「……」
「下らんな」
「まあ、そう言うと思っていたよ。
でも、私からしたら結構重要なのさ。
なぁ、愛を貰うにはどうすればいいのだろうか。私は、ソレが欲しいだけさ。
未来永劫変わらない。私の目的はソレだけ……だと言ったら、どうする?」
「参ったね。また失敗だ。やっぱりもう少し精錬を重ねた方がいいのかな?」
……
「しょうがない。次に行こう」
……
気づいた時には、コイツの側にいた。
私が離れられるわけでも、コイツが離れて行くわけでもなく、とか言ってコイツは私に気づいた上で引き連れているわけでもない。
単にコイツは私のことを、単なる力の一片としか思っていないのだろう。
でもそれは正解だと思う。
現に、私はコイツの周りに漂っている力の一部にしかすぎないのだから。
なんの因果かわからないけど、ただの霊力が意志を持っているのだと思う。
喋ることもできないし、コイツが見ているモノのように目や仕草で訴える、なんてのも出来ない。
……でも、別に構わないだろう。特に何をしたいかも、何をするかもわからない。
自分が何者なのかすらわからない。だから、ずっとくっついていよう。
どうやら、コイツが力を行使する度に、僅かに漏れた力が蓄積されていくようだ。現に、私が意識を持った時と比べ、力自体は格段についた。
だが、それを行使できるかというとそうでもない。
私は、いったい何のために意志を持った。
何もできないというのに、なぜ私というモノが生み出された。
……もう少しだけ、コイツを観察してみよう。
そうしたら、わかるかもしれない
どうやら、コイツは特定のナニカへ一つの強い感情を抱いている。
事あることに『愛している』と言っている。
この感情が『愛』という名前らしい。
とても不可思議だ。
コイツは常に何かしらの負の感情を宿している。
けれど、その『愛』とやらを呟き、行動する時だけはとてつもない正の感情が溢れ返っている。
……そんなに、良いものなのだろうか。『愛』とは。
コイツが抱いている、この世の全てを壊しかねない程の負の感情を、まるで何もなかったかのように全て覆い尽くしてしまうほど、コイツの抱いている『愛』は素晴らしいものなのか。
欲しい。
どうやったら、手に入る。
直接、貰いに行けばいいのだろうか。
でも、どうやって?
何も出来ない、単なる力の一部でしかない、偶像が意志を持ってしまった私が、どうやってコイツに貰いに行けば良いのだろう。
話しかけれるようになる?でもどうやって実態を持つ?
考えないと。考えることしか、出来ないんだから。
やった。そうか。力があれば出来るんだ。
実際に、出来ることを彼女が証明してくれた。
私の存在にも気付いていたし、きっとそうだ。
これなら、私でも出来る。
愛を、貰いにいける。
その為には、もっと力を、強い力を。
コイツに、もっと力を使ってもらわないと。
「……」
「ルシフェル?どうしたんだ?」
目を覚ますと、映画館とやらの中だった。
何か冷たいような、不快感のようなものがあり頬を触ると、ナニカで濡れていた。
手で拭き取り、何もなかったかのように、なんとか顔を作る。
「何でもないよ。心配かけてすまないね五河士道。
さあ、次は何処に行くんだい?私をもっと楽しませてくれるのだろう?」
現在は、デート2日目。
朝から五河士道と共に過ごせている。
昨日は文化祭の後夜祭デートとやらで、今日は本腰を入れたデート、とのことだ。
それの初手でエイガというものを見ることとなって今に至る。
にしても涙など、私に残っていたんだな。そんなものとっくのとうに枯れ果てていると思っていた。
「それにしても、いい加減私のことは『ルシ』と呼んでくれよ。いい愛称だと思うんだけど」
「……なんか、妙に小っ恥ずかしいんだよ。ほら、なんか、その……」
「我が同胞やマガイモノ達は皆、名前呼びなのにかい?私だけ仲間外れか。それはとても悲しいなぁ。私、泣いちゃうかも」
「ああ!ごめんごめん悪かった!呼ぶ!呼ぶからそれやめでぇぇぇ⁉︎」
「あははっ。いいねその表情。私がよく知る表情だ」
故意的に涙を出しながら、霊力で物理的に圧力をかけながら、且つ呪い殺すような顔で近づくと、階段からズッコケた。
その様子に思わず笑みが浮かぶ。
「ごめんごめん。そんな睨まないでくれよ。つい楽しくなっちゃってね。それで、次は何処へ連れて行ってくれるんだい王子サマ。私は何処までも付いて行くさ」
「やった。できた。出来た出来た」
「やれやれ。
「お母さん。出来た。出来たよ。私、出来たんだ」
かつての彼女の見た目を真似して、おなじような事ができた。
私も、体を持つことができた。
喋ることができた。
お母さん、と言うのはそのモノにとって産んでくれたモノの事らしい。だとするならば、コイツは私にとってお母さん、と言う事だろう。
でも何故だろう。
ずっとコイツのそばで見てきたお母さんというモノが産んだモノに向けていた様な、あの『愛』とやらに溢れた感情を、一切感じない。
寧ろ、コイツから感じるのは、私が邪魔だと言う、はっきりとした負の感情だけ。
「ねえお母さん。何でそんな顔をしてるの?私は……」
「対処法は前例があるからわかってるさ。君は邪魔だから、サヨナラ。君の力は要るけれど君のその人格は私には必要ないからね」
その言葉を皮切りに、私の視界は真っ暗になった。
「やれやれ。何処から愛とか言う知識を身につけてきたんだろうねこの子は。前の時といい、今回といい、妙なことは立て続けに起こるものだ。
もう少し私も気を配りながら慎重にやるとしよう。この子も、もしかしたら彼の役に立つかもしれないしね」
「私の好きなもの?」
「ああ」
「ふーむ。そうだな。あまり考えたことがないな。先に言っておくけど別に破壊とか殺しとかが好きな訳ではないよ。そもそも無駄なことはしない主義さ。やりたい事はすぐに手を出してしまうけど」
「例えば、食べ物とかでも、景色でも何でもいいんだ」
「…………」
士道の言葉に、ルシフェルはしばらく黙り込み、そしてゆっくり口を開く。
「そうだね。強いて言うなら『愛情』かな」
「……へ?」
「ふふ、冗談さ。ふーむ。きな粉パンと君の料理かな。今のところはそれが一番好きさ。それと君の存在。……ま、愛情とやらは忘れてくれ」
サブタイトルあったほうがいい?
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あったほうがいい
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無くてもいい