IS×椎堂ツムグ、ネタ   作:蜜柑ブタ

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体調崩したイチカ。

クラス対抗戦と無人機。

無人機は、ツムグを狙います。


第九話  クラス対抗戦と謎のIS

 

 体調を崩したイチカは、三日ほど授業を欠席した。

 そしてやっと戻ってきたイチカは、またゲッソリして帰ってきた。

 心なしか痩せているようにも見える。

「一夏! ちゃんと食べているのか!?」

「……わりぃ、食欲なくって…。食べても吐く…。」

「当分は、おかゆだね。あとミキサー食。」

 イチカの状態に驚いている箒に、ツムグが肩をすくめて言った。

「貴様! 貴様が付いていながらこれはどういうことだ!?」

「これっばかりは、どうにもならないよ。確かに俺の心臓が他の内臓に負担をかけているのは否めないけどさ…。」

「貴様のせいじゃないか!!」

「かといって、他の内臓を全部俺の内臓と取り換えるってのもねぇ…。」

「っ!?」

「それって…、もうイチカって言えるのかな?」

 そこまで内臓を取り換えてしまい、ツムグの細胞の量が増えてしまったら恐らくイチカは、もはやイチカではなくなるだろう。唯一取り換えが利かない脳に負荷がかかり、どうなるか分かったものじゃない。

 プロジェクトが初期段階である以上、一個以上の臓器を取り換えるのはまだ危険なのだから。

 だがプロジェクトの最終目的は、すべての臓器(脳以外)の移植を可能にすることであるのだが。

「早く食欲だけでも戻さないとな…。」

「食べることは生きる糧だもんね。」

「…楽しみがなくなる。」

「それもあるね。」

 教室の椅子に背をぐったりもたれさせて座っているイチカとは対照的に、ツムグは、相変わらずニヤニヤ顔で教室の後ろに待機していた。

 その後、イチカは、倒れそうな状態でなんとか授業を受けた。

 隣の席の箒は冷や冷やして、授業に集中できず怒られていた。怒られた後は、なぜかツムグを睨む。

 

 授業が終わり、昼食タイムとなると、食堂に用意されていたイチカ専用の食事。

 どう見ても美味しそうじゃない…、っというのが生徒達の印象だった。

 そりゃそうだ、咀嚼が必要ない、老人食と同じなのだから。

 おかゆを始めとして、肉も野菜もすべてがペースト状である。通常食をミキサーにかけてペーストにしたものだ。

 味はついているが、見た目が見た目なのでそれだけで食欲は減退する。

 しかしイチカの今の体調ではこれしか受け付けないのだ。

 そんな食事を前にして、イチカは、手を合わせていただきますと言って食べ始めた。

「イチカさん、エビフライ食べますか?」

「わりぃ…、油物はちょっと…。」

「一夏! 私のきつねうどん、半分だが食え!」

「わりぃ…、固形物はちょっと…。」

「一夏…、ラーメンのスープだけでも…。」

「うーん…、味が濃いのはちょっと…。」

 不味そうな顔で人参のペーストを食べながら、イチカは、セシリア、箒、鈴、それぞれに返答をした。

「どう? イチカ、全部食べれそう?」

「…なんとか。」

「ゆっくりでいいからね。」

 ツムグは、そう言って食事もとらず様子を見ていた。

 

 

 イチカが通常食に戻ったのは、それから一週間後のことだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そうして、あれこれあったがクラス対抗戦の開催日を迎えた。

 アリーナの観客席は、生徒が減ったため若干まばらだがこの日を楽しみにしていた生徒達がたくさんいる。

「やっぱイベントは、楽しいんだろうね。」

「あんたがいなきゃな。」

「それはできないなぁ。」

 イチカがいるピットで、ツムグは、イチカと会話していた。

「一回戦目って誰だ?」

「鈴音さん。」

「いきなりかよ!」

 いきなり対戦相手が鈴と聞いてイチカは絶叫した。

「いいじゃん、最初に他所の人に負けて対戦できないよりはさぁ。」

「よくねぇ!」

「いいとこ見せなきゃね。」

「あんたはいいよな! 別に戦わなくていいんだから!」

「そうそう、イチカ、今までの特訓でもやったけど、鈴音さんのISは…。」

「衝撃砲だろ? 見えない攻撃。しっかり覚えたから。」

 そう、セシリアとの戦いを想定した特訓をやったように、鈴と戦うことを想定した特訓もやったのだ。

 ……見えない攻撃は、ビットよりも厄介でイチカは、ボロクソにやられた。

 発射され、着弾するまでの間を体で覚え、回避する能力を身に着けたのは、対抗戦が始まる数日前のことだ。

 さらに。

「相手は、ただの人間だ。俺とは違う。」

「…分かってる。」

「どうやったって、癖は抜けないものさ。人間だから。」

 視覚、聴覚、触感など、人間には、どうしても癖がある。

 ましてや相手は、若い女子だ。いくら代表候補生とはいえ…、達人には程遠い。

「よーく観察してごらん。必ず癖は見つかる。」

「分かった。」

「それと…。」

「なんだよ?」

「よくない来客が来る。その時は、俺が出る。」

 ツムグの忠告に、イチカは、首を傾げた。

 恐らくはツムグの独自の預言だろうが、意味が分からない。

 やがて、試合開始時間となり、イチカは、白式を装備してピットから出た。

 それを見送ったツムグは。

「やれやれ。変なお人形を送り込んでくるなんてってねぇ…。」

 ツムグは、目を瞑り、脳裏に過った“人形”の姿を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「来たわね。一夏。」

「負けないからな。」

「そうね。無様な戦いなんてしたら、許さないんだから。」

 アリーナのステージで、IS甲龍(シェンロン)を装備した鈴と相対する。

 セシリアのブルーティアーズとは、また違ったデザインで、攻撃的な印象を受ける。

 そして試合開始のブザーが鳴った。

「全力で行くわよ!」

「おおう!」

 鈴が大型ブレード、双天牙月(そうてんがげつ)を装備し、斬りかかってきた。

 イチカは、それを雪片で迎え撃ち、刃がぶつかり合って火花が散った。

「さすがね、初撃を防ぐなんて。」

「死ぬほど痛い特訓したからな!」

「あんた自分の体のこと考えなさいよ!」

「ベラベラ喋ってる場合かよ!」

 ギリギリと刃を交えていたが、一瞬で少し距離を離したイチカが、凄まじい斬撃の嵐を繰り出した。

「くっ! なら!」

 鈴の肩のアーマーがスライドして開き、中心の球体が光った。

 それを見たイチカは、瞬時加速を使って横に避けた。

「えっ?」

 鈴は、その動きに一瞬固まった。

 その隙にイチカが目と鼻の先に近づいていた。

「あっ…。」

「うぉらああああああああああああ!」

「きゃああああああああ!」

 イチカの連続の斬撃により、どんどん鈴のSEが削られていった。

「くぅ、このぉ!」

「なんの!」

 素早く中距離を取った鈴が衝撃砲を連射したが、それを一夏は左右に瞬時加速で避けて行く。なお残像が見えるスピードだ。

「うそ!?」

「目の動きで読めるんだよ!」

「!?」

「ラストォォォォ!」

 イチカがとどめを刺そうと雪片を振るった時。

 アリーナのシールドが破られ、ステージ中央に何かが落下してきた。

「なに!?」

「なんだ!?」

 それは、モクモクとあがる煙の中でゆっくりと体を起こした。

 それは、異形。という言葉が似合う姿形をしていた。

 首はなく、両腕が異常に長い。そして最大の特徴が、全身装甲(フルスキン)であることだった。

 ISには、絶対防御があり、基本的には全身を守る必要がない。それゆえに、肌を露出しているのが多い。

 だが突如現れたISらしきものは違う。全身が装甲で包まれている。

 そして、2メートルもの巨体だ。

 二人のハイパーセンサーが、所在不明のISであると、警告を発した。

『試合中止だ! 二人とも今すぐ避難しろ!』

「一夏、私が時間を稼ぐから逃げて!」

「馬鹿やろう! おまえのSEはほとんど残ってねぇのに、そんなことやったら…。」

 次の瞬間、二人に向けて謎のISがビーム兵器を放った。

 二人はギリギリで避けた。

 セシリアのブルーティアーズのビームを超える威力である。

「逃がしちゃくれそうにないな…。」

「どうしよう…。」

 すると。

 謎のISは、ない首をかしげるように体を傾け、何かを探す様に周りを見回しだした。

「? なんだ? どうしたんだ?」

「…私達が狙いじゃない?」

 一回の攻撃以降、謎のISは攻撃してこなかった。

 

「俺は、ここだよ?」

 

 謎のISの後ろにツムグが現れた。

 その瞬間、弾かれたように後ろを向いた謎のISが腕を振るい、ツムグに襲い掛かった。

 ツムグは、それをフワッと飛んで避けた。

 ツムグは、突っ込んできた謎のISの後ろに回り込み着地した。

「ツムグ!」

「あいつの狙いは俺だ。二人とも今のうちに避難だ。」

「! 分かった。行こう、鈴。」

「で、でも…。」

「あいつは死なない。」

 イチカは、鈴を掴んでピットへ引っ張っていった。

 謎のISは、二人に目もくれず、ゆっくりとした動きで振り返り、ツムグを見おろした。

 ツムグは、にっこりと口元を不気味に釣り上げた。

「さあ、かかってこい。お人形さん。」

 クイクイっと手を動かすと謎のISがその長い腕を振り上げて、振り下ろした。

 ツムグは、ヒョイッと軽くそれを避けると、次に謎のISがもう片腕を横に振るって来た。それをしゃがんで避けると、続けざまに謎のISがビームをゼロ距離で放ってきた。

 ビームが着弾した場所には、ツムグはいなかった。

「遅い。」

 ツムグは、謎のISの背中の上に乗っていた。

 謎のISがそれに気づいて動く前に、謎のISの背中に、ツムグが両手を乗せた。

 次の瞬間、バアンッ!っと破裂音が鳴り響き、謎のISが破裂し、四散した。

 バラバラとアリーナのステージに部品や装甲が転がり、ツムグは着地するとその中からISのコアを拾い上げた。

「まだまだだね。」

 ツムグは、コアを手で弄びながら、転がっているカメラに向けて笑って見せた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「無人機?」

「そっ、無人機。」

 ピットに戻ってきたツムグが、イチカにそう伝えた。

「ISは機械よ。人間が乗らなきゃ動かないわ。」

「でも無人機であるってことには変わりなないよ。現にバラバラにしたけど、生身のなの字も出てこなかったし。」

「そ、それは…。」

 戸惑う鈴に、ツムグが言った。

「ツムグさん。学園側がコアを渡してほしいとのことですよ。」

「はいはい、分かった。」

 やがて千冬が来て、ツムグは、謎のISのコアを渡した。

「…どうやって破壊した?」

「別に。内部のエネルギー循環を狂わせて、軽く暴走させただけだよ。」

「普通はできんぞ。」

「“そんな攻撃を受けるなんて想定して作られてない”から、仕方ないよ。」

「…そうか。」

「俺を狙うのはいいけど、予備運動みたいに二人を狙ったのは、よくないね。」

 ツムグは、腕組して表情を消した。

 ツムグなりに、怒っているのである。

「誰に向かって言っている?」

「誰って…、分かってるくせに。」

「!」

 ツムグは、驚愕する千冬を見つめる。顔は笑っているのに、目は冷たい。

 その目から発せられる謎の威圧感に、千冬は顔色を悪くし、一歩後ずさった。

「ま、何をしてこようと相手にしてあげるけどね。」

 ツムグは、そう言って千冬から目線を外した。

 千冬はその瞬間へたり込みそうになるのを気合で止めた。

 

 なお、謎のISのコアは、逆流させられたエネルギーのせいで壊れており、もうまったく使い物にならなくなっていたそうだ。

 




原作より強い一夏です。

無人機の狙いはツムグでしたが、ツムグには勝てなかった。


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