今回は、ラウラピンチ(?)。
っと、イチカの葛藤。
様々な不安を抱えたまま、イチカは、シャルロットと共にタッグトーナメント開催の日を迎えた。
「いよいよだね。」
「…ああ。」
「やれることは全部やったつもりだけど…。やっぱり緊張するね。」
「…ああ。」
横から話しかけてくるシャルロットの言葉に、イチカは元気のない声で返事をしていた。
「イチカ? だいじょうぶ?」
「……えっ? あ、ああ。」
シャルロットに肩を叩かれて、やっとイチカは我に帰った。
「イチカ~。」
「なんだよ?」
そこへツムグが後ろから話しかけてきた。
「さっき連絡が入った。」
「?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒね、この大会で負けたら本国に送還で……、あとは分かるよね?」
「なっ!?」
驚愕したイチカは、慌てて振り向いた。
「どういうこと?」
何かただ事じゃない気配を感じたシャルロットが聞いた。
「ここだけの話。君には内緒。」
「?」
「……くそっ!」
「…わざと負けようだなんて思わない方がいい。」
「なんでだ!?」
「この大会には、要人も来てる。IS関係者も多く出席してるから、手を抜いてることを見抜かれやすいと思うよ。相手と結託して勝ちに行ったなんて思われたら、ドイツ側の心境は悪くなるだけだから。」
「っ…。じゃあ、どうしろってんだよ!」
「全力でぶつかった上で、ラウラ・ボーデヴィッヒが勝利したという事実か……。もしくは、大会どころじゃなくなる不測の事態が起これば、あるいは…、かな。」
「ふそくのじたいって…。そんな都合の良いことが…。」
「…ゼロじゃないよ。」
「なんだと?」
「まあ、それが起これば…、ドイツはますます肩身が狭くなるだろうけど。」
「?」
「えっ? えっ?」
「というわけだから…、どうする?」
「…どうするったって……。」
わざと負けることもできず、かといってラウラと本気でぶつかって彼女が勝つ可能性もどれくらいか分からない。
目の前に転がった救済の可能性を拾える可能性の低さに、イチカは歯ぎしりした。
「そうそう、イチカ。」
ツムグが、イチカの耳に口を近づけヒソヒソと小声で言った。
「不測の事態のことだけど…、これは、ラウラ・ボーデヴィッヒが戦って負けたくないって気持ちが強ければ強いほど起こる可能性が高い。」
「はっ?」
「だから…、助けたいなら、手を抜いちゃダメだよ。彼女を救いたいならね。」
ツムグは、そう言うとイチカから離れた。
イチカが呆然としていると、対戦が始まるから準備をしろとスタッフが呼びかけに来た。
イチカは、ハッと我に帰り、シャルロットとともにピットへ急いだ。
***
件のラウラは、箒とペアを組み、順当に勝ち上がった。
というか…、ほぼラウラの単独戦によるものだ。
ラウラの鬼気迫る迫力と、後の無さからくる必死さが相手を威圧し、軍人ではない生徒達は負けていった。
一方で、そんなラウラの様子に、彼女の異変に早々に気づいた千冬がVIP席にいるドイツの要人達に問い詰めた。
最初こそ口を閉ざしていたドイツの要人達であったが、千冬の迫力に負け、うっかり口を滑らした者がおり、ラウラの処分のことを喋ってしまった。
それを聞いた千冬は、急いでラウラがいるピットに急いだ。
「ボーデヴィッヒ!」
「きょ…織斑先生…。」
千冬の姿を見て、途端ラウラは青ざめた。
「……おまえ…それでいいのか?」
「…私には…、それ以外に道はありません。」
「諦めるなと、私は教えたはずだ!」
「もう…いいんです。」
「なっ…!」
ラウラは、微笑みを浮かべた。その微笑みは、あまりにも儚く、今にも消えそうで…。
「教官のおかげで、私は今日まで生きることができました。」
「ラウ…ラ…。」
「本当にありがとうございました。織斑教官。」
ラウラは、千冬に90度頭を下げた。
「? どういうことなんだ?」
話が見えない箒が尋ねた。
「篠ノ之…。私は、この大会で負ければ、本国に送還され、……そして、イチカと同じになる。」
「それは…、まさか!?」
「そうだ、あの椎堂ツムグという男の臓器の移植の実験体になるのだ。」
「馬鹿な!」
「これはもう決定事項だ。覆せん。」
「おまえは、それでいいのか!」
「それで、イチカが…教官の弟が救われるのならば、私は一向に構わない。」
「!?」
「篠ノ之…、私とペアを組んでくれて…ありがとう。」
「っ…、礼なら、優勝してから言え!」
「…すまん。」
「いいか! 必ず優勝するぞ!」
「…ああ!」
この瞬間、初めて二人はペアとして成立した。
果たして、千冬がVIP席に殴り込めるのか? 本当なら国際問題だけど……。
ツムグが、なぜラウラのことをイチカに伝えたのか…。
まあ、彼の気まぐれですね。ツムグ的には、ラウラの生死なんてどっちでもいいけど、イチカを解放するわけにはいかない理由があるから?天秤がややラウラを生かすことに繋がったとか?
ツムグが言っている、不測の事態とは、シュヴァルツェア・レーゲンに備わっている、アレのことです。
原作より強化予定です。