなかなかしんどそうだ。理由は簡単、猫が寝てて全く動く気配がない。これなら雲でも眺めていた方がましと言っても過言でないくらいには動かない。

 

どうしたものか…と考えていると視界に挙動不審な人物が映った。というか調だった。猫に触ろうと腕を伸ばすがなぜか途中で止まる。そしてゆっくり腕を引いて考え込むを繰り返している。

 

実のところ、調は猫に触ろうとしても必ずと言っていいほど逃げられてしまう。どうやら調が緊張しすぎて猫を驚かしてしまい、それでまた調が緊張して…を繰り返した結果、緊張が抜けなくなってしまったのが原因のようだ。しかし幸いにも今回の猫は寝ている。いきなり驚かして逃げられることは無いだろう。

 

それでも今まで触る直前に逃げられてしまったという記憶が触ろうとする手を妨げる。そんな調に気が付いたのか猫たちも目を覚ましてしまった。どうやら時間切れのようだ。今回は諦めたのか調がこちらに戻ってきたがその顔は悲しげだ。

 

「今回はまだいけるんじゃないか?」

 

「べっ別にいい…」

 

さりげなく言ってみたが返事はそっけないものだった。だが調よ、そんな顔で言われても説得力がないぞ。

 

こうゆうときに他人が何か手助けをするのはよろしくない。それでできたとしても次やるときに失敗したらまた手助けを求めてしまう。そしていつしかその手助けなしでは絶対にできないと思い依存してしまう。だから自分は特に何もするつもりはない。これは調が一人で触れてこそ意味があるのだから。

 

 

 

だが、きっかけを与えるくらいならば許されるだろう。なにより調のあのような顔は見たくないから。

 

確か今日買ったよな…と買い物袋をあさると目的の物はすぐに見つかった。袋を破るといい香りが鼻腔を刺激する。これなら大丈夫だろう。

 

「調、これ使ってみな」

 

「これは…鰹節?」

 

「ああ、もしかしたら猫が寄ってくるんじゃないかなと思ってな」

 

鰹節を手渡すと調は嬉しそうな顔をして猫たちの方にゆっくりと近づいていく。あれなら大丈夫だろう、案の定二匹の猫は匂いにつられて調の足元にすぐに来た。しゃがんで手を差し出すと鰹節の山はあっという間に二匹の胃袋に吸い込まれていった。

 

よほど鰹節が気に入ったのか白猫は調の足にじゃれついてきた。なんだか現金な奴だな。対照的に黒猫は若干の距離を保ちつつも調のことをじっと見つめている。同じ猫なのにここまで性格が違うとは…なんだか人間臭いな。

 

その後も鰹節を与えたおかげか二匹の猫も大分調に懐いてきた。特に白猫の方はさっきから調の足にまとわりついてばかりいる。これなら大丈夫だろう。

 

調もいけると思ったのか白猫に向かってゆっくりと手を伸ばす。いつになく時間がゆっくりと感じられる。もう少しで触れる、そう思ったとき白猫の動きがピタリと止まる。それに合わせて調の腕も動かなくなる。

 

今回もダメなのか…思わず諦め目を逸らしかけた時、甘えるような声が聞こえた。慌てて視線を戻すと白猫は調の手に自分から頭をこすりつけていた。思わず安堵の息が漏れる。

 

良かった、今回はうまくいったみたいだ。

 

 

 

 

気が付けば日もかなり傾き赤く染まった空が調との別れの時間を告げていた。明日か明後日にはまた会える、頭では分かっていてもなぜか別れたくないと思ってしまう。始めは言葉にできない寂しさを感じた。それが次の日に会えた瞬間計り知れない喜びに変わった。

 

ああ、きっと自分はこの少女に感化されているのだろう。今まで感じることを忘れていた様々な感情をおもいださせてくれて、自分が生きていると感じさせてくれるから。

 

「調、今日もありがとう。気をつけて帰れよ」

 

「うん、あなたもね」

 

だからきっと、彼女へのうまく言葉にできない気持ちは…自分なりの感謝なのだろう。

 

 

 

調と別れたあと、この後の予定を確認するが今日の買い物は全て終わってしまった。残っている用事といえば客人を迎え入れることくらいだが相手もまだ準備に時間がかかるようだ。

 

手持無沙汰になってしまったのでとりあえず近くにあったベンチに腰掛け薄暗くなった空を眺める。普段は退屈にしか感じない空も、今はなぜか悪くないものだと思えてしまうな…などと感傷に浸っているとこちらに近づいてくる複数の足音が聞こえた。どうやら客人たちは思いの外早く着いたようだ。

 

顔を向けるとそこには軍人と思わしき屈強な男たちがアサルトライフルやロケットランチャーを構えていた。しかもアサルトライフルにはご丁寧に消音機付きである。周りに住宅があるのを気にしたのだろう。だかそこに気を遣うのならばロケットランチャーを持ってくるのはいかがなものだろうか?騒音を気にするなら絶対に使っちゃいけない平気だと思うんだが…。

 

というかなんか無駄に気合入ってません?今日こそこそとのぞき見していた連中とは明らかに違うんですが、具体的には筋肉の付き方がもう人間とは思えないくらいムッキムキなんですが。

