デート・ア・ライブ 黄金の精霊   作:アテナ(紀野感無)

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準備は整った。

必要なモノも、チカラも、場所も、あらゆるものを揃えた。

だけど完璧じゃない。ああ、そうだ、1番の懸念は……


「来るなら来い、母上。その時は…」


私を産みし原初の精霊よ。愛に飢えた化け物よ。


私に矛を向けるというのなら、愛に飢えた化け物同士

死ぬまで喧嘩しようじゃないか


神夏ギルの最期の物語
65話 日本へ


「さ、みんな。忘れ物はないかな」

 

次の日の朝、みんなで集まり確認を取る。

最後にもう一度部屋の中をざっくり確認してフロントへ向かう。

 

受付の人と話しチェックアウトを済ませる。

 

「それじゃあ空港へ向かおう。時間はあるはずだから道中でお土産でも買って帰ろう」

 

特に異論はないようで、1、2日めと同じくルイスさんの車にみんなで乗る。

殆どみんなはまだ元気が有り余っているようでわいわいと騒いでいた。

 

ただ1人だけ、ずっと神妙な面持ちの人がいたが。

 

「士道」

 

「…っ、あ、ああ。どうした?」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫、だと思うよ」

 

「そ、ならいいけど」

 

明らかに覇気のない士道。理由は分かっているけど無闇に踏み込む訳にはいかなかった。なんせその原因は私なんだから。

 

 

 

「(……こうなるくらいなら出逢わなければよかったと、心の底から思っちゃうなぁ。はは、私って本当……)」

 

 

 

「はーいみんな、荷物を預けに行こうその後飛行機の時間までは自由にしてて。ただ時間が過ぎたら遠慮なく置いていくからそのつもりでね。…特に耶倶矢」

「だから何で私をピンポイントで名指しすんのよ!」

「愚問。耶倶矢はへっぽこだからでは?」

「だから毎回思うんだけど夕弦の方が酷いこと言ってない⁉︎」

 

空港に着き、ルナがみんなを先導しながら受付なんかを済ませていく。だけど俺はその間も色々なことを考えてしまっていた。

 

どうすれば…ルナを救うことができるのか。

 

 

「ルナー!」

 

 

「…げ」

 

そんな中、どこかで聞いた覚えのある声が遠くから聞こえてきた。

同時にルナの見たくないものを見たかのような声も。

 

『会いたかったわよー!』

「げふっ⁉︎」

 

そして声の主は俺たちに目もくれずルナに体当たりをかました。

 

「いったぁ…」

「あらやだ、ルナったら痩せたんじゃない?」

「それは褒め言葉?」

「もちろん!」

「それはどうもありがとう。それよりも言うことない?」

「……相変わらずお胸小さいわね!」

「一発殴ってもいいかな?」

 

恐らくは20代後半であろう、金髪のサラサラした髪をしていて蒼の瞳をしており、今は絶賛ルナを押し倒している。どこかで聞いた声なような…。

 

「まあいいや。後で叔父さんにチクっとくから。それよりも困惑してるみんなへ自己紹介して欲しいのと早くその豊満な胸を私の目の前からどけてくれないかな?」

「あらやだ、ルナったら嫉妬?やーねぇ」

 

いたずらっ子かのように笑った瞬間にルナは思い切り叩いていた。胸を。

 

「いったぁーい。そんな自分にないからって怒ることないじゃないの」

「やかましいわ!もぎ取ったろか!」

「取れるもんなら取ってみなさいよ〜。あ、ごめんなさいねみんな放ったらかしにしちゃって」

 

いつものルナらしからぬハイテンポの掛け合いの-もはやコントにしか見えなかったが-様子を見て俺だけじゃなく殿町や八舞姉妹もポカーンとしていた。

 

「みなさん初めまして。私はレインハートと言います。ルナからはレインと呼ばれているので是非ともそう呼んでくださいね。こう見えてルナの養母です」

 

やっぱり、昨日の電話の相手だ。

俺以外のみんなはと言うと義母という単語にひどく戸惑っていたが。

 

「て、てことは神夏さんの御義母様⁉︎おい五河、挨拶しとけよ!」

「なんでだよ」

「めちゃくちゃ若いのに胸デッカ…」

「お前はどこを見てるんだよ…」

 

「金髪に蒼眼!……いい!」

「挨拶。初めましてレインさん。夕弦と言います。お見知り置きを。こちらは耶倶矢。常に変なことを言いますので無視してください」

「ちょっと⁉︎」

 

「レイン叔母さんはこう見えて私にも劣らぬオタク。あと料理が下手」

「むっふっふー。ドジっ子メイドは良き文化ヨネ!」

「それで帰ってくるたびにメイド服で出迎えるような人です」

「失礼な!メイドだけじゃないわよ!チャイナドレスに和服にまだまだあるわよ!」

「ちなみにみんなのことを話したら是非とも会いたいと言うことで伝えてはいたんだけどまさか本当に来るとは思ってなかった。……仕事どうしたの」

「さぼったわ!」

「さいですか」

「ちなみに今のブームは黒い執事!悪魔で執事!」

「聞いてないねこれ」

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「いやーみんな可愛いわね、眼福眼福!」

「どこでそんな言葉覚えたの」

「にしてもシドウは昨日話して確信はしてたけどやっぱりイケメンね!ウチに欲しいわ!」

『…士道に手を出したら叔父さんに告げ口するからね』

『冗談じゃないの。それとあの人に言うのはやめて』

 

ようやく落ち着いたレインさんは改めて俺たち一人一人に挨拶をしていく。殿町とかの顔が明らかにデレデレしていたのは気のせいだろう。

 

「んで、本当になんで来たの」

「お別れの挨拶くらいさせなさいよ!ルナが迷惑をかけてるだろうからそのお礼も言わなくちゃ!」

「そこまで子供じゃないが?」

「特にシドウ、あなたには昨日お話を聞いた時からずっと会ってお話ししたいと思ってたの」

 

「俺に…?」

 

「ええ。てことでルナ〜シドウ借りるわね〜」

「士道、何かされたら遠慮なくその無駄にでかいFは超えてそうな胸を引っ叩きな」

「まだEですぅー!」

 

こうしてレインさんはルナと他愛無い口喧嘩をしながら俺の腕を引っ張っていく。

 

「…うん、この辺でいいかな」

 

「あ、あの、俺に話って…?」

 

「ああ、Sorry〜。いやね、本当にお礼を言いたいだけなの。ルナがあんなに明るくなってくれたのを久しぶりに、……本当に久しぶりに見たから」

 

レインさんは懐かしむような、後悔しているかのような目をして俺を見てくる。

 

「あの子って14歳くらいに悲しいことが起こってね。訳あって私たちが引き取ったんだけど…」

 

「それって、ルナのご両親のこと…ですよね?」

 

その出来事に心当たりがあり、不躾ながらも聞いてみるとレインさんは首を縦に振る。

 

「シドウにはもう話しているって聞いてるから余り隠さなくてもいいわね。そうよ、あの子は目の前でお姉ちゃん…あ、あの子の母親のことね。母親や友達なんかも目の前で死ぬのを見てしまったらしくてね。引き取った時はもう本当に酷くて。どうにか笑顔にしてあげたかったけど私たちだけじゃ無理だった」

 

それは俺も知っていた。なぜなら狂三の力を借りてルナの過去を見ていたから。

 

「でね、お父さんの故郷である日本の学校に行くのを勧めたのも私なの。辛いことが起こったこの場所より、新しい場所の方がルナにとってもいいのかも知れないと思ったの。…それでもしばらくは変わらなかった」

 

「そんなに…なんですか」

 

「うん。でもね?数ヶ月前からのルナの声は、なんというか姉さんたちが生きてた時の頃に、とても明るくなってたの。その時に絶対話題にしてたのがシドウ、アナタなの」

 

「……!」

 

「だから、これからもルナを…ずっと独りぼっちなあの子を支えてあげて。…本当なら私たちがやるべきことなんだけどね」

 

レインさんの瞳はどこか寂しげで、悲しげで、後悔の念に渦巻いていた。

…ここまで言われて、何もできないなんて言えないよな。

 

「もちろんです。任せてください。絶対にルナを悲しませたりしませんから」

 

「ふふっ、そういうと思ってた。やっぱり私の見立て通りいい男ねシドウは。今からでもうちの子にならない?」

 

「そ、それは…」

 

「冗談よ。ありがとうシドウ」

 

そうお礼を言われると同時、スマホが震える。

 

「もしもし」

『あー士道?』

 

電話の相手はルナだった。

 

『搭乗できるアナウンス来たからそろそろ戻ってきて』

「わかった。すぐ行く」

『それとレイン叔母さんにこう伝えといて。〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

「……いや、それ自分で伝えたらどうだ?」

『いいから、それじゃまってるよ」

 

一方的にそう言われ電話を切られる。

気のせいだろうか、声がほんのちょっと上擦ってたような。

 

「ルナはなんて?」

「もう飛行機に搭乗できるから戻ってきて、と」

「あら、残念。もう少し話してたかったんだけど」

「それとレインさんへ伝言を、って」

「?」

 

「『レインハート叔母さん、今までごめんなさい。そしてありがとう。私を引き取ってくれて。お母さんたちと同じくらい愛しています』…だそうです」

 

「…わかったわ。ルナに『私こそ愛しているわ』って伝えてくれる?』

 

「はい、任せてください。それでは俺はこれで失礼します」

 

「ええ、またねシドウ。次来る時は結婚のご挨拶かしら?」

 

「そ、そこまで発展する…かどうかはわかりませんが、またイギリスに来る時が来たらよろしくお願いします」

 

少しだけ恥ずかしくなり駆け足でその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ、本当にいい人ねシドウは。…まるでマイラみたい。ルナが惚れるのもわかるわ。……終わったわよ。早く出てきなさいよ』

 

『これは失礼しました。では、疲れ様でした。約束通り共にDEM日本支社へ来ていただきましょうか』

 

『構わないわ。でも私との約束も守りなさい』

 

『もちろんですとも』

 

 

 

 

 

 

 

〜14時間後〜

 

「あーっ、お疲れ様みんな。あとは荷物を取って各自解散で」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

特に何事もなくフライトを終えた士道たちは別れ話もほどほどに別れていく。

 

「俺たちも帰ろうか。琴里が迎えに来てくれてるらしいから」

「それはありがたい」

「あ、それと今日の晩御飯に鍋を作ろうと思ってるんだけど、ルナも来ないか?」

「うーん、ありがたい申し出だけどちょいとやることがあるからパス。とは言っても部屋に篭ってるだけだから安心して」

「わかった。それじゃあまた明日」

「うん、また明日」

 

 

 

 

 

「やあ、そこの人」

 

「…?俺ですか?」

 

「そう、君だ。確か…トノマチヒロト、だったかな?」

 

「…あ!ルシフェルさん!こんばんは!」

 

「ああこんばんは」

 

「相変わらずお綺麗ですね!」

 

「…?ああ?ありがとう?」

 

「それよりも突然どうしたんですか?」

 

「いや何、少し手伝ってほしいことがあってね。手を貸してくれないかい?」

 

「勿論っすよ!あ、でも荷物だけ家に運び込んじゃっていいですか?」

 

「それくらいは構わないよ。それじゃあすぐそばにある公園で集合しないかい?」

 

「了解しましたっ!すぐ行くんで待っててください!」

 

 

 

 

 

 

 

〜DEM 日本支社 とある一室〜

 

『……』

 

「それで、どないしろと?ウチにこんなもん押し付けて」

 

「『意思』が強すぎるから、お酒を飲ませろ、ってお母さんが」

 

「…そないな便利道具みたいに言われてもなぁ。ま、やるだけやってみるけどどうなるかは保証はせえへんよ?」

 

「壊れたら壊れたで構わないって」

 

「ふーん。……それよりも他のはどないしてんの」

 

「青髭は実験してて、人攫いさんはお酒飲んでて、人斬りは部屋に閉じこもってる。黒い肌の人も部屋に篭ってるよ。あと、髭の生えたおじさんはけいさんっていうやつをやってるよ。絶対にライバルが出てくるからって」

 

「……ウチがよう働いとるって、世も末やなぁ。そんで肝心のマスターはんは?」

 

「『素材』の確保に向かってるよ。一緒に解体したいってお願いしたらダメって怒られちゃった」

 

「せやろなぁ。ま、ええか。あとでたーっぷり報酬を貰えば。ほんじゃあ行こうか。……たぁんと飲みぃや」

 

 

 

 

 

 

 

「んで、何か用?わざわざ暗殺者まで宿して」

 

「……」

 

「これは…手紙?」

 

「……」

 

「そんな殺気出さなくても受け取るっての。で、他に何か用は?」

 

「……」

 

「ないのね。じゃあ早く帰れ。殺されたくないならな」

 

髑髏の仮面を被った全身黒ずくめの男は手紙を渡すとすぐに闇の中へ消えていく。気配遮断を使っているのか数秒経っただけでもうどこにいるのかわからない。

 

「……招待状ならもう少し華やかにでもすればいいものを」

 

手紙の封を開け、中身を見る。そこにはおおかた予想通りのことが書いてあり、そして思わず握りつぶしてしまう。

 

 

 

「3日後…ね」

 

それじゃあ、やるべきことをやっておきましょうか。




さて、本当の最終章へ向かっていきます

今までは日常パートを多めにしていましたが、次話から戦闘がちょくちょく入ると思います

それでは読んでくださりありがとうございます
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