IS×椎堂ツムグ、ネタ   作:蜜柑ブタ

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VTシステム編?

原作よりかなり強化しています。


第十九話  偽りの戦乙女

 ラウラと箒のペアが勝ち上がっていく中、イチカとシャルロットのペアも勝ち上がっていた。

「…俺の勝ちだな。」

「ええ…、負けたわ。ますます強くなったじゃない。」

「そりゃどうも。」」

 鈴のペアを倒し、次の対戦の準備のため、ピットへ戻る。

 

「イチカ…。次は、ボーデヴィッヒさんのペアだね。」

「ああ…。」

「どうするの?」

「デュノアには関係ねーよ。」

「そんなこと言わないでよ。僕達、今はペアじゃない。」

「関係ない。俺は手を抜かない。だからデュノアも、手加減するなよ。」

「…分かった。」

 シャルロットは、頷くより他なかった。

 

 そして、試合時間が迫り、二人は準備を整えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 試合のステージに、イチカとシャルロット、そしてラウラと箒が対峙した。

「……っ。」

 イチカは、一目で、ラウラが微かに震えているのを見抜いた。

 おそらくこの戦いが、ラウラにとって最大の難所となるであろう。

 しかもラウラには、イチカに対して負い目がある。自分の生き死にがかかっているとはいえ…私情を挟むことは軍人である彼女にとってはタブーなはずだ。

 一方で箒の方も、かなりの気迫を感じられる。

 今まで後ろでラウラの単独戦を見守る形になっていた箒が、一体どうした心境の変化なのかは、イチカには分からない。

「ボーデヴィッヒ。」

「な、なんだ?」

「手加減はしないからな。」

「あ…、ああ。」

「だから…おまえも、全力で来いよ? いいな!」

「……分かった。」

 顔色が悪かったラウラであったが、戦闘モードに入ったのか、表情が変わった。そこはやはり軍人だ。

 

 賭けるしかない!

 

 イチカは、ツムグが言っていた、この大会が壊れるほどの不測の事態が発生する可能性に賭けることにした。

 雪片を握る手にも力が自然とこもる。

 そして、試合開始のブザーが鳴った。

「はああああああああああああ!」

 箒が先手をうってきた。

「デュノア! 箒は任せる!」

「分かった!」

「イチカ!」

「わりぃな箒。」

 箒をシャルロットに任せ、イチカは、ラウラに剣を向けた。

「行くぞ!」

「来い!」

 イチカがハイスピードで接近する。

 途端、ラウラが片手を前に出し、AICを発動しようとした。

 直後、残像を残してイチカが消えた。

「なっ!?」

「横ががら空きだ!」

「くっ!」

 ラウラは、プラズマ手刀を展開し、イチカの斬撃に対応した。

「まさか、ここまで速いとは! 恐れ入る!」

「そりゃどうも!」

「だが、私は負けんぞ!」

「おお!」

 そこからは、接近戦による凄まじい両者の攻撃が続いた。

 あまりの速さに、観客席は騒然となっている。

「すげぇな! おまえ!」

「そっちこそやるな!」

 気づけば、二人は笑っていた。

 あれほど気鬱だったISによる戦いが楽しくなったイチカと、生死がかかっているのに今この戦闘を楽しんでいるラウラ。

「けど、負けねえぞぉおおおおおおおおお!」

「私もだあああああああああああああ!」

 

 イチカとラウラの攻防は続いた。

 

 その凄まじい戦いに、試合を見ていた観客達は釘付けになっていた。

 

 ラウラのワイヤーブレードが白式の肩を破壊し、イチカは、雪片でシュヴァルツェア・レーゲンの右肩を破壊した。

 そうなって、二人は、いったん距離を取った。

「やるじゃねぇかよ…。」

「イチカこそ…。」

 二人は、ゼーゼーと荒い呼吸を繰り返していた。

 イチカは、ラウラを観察していた。

 ツムグが言っていた不測の事態とやらは、ラウラの負けたくないという気持ちが高まったときに起こると言っていた。

 まだなのか? まだ足りないのか? それとも賭けは失敗したのか?