 

とはいえ一応人間(?)なわけだしとりあえず会話から始めてみるのがいいだろう。うん、会話のキャッチボールは大切だって誰か言ってたし。

 

「え~っと、こんばんは。今日一日監視されてた方たちのお仲間ですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「本日のご用件は?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ヤバい。投げたボールが返ってこない。虫のさざめきが聞こえる程の静寂が身に染みて痛い。なんとも気まずい空気を感じていると集団の中から一際屈強な男が前に出てきた。よかった、キャッチボールは成立していたようだ。ひとまず安心安心…

 

「我々はアメリカ陸軍特殊部隊だ。貴様が月読調と関係があるのは分かっている。おとなしく彼女の身柄を差し出すか投降しろ、命だけは助けてやる」

 

「あの…拒否権は?」

 

「その場合貴様にも死んでもらう」

 

できなかった。全く安心できない。というか特殊部隊とか説得力あり過ぎる見た目がもうヤバい。おまけに会話のキャッチボールでえげつないボールしか返ってこないんだけどこれは如何に…。

 

「因みに調は捕まった場合どうなりますかね?」

 

「月読調に関しては見つけ次第速やかに射殺するよう命令が出ている。言え、月読調はどこだ」

 

即射殺とは穏やかでない。おまけに自分も殺される可能性がある。素直に話すのが利口だろう。だがはいそうですかと素直に言うのも癪だ。なにより…

 

「気に食わないな」

 

そう言い放った次の瞬間、乾いた音が聞こえた。ライフルの銃口から煙が上がり、頬に焼けるような痛みが広がる。調といるときに感じるのとはまた違う、肉体が損傷したときに感じる痛み。どうやら話し合いは無理なようだ。

 

痛みが引き金となりスイッチが切り替わるのを感じる。まるで外の世界と遮断されたような自分一人だけの世界が、一人だけで完結する世界。言うなれば、一は全なる世界。

 

「もう一度だけ聞く、月読調はどこだ」

 

視界がクリアになり感覚が研ぎ澄まされていく。男が何か言っているが耳には入ってこない。それに聞かなくたって関係ない。こうなったらもう止まらない、止められないのだから。欲望のままに、願望のままに生きる。これが自分の…俺の本当の人間性なのだから。

 

力が全身を駆け巡り身体を作り替えていく。その証拠に先ほど受けた頬の傷も紅い稲妻が走りみるみる修復されていく。

 

傷が治りきると今度は腕が、足が、全身の皮膚が鈍色に光る金属に換わっていく。そして最後には頭部までが鈍く光る悪魔のような風貌に変化した。

 

「なっ何なんだあいつ!?化け物か!?」

 

目の前の人間がいきなり化け物に変わったにも関わらず取り乱すことなく連携の取れた銃撃をしてくるところは流石特殊部隊の軍人と言えよう。

 

だが今の俺にとってはいくら弾幕を張られようと痛くも痒くもない。気にすることなく銃弾の雨の中を進んでいくと始めは冷静に対処しようとしていた軍人たちに焦りが表れ行動に乱れが見え始めた。

 

いくら弾幕を張ろうと俺の接近を止められない。しびれを切らしたのかロケットランチャーを打ち込んできたが痛みはほとんど無く数秒の時間稼ぎになった程度だった。この光景に軍人たちは完全に恐怖に呑まれたようだ。

 

だからといってこのまま見逃すという選択肢はない。それに聞きたいこともあるしなにより調の命を狙おうとした輩だ、とりあえず軽く締め上げるか…

 

それから数分後、死屍累々といった様子の軍人たちの山が築き上げられたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

「調がアメリカに追われてる…ねぇ…」

 

軍人の山を築き上げた後、彼らから引き出した情報をまとめているといつしか月が頭上に来るような時間になっていた。思ったより時間がかかったがおかげで一つの確信ににたどりつくことができた。

 

しばらく前にコンサート会場で突如宣戦布告を行った特異災害ノイズを操る謎の武装組織フィーネ。恐らく調はその一員だろう。初めて会った時もコンサート会場の近くだったのもそれが理由となれば納得できる。あの歳でそんな危険な世界で生きているなんて驚きだ。だが…

 

俺もなかなかダークファンタジーな世界で生きてるからな…

 

月の光によって照らし出された左手には六芒星を尾を飲み込もうとする蛇が囲んだウロボロスの紋章を眺める。

 

気が付けば見知らぬ土地でホムンクルスの肉体と最強の楯を与えられて早数百年、死ぬことも人間に戻ることも叶わずただ生き続けてきた。

 

多くの人と出会い、別れ、何度もそれを繰り返し気づけば人間としての価値観など忘れてしまっていた。

 

だからこそ、何かしたいと強く願ったときはその欲望は必ず叶えようと決めた。決意をもった人間は背中を押そうと決めた。だから…

 

「どんな結果になったとしても、俺はお前の選択を認めてやるよ。調」

 

誰に何と言われようと、この人々が強欲と呼ぶ感情だけは偽らないで生きようと思った。

 




書ききってからタイトル詐欺に気付いた。スミマセヌ。

(夢で続きをみない限り)多分続かない。

拙い文章ですが読んでいただきありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。