IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
B 俺は帰ってないぞ。
A いいんだよ細けえ事は。
B 明日も災害派遣だ・・・。
8月。IS学園は夏休みに入っていた。
ドン、ドン、ドン!っとドアを乱暴にノックする音が
「一夏!いるんでしょ?出てきなさい!」
騒音を立てていたのは、凰鈴音。ドアを開けろと、更に叩き続けていると・・・。
「うるせえぞ鈴!そこは壁だ!」
何の仕掛けもないように見えていた壁が突然開き、そこから一夏が顔を覗かせた。正面突破が常の一夏にしては回りくどいことをするものだと鈴は思う。
「何でドアのだまし絵描いてんのよ!」
それとは別に、絵ということを見破れなかったこと、普段とドアの配置がおかしいことに気がつけなかった恥ずかしさを誤魔化すために、彼女は一夏に怒りの矛先を向ける。
「提出し遅れたレポートの催促に山田先生が来るからだ。」
「くだらん。恐怖でおかしくなったか?相手はただの先生だ。どうってことない!」
呆れるほどに下らない理由。寧ろ、騙し絵を描く方が手間なんじゃないのかと鈴は思う。
「なに、諦めてくれるまで気長に待つさ。・・・あんまり空けているところを見られたくないんだ。中に入らないか?」
そんなことは微塵も感じていないように振舞いながらも、努力を不意にしたくはないようで、立ち話をするぐらいなら部屋に入るよう言う。
それを聞き、鈴がPON☆と手を打つ。
「そうよ、思い出したわ。お茶を飲みに来たんだった。」
「・・・自分で入れろ。」
「お邪魔します!」
一夏の言葉は聞こえていない振りをして、鈴は部屋へと入る。
「それにしても、今日は暑いわね。」
廊下と違い、冷えたい地価の部屋で鈴はそう呟く。
「当然だ。山田先生が来ないように、寮棟の空調を全部暖房にしておいた。」
「アホか!アホなの!?どんだけレポート書きたくないの!?」
今日は一段と暑いと思っていたら、その原因が目の前にいた。
「そうか、お前は暑いのが苦手だったな。だが、安心しろ。留守じゃない部屋はクーラーにしてある。」
「ならいいわ。」
言われてみれば自分の部屋はしっかりとクーラーが効いていたと思い出す。ならば、そこまで責めることもないと鈴の怒りは収まった。
「それより、飲み物頂戴。」
しょうもない理由でわざわざ訪れるあたり、鈴も彼の友達を伊達に長くやっているわけではないことがわかる。
「何がいい?」
「何でもいいわよ。冷たけりゃ。」
「そうだな・・・、今じゃ、殆どの家庭に設置されている、コックを捻れば出てくる素敵なドリンクバーのお水なんてどうだ?」
「いいわ・・・浄水器の水じゃないのよ!お茶だ!お茶を出せ!」
何でもいいと言っていた鈴だったが、すぐさまその正体が水道水であることに気がつくと、戸棚から茶葉を取りだし左手で一掴みとり浄水器を開ける。
「待て鈴!浄水器に茶葉を入れるな!お茶なら、ミネラルたっぷりの麦茶が冷凍庫で冷えてる。」
流石に水道をお茶にされては敵わないと、冷蔵庫に向かいお茶の入ったペットボトルを取り出す。
「最初から出しなさいよ、全く・・・。」
そうボヤきながらも、一夏に差し出されたペットボトルはしっかりと受け取り、蓋を開ける。
「あら、キンキンッに冷え・・・凍ってるじゃない!」
「じき溶ける。」
「待ってられないわよ!」
今度はティーパックを握りしめて浄水器に向かう鈴。
「分かった!悪かった!だから浄水器に茶葉を入れるな!!」
「茶葉じゃないわよ!お茶パックよ!!」
「分かったから、浄水器に入れようとするな!!」
慌てて冷蔵庫からお茶を取り出し、タライがいっぱいになるまでそれを注ぐ。
「まったく、あるなら最初から出しなさいよ。」
そう言って、鈴はストローを差すと一気に飲み干す。
そしてストローを置くと、机の上に無造作に置かれている冊子を手に取る。
「・・・これ、アルバム?」
「あぁ、そうだ。見ていいぞ。」
許可を得たので、鈴はパラパラとページをめくる。
「段々マッチョになっていくわね。」
「あぁ、俺の筋肉アルバムだからな。」
「・・・・・。」
物欲しそうな目の鈴を見て、一夏は悪意が湧いた。
「・・・いるか?」
「え?いる。」
その答えを聞いた瞬間、一夏は空になっていたタライにお茶を注ぎ込む。
「あんがと。・・・って、お茶じゃないわよ!もうたらふくよ!このアルバム頂戴って言っての!」
やや怒り気味の鈴に対し、一夏は普段通りの調子で返す。
「別にいいが・・・何に使うんだ?」
「知らない方がいいわ。」
「」
これは、あまり深く聞かない方がいいと思ったが、悪用するなら容赦はしないと睨む。
「・・・あ、そうそう、アンタ、夏の予定は?」
居心地の悪さに耐えかね、鈴は話題を変える。
「そうだな・・・、筋トレとトレーニングと、体作り、それ――」
「分かった。筋肉を鍛えまくるのは分かった。ちょっとは遊びに付き合いなさい。」
どうせ彼女が知っている今までの通りの一夏が今夏もいるのだと分かると、話を途中で止める。
「別に構わんが・・・何処に行くんだ?」
「聞いて驚かないでよ。ウォーターワールドよ!今月完成したばかりで、今月分の前売り券は完売。当日券も、2時間並ばないと取れない代物よ!」
「そうか。」
絶対に食いついて来ると踏んでいたのだが、一夏の反応はそれしかなかった。
「反応薄いわね。」
「遠泳じゃダメなのか?」
一夏がその気になれば、プール程度の水ならば一瞬にして蒸発して無くなってしまう。(勿論、そうしないこともできる。)
「いい分けないでしょ!?焼けちゃうじゃない!この前の臨海学校でもやばかったのに。」
そんなことなど、とうの昔に忘れている鈴は、屋根があり日差しが遮られるプールに誘う。
「悪かった。・・・で、チケットはあるのか?」
「寝ボケた事を・・・、私を何だと思ってるの?いつも突撃あるのみじゃなわよ?代表候補生で、しかもIS学園に行かせもらえるレベルなのよ。さっさと前売り券を買うのは当然でしょ?」
一夏は、チケットの有無も気にはなっていたが、それよれも気がかりなのは。
「あぁ、そうだな。で、お前のことだ。幾らで売りつけるつもりだ?」
「なあに、くれてやるわよ。」
予想の斜め上に来た答えに、一夏は思わず身構える。
「随分と気前がいいな。何か企んでいるのか?」
「別に。このアルバムと取り替えっこするだけだから。」
「・・・そうか。」
釣り合わない気がしたが、気が変わって代金を請求されるのも嫌だったのでおとなしく受け取ることにした。
「で、いつだ?」
「土曜よ。明日のね。10時ぐらいに、ウォーターワールドのゲート前に集合よ。」
「OK、準備しとく。」
「約束だからね。」
約束をすませると、鈴は再びタライへとストローを差す。そして、先程と全く同じ速さで飲み干した。
「ごちそうさま。じゃあ、帰るわね。」
鈴は、全く苦しいそぶりを見せず、部屋から手で行った。
「・・・よく飲むな。」
鈴が帰った後、一夏は空になった木桶のタライをひっくり返し、そこから一滴の雫さえも落ちないことにただ呆れるのであった。
「ふう、ようやく書類の整理が半分終わりました。」
その日の夜、山田先生は職員室で書類の山を仕分けしていた。
「それにしても、枚数多過ぎじゃないですかね?まあ、織斑君と篠ノ之さんのことを考えると妥当なのかも知れませんが・・・。」
そのときだった。書類の山が雪崩を起こし、床へと散乱する。
「あぁ!書類が!・・・面倒です。」
一枚でもわからなくなったら帰ることができないため、山田先生は急いでその全てを拾い集める。
「ふう。・・・え?こ、コレは!?」
最後の一枚を手にした時、それがまだ手付かずの書類であることに気がついた。
しかも、この積み上がった書類の中でも、間違いなく最重要のものだ。
「私は!自分のした事がなんにも分かってない!よくこんな事が出来たな・・・・・私が追い詰めたんだぁ・・・。私はもうおしまいだぁ!ギョワアァァァ!!」
そう叫ぶと、山田先生は椅子ごと後ろへぶっ倒れたのだった。
「無い!織斑君の部屋のドアがありません!!」
翌朝、9時。IS学園の寮に山田先生の驚いた声が響く。
「お、織斑君!?出てきて下さい!!」
「喧しいぞ!山田君!此処は寮だ!!静かにしろ!!」
ややパニックに陥っていた山田先生は、寮にほとんど人がいないとはいえ大声をだしていたため、目に捉えられない速さで現れた千冬に粛清される。
「す、すいません織斑先生!!し、しかしですね、織斑君にどうしてもして貰わなくてはならないことが出来まして・・・。」
「そんなものは、もっと早く済ませとけ!分かったら今日はもう休め。いいな!」
「は、はい!」
喉まで出て来ていた、「今日は始まったばかりです」という言葉を飲み込んだ。
「お、織斑くーん、出てきて下さい・・・。」
千冬の姿が見えなくなると、山田先生は、小さくドアへ向かって呼びかける。
だが、いつまで待っても返事がない。痺れを切らしドアをノックした山田先生は、叩き心地がドアのそれではないことに気がつく。
彼女は辺りの壁を叩き始め、そして。
「!!織斑君!ドアの位置は分かりました。出てきて下さい!」
遂にドアを見つけた。しかし、その呼びかけに返事はない。
「・・・合鍵で開けますよ???嫌なら返事して下さい?・・・開けます!」
なおも返事がないため、山田先生が最終手段を行使しドアを開けた瞬間。
チュドォォォォォン
強烈な爆音と、それとは裏腹な周りに被害が出ないギリギリにコントロールされた爆風が山田先生を襲う。
「は、はずれ・・・。」
以前の山田先生ならば、ここで心折れて地面と同化していたことだろう。
「で、ですが、こんなことでは挫けません!!」
そうならなかったのは、伊達に一夏やその仲間のヤベー奴らと過ごして・・・耐えて来た賜物だろう。
しっかりと自分の二本足で立っている姿に、一夏はニッコリと笑った。
「・・・ハッハ、参ったよ。降参だ。」
「お、織斑君、こ、コレをして下さい。」
そんなことまで気にかける余裕のない山田先生は、必死の思いで守った書類を目の前に突き出す。
「悪いな。今日は先約が入っているんだ。勝手にしろ。お前のミスだ。昇進し遅れても知らんぞ。」
にべもなく断る一夏。
しかし、山田先生は諦めない。一夏の両肩をガッしりと掴むと。
「そ、そこを何とか!!」
「・・・。」
一夏が黙ったのは、熱意に押されたからではない。
彼は、最小限の首の動きで辺りの様子を伺っていた。
誰もいないことを確認すると。
「山田先生。」
「はい?」
ドベキシッ「オフィッ・・・」【1/2000】
承諾してもらえたと思い顔を上げたところへの一撃。なす術なく山田先生はダウンする。
眠りについた山田先生を、一夏は休憩スペースまで持っていくと、椅子の上に遺棄する。
「コレで片付いた。」
部屋に戻り荷物を手に取ると、一夏は駆け足でウォーターワールドへと向かった。
「待ったか?」
彼がウォーターワールドに着いたのは、10時丁度だった。
「10分ぐらいね。入りましょ。」
「・・・何かあるのか?」
やけに急ぐ鈴を、何か隠しているのではないかと一夏は疑う。
「直に分かるわよ。」
そう言ったすぐ後だった。
『ピン、ポン、パン、PON☆。これより、第1回ウォーターワールド水上ペア障害物レースを開催します。』
「成る程。」
実に鈴らしい行動だと、一夏は納得する。
「お前が参加すると言うことは、何か裏があるんだろ?」
「そうよ。これに優勝すると、沖縄の旅5泊6日が貰えるの!」
「お前、焼けるのがどうのこうのいってなかったか?」
嬉々としてそう答えた鈴に、一夏は白い眼を向ける。
「・・・気のせいよ。それより、アンタもシュロより椰子の木陰の方が好きでしょ?さあ、受付に行くわよ。」
「あぁ。」
ばつが悪そうだったので、一夏はそれ以上深く踏み込まないでおくことにした。
「・・・随分と視線が痛いわね。何でかしら?」
「さあな。」
受付をしている間、周囲の人(主に男性)からの視線がやけに攻撃力を持っていたが、そこで空気を読んでやる彼らではなかった。
B そう言えばまたBS朝日だかがコマンドーやるってなぁ?
A ああ、復帰には丁度いい!!・・・が、まだまだ忙しいからな・・・。