ここでのイチカは、剣道をやってません。やらせてもらってません。
「せぃや! どりゃー! うりゃぁぁぁぁ!!」
「甘い。甘い、あまーい。」
イチカからの攻撃をすべて受け流すようにして避けるツムグ。
今日は土曜日。
IS学園では、土曜日は午前が理論学習、午後からは自由時間になっている。
イチカは、午後を格闘技に使っていた。
これは、リハビリの時に始めたことで、最初の頃は剣道を希望したのだが、全身運動とかの関係で却下され、総合格闘技をやらされる羽目になったのだ。
「一発ぐらい殴らせろ!」
「まだまだ。」
怒るイチカに、ツムグは、フフフッと笑いながらイチカからの攻撃を避ける。
「ハッハッハッ、俺を殴ろうなんざ、まだまだ甘いよ。イチカくーん。」
「実験じゃサンドバックの癖に、ここでぐらい殴られたっていいだろうが!!」
「ダメ。」
「なんでだよ!」
「ただのきまぐれ~。」
「あぁぁぁぁ! 腹立つぅぅぅ!!」
「ツムグさん、イチカ君の心音を乱し過ぎないでください。」
守代が冷静に注意した。
総合格闘技の練習中も、イチカの経過を観察、管理するスタッフ達が周りにいる。機材もたんまりだ。
「はい。ここまで。イチカ、肺と血流検査だ。」
「…チっ。」
「舌打ちしない。」
練習の終わりをツムグが告げると、イチカは舌打ちしながらスタッフ達の方へ行き、長椅子のような形の検査台に乗って、周りのスタッフ達がイチカの頭や首や胸、腕や足などにコードなどを繋げていった。
運動の後、ちゃんと心臓から血液が送り出されているか、そして送り出された血液が心臓に戻っているかの検査だ。肺も検査するのは、肺から得た酸素をちゃんと心臓が受け取って全身に送り届けているか確かめるためだ。
「どう?」
「今のところ、血流に問題はないようです。」
「よかった。血液がちゃんと流れてないと、端から壊死していくからね。」
「怖いこと言うな!」
頭上で交わされるツムグと守代の会話に、イチカが怒鳴った。
「…ねえ、守代さん。」
「なんですか?」
「唐揚げ喰っていい?」
「お好きにどうぞ。ただし、油の取り過ぎでお腹を壊しても責任はとれませんよ。」
「どしたの、急に?」
「あ…、いや…別に…。」
「箒ちゃんか。」
「別に口に出さなくてもいいだろうが! あんたもあの場にいたんだしよ!」
「照れちゃって~。」
顔を赤くして怒鳴るイチカに、ツムグは、クスクスと笑いながら言った。
***
後日。
「ど、どうだ、一夏?」
「美味い…。」
「そうか! よ、よかった!」
昼食タイム。屋上でイチカは、箒が作ってきた唐揚げを食べた。
そして素直に言葉が出た。
「箒。すげーよこれ。ほんと美味い。」
「ふーん。俺も一口。」
「貴様の分などない!」
「それだけあるんだし、一つくらいいいじゃん。」
箒が持ってきたタッパーには、唐揚げがたくさん入っていた。
摘まもうとするツムグの手を、箒が竹刀で叩いた。
「美味いけど、全部食えないんだ。悪いな箒。これ持って帰っていいか?」
「い、いいぞ。おまえが全部食べるならな。」
「…何日かかるかな?」
イチカは、苦笑した。
イチカの胃腸の具合では、このタッパー一杯の唐揚げはかなり重い。分けて食べても結構な量だ。
「守代ちゃん達にも分けた方がいいんじゃない?」
「本人を前にして言うな!」
ツムグの発言にイチカが怒った。
箒は、ツムグを睨んでいたが、やがてイチカを見て。
「イチカ。…あれはどういうことだ?」
「はっ? あれって?」
「なぜおまえが格闘技なんぞやっている? 剣道はどうした?」
「……剣道やりたいって言ったけど、反対された。総合格闘技の方がいいってさ。」
「そうか…。」
箒は強くは言えなかった。
「そういえば、箒。」
「なんだ?」
「…全国大会優勝おめでとう。」
「……し、知ってたのか。」
「つい昨日調べた。」
「そうか。」
しかしその後、会話が続かない。
黙って二人の様子を見ていたツムグは、やれやれと言う風に肩をすくめ。
「箒ちゃん。篠ノ之博士さんは元気?」
その瞬間、箒の顔色が変わった。
「私はあの人とは何の関係もない!」
そう叫ぶ箒に、ツムグは、ニヤニヤ顔で受け応える。
「その割には、何か言い訳する時とかに篠ノ之博士さんの名前出すよね?」
「っ…。」
「ツムグ。あまり言うな。」
「いや、本当のことじゃん。」
「何が言いたい…?」
「いいや。別に。ただ気になったから言ってみただけ。」
「貴様…。」
「暴力?」
竹刀を構えようとする箒にツムグが目を細めた。
「そうやって暴力で全部解決して来たんだ?」
「ち、ちが…!」
「よせよ。これ以上箒をいじめるな。」
「ふふ、ついね。」
ツムグは笑う。
「今の世の中の元凶の身内ってなると、関係なくってもちゅっかいだしたくなるんだよ。」
「!!」
「おい、その言い方は…。」
「事実だ…。」
「箒?」
「あの人が身内だという事実は変えようがない。今までだって散々そのことを突かれて来たからな。」
「箒…。」
「今更動揺していては、私もまだまだ未熟だな。」
「うん。そうだね。」
「箒。気にするな。こうやって人を挑発するのがこいつの常套手段だから。」
「大丈夫だ、一夏。こんな奴の挑発になど乗らん。」
「へえ。」
ツムグは感心したように声を漏らした。
「そういうの。嫌いじゃないよ。」
「あんたの選り好みなんてどうでもいいよ。」
「つれないなー。」
ツムグは、残念そうに言いながら笑った。
なんとなく落ち着いている箒です。
箒というキャラをまだ掴み切れてません…。すみません。
書き直すかもしれません。