 イチカの脳裏を不安が過ぎる。

「イチカ…。」

「なんだ?」

「私は、おまえと全力で戦えて…満足だ。」

「おい!」

「私にはもはや未練はない! 全力を尽くすまで!」

「ふざけんな!」

「なに!?」

 戦いを再開しようとしたラウラに、イチカはたまらず叫んでいた。途端ラウラは止まった。

 イチカは、確信した。ラウラは、もう負けたくないとか以前に、もう諦めているのだと。

「……何が未練はないだよ。」

「何を言っている? 私は…。」

「本当に…、そうなのか?」

 イチカは目を細めた。

「なんだと?」

「おまえ…、遺伝子強化なんとかって奴なんだろ? おまえ以外にもいたんじゃないのか?」

「ああ…。それがどうした?」

「そいつら…どうなった?」

「それは…。」

「お前残して、全員失敗作の烙印を押されたんじゃないのかよ。」

「違う!」

「それだけじゃない。お前一人を作るのに、どれだけの失敗作がいたと思う?」

「それは…知らん。」

「そいつらが…生きたいって思わなかったと思うか?」

「なに…?」

「お前を妬まなかったと思うか? お前が羨ましかったと思わなかったか? お前に、何も託さなかったと思うか?」

「それは…。」

「お前は、負けちゃいけねぇんじゃないのかよ! お前の生のための礎になった奴らのためにも!」

「わ、私は…!」

「全力で戦いを楽しんでるのに、未練もへったくれもあるか! お前は、本当は生きたいんだよ!!」

「私は…!!」

「だったら、しがみつきやがれ! くそったれな未練だと分かってても、しがみついて離すんじゃねぇよ!」

「……たくない…。」

「あ?」

「……負け…たくない…。」

「聞こえねぇぞ。」

「負けたくない! 私は、私は! 生きたいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ラウラが涙をまき散らしながら叫んだ直後。

 異変は、起こった。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「な、なんだ!?」

 ラウラがまとうシュヴァルツェア・レーゲンが変形を始めた。

 それは、ドロドロに溶け、ラウラを包み込んだ。

 シュヴァルツェア・レーゲンの原型を失い、けれどラウラのボディーラインを残して、全く違う形に変わってしまった。

 その手に握っている武器は…、イチカが握る雪片とそっくりだった。

「なんだよ…、これ…? これが…まさか…?」

「……。」

 だらりと腕を垂らしていたラウラ(?)は、次の瞬間、残像を残してイチカに切り掛かった。

「なっ!」

 すんでのところでイチカは、その攻撃を雪片で受け止め、それから距離を取った。

 ラウラ(?)が機械の音質で獣のように雄叫びを上げる。

 

『イチカ! 聞け!』

「千冬姉!?」

『それは、VT(ヴァルキリートレース)システムだ!』

「う゛ぁるき…?」

『モンド・グロッソの優勝者の戦闘能力をトレースする、アステカ条約で禁止されている技術だ!』

「ってことは…、雪片持ってるってことは、これは千冬姉を再現したものかよ!」

『気をつけろ! 模造品とはいえ、零落白夜が使えるはずだ! 今教員部隊が生徒達と要人達を避難させている! 会場のシールドを破られないよう、引き付けていてくれるか!?』

「分かった!」

『すまん!』

「デュノア! 箒! お前らは避難しろ!」

「で、でも…!」

「イチカ! 私はそこまで頼りないか!?」

「そうじゃねぇよ! コイツが千冬姉と同等なら、お前らが束になっても勝てないっていうことだ!」

「くっ…、そうか…。」

「でも、イチカ…。」

「いいから、逃げろ!」

「っ…分かった。行こう、篠ノ之さん。」

「イチカ! 死ぬな! 必ず、戻ってこい!」

 シャルロットと箒は、ピットに急いで逃げていった。

 ラウラ(?)は、そちらには全く関心がないのか、追わない。それどころか、目もくれない。

「……さあ、戦おうぜ。」

 イチカがそう言って構えると、ラウラ(?)は、再び雄叫びを上げた。

 そして、雪片を振りあげ突撃してきた。

 イチカは、残像が残るほどのスピードで横に廻るこむ。だが…。

「なに!?」

 すぐさま横を向いてきたラウラ(?)の攻撃を受けてしまった。

 これが零落白夜だったら、身体ごと切り裂かれていただろう。SEが削られただけで済んだ。

「くっ!」

 ラウラ(?)は、大声を上げながら、斬撃の嵐を繰り出した。

 イチカは、防御に徹した。

 防御でがら空きになっていた腹部に、もろに蹴りが入り、イチカはステージの端まで吹っ飛ばされた。

 ラウラ(?)が追撃するべく、ハイスピードで迫ってきた。

 振り下ろされた斬撃を、イチカは横に転がって避けると、ステージの素材が切り裂かれた。

『イチカ! 教員部隊が行く! おまえも撤退しろ!』

「だ、ダメだ…! コイツには…。」

 イチカがそう叫ぼうとした直後、ピットから教員のIS部隊がなだれ込んできた。

 ラウラ(?)がピクリッと反応し、自分に向かって放たれてきた弾丸の雨を剣だけですべて防いだ。

「なっ!?」

 銃火器を使っていたIS教員部隊が驚愕する。

 続けざまに、無数のミサイルを発射するが、それも切られて防がれた。

「この!」

「ダメだ!」

 ならば接近戦だと近づいた教員を止めようとイチカが叫ぶが、止まることはなく、その教員は一撃で落とされた。

 それを見た教員達が一瞬止まる。

 その隙を突いて、接近したラウラ(?)は、次々に教員達を沈めた。

「ひ…ひいいい!」

 怖じ気づいた教員が背中を向けるが、回り込まれ、真っ正面から切られて沈められた。

 そして、すべてのIS教員部隊が倒れた。

 ISが解除されただけでアリーナのステージの上に気絶した教員達が転がっている。

「嘘だろ…。」

 これだけISを装着した人間達が束になっても勝てないだなんて…っとイチカは愕然とした。

 そんなイチカに、ラウラ(?)が顔を向け、そして攻撃しようとした。

 その直後。

「私の弟に、手を出すな!」

「ち、千冬姉!」

 打鉄を装着した千冬が乱入し、蹴りひとつでラウラ(?)を吹っ飛ばした。

「イチカ! よく相手の攻撃を見ろ!」

「えっ?」

「あれは、私のコピーだ。つまりお前に教えた技を使っている。」

「! そ、そうか…。」

「スピードや、攻撃力は底上げされているが、基本は、“昔の私”だ。」

「分かったよ、千冬姉!」

 千冬とイチカは、剣を構えた。

 ラウラ(?)が新たな敵の出現を認識し、吠える。

 千冬とイチカが同時動く。

 途端、ラウラ(?)が一瞬もたついた。

 千冬とイチカからの斬撃を受け、ラウラ(?)のSEが削られ、黒いドロが揺らいだ。

「今だ!」

「おおおおおおおおおお!」

 イチカは、零落白夜を発動し、ラウラ(?)が手にしている雪片を叩き切った。

 ラウラ(?)は、悲鳴じみたな鳴き声を上げ、黒いドロが更に大きく揺らぎ、折れた雪片の模造品を修復した。

 黒いドロは、その修復で力を失いかけているのか、ラウラの顔の一部が露出した。

「あ……あぁぁあ…。」

「ラウラ!」

「きょ……ぅ…か……。」

「今助けるからな!」

 イチカは、さらに攻撃を加えるべく、零落白夜を発動しようとした。

 その時、ラウラ(?)が飛び、あろうことかアリーナのシールドを破ろうと、模造品の零落白夜を発動した。

「逃げる気か!」

「させるか!」

 ひび割れていくシールドを割ろうと再び零落白夜を振り下ろそうとしたラウラ(?)の後ろから、イチカは攻撃し、アリーナのステージに向けて落下させた。ラウラ(?)は、激突直後で体制を整え宙に浮く。

「はああああああああああ!」

「うおおおおおおおおおお!」

 千冬とイチカの同時攻撃が再開された。

 プログラムが一部変更されたのか、過去のデータとはいえ、一対二でももたつかず、ラウラ(?)は迎え撃つ。

「私の大切な教え子を返せ!」

 千冬の攻撃が決まる。

 SEが大きく削られ、ラウラ(?)が吹っ飛んだ。

「う…ぁあ……、たす…け…。」

 ラウラは泣いていた。

「今助けるからな! もう少し辛抱しろよ!」

 イチカが倒れているラウラ(?)に近づき、黒いドロを排除すべく、零落白夜を発動した。

 ラウラの身体を外して、攻撃した結果、黒いドロはひとたまりもなく、やがてラウラから剥がれ落ち、紫電をまき散らしながら、シュヴァルツェア・レーゲンのコアが剥がれて、アリーナのステージの上に転がった。

「ラウラ!」

 千冬がISを解除し、倒れているラウラを介抱した。

 イチカは、白式を解除し、ヘナヘナと力尽きてステージの上でへたり込んだ。

 

 

 その後、後続の救助隊が駆けつけ、ラウラは担架で運ばれた。

 

 条約を破ってVTシステムを搭載させていたことが露見したドイツは、当然だが非難を受け、ますます肩身が狭くなったのだった。




VTシステムここまで強いかどうかは……不明ですが、模造するなら、それ相応に強化させていても不思議じゃない?
原作じゃ、よく千冬姉の剣を!みたいに感情のまま攻撃してますが、ここでの一夏はかなり冷静な方です。姉への憧れを汚されたとか云々より、あくまでラウラを救うために戦いました。
おそらく、不測の事態をわざと誘発するよう仕向けたことを、後で思いっきりラウラに謝ると思う。

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