デート・ア・ライブ 黄金の精霊   作:アテナ(紀野感無)

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胸の中の大事なものが抜け出たような気分だった
何か胸の中のつっかえが取れた気分だった。


もう迷えない。
もう迷わない。


私は奴を殺すために動く。
私はアイツと結ばれるために動く。


それが、今の私に残された唯一の贖罪だ。
それが、今の私に残された唯一の目的だ。



きっとそれが、私の人生の意味だ
きっとそれが、私の人生の終着点だ


51話 魔王の分離

あたりが静寂に包まれた。

 

何もかもが音を出すのを躊躇っているのか、それとも音すら出せないほど怯えているのか。

 

「……ふ」

 

静寂を打ち破ったのは1つの声。

 

「あはははは!成功だ!感謝するよ最古の人間の王!これで私を縛るモノはもう何1つ無い!」

 

その身に纏っていた霊装は十香の反転体に酷似していた。むしろ瓜二つ。

顔は神夏ギルにそっくりだった。唯一違うといえば、髪が濃い紫だということくらいだろうか。

 

「あ、そっか。瀕死だっけ。最古の王はどうでもいいけど元宿主とはいえ死なれるのは後味が悪い。応急処置くらいは……」

 

堕天王(ルシフェル)はすぐそばに横たわっていた神夏ギルを見て、言葉が止まった。

 

「傷が……」

ギャリッ

 

周囲に黄金の波紋が複数現れると同時、その全てからルシフェルへ向けられた剣・槍・斧などが射出される。

 

「……」

「危ないなぁ。ちゃんとその後の仕込みはしてたのね」

 

ヨロヨロと立ち上がった神夏ギルは、何とか姿勢を保ちルシフェルに向く。

 

「仕込みは、これだけしか無い。王様は、精霊の力を…と言うよりは自分を私の身体の中に留まるのと、エリクサー、あとはそのほんの少しの【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】で力を使い果たしちゃったから。今は私の中で寝てるよ」

 

「ふーん。にしてもそのエリクサーとやらが足りないんじゃないのか?今にも死にそうだぜ?」

 

「ギリギリ致命傷にならないようにだけ、最低限だけだから、ね。私の中に留まる事に力のほとんどを回してたから」

 

「それは私に取っては非常に都合がいい。万全の君達なら流石に逃げ切るのは無理そうだからね」

 

「ああ、無理だよ。今、の……わた、し、には……お前を……」

 

言い切る前に神夏は意識を失い、その場に倒れた。

 

「全く、そうなるのが分かってるんだから家に帰るのにその力を使えばよかったものを。ああ人間諸君。妾は逃げも隠れもしない。いつでも殺しに来い。歓迎する」

 

唯一意識の残っていた1人の人間へ向けルシフェルは言い放ち、その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

「この辺でいいだろ。おいラタトスク。見てるんだろ?今すぐ私をそっちに転送するんだ。でないと……コレ、殺しちゃうよ?」

 

人気のない裏路地で空を見上げながら告げる。

10秒くらい経って奇妙な浮遊感を感じ、数秒後にはラタトスクの船の中にいた。

 

「出迎えごくろーさま。マガイモノ…じゃなくてカマエル」

 

「五河琴里よ。それで呼ばないでくれるかしら」

 

「そら、君らが欲しいのはコレだろ」

 

カマエルに神夏ギルを放り投げる。受け止めきれず、倒れ、神夏ギルのクッションになっていたが。

 

「何すんのよ!」

 

「あーもう五月蝿いなぁ。詳しい経緯はソイツから聞け。以上。私を縛るモノはもう何もない。だから私は好きに動く。介入したけりゃ勝手にするといい。が……私の封印なんてものは考えない事だ。もししようとするなるば、そうだな、この街の生きとし生ける命の半分を還すとしよう。コレでも人間を殺すのは得意なんだ」

 

とは言ったものの、ここからどうするか。五河士道の家に行くとして、そこからどうするか何も考えていない。

 

「待ちなさい」

 

「嫌だ」

 

「いいから待ちなさい」

 

「嫌だって言ってんの」

 

「貴女の目的は、何」

 

「答える義理がない」

 

「もし貴女が、士道を傷つける先に目的があるなら、私は、私達は、貴女を全力で止める」

 

「止める?殺すじゃなくて?」

 

「ラタトスクはね、精霊は皆、救うって決めてるのよ」

 

「じゃあ私は救う対象じゃない。私は精霊じゃない。

 

単なる感情を持ってしまった生命体なんだから。精霊でも、人間でも、何でもない。

 

私はアイが欲しいだけの、この世の敵(イキモノ)さ」

 

 

 

 

 

〜半日後〜

 

「……」

「おはよう。神夏」

「ここは?」

「ラタトスクの治療室よ。半日くらい寝てたわよ」

「そう……」

 

目が覚めるとベッドの上にいた。記憶もはっきりしている。

 

ルシフェルは仕留めれなかった。しくじった。

 

「で、洗いざらい話してくれるんでしょうね?」

 

「ああ、全部話すよ。……その前に、精霊のみんな、それと五河士道をここに呼べる?」

 

「ええ。少し待ってなさいな」

 

部屋から五河琴里が出ていく。

……コレからのことを思うと、気が重い。

 

「……特に四糸乃には何で顔で会えばいいんだよコレ」

 

私が変になってからのことは全部、鮮明に、嫌というほど覚えてる。

やだもう、忘れていたかった。

 

「王様も、もう出てくる気配ないし、何か怒らせ……いや心当たりは沢山あるけど」

 

てか、うん。心当たりしかない。まあ、王様の手で処刑されるのなら本望だけれど。

 

「神夏、連れてきたわよ」

 

「ああ、うん、どうも。てか、コレ外してもいい?鬱陶しいんだけど」

 

「ダメよ。貴女一応胸を貫かれてるんだから。これでも処置としては軽い方よ」

 

「えー。……あれ、五河士道は?」

 

「ちょっと野暮用でね。今は来れないわ」

 

「ふーん。……大方、ルシフェルが独占してるんでしょ?」

 

「……」

 

「当たりか。まあそれならいいや。アイツは五河士道だけは絶対に殺さないだろうし」

 

何故かはわからないけどアイツは五河士道に執着している。狙うとしたらそこなんだけど……。

 

「……そんな怯えなくても、何もしないよ。入ってきなよ」

 

未だ部屋の外に隠れている四糸乃や八舞、十香達に呼びかける。

が、出てくる気配がない。

 

「来ないなら、今すぐに五河士道のもとに行ってくるとするよ。割と君らにも重要だったから呼んでもらったんだけど、五河士道が要らないというなら私が貰う。それでもいいんだね?」

 

すると真っ先に入ろうとした十香が転け、それに続いて八舞の姉妹が2人転け、四糸乃は後からおずおずと入ってきた。なお若干一名ほどが嬉しそーに十香達に乗っかっていたが。

 

「全員元気なようで何より。で……えーと、ガブリエルだっけ。人間の名前が……イザナギじゃなくて、イザなんとかミク」

「誘宵美九ですぅー!その節はお世話になりましたギルさん」

「ああ、こちらこそ。……で、ザブキエルは?」

「居場所しらないから呼ぶ手段がないわよ」

「ふーん。……じゃあ取り敢えず、だ。私から言うことが2つ……3つ……いくつだろ」

 

言おうとする前に、十香以外のみんなが同時に頭を下げてきた。

 

「?」

 

「「「「「ごめんなさい。神夏さん」」」」」

 

「……何が?謝られるようなこと、されたっけ私」

 

「あの日、私達はお前を傷つけた。たとえそれが操られていたとしても、それは私が、私たちが謝るべきことに変わりはない」

「謝罪。謝って済むことだとは思っていません。それでも……ごめんなさい。神夏」

「わ、私は、神夏さんを守るって約束したのに、神夏さんを傷つけてしまいました。大事な人に傷つけられるのはとっても怖いことだって言うのはわかってるのに…」

『ごめんね。神夏ちゃん」

「神夏、本当にごめんなさい。生きる事にようやく向き合おうとしていた貴女に、ミンチになれ、なんて事を言ってしまって。許されない事だと分かってる。でも、本当にごめんなさい」

「私のせいで、神夏さんにとてもひどいことをしてしまいました。これからは私にできる事ならなんでも言ってください。全力でやらせていただきますので!皆さんみたいに何かが得意って訳でもないですが。あっ!歌なら得意中の得意なのでいくらでもリクエストしてくださいね!」

 

謝られても、特に思い当たる節が……

 

「あ、あれか。天央祭の時のアレか。五河士道が女になった時の。確かガブリエルでほぼ全員操ってた時だ。それとルシフェルが出てきた時の……であってる?」

 

「なんで忘れてんのよ⁉︎」

 

「いや思い出したじゃん。とは言ってもね、あれは私の心の弱さが元々の原因だよ。冷静に考えれば、全員が私を裏切ったとかじゃなく天使に操られてるだけだってわかるはずだった。ていうかね……ぶっちゃけ顔から火が出そうなほど恥ずいからあの時の私は忘れてくださいお願いだから………」

 

今でも無駄に鮮明に思い出してしまうんだよアレ。ほんっっとうに恥ずかしいったらありゃしない。

中身が中学生くらいまで逆戻りしてたんだよなぁ……いやほんとに。四糸乃に抱きついていた辺りとか、士道と一緒に寝たりとか、本当マジで何してんの私。アホじゃねえの。危機感少しは持てよ。

 

 

 

 

 

 

「士道、少しだけ席を外すよ」

「ん?ああ。どうしたんだ?」

「ふふ、女の子の用事を深く聞くのはタブーだよ。なに、すぐ戻るさ」

「わかった。でも外で暴れたりしないでくれよ?」

「心配ないよ。仕掛けてこない限りは私もやらないから」

 

 

 

 

 

 

「ま、そう言うわけで特段気にしてないから、安心しなよ。どうせアイツは遅かれ早かれ出てきてただろうし。ただキッカケが運悪く君らになった、それだけの話。でだ、その話は置いといて。

君達も見てた通り、私は反転した。いや、元々していた。それは知ってるんだっけ?」

 

「ええ、士道から大体は聞いているわ」

 

「じゃあその後のことを話そうか。ステージで私はほぼ反転した。ほぼって言うのは、私と言う人格だけは残るようにアイツが……君たちがルシフェルと呼んでる存在がしていたから。

 

その後にルシフェルは己の中の感情が何かわからなくて、ずっと苦悩してた。そんな中で、唯一と言っていい苦悩から解き放ってくれる存在を見つけた、と言うよりは改めて再認識したんだ。それが五河士道だ。で、十香を助けに入った後は皆さんも見てた通り。まぁフルボッコ。その辺りから体の主導権を王様がゆっくり少しずつ取り戻していったから、あとは私がやろうと思えば体は奪い返せだはずだった。

 

でも私は、外との繋がりがすごく怖くて、本当ならいつでも体の主導権は取り返せたのに、ガブリエルによって皆が操られていないと分かっていたのに、ずっと閉じこもっていた。

 

だから、余計に事態が悪化した。他の誰でもない、私のせいで。

 

断言するよ。敢えてラタトスク、と言わせてもらおうか。

堕天王(ルシフェル)は殺すべき存在だ。なんなら今すぐにでもアイツを殺しに行くべきだ」

 

「そんなこと……「でも」

 

琴里が何かを言おうとすることに更に被せて言い続ける。

 

「君らは絶対それで納得しないことも分かってるつもりだ。十香や四糸乃ならまだしも、狂三や私でさえ『助ける』と、さも当然のように言ってのける君らが『殺し』と言う手段に納得しないことはわかりきってる。

 

君たちの言う平和的な解決というものに私も極力は沿おう。だがそれら全てが失敗した時に『殺し』と言う手段を取らざるを得ない事を念頭においてくれ」

 

 

 

「いやいや何ともまぁ、優しくなったことで。神夏ギル」

 

 

 

聞き慣れた声が、今は聞こえるはずのない声が聞こえ、私含めた全員が部屋の扉を見る。

 

「ちょっと前の、ラファエルの番いの時はそんな悠長なことはしなかったと記憶してるけどね。どういった風の吹き回しやら」

 

「殺せるものなら殺すさ。だけど今この場で殺し合おうとしても邪魔が入るのは明確だろ?それは外でやっても同じ。ならこいつらの気の済むまでやらせて、その上でお前を殺すと言う選択肢に文句を言わせないためだよ。で、お前どうやって入ってきた?大方、暗殺者の類のモノを使ったんだろうけど」

 

そこにいたのは自分と顔が瓜二つの精霊『堕天王(ルシフェル)』。精霊じゃなくて魔王と呼ぶ方がいいのだろうか。

服装こそ、自分の通ってる学校の制服になってるけど、ドッペルゲンガーを見てる気分だねコレ。

本当、髪が濃い紫なの除けば瓜二つだ。

 

「ピンポンピンポン!正解。流石にその手の知識で君には敵わないな。ほら、コレだよ。気配遮断してるから誰も気づかなかったろ」

 

ルシフェルの横から出てきたのは、ドクロの面を被ったもう1人の精霊。

 

「百貌のハサンか。さも当然のように使ってるけど、あれ一応英雄なはずなんだけどな。お前が使えるのって一応人類の敵なはずだろ」

 

「いやいや何を言ってるのやら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どう解釈しようとも、たとえ秩序を守るためであろうとも、宗教団体の崇め奉る相手であろうとも、暗殺者集団が人間にとっての敵にはなり得ないと?甚だ愚問だ。本当なら毒殺でも良かったんだけど、それだとあまりにも味気ないしね」

 

「確かにね」

「要件は何?まさか話に来ただけじゃないでしょ」

 

琴里が話に強引に入ってきて、ルシフェルに問いただす。

確かに、こいつはさっきまで五河士道といたはず。なんでここに姿を現したんだ?

 

「いやぁ、話に来ただけだぜ?ここに潜ませてたコイツからの情報で、マガイモノ含めた精霊の諸君が集まっていると知らされてね。話すついでに()()()()()()()()()

 

「宣戦布告?私たちと争おうっての?」

 

「いやいや、ラタトスクとやらに関しては私に関与してこない限りは何もしないさ。

 

だけどマガイモノ共は話が別だ。

あのステージで言ったろ?

 

君たちマガイモノを殺すのは確定事項だって」

 

ルシフェルが十香以外の精霊を一瞥(いちべつ)し、抜け抜けと言い放つ。

 

「なんてね。そんなに警戒しないでくれよ。()()殺す気はない。士道に嫌われたくはないからね。()るなら、1人ずつ、確実にやる。君ら全員をまとめて相手はできるけど骨が折れそうだ」

 

「なら丁度いいわ。私達も、貴女を「でも」っ?」

 

「それはそうとして、君たちは我が宿主を……元か。神夏ギルを裏切ったと言う事実は変わらない。特にザドギエル。君は念入りに絶望させて殺す」

 

おぞましいほどの殺気が四糸乃に向けられ、四糸乃が小さな悲鳴を上げながら後退りする。

 

そんな四糸乃を守るように、痛む体を無理やり動かし四糸乃の前に立つ。

 

「んー?何のつもりだい?」

 

「知れたこと。お前には誰にも殺させない。曲がりなりにも一度は同じ肉体に共生した仲だ。もしコイツらを殺すってなら、その前に私がお前を殺す」

 

「あっはは!そうきたか!でもできるのかい?確かに私の力は全盛期とは程遠い。だが、臆病で、小心者で、他人がいなきゃ何もできない、そんな弱虫な君が。私を殺す?寝言は寝てる時に言うものだぜ?」

 

「覚悟だけは、もう決めてるんでね。その時が来たら死んでもお前の命を貰いに行くさ」

 

「あっそ。精々楽しみにしてるよ。同胞(はらから)の時みたく、心躍る殺し合いにしてくれよ?では、士道を待たせてるからこれで失礼するよマガイモノ諸君。心配せずとも人間は傷つけないし、

君らにも今は手は出さない。普通に接してくれて結構。私を攻略したいと言うならいくらでもするといい。

だが私の邪魔だけはしない方がいい。その気になれば、人間全てを殺し尽くす方法なんていくらでもあるんだから」

 

その言葉を区切りに、ルシフェルはどこかに消えた。

 

 




「〜♪」

「いい事でもあったのか?」

「何でいい事だって思ったんだい?」

「いや、すごい上機嫌になって帰ってきたから」

「ああ。まあいい事と言えばいい事、かな。初めて本気の……いや何でもない。乙女の秘密、と言うことにしておこう。それはそうと、いい匂いだ」

「もうちょっとだけ待っててくれ。すぐにできる」

「楽しみにしてるよ。そう言えば一つ、君に聞きたいことがあったんだ」

「?火を使ってるから簡単なことにしてくれよ?」

「そんな大層なことじゃないさ。神夏が殺したがってた男の事、覚えてるかい?」

「え?あ、ああ」

「実は神夏がそれをそっちのけで私を止めるらしいんだ。私としては非常に複雑でね。神夏を裏切ったザドギエル……四糸乃、だっけか。アレらや心の底から憎く殺したいと、その様子を見るのが楽しみだったんだけど、嘗て願っていたモノを捨ててでも、神夏は私を止める事を選んだ。

それがね、なぜか嬉しいのさ。何でだと思う?私の事なのに、私のことがよくわからないんだ。これが愛なのかな」

「いや、それは愛とは呼ばないと思う。俺が思うに-------」

「……ふむ、なるほど。ありがとう、五河士道」

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