ありえない職業で世界最強   作:ルディア

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本当は二個に分けようと思いましたがそうするとサソリモドキ戦があまりにも短くなってしまった為くっつけました...。戦闘と言うよりは心を表した場面が多めです。


第四話 “一段落して”

 鼻(?)からサソリモドキがフシューと白い息を吐いたかと思うと毒の液体をミノルとミノルに庇われているルナを巻き込む様に広範囲に浴びせてきた。“未来予知”でその攻撃を知っていたミノルは慌てずにルナを抱え後方にバックステップして避ける。その紫色の液体は地面に付着するとその場所がジュウと言う音を立て溶ける。これを見たミノルは取り敢えず“創造”を使い石の壁を建てるとその奥にルナを抱え飛び込んだ。

 

「ルナ。お前は此処に隠れてろ。」

「そんな.........。私も...ミノルと戦う。」

 

 真っ青な外殻を持つサソリモドキはいきなり現れた壁に少々驚いたようだが意にも介さずミノルを探し始める。どうやら目はあまり良くないようだ。それをサソリモドキの動きを見て知っていたミノルは敢えて壁を創りそこに隠れたのだ。だが、ミノルには一つ見逃している点があった。それは生物は一つの器官を失えば他の器官がそれを補おうとする事。この場合サソリモドキは視力が優れていない為後の五感が全て強化されている事になる。そして新しい器官が体内で作られたりもする。

 

 サソリモドキはその器官を使いミノル達の場所を把握するとその場所にまた毒の液体を放つ。

 

「クソっ......。ピット器官か...!」

 

 壁のお陰でその大部分が防がれたが防げなかった分の液体がミノル達の頭上に降り掛かる。ルナを抱えながら“縮地”を使い今度はサソリモドキの真上に跳ぶとサソリモドキの背後の地面に落ちる様に無詠唱で火球を放つ。ボウ!と音を立てて燃える火球に反応しサソリモドキがそちらへ向かって行く。ミノルの思惑通りの展開に一先ず安堵しながらルナを隠せる場所を探す。

 

 ピット器官というのは例を挙げると蛇などが持っている器官の事でその器官は“熱”を感知する事が出来るのだ。つまりサーモグラフィーである。だから幾ら壁の後ろに隠れようが熱を感知して見つけてしまうので無意味という事だ。ミノルはこの器官を逆に利用しサソリモドキの背後に高熱源である火球を落とす事で意識をそちらへ逸らしたのだ。

 

 サソリモドキから20m程離れた場所に隠れられそうな洞穴を見つける。そこにルナを置くとサソリモドキに見つからない様に“縮地”と“空力”を使い空を飛びながら適当な場所に火球を落とし近付いていく。ルナはそこに置かれた直後何かを言おうと口を開きかけたがミノルが頭に手を置き真剣な眼差しで見つめると何も言えなくなってしまった。

 

 徐々にサソリモドキに接近していたミノルは違和感を覚えた。どうもサソリモドキの進行方向が火球を放っている場所とは若干ズレた所になっているのだ。そしてサソリモドキの動きが止まり真上に陣取ったミノルが魔法の詠唱を始めるのとサソリモドキが尾を宙に向けミノルに向かい毒の針を飛ばしたのがほぼ同時だった。

 

「ミノル!」

 

 ルナがミノルに警告するがもう遅い。回避を“未来予知”に頼っていたミノルはサソリモドキの放った毒針に反応できず、だが野生の勘というやつなのだろうか。咄嗟にミノルは身を捻っていた。だが毒針の方が速い。銃弾と見紛う程のスピードを持った毒針はミノルの顔を掠り横を通り抜けていく。

 

「アガッ!?」

 

 変な方向にしかも宙に浮いた不安定な状態で無理に身体を捻ったためミノルはバランスを維持出来ずそのまま落下した。慌てて受け身をとり起き上がるミノルを感じた事の無い脱力感が襲った。

 

「これは.........魔力が抜けていってるのか...?」

 

