デート・ア・ライブ 黄金の精霊   作:アテナ(紀野感無)

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お久しぶりです
リアルが多少落ち着いたので投稿です。

それではどうぞ


46話 決着 そして…

暴虐公(ナヘマー)による一撃は、軌道上にあるものすべてを消し去った。

 

ビルに、街に、地面に、一直線の虚無の道が出来上がっている。

 

ぁ……ぅ……がほっ……

 

「……アレをまともに受けても尚、息があるか。マガイモノとはいえ生命力だけは確かなものだ」

 

十香の一撃を相殺しきれなかったのか、ルシフェルはもはや虫の息も同然に地面に転がっていた。

しかしルシフェルに止めを刺すわけではなく、あたりをぐるりと見渡し不敵に笑う。

 

「ふふ、はははははははっ!」

 

その場にへたり込んでしまっていた美九も、焦って周りを見渡し、段々と顔が泣き顔へ、焦った顔へ変わっていった。

 

「……ッ!……」

 

声にならない声で士道の名を呼び、探すも見当たらない。

暴虐公(ナヘマー)によって消されたか、あるいはビルの瓦礫に埋もれているか。いずれにしろ、士道はもう―――

 

「消えた。消えた。――—ようやく消えた。私を惑わす奸佞邪知の人間が……!」

 

叫ぶように言い、十香は両手を広げる。

 

美九はにらめつけるように十香を見る。

だが……その直後、目を丸くした。

 

突きを背に浮かんだ十香の、そのさらに背後。

更に上空に。

 

「ふん、何を笑っているか我が従僕よ。勝ち誇るには未だ一手足りないのではないか?そこな元黄金にきらめく精霊には勝てたかもしれぬが、我らにはまだまだ及ばぬぞ」

「保護。夕弦たちの先見性は我ながら惚れ惚れします」

 

耶倶矢と夕弦によって発生させた風に覆われ浮いている士道の姿があった。

 

 

 

「ありがとな、耶倶矢、夕弦。助かったよ」

 

どうやら二人は、十香が【終焉の剣(ペイヴァ―シュヘレヴ)】を振るった瞬間、ビルの影から出てきて助けてくれたらしい。感謝してもしきれない。

 

「かか、気にするでない。これしきの事、我らには容易いことよ」

「首肯。ご無事で何よりです。――それより」

 

「ああ、十香は任せてくれ。二人は……神夏を頼む」

 

「うむ」

「了承。任されました」

 

 

 

 

 

 

 

(悲しいわ。悲しいわ。皆、私を嫌うわ)

 

(当たり前だ。君は本来この世界に在るべき存在じゃない。在ってはならない存在。

喚んだのは私だが、好き勝手はさせない)

 

(勝手だわ勝手だわ勝手だわ。

非道いわ非道いわ酷いわ酷いわ。

 

私はただ私で在るだけだというのに、皆それを拒絶する

 

そんな事をするのは悪い人だわ。魔女よ。きっとそう。貴女も、魔女よ)

 

 

(違うね。私はただの……

 

そう、ただの親の感情しか知らない、哀れな娘さ。でも関係ない。廻り巡って、ソレは私の感情になったのだから)

 

(……そう、なら、あなたも、みんな、消さないと。魔女は、悪い子は、みぃんな、殺してしまわないと)

 

(ふふ、それは無理だ。なぜなら、彼が、彼の仲間がいるからね。体の主導権は、君が潰えてから再度奪い返すとしよう)

 

 

 

 

 

 

それから、どれだけ経っただろう。

 

きっと僅かな時間しか経っていないのでしょうけれど、それでも()()()()にいると、とても長く、永く感じてしまう。

 

目に光が入り、少しずつ周りの景色が見えてきた。

あの魔女(ナヘマー)がいるのかと思っても、そんな事はなく、既に気配は消えていた。

 

代わりに私の目の前にいたのは風を操る魔女(ラファエル)が2人。

 

「目が覚めたか。元黄金の」

「僥倖。ちょうど十香達がどうにかなったところです」

 

「ふぅん……ゲホっ。

 

で、私をどうするつもりかしら?」

 

呵呵(かか)。決まっている」

「同意。貴女に贖罪を。私たちは貴女にこの上無い、酷い罪を犯しました。皆、同じ気持ちです」

 

「あは、あははは」

 

分かりきっている事を問い、想像通りの分かりきった答えが返ってきた。

 

ただそれだけなのに何故かとても可笑しい。

 

「どうした。頭でも打ったか元黄金の。それとも其奴の様な闇に蠢くモノを宿しているからか?」

 

「闇に蠢く?私のことかしら?わたしは貴女たちみたいな、悪い子とは、魔女とは違うわ。私は……そう、私は……

 

ただの、アビゲイル・ウィリアムズよ。堕天王(ルシフェル)や王様、私達の依代のあの人間の持つ力みたいな、特別じゃない。ただの、アビゲイル」

 

「否定。そんな訳ありません。十香のあの一撃を相殺できる存在が、特別で無い訳がありません」

 

「嘘付きだなんて、酷いわ悲しいわ。

 

で、私に何をするつもりかしら?」

 

身体が動かないが、風の魔女2人を睨み付ける。それくらいの事はできる。

正直、もう苦しい。いつルシフェルに還されるか分かったものじゃない。

でも私は、ただ、いろんな人をこんな気持ちにさせる五河士道(あのひと)と共に居てみたい。

パンケーキがあれば最高ね。

 

「そう慌てるな。我らはお主を倒すなどとは思ってはいない。士道が来るまで暴れぬよう、任されただけに過ぎぬ」

「思考。士道が貴女を傷つける、なんて事をしたがるとは思えません。きっと彼は……」

 

「「お主/貴女を助ける。そう言うに決まっている/違いありません」」

 

風の魔女は互いに同じ意味の言葉を連ねる。

助ける?私を?

 

そう。きっと堕天王(ルシフェル)と私は完全に別物というのを知らないのね。可哀想だわ。

 

「一つ、とてもとても良い事を、教えてあげる」

 

だから、可哀想な子には、施しをしてあげないと。

 

「私はね、所詮は堕天王(ルシフェル)に喚びだされただけ。結局私はルシフェルの操り人形なのよ。私だけじゃない、父なる神もね。

 

腹立たしいことこの上ないわ。憤慨だわ。ルシフェル(あの女)を、今すぐ殺してしまいたい。

 

でもそんなこと私には無理なのはわかり切ってるもの。私はあの女には手出しができない。

あの女に手を出せば消えるのは私だもの。

 

でも万が一があるから、あの女は私を本来の力は出せない状態で喚び出した。

 

貴女達が、誰を助けたいのかは知らないわ。私?あの女?それとも依代のあの子?

 

いずれにしろ、まずはルシフェルをどうにかするべきよ。

ふふ、ふふふ。楽しみだわ。苦痛に歪むのは貴女たちか、あの女か」

 

これから起こるだろうことを想うと、とてもとても、心の底から楽しくなってくる。普通じゃないことで楽しいと想うということは、とてもとても悪いことなのね。

 

 

「ルシフェル!」

 

 

もう大人しく、この世界から座に還ってルシフェルに体を戻してやろうとおもっていると五河士道の声が響く。声の方を見ると、五河士道とその傍に暴虐公(ナヘマー)……いえ、鏖殺公(サンダルフォン)がいた。

 

どうやら、無事みたいね。五河士道も、サンダルフォンも。

ナヘマーは分からないけれど。

 

五河士道が無事なら、それ以外はどうでもいいものね。

 

「あらあら。違うわよ。私は、ルシフェルじゃない。ルシフェルに喚ばれた、ただの、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズよ。……で、どうしたの五河士道」

 

 

「ルシフェル……いや、アビゲイル。俺を助けようとしてくれて、ありがとう」

 

 

「……」

 

五河士道の言葉に、思わず目が点になってしまった。

そして耐えきれず、笑いが溢れる。

 

「うふ、うふふ。五河士道。貴方は、お、おかしいわ。面白いわ。

 

 

何よりも、愛おしいわ。

 

 

うふ、うふふ」

 

「おかしな事を言ったつもりはないんだがな」

 

「おかしいわ。おかしいわよ。だって、この私に、感謝?

的外れにも程があるのよ。

 

私はルシフェル(あの女)の望み通り、貴方を守ろうとしただけに過ぎないもの」

 

「それでもだ。助けようと、守ろうとしてくれて、ありがとう。アビゲイル。どうせなら、ルシフェルにも伝えておいてくれないか?」

 

「それこそ、あの女に直接言ってやりなさいな。私は……そう、私はただの使い魔。あの女の望み通りに動く、ただの人形。それが偶々、貴方を助けるという行動になった。それだけよ。

 

だから、私にお礼は御門違い」

 

「それでもだ。助けようとしてくれたのは事実だろ?俺はそれが嬉しかった。ありがとう」

 

五河士道は、この人間はそう即答した。

それが何よりも可笑しくて

 

嬉しかった。

 

「ふふふ。じゃあ私も素直にならないとね。

 

どういたしまして。五河士道。力及ばなかったけれど、貴方のその行動だけで、私は救われる。

 

……それじゃあルシフェル。もう私はいいわ。あとは好きになさい。我が父なる神も、きっと、もう貴女如きどうでもいいでしょうから」

『最後の言い分は気に喰わないが、まあいい。それじゃあとっとと消えろ。人類の敵。私の士道に色目を使わないでくれないかな?』

「はいはい」

 

私の周りの我が父なる神が、次第に霧散していく。

私の力も。

 

元々力だけだったのを魂まで強引に喚び出しておいたから、元々無理はあった。それが成り立ったのは、異常なまでに霊力を供給していたからだ。

 

まあこうなってはもうどうでもいいが。

 

自我が消える最後の瞬間に、五河士道を見る。

 

精霊/魔女を殺せという私に課せられた命令すらどうでもいい。

ただ最後に五河士道を見ておきたくなった。一言伝えておきたかった。

 

「五河士道。さようなら。もう()()()とは会うことは二度とないでしょう。でも、貴女はとても稀有な存在。その心を持った人間は世界に殆どいない。

だからこそ……ルシフェル(この女)に負けちゃダメよ。

 

ほんの僅かだったけれど、貴方に会えて、よかったわ」

 

それを最後に私は意識を失った。

 

 

 

 

「はぁ。やっぱり魂ごと喚び出すのは最後の手段だ。こう何回も体を乗っ取られたら溜まったものじゃない。さて……それはどうでも良くて、だ。

 

やあ五河士道に我が同胞。それに……半端者達。どうやら危機はさったようで何より。

五河士道が生きているなら私はそれでよかったが。

 

まさか半端者達まで生き残ってるとは予想外の極みだ。君達如きじゃ暴虐公(ナヘマー)には殺されるだけだと思っていたが、評価を変えよう。君たちは、よくやった。あの面倒この上ないナヘマーを止めてくれて感謝するよ」

 

クトゥルフの、地球外の神とその依代を完全に消し五河士道達と向き合う。

全員が私を見る。1人は真っ直ぐ見つめ、他は全てが私に敵意の目を向けていた。

……いや、敵意は少し違うな。皆が、私にどうすればいいのか?と言う感情を抱いている。

 

くだらない。

 

「で?どうする気?私を捕らえる?殺す?好きにするといい。私は抵抗はあまりしないさ」

 

だが、そんな事を聞いたところで返ってくる答えなど分かり切っている。

きっと私と惹かれ合う運命である五河士道は、こう言う。

 

「決まってる」

 

「「お前/私を、助ける」」

 

最後の言葉に被せほぼ同じ文言を言うと酷く驚いた顔をしていた。

これでも、君の行動は評価しているんだぜ?

 

我が宿主を助けようとしたりだとか、他の半端者を助けようとした時とかも、ね。

 

「わかってるなら話は早い。なあ、ルシフェル」

 

「俺とデートをしよう、だろう?わかっているさ」

 

「そうだ」

 

「私としては構わない。むしろ君と共に在れるのだから大歓迎な方さ。ただね、我が宿主……神夏ギルの事となってくると少し不満がある」

 

我が宿主の名前を出した途端に、半端者の全てが、僅かだが動揺を示した。それは耳からなぜか響いてくるカマエルもそうだった。

 

「私はな、五河士道のことも大事ではある。が、我が宿主のことも十分大事に思っているんだよ。私が完全に表に出れるキッカケを作ったことに感謝はしている。だが、それとコレは話が別だ。

 

私は、お前たち半端者に制裁を加えなければ、気が治らない。なぁ、ザドギエル。……いや、四糸乃の方がいいかな?」

 

「っ……」

『おっとー。ウチの四糸乃を虐めるのはやめてもらおうか?』

 

ザドギエルは私が視線を送ると途端にビクッと震えた。

が、赦すつもりも見逃すつもりもない。

 

「あ、あの」

 

「……」

 

そんな中、恐る恐る話しかけてきたのはガブリエルだ。……確か誘宵美九とか言ったか。

 

「何」

 

「そ、その。た、たぶん。この子達が貴女を裏切ってしまったのは、私のせい、というか」

 

「だから?」

 

「……っ、だから……殺すのは私だけにしてください!」

 

意を決したのか、そう大声で言ってくる。無駄に耳に響くから煩い事この上ない。

 

「ふーん?どう言った風の吹き回しかな?ガブリエル、お前がそんな事を言うなんてね。お前は、我が宿主の記憶が正しければそんな性格じゃなかったはずだけど」

 

「ふふん。人はですね、変われるんですよ」

 

「あっそう」

 

人は変わることができる?そんなこと、()()()()()()()()()()()()

……いや、厳密には人ではないか。人の形をしたモノか。

 

「にしても、五河士道。君だけだ。私を畏怖せずに見てくれるのは。とてもとても。心の底から嬉しいよ。君だけが、私を見てくれる。

 

私を、普通の女の子として、見てくれる。コレがどれほど嬉しいことか。愛おしいことか。

 

ああそうだ。そんな君だからこそ、私は、君を守ろうと思える。

君以外の全てから。君以外の全てを殺してでも、私のものとしたい」

 

 

狂気的かつ妖艶な笑みで、堕天王(ルシフェル)は言う。両の頬に手を当て搔き毟るように。

 

 

精霊は皆、身構えていたが五河士道だけは唯一、怯えることもなく臆する事もなく、ジッとルシフェルを見つめる。

 

そして、十香をすぐ横にいた耶倶矢に任せ、ゆっくりとルシフェルに近づく。

 

 

「ああ、そうだルシフェル。お前はとんでもなく美しいさ。思わず見惚れてしまうくらいにな。それにお前のことを畏怖していない?とんでもない。

お前の力の凄さは身をもって分かっているさ。その力で十香たちを倒し、俺を助けてくれたからな。

 

でもな。それをふまえた上でも、俺はお前を『ただの、ちょっと変わった女の子』としか思えないのさ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()女の子にな」

 

「……」

 

ルシフェルは士道の最後の言葉に、思わず目を見開いていた。

図星、とでも言うように。

 

「はは、哀しみ?助けを求めてる?この私が?」

 

「ああ」

 

先ほどまでの笑みは消え、乾いたような、『信じられない』とでも言うような苦笑いをしていた。

 

「な、何を根拠に、そんな事を」

 

「お前の目だ」

 

「私の、目?」

 

「ああ、お前は感情こそ豊かなように見える。けどな、俺にはどうしても、その顔は、声は、助けを求めてるようにしか見えないし聞こえなかった。

 

それだけだ」

 

「……」

 

士道の言い分に全く根拠も何もないことにルシフェルは呆れてしまう。

 

が、ルシフェルが反論をできないのもまた、事実だった。

 

ルシフェル自身も、己の内にあるものが醜いものであることである事を理解していたからだ。

が、救いを求めているつもりは一切なかった。

 

つもりだった。

 

「はは。そんな……わけ、が、あるわけ、ない。この私が、他人に、救いを求める?

戯言にも劣る虚言だ。五河士道」

 

「じゃあ、それは何なんだ?」

 

「……?」

 

ルシフェルの頬を伝っていたのは、一筋の涙だった。流している本人も気付いてはいないようだったが。

 

「……なんだ、コレ。こんなもの……こんな感情、私は、知らない。

知らない。

 

知らない知らない知らない知らない。

 

 

堕天王(ルシフェル)】!」

 

ルシフェルは次第に顔を歪ませ、右腕を振り下ろす。

 

あたりに乱雑に黒い稲妻のようなものが落ちた。

瓦礫や砂埃が巻き上がり、一時的に視界が悪くなる。

 

それらが晴れた頃にはルシフェルはその場から消えていた。






私は、なんでこんな感情を抱いている。これじゃあ私は……
いや違う。私はあの女とは違う。


救いを求めることなど、あってはならない。


私は、孤独で在るべきなのだから。

サブタイトルあったほうがいい?

  • あったほうがいい
  • 無くてもいい

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