A.多分いける。たくさん医者と科学者がついてるからね。
翌日の夕方。
体育館で、一夏の特訓が始められることになる。
「これがイチカの専用機だね。名前は、白式(びゃくしき)か。」
「…白い。」
そこには、白い機体が置かれていた。
倉持技研が製作したISである。
「まずは、装着してください。体内のナノマシンと白式のナノマシンとの伝導状態を計ります。」
「椎堂さんは、打鉄(うちがね)をご使用ください。」
「はいはーい。」
「……。」
「イチカー。怖いの?」
「こ、怖くなんてない!」
ツムグの言葉に一瞬肩を跳ねさせたイチカだが、すぐに持ち直してスタッフ達の手を借りて白式を装備し始めた。
様々な機器が体育館に持ち込まれており、機材のほとんどのコードが白式に取り付けられていた。
「ハイパーセンサー、正常に作動中。」
「最適化処理完了まで、あと40秒。」
「イチカの心音、脈共に正常です。」
「とりあえず、大丈夫そうだね。」
「あなたが言うのならそうなのでしょうね。」
「なんだよ! こっちは、何が起こるか分からなくて冷や冷やしてるのに!」
ツムグと守代の会話を聞いたイチカが怒った。
「最適化完了。」
「へえ、これが白式か。綺麗だね。」
すべての最適化が済んだ機体は、白く、美しかった。
「ツムグさん。早く打鉄を装備してください。」
「はいはい。あー、邪魔くさ。」
守代に急かされ、ツムグは、ブツブツ言いながら打鉄を装備した。
ツムグとイチカは、体育館の中央に開けた場所で、十数メートル離れて向き合った。
「イチカ。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんの、ブルーティアーズは、遠距離射撃型だ。ハッキリ言って、遠距離装備のない白式じゃ、とんでもなく勝つのは難しいと思う。」
「いきなり言うなぁ…。」
「ただ白式は、スピードにおいては、学園最速だ。それを利用しないとまず勝てない。というか、勝負にすらならないだろう。」
「つまりスピードで、攻撃を回避しながら攻撃しろってことだろ?」
「ま、そういうことだね。俺は、事前に見たブルーティアーズの戦闘映像を真似て攻撃を行うけど。イチカは、まず体を慣らすことから始めよう。そもそも専用機乗ったのがこれが初めてなんだから。」
「分かった。」
「まず初歩中の初歩。移動からだ。ゆっくりでいいからまっすぐ動いてみて。」
「分かった。」
イチカは、前に前進した。
「よしよし、安定感は良し。次に止まる。良し。」
止まるよう言った途端に止まれたことを褒めた。
「次に最速状態で前進。それから停止。壁にぶつかる前にね。」
「む、難しいな…。」
イチカは、瞬時加速を起動させ、最速で前進した。
そして、壁にぶつかった。
「うぐ…。」
「ほら、早く立って。もう一回。できるまでやる。」
壁に顔を押し付けた状態でズルズルと床に倒れていくイチカに、ツムグは、容赦なく言った。
その後、何度も壁にぶつかりながら、数時間して壁にぶつからなくなった。
「は~、もっとかかるかと思ったけど、センスいいね、イチカは。」
「そりゃ、どうも…。」
「次は、好きな時に、止まって、方向転換。」
「まだ移動の練習かよ…。」
「武器を使えても、足がついていけなきゃ途中でこけて倒れて良い的になるだけだよ。我慢我慢。」
「くそ!」
イチカは、悪態をつきながらも、言われたとおりに練習を続けた。
スピードについていけず、絶対防御により、体育館内をバウンドしながら移動の練習を続けた。
「うっ…!」
「イチカ君の心臓に異常発生!」
「燃料(※ツムグの血)切れか。」
「一夏!」
「どいてください!」
イチカに駆け寄ろうとした箒をスタッフが押しのけ、事前に採取しておいたツムグの血を首筋に注射した。
「うぅ…ああぁ…。」
「一夏、一夏! 貴様ら、一夏になにを!?」
「あれは、イチカ君に必要なことですよ。」
激昂する箒に守代が冷静に答えた。
やがてイチカは、起き上がった。
「今日のところは、ここまでにする?」
ツムグが聞くと、イチカは、ハアハアと荒い呼吸を繰り返しながら、唇を噛んで渋々頷いた。
そして白式を解除すると、イチカは、倒れ込んだ。
「一夏!」
「医務室へ搬送を。」
「一夏、一夏!」
「大丈夫。死なないから。」
担架で運ばれていくイチカに駆け寄ろうとする箒を、ツムグが止めた。
箒は、ギッとツムグを睨んだ。
「なぁに?」
「一夏に何をしたんだ!」
「それはね…。」
ツムグは、千冬にした説明を箒にもした。
箒は、ツムグの心臓がイチカに移植されていることと、モンド・グロッソでのイチカ誘拐事件時にイチカが死亡寸前に追い詰められていたこと、移植はイチカを救うためであり、そもそもツムグの臓器移植プロジェクトが立案されたのが、自分の姉である篠ノ之束が開発したISによるところあると知り愕然とした。
「そんな…。」
「ISがなかったら、そもそも俺の臓器なんて移植できなかったよ。」
「あの人がISなんて作ったから…。」
「イヤむしろ、幸運だったんじゃないかな? ISがなかったらイチカはあそこで死んでたと思うよ。」
「だがISがなければ、ISの大会など行われず、一夏が誘拐されることもなかった!」
「…それもそうだね。」
ポニーテールを振り乱し、涙を零す箒に、ツムグは、表情を無にして呟いた。
「全部、全部あの人の所為だ!!」
箒は、泣き崩れ、その場に両膝をついて叫んだ。
ツムグは、知っている。箒は、束がISを開発したため一家離散という悲しい経験をし、その後も篠ノ之束の妹として日本全国を転々とさせられ、束が行方をくらましてからは、執拗な尋問や監視を受け不遇な青春を送り、そして学園に強制的に入学させられたことを。
箒の中で、束への憎しみは増大しただろう。
「そもそも俺がいなければ、イチカは、一夏でいられたかもね。」
「…なに?」
「俺が検体として一夏を推薦しなければ、一夏は、君の隣にいられたかもしれない。そういう未来がありえた。」
ツムグは、ヘラッと笑った。
「…なぜ、一夏を選んだ?」
「気紛れ。」
「…貴様ぁ!!」
箒は立ち上がり、ツムグに掴みかかった。
ツムグは、箒に首を掴まれたがヘラヘラした顔でそれを受け入れた。
「プロジェクトが成功さえすれば、イチカは自由だ。俺の力なしに心臓が正常に動けばね。」
「っ…。」
すると箒の目の色が変わった気がした。
「ま、君の自由だけど。」
ツムグは、そう言い、ヒラヒラと手を振りながら立ち去って行った。
残された箒は、ツムグの後姿を見つめていた。
***
その翌日。
「移動は、できるようなったし。次は武器を持ちながら動いてみようか。」
「やっとか。」
「まずは、武器を展開してみて。」
言われたイチカは、雪片弐型を展開した。
「なるほどねぇ。他の性能で圧迫されて他の武装が乗せられないのか。」
ツムグは、事前に見ていた白式の資料を思い出して呟いた。
「刀一本でどうしろってんだよ…。相手は、遠距離射撃型なんだろ?」
その刀が姉がかつて使っていた雪片であろうと、イチカは喜べなかった。
「その代り、ワンオフアビリティがすぐ使えるんだよね?」
「ああ、うん。……えっと、コレ…、零落白夜(れいらくびゃくや)?」
「それだ。確かシールドエネルギーを武器転換して、ISの絶対防御を無視して、本体を攻撃できる、まあ言ってしまえばISの天敵だな。」
「…ちょっと待て。それだと本体はどうなる?」
「つまり?」
「いや、だから…切られた本体は?」
「死ぬ。場所が悪かったら。基本的なISのあの格好だと、手足も逝くかもしれないなぁ…。」
「そんな武器いらねぇ!!」
「まあまあ、武器や装甲は壊しやすいと思うぞ? 何せ絶対防御を無視するんだから。」
「それでもいらない…。」
「じゃあ、こうしよう。いかに相手を殺さないように、戦闘不能に追い込むか。これで行こう。」
「ええー!」
「ブルーティアーズは、ビットを装備してる試作機だ。ビットさえ無力化すればかなり有利になるはずだ。ビットを切り落とす練習をしよう。」
「でも打鉄にビットは…。」
「俺がサイコイリュージョンで、ビットを擬似的に作ってやる。それを切れ。」
ツムグが片腕を振るうと、四つのビットが中空に出現した。
まるで実体があるかのような見事な再現率とリアル感に、イチカだけじゃなく、箒もあんぐり口を開けた。
なお、守代を始めとしたスタッフ達は慣れてるので微動だにしなかった。
「さあ、さあ。始めようか。あ、そうそう、ビットの攻撃は、そのまま擬似的に痛みになって襲って来るから撃たれても大丈夫だなんて思わないことだよ。」
「なんだとぉ!?」
「そーれ!」
「うわあああああ!」
襲い掛かってきた幻のビットからイチカは、咄嗟に後方に下がって逃げた。
「逃げちゃダメ。」
「そ、そんなこと言われても…。」
「一夏ーー! 男なら根性見せろーーー!」
「ちょっと黙ってろ箒ぃぃぃぃ!」
「ほらほらほらほら~、逃げてばっかりじゃそのうち負けるぞ?」
「痛い痛い、痛いって!」
ビットから放たれる幻のビームやミサイルが当たり、白式のSEを削らず、イチカの脳が痛みとして錯覚して痛みを感じていた。
「イチカ君の心音が激しく乱れています!」
「ツムグさん。負担をかけすぎないでください。」
「ダメダメ。本物のブルーティアーズの動きをさせてないんだからこれができなきゃ勝てないよ?」
「ぐ…、こ、……このぉぉぉぉ!」
撃たれっぱなしだったイチカは、雪片を振り、ミサイルを切った。そして頭を下げ、レーザーを避ける。
そしてビットの一つの下に潜り込むと、それを切り裂いた。
切り裂かれたビットの一つは、チリのようになって消えた。
「や、やった!」
「隙あり。」
「あっ。ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「一夏ああああああああああああああああ!!」
下に潜り込んだ時の無理な体勢で止まってしまったため、残るビットの的になり、集中砲火を受けてしまった。
白式を装着したまま、イチカは、うつ伏せで倒れ、ピクピクと痙攣していた。
「ツムグさん。やり過ぎですよ。」
「痛みを覚えるのも特訓の内だよ。」
守代に窘められても、ツムグは、ヒラヒラと手を振って何のことはないように言った。
少ししてやっと起き上がったイチカは、中空に浮遊する幻のビットを見て恐れをなし、特訓にならなかった。
そうしてこの日の特訓は終わった。
***
その翌日。
再び幻のビットによる特訓を開始しようとしたが、イチカが過呼吸を起こした。
それでも踏ん張ってビットを切ろうと頑張ったが、一つだけしか切れなかった。
「ビットが怖くなっちゃったか…。これだとブルーティアーズを前にしたら過呼吸で棄権ってことになるぞ?」
「そ、それだけは…、避け…る…。」
「紙袋持ってきて。はい吸って、吐いて、吸って吐いて。よーしよし。」
「…次は、全部…切る!」
「……やろうか。」
イチカが落ち着いたところで、再び幻のビットを出現させ、攻撃を開始した。
イチカは、ギリギリまで攻撃を引きつけ、ギリギリで避け、まずひとつ目を切った。
続いて後ろ回り込んでいたビットをしゃがんで避けると、下に潜り込んで切り、左右から攻撃を仕掛けて来た残る二つのビットを回転して二つ同時に切った。
すべてのビットを切り終えた後、静寂がおとずれた。
「おお…。よくできました。」
ツムグは、拍手した。
「やったな、一夏!」
「やったぜ、箒…。」
「じゃあ次は、ブルーティアーズを真似た模擬戦をしようか。」
「………へっ?」
「ブルーティアーズの試合映像を真似して、戦って見せるから、頑張って、ね?」
ブウンッとブルーティアーズとそっくりの幻のビットが出現し、そして打鉄までブルーティアーズの姿に変わった。
「えっ、ちょ、まっ!!」
イチカの悲鳴が木霊した。
そして再び担架で運ばれていった。
一夏、原作より強化。
姉と同じ武器にたいして文句言う。
もうだいぶ原作の一夏からかけ離れてますね。
人間は、錯覚でも死ぬらしいので、幻覚系超能力による攻撃で痛みを感じるし、下手すると死にます。
ハイパーセンサーが実体を認識しないためSEは削れません。