 サソリモドキの持っている毒は二種類あった。一つは初手に出した毒の液体。範囲攻撃が出来るが針よりは遅い(それでも充分速かった)。もう一つはミノルがくらった毒をくらった生物の魔力を抜き取る物。一撃でごっそり奪うのではなくじわじわとそれこそ針を刺された風船の様に萎んでいく感じで魔力が無くなっていくのだ。くらった者はとてつもない脱力感に襲われ戦意を喪失してしまう恐ろしい毒だ。

 

「クッ......思った通りに身体が動かねぇ。このままだと......。」

 

 思ったより魔力の抜け具合が速い。今の状態のミノルは魔法を一発放っただけで残った魔力を全部消費してしまうだろう。

 

「一発で決めるか...?だが奴の甲殻は...。」

 

 さっき適当に火球を撃っていたら誤ってサソリモドキに当ててしまったのである。死んだか?と思い神眼を使ってサソリモドキを見るとサソリモドキは多少ダメージはくらった様子だったが特に気にしてる感じではなかった。好調の時のミノルの火球でさえああならば、今のミノルが出せる魔法の中でサソリモドキを一撃で仕留められるものは無い。

 

「どうする......。またアイツを呼ぶか...?だが確証が無い。今度くらったら本当に死ぬかもしれない...。」

 

 “アイツ”とミノルが呼んでいるのは一つ目鬼戦で出て来たあの“魔神”である。その力は強大だが確証が無い中呼び出す為に死ぬ様な攻撃を受けたら本当に死ぬかもしれない。そうしている間にもミノルの魔力はどんどん抜けていく。サソリモドキはその様子を黙って観察していた。恐らくミノルの瞳に宿った未だ消えない闘志を見てまだ魔力が抜けきっていないと判断したのであろう。サソリモドキは封印を守る最後の砦であり“狩人”ではあるが“戦闘狂”では無い。獲物が弱るまでただひたすら待ち、獲物が地に倒れた瞬間狩るつもりなのだ。

 

「ギィィィィィ!!!」

「っ!?何だ?」

 

 殆ど魔力を抜かれ気力で地面に立っていたミノルに向かい今の今まで一言も発さなかったサソリモドキが突如奇声をあげミノルを無視して何処かへ走って行く。

 

「?どうなってんだ?...ん?待てよあの方向は...。」

 

 つまり、ルナを見つけたサソリモドキがルナの方へ走っていっているのだった。サソリモドキの本来の役目はルナを封印が解かれた時にルナを殺し解放者も殺せというものの筈だ。確かに解放者であるミノルも粛清対象になるのだが優先順位的にはルナの方が上だ。

 

「ルナには悪いが......。」

 

 ミノルの目的はこの迷宮からの脱出である。つまりルナの救出など足でまといを増やしただけ。サソリモドキの意識がルナに向いている今なら逃げられる。そこまで考えてミノルは残り少ない魔力で“縮地”と“空力”を使い移動を始める。そう()()()()()()()()()()()()()()()()()。助ける理由は無い。だが封印を解いた時、サソリモドキから隠れた時、サソリモドキの放った毒針

 がミノルの方へ飛んできた時、ルナはミノルに心を許しミノルの危機に自分も力になりたいと願っていた。自分の事を思い行動してくれる少女を見捨てるのは“悪役”や“外道”といった生ぬるい言葉では言い表せない存在。

 

「つまり、単なるクズだ!そこは人間も魔物も神も関係ねぇ。絶対にあいつだけは死なせない。残りの魔力全部使ってもあいつだけは、ルナだけは逃がしてやる...。」

 

 もしあの部屋でルナの封印を解かなければこんな目に遭うことは無かっただろう。だが、ルナを見捨てていればミノルは唯の人間としても神としても一人の男としてもこの世の中で最も最低な存在になってしまってたであろう。ルナを助けた所がミノルの運命の分岐点だったのだ。

 

「あいつ...だけは......。」

 

 “縮地”と“空力”の連続発動で既に無いに等しかったミノルの魔力は文字通り底を尽き宙で停止するミノル。そしてミノルは最後の力を振り絞りある言葉を放った。直後ミノルの全身からミノルの最大値よりも多い漆黒の魔力が放出された.........。

 

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 ルナは隠れている場所の前を彷徨くサソリモドキに見つからないよう身を小さくし心臓の鼓動音を押し殺していた。ミノルは強い。会った時から普通なら有り得ない方法で封印魔具を外し、それでも尚有り余る魔力があった。だから此処に隠れてろと言われた時も不思議と怖さは無かった。頭に置かれたミノルの手の温度を感じる余裕まであった。だからルナはこんな状況に置かれても最後までミノルの事を信じ待っていた。

 

 サソリモドキがルナの場所を発見したのか徐々にルナの隠れている場所に近付いてくる。サソリモドキが目と鼻の先に来た時ルナは小さな声でその名前を呼んだ。消え入りそうな程小さく震えた声で。

 

「ミノル......。助けて...。」

 

 死を覚悟し目を固く瞑ったルナの耳に何かが吹き飛ぶ様な音が聞こえた。そして恐る恐る目を開けたルナの瞳に映ったものは漆黒の魔力に身を包みサソリモドキを殴った方の手を擦りながら

 

「大丈夫か?」

 

 と尋ねるミノルの姿だった。絶望に落ちたルナの瞳に光が灯りミノルに抱き着いて泣きじゃくるのであった。ミノルは苦笑しながらも暫くルナに身体を預ける事にする。

 

 ルナが落ち着く頃には明確な殺意を瞳に宿したサソリモドキが起き上がりミノルを睨んでいた。

 

「ギィィィィィイ!!!」

 

 という今までに無いほどの叫び声を上げ突進して来るサソリモドキをミノルは冷やかな眼差しで見つめサソリモドキが跳躍したタイミングを狙い全体重を乗せた回し蹴りでサソリモドキを横一線に真っ二つにしてしまった。後には半分になったサソリモドキの残骸が残っているばかりであった。

 

 次の瞬間、ミノルの全身からフッと力が抜け地面に倒れてしまう。慌ててミノルの下にルナが駆け寄るとミノルは弱々しい声で

 

「ごめんなルナ......。俺が弱いばかりにお前の事を最後まで守りきる事が出来なくて.........。逃げろルナ。」

「ミノル?ミノル!返事して、ミノル!」

 

 そう呟くと静かに目を閉じる。ミノルのその行動が引き金になった様に真っ二つになった筈のサソリモドキの肉体が再生を始めた。一体ミノルに何があったのであろうか。

 

 魔力切れで地面に墜落する直前ミノルは技能の一つである“神化”を使っていた。この技能は“限界突破”に似た技能で自分のステータスを短時間五倍に上げ自分の持っている魔力の最大値の二倍の魔力を使える様になるが反動で一時間以上は昏睡状態になってしまうというものである。サソリモドキを殴った時のミノルは身体強化系魔法を使わずにサソリモドキを十mは吹き飛ばした。続く回し蹴りも同様、魔法を全く使っていない。ステータスだけの力である。

 

 だがミノルはサソリモドキを絶命させた直後“魔力感知”でサソリモドキの中の魔力が未だに消えていない事を知ったミノルは最後の力を振り絞りルナに逃げろと言ったのである。ルナはそこまで細かくは理解出来なかったがミノルが命を掛けて自分を守ろうとしてくれた事は伝わったようだ。だから自分もミノルを守る。

 

「ごめん......。ミノル。その約束は...守れない。」

 

 そう決意したルナはミノルの首筋に口付けする様にそっと歯を立て噛み付いた。そして恍惚とした表情でミノルの血を吸っていく。吸血した事によりミノルが生きている事を知ったルナは嬉しさのあまりミノルに抱き着いてしまった。当然ながらミノルの意識は無いため何も反応は無いのだが...。

 

 やがて吸血が終わるとどこか熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐める。その仕草と相まって、幼い容姿なのに何処か妖艶さを感じさせる。どういう訳か、先程までのやつれた感じは微塵もなくツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌が戻っていた。頬は夢見るようなバラ色だ。美しい銀髪がより一層輝き、その蒼眼は暖かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるようにミノルの頬に置かれている。

 

「ご馳走様...。ミノル...。」

 

 一度ミノルの頬に口付けをするとそう呟きおもむろに立ち上がった。吸血前もミノルが感知できる程強大な魔力を纏っていたがそれを優に超すその華奢な身体からは想像出来ない絶大な魔力がルナから放たれていた。蒼銀の月光を思わせる美しい魔力光に照らされたルナの姿はまるで女神のようであった。

 

「“紅地”」

 

 再生を終えルナに襲いかかろうとしたサソリモドキの足元に紅の燃え上がる炎が発生しサソリモドキを包んだ。ルナの手が揺れ動く度炎は激しさを増しサソリモドキの外殻を溶かしていく。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 ミノルに蹴られた時より遥かに大きい絶叫を上げるサソリモドキを更に激しくなった紅の炎が襲いその炎を操るルナの手が下から上に上げられるとサソリモドキの真下から血のようなと表現出来る濃い赤の棘の様な物が噴出されそれに外殻を溶かされ脆くなったサソリモドキが串刺しにされる。

 

「ギィァァヤァ......。」

 

 その棘や炎が消えた時には情けない断末魔上げたサソリモドキがひっくり返った状態で足を未だにピクピクと動かしながら絶命していた。

 

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 サソリモドキを仕留めたルナは急いでミノルの元に駆け寄るとその懐から水筒を取り出し中に入っている神水をミノルに飲ませるためミノルの口元に持っていく。だがミノルは上手く飲み込めず零してしまった。それを見たルナは神水を自分の口に含み口移しで直接ミノルに飲ませる事にした。少し嬉しそうにしているのは気のせいだろうか。

 

 

 ミノルは神水を飲まされた直後は目を覚まさなかったものの何分か経つとゆっくりと目を開け上半身だけを起こす。ミノルが“神化”を使った後昏睡状態になる理由は魔力を回復する為に一時間必要というだけで魔力が直接回復できるならタイムリミットは特に無い。まだ寝ぼけている頭でルナはどうなったのだろうと辺りを見回す為首を曲げた瞬間ルナに抱きつかれた為首をおかしい方向に捻ってしまった。痛みと驚きで混乱するミノル。そんなミノルの心境を知ってか知らずかルナは自分の頬をミノルの胸にすり寄せ泣きじゃくる。ミノルが開放されるには約十分程時間を要する事になる。

 

 落ち着いたルナに事を次第を聞き二度ビックリする。ミノルの全力の火球をくらってもびくともしなかったサソリモドキを一撃で屠ったというのだから無理も無い。

 

「それは......凄かったな...。その........ありがとうルナ。俺を守ってくれたんだろ...?」

「......大丈夫。ミノルも、私の事守ってくれたから......。けど少し疲れたかも......。最上級撃つのは久しぶり...。」

 

 ミノルに全体重を預け幸せそうに目を閉じているルナに少し照れながら感謝の気持ちを伝えるミノル。ルナが「疲れた」と言っているので目線をちょっとずらしてルナを見る。確かにサソリモドキを倒したというのにそれらしい魔力は感じられず、呼吸音が少し荒い。

 

「かなり疲れている様だが...神水飲んだのか?」

「神水も良い、けどミノルの血が飲みたい......。」

「血?」

「.........(コックリ)」

 

 確かに吸血鬼だから神水や他の食材を摂取するよりは効率的に魔力や栄養を補給出来るだろう。「そうか」と結構あっさり首筋をルナに差し出す。その行動を見て驚いたのはルナの方だった。

 

「.........いいの?」

「ああ。」

「............(ジュルリ)」

「...お前俺の血飲んだ事あるだろ......。」

 

 ルナの目には探求心や期待などの眼差しは感じられない。だがそれを上回るミノルの血への欲求とその味を知ってるかの如く舌なめずりするルナを見て何かを悟ったようだ。

 

「じゃあ.........頂きます。んっ............。」

「っ...............。」

 

 首筋を微量な、だが確かな痛みが走り少し顔を顰める。だがその直後ルナがミノルに抱き着いてきた為先程感じた脱力感とはまた異なる力を抜かれるような感覚に陥りながらもルナの背中に手を回してやった。するともっと嬉しそうにミノルの首筋に顔を埋め吸血するルナ。五分位経って漸くミノルの首筋から離れるとどこか恍惚とした表情で唇をペロリと舐める。そしてミノルの耳元で囁くように

 

「.........ご馳走様。」

 

 と呟いた。貧血気味でクラクラする頭でもルナの妖艶さは充分伝わったようではずかしそうに目を逸らしてしまう。未だに熱っぽい艶やかな表情をしているルナに話題を変えるようにミノルが切り出した。

 

「な、なぁルナ。服欲しくないか?」

「服...?」

 

 ルナが首を縦に振るより早く“創造”を開始する。それが終わる頃にはミノルの手に一着の服が乗せられていた。サイズを見る限りどうやらルナの物の様だ。黒いゴスロリチックのドレスにこれまたゴスロリチックなスカート。少しヒールが高い黒の革靴に紫色の花の髪飾り。満足そうな表情をしているミノルにルナは

 

「ミノルはこうゆうのが好きなの.........?」

 

 と何とも微妙な表情で尋ねる。ミノルは何も言えずに目を逸らした。ルナは今すぐこの場で着替えようとしたがミノルの必死の説得により近くの岩陰で着替えてもらう事にする。服を創ったのは色々理由があるのだが、一番大きい理由は外套だけを羽織った何とも妖艶な......端的に言うとエロい格好であの仕草を吸血の度にされるのは流石に堪えるものがある。ミノルだって男の子だから。

 

 だがもっとちゃんとした理由も無い訳では無い。あの服にはある機能が付いている。それは魔法を放つ時、余分に飛び出てしまった魔力を一定範囲なら吸収し着用者に返してくれるというものだ。ミノルもルナも圧倒的な魔力量を誇り余程の事が無い限り魔力切れは起こさないのだが二人共特にルナは一撃に必要以上に魔力を掛けてしまうという傾向がある。魔法を一発放つ度に吸血されたら流石にミノルも理性が持つか解らない。特に外套の格好だったら尚更だ。

 

「どう......?」

「あ、ああ。いいんじゃないか?」

「......むー、また目逸らした...。」

「と、取り敢えず拠点にサソリモドキを運ぶか...。」

「拠点?」

 

 ルナを救出する前にこの第五十層で運良くミノルは神結晶のある場所を発見しておりそこを拠点としていた。此処から戻るには結構な時間を要すると思われるがまぁ何とかなるだろうという安易な考えである。因みにサソリモドキを運ぶ理由はルナはミノルの血を飲むからいいとしてミノルの分の食料が無いのだ。あの距離までこれを運ぶのか......と少し面倒くさそうな顔をしているミノルだがミノルの中の“魔神”がサイクロプスを消し飛ばさなければそれも一緒に持って帰ろうとしていた。因みにしんどいではなく面倒臭いと思っている理由は後々判明する。

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 サソリモドキと戦った場所から既に一時間以上は歩き続けている。だが未だに拠点は影も形も見えない。予想以上に拠点から離れてしまっていた事にミノルは舌打ちをしながらサソリモドキを引き摺る。因みにルナは断固として歩きたくないと主張した為ミノルが引き摺るサソリモドキの上にちょこんと鎮座していた。サソリモドキの匂いに釣られた魔物が約十体。サソリモドキとその上に座っているルナに襲い掛かってきた為ミノルが拳一つで昇天させた。本来ならミノルのステータスは殆ど最強と言ってもいい。サソリモドキやサイクロプスなどのこの迷宮の“核”となる魔物ばかりと戦っているためあまり強くは見えないが第五十層で普通に出てくる魔物はミノルにとっては蚊とか蠅とかそういうレベルに近い。現に今ミノルは煩わしい羽音を響かせながらサソリモドキを持ち去ろうとした昆虫型の魔物を鬱陶しそうに手で叩き絶命させている。ルナも大して驚かずミノルから貰った知恵の輪に苦戦していた。

 

 足跡の様に魔物の死体の山を作りながら再び一時間程歩くと漸く拠点に着いた。

 

「着いた......。マジで........。足が......。」

「...んっ。」

 

 少々やつれているミノルがこれ以上無いくらい脱力して普段動かなかったせいか棒のようになってしまった足を叩きながら呟くとこれ以上無いくらい元気そうなルナがぴょんとサソリモドキの上から飛び降りる。因みに歩きたくなかった理由は「眠かった。」だそうでミノルがひいひい言いながら運んでいた最中にその不満は解消されたそうだ。

 

「.....................次はちゃんと歩けよ...。」

「......考えとく。」

 

 スキップでもしそうな足取りで先に拠点の中に入っていくルナを恨めしそうに見つめるミノル。こんな事言ったら怒られそうだがなんやかんやでルナの我が儘を聞いているミノルも相当甘いのではないか。

 

 拠点内は二人とサソリモドキが入ってもまだ余分にスペースがある位広く簡易ながら机と椅子も用意されていた。ミノルとルナは向かい合わせになる様に座ると唐突にミノルが切り出す。

 

「なぁルナ。お前三百年も封印されてたんだろ?つー事はつまり三百歳超えて.........。あっいや何でもないです。」

「............次は......無い...。」

 

 ミノルが言ってはいけない事をいおうとした瞬間ルナからとんでもない量の殺意が放出される。それを敏感に感じ取ったミノルは人生の中で一番の謝罪をした。

 

「吸血鬼って皆そんな長く生きられるのか...?」

 

 ミノルの記憶では三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ルナも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「.........私と妹が特別。“再生”で歳もとらない.........。」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

 ルナとルナの妹は先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。因みに二人王がいるのは当時認められなかったらしく双子で同い年だが僅かに生まれたのが早いルナが王になったらしい。

 

 なるほど、あのサソリモドキを一撃で仕留めた魔法をほぼノータイムで撃てるのだから崇められるのも無理は無い。。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は“神”か“化け物”か、ということだろう。ルナとルナの妹は後者だったということだ。まぁ自分も“神”と“魔”の狭間をウロウロしているのだから人のことを言えた義理ではないと内心自嘲気味に笑った。

 

 欲に目が眩んだ叔父が、ルナ達姉妹を化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが“自動再生”により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。ルナ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したまま何らかの封印術を掛けられ気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。妹も封印されている筈だが何処にいるか見当もつかないと悔しそうに語っていた。ミノルとしては助ける気は毛頭ないのだが同じ迷宮に姉妹が別々の場所に封印されることは無いだろうと推測を述べてみる。

 

「それで......肝心の話だが、ルナは此処がどの辺りか分かるか? 他に地上に出る方法とか後.........」

「......わからない。でも......」

 

 ミノルが何か言い終わる前にルナが遮る様に口を開く。ルナにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

 聞き慣れない上に、何とも不穏な響きに思わず身を乗り出しルナをじっと見つめる。ルナもミノルから目を逸らさずに次の言葉を放った。

 

「反逆者......神代に神に挑んだ神の眷属のこと。......世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

「神の眷属が神に挑んだ?どうゆう事だ?」

 

 “神”という言葉に何かと縁があるミノルは“神に反逆”というワードに敏感に反応してしまう。矢継ぎ早に質問されて対応に困ったルナは「ちょっと待って。」と何かを思い出す様に下を向いた。焦らせるのも可哀想だったので神水を飲みながらゆっくり待つことにした。

 

 ルナ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「......そこなら、地上への道があるかも......」

「なるほどな......確かに、奈落の底から馬鹿正直に登ってくるとは到底思えない。えーと......何だっけ?その神代魔法とか言うやつで地上に出る為の転移用魔法陣何かが置いてあるかもしれないという事か。」

 

 という事は、である。誤って奈落に落ちてしまったミノルは相当な高さから落ちたのであろう。しかし死んでいなかった事から大方“浮遊”辺りの技能を無意識で発動させたのであろう。......本当にこの天職で良かったと切に思うミノル。この天職でなければ此処に来る間に何回死んだか解らない。しかし、そんな状況に陥らせたのもこの天職である為何とも言えない。

 

 神代魔法に反逆者......。ちょっと前までは存在すら知らなかったこの世界の“裏”を垣間見て宙を見上げ何かを思考するミノル。ルナは何かを言いたそうにミノルをじっと見つめていたが不意に口を開く。

 

「ミノルは......ここで何をしていたの?何で此処にいるの?」

「..................。」

 

 ルナにはミノルに尋ねたいