『ここ1週間、行方不明者及び不審者の目撃数が増えています。皆様、充分に注意してください。もし怪しい人物、行方不明者らしき人物を見かけましたらすぐに警察へ連絡を」
「ふーむ。我が運命人は今日もいないか。宿主といい、一体どこへ行っているのやら」
ここ2日、3日ほど五河士道と逢えていない。たかだか2、3日だと言われたらそれまでだが、私の体は既に彼を求めていた。
家の呼び鈴を鳴らすも誰も出ず、どうしたものかと思案していると後ろからジャキッと音が鳴る。
「何の用だザフキエル。喧嘩ならせめて別の場所で売りに来い。士道の家が壊れたらどうする気だ」
仰々しく両手を上げると後頭部に銃口が密着する。はぁ…面倒な。
「いえいえ。いきなり殺し合いをする気はわたくしとしてもありませんわ。ただ…一つお伺いしたいことがございまして」
「じゃあソレ相応の態度があるんじゃないのか?」
「まさか。コレでも十二分に前向きな応対をしていますのよ?さて時間もありませんし単刀直入にお伺いしますわ。コレ、貴女の差金でしょう?」
そう言いながら目の前に出てきたのは一つの物体。…ああ、一体帰ってこないと思ったらそういうことか。完全に機能停止しているあたり、一体だとマガイモノ相手は無理…か。
「で、どうしろと?」
「コレについて詳しく教えていただいても?ついでに言うなれば、士道さんから手を引いていただけると非常にありがたいのですが」
「ハッ、やなこった。させたいなら…力づくでやってみろ、ニセモノ風情が」
私の言葉を皮切りに私の頭の中で1発の銃声が鳴り響いた。
いっったいなぁ。
「……」
頭を撃ち抜かれ倒れた私に対し、ザフキエルは未だ銃を構えたままだ。用心深いことで。
「どうせ生きていらっしゃるのでしょう?この程度で死ぬとは思っていませんわ」
「御名答。だけど痛いっちゃ痛いんだよね。霊力の補填もまたしなきゃならなくなったし。ほんっと面倒だ」
立ち上がると同時に頭の銃痕を炎が包み込み、綺麗に傷が塞がる。滴り落ちてくる血をペロと舐めながらザフキエルに向き直る。
「やっぱりキミは真っ先に殺しておくべきかもしれないね。どうせ介入してくるであろう母君も厄介ことこの上ないが……ソレに比べたらキミを殺す方が遥かに楽そうだ」
「なんのことを仰っているのか存じませんが、そう簡単にやられませんわよ」
「そうだろうねそうだろうね。未だ分身体しか寄越さない臆病者の君のことだ。キミを殺したところで痛くも痒くもないだろう。だが…どうせ今も遠くから狙ってるんだろ?私を殺すために」
「いえいえまさか。わたくしの目的は最初に話した、コレについての情報と貴女の目的を知ることですわ。わたくしとて無駄な戦いは避けたいですもの」
「ははっ、だから言ったろ?知りたいなら…力づくでこいよ雑魚」
霊力を纏い威圧するとザフキエルも臨戦体制に入る。分身体なら喰べてしまえば証拠隠滅兼さっき使った霊力補充くらいにはなるかな?
「うん、キミなら…まだ美味しそうだ。
「わたくし達!」
ルシフェルの力のほんの一部を右腕に纏う。ほぼ同時にザフキエルの分身体がそこかしこに現れた。大体30体くらいか?これはこれは…
「何ともまぁ、美味しそうなことだ」
「出し惜しみは無しで行きますわよ。神夏さんには悪いですが……殺させて頂きます」
「できるものなら…」
その瞬間、何かが飛来してくるのを感じ横に避ける。すると降ってきたのは砲弾。
「嗚呼…邪魔だな。せっかく楽しい
次いで現れたのは二人の人間。確か…マナとオリガミだったっけ?
「目標確認。いくですよ鳶一さん」
「了解。【ナイトメア】は?」
「今は無視で行きましょう。それに…様子を見る限り利用できます」
「あらあらあら。わたくしを利用とは、大きくでましたわね」
「アロガンが終われば次はテメーです」
「怖いですわね。ですが…今は利害の一致している者同士、この方を討ち取りませんこと?」
「それだけには賛成でいやがります」
即座に殺し合いに発展するかと思ったがどうやら3人して私を狩り殺す気らしい。おお怖い怖い。
「ふーむ…流石に纏めて相手をするのは些か面倒だ。だから……ここは逃げさせて貰おうか」
「
「逃すか!」
「…!」
ハサン・サッバーハの一人を宿し髑髏の面を被ると同時、3人が纏めて突っ込んでくる。
矢避けの加護と気配遮断を同時に使いその場をやり過ごす。
「ふふふ、血の気の多いことよ。ではなマガイモノに人間よ。その不良品はくれてやる。好きに使うと良い。どうせ何も変わらぬからな」
そうしてルシフェルは影の中へ消えた。
「……」
「さてさてどうしましょうかねぇ」
「シッ!」
狂三が分身体を全て収めたのを確認した真那はレイザーエッジを振るうも虚空を切り裂くだけだった。
「きひひひ。危ないですわねぇ。それでは私としても用事は済みましたし退散させてもらうとしますわ。ああそれと、ソレもわたくしのですので。持っていかせていただきますわね」
「待ちやがれです」
「何でしょうか?」
「その生物は…一体何でいやがりますか。お前は、お前たちは…アロガンは、何をしようとしていやがりますか」
狂三はパチンと指を鳴らし、ソレを影の中に入れながら真那への返答をどうしたものかと思案する。
「さあ、わたくしにも分かりません。ルシフェルと名乗るあのお方が何を企み何を成そうとしているのか。わたくしの常識の範囲外にいますもの」
「じゃあさっきの生物は?」
「これについてだけお答えできますわ。コレはルシフェルが生み出した存在としか言えません。現に差し向けてきたのはルシフェルですから。……本当ならすぐにでも破棄してしまいたいですわこんなもの」
思い出したくもないのか苦い顔をしながら答える。生きている時に対面した時も常に生理的嫌悪感と恐怖、不快感に支配されたのだから当たり前だろう。
「わたくしから答えられるのは以上です。それでは…次出会った時はルシフェルを殺し切った後であると嬉しいですわ御二方。その時は心ゆくまで殺し合いましょう」
そう言いながら狂三は影の中へ消えた。
「…ふぅ。申し訳ねーです鳶一一曹。わざわざ手を貸してもらったと言うのに」
「構わない。それよりも…」
「ええ。少しばかり…あたりを警戒する必要がありそうですね」
死体しか見ていないとは言え、二人もまた、先ほどの生命体への、ルシフェルへの警戒度を跳ね上げた。
「なんっ……なのよ、あれ…」
「司令!今すぐ、今すぐに神夏さん達を呼び戻してください!」
「何か知っているの?」
突如鳴り響いたのはルシフェルの霊力の余波を観測したことによる警告アラーム。発生源をモニターに映し、横たわる生物を見た途端クルーのほぼ全てが途方もない生理的嫌悪感、不快感、恐怖に苛まれた。琴里ですら、ソレを見た瞬間に言いようのない寒気がした。
そこにいたルシフェル、狂三、真那、折紙のやり取りが終わり、誰もいなくなると同時に中津川が神夏を呼び戻すように叫ぶその目は至って真面目だった。
「…詳しい話は省かせていただきます。私とて確証が……ありませんので」
「構わないわ」
「…アレは恐らく『ラフム』と呼ばれる生命体です」
「ラフム?」
「はい。ラフム自体にも様々な説がありますがアレに関して私の知っているものと同じならば、
「何ですって?正気?」
「こんなこと冗談でも言いません。…以前士道くんがルシフェルから聞かされた精霊としての力は覚えていらっしゃいますか?」
「ええ。確か…『人類の敵をその身に宿す』だったかしら。メデューサに酒呑童子、ジャック・ザ・リッパー。そして私たち精霊の力も。そこまでは確認してるわ」
「ええそうです。そしてこうも言っていました。『
「詳細はまた後で聞くわ。結論を教えてちょうだい」
「はい。アレを生み出した存在は『ティアマト神』。古代の時代に存在したと言われている海と生命を創りし母。…ですが、今回の場合は少し違います」
「?」
「ラフムを生み出した存在であるティアマト神。ソレが持つ別名は---
人類悪・
「……っんだよ、これ」
マイラ・カルロスが連れてこられたのは演習場。てっきりエレンと殺し合うのかと思いきやそこに居たのは人には似ても似つかない生命体。
いや、正確には人に似通った部分はある。その唯一顔とも呼べれるであろう場所に。
紫色の体に蜘蛛のような六本の足。ソレらの根本…顔と呼べなくもない場所にあったのは……
「っぷ。おぇっ……」
人間の顔
ミスマッチにも程があるソレは、狂三や美九、エレン達が見たものよりも遥かに不快で、生理的嫌悪感を抱かせた。
その場にいた誰もがソレをみた瞬間、途方もない吐き気に襲われていた。唯一エレンだけは事前に見ていたのと一才合切視線を向けていないため正常なように見えるが。そのエレンですら初めて見た時はトイレに駆け込んだが。
「っはぁ、はぁ。何だお前ら、とうとう頭でも狂ったか?」
「私に言わないでください。こんなもの間違っても隣に置きたくないんですから。今すぐにでも殺してしまいたいくらいです」
「ダメダメ。そんなことしたら…解体しちゃうよ?」
「冗談です。さてマイラ・カルロス。貴方への任務はこちらと戦うこと。以上です」
「は?」
「それでは、どちらかが死ぬまで…は少し困るので戦闘不能になるまで続けてくださいね」
「おいちょっとま…」
マイラの言葉を聞くより先に、ソレは飛び出した。
数多く在る内の一体に過ぎない個体。それが生還しなかった。
『ギィギィ』『ギィギィ』
『しをすわつ』ころされた
『しをすわつ』ころされた
『らろすぬえ』ゆるさない
『らろすぬえ』ゆるさない
『ぜったい ゆるさない』
自我を得たソレらが抱く感情は
果たして偽物か。
できるならもう少し描きたかったんですが……構想が思いつかなかったのでキリのいいところまでで断念。
次もできる限り早く描きます(小声
それでは読んでくださりありがとうございました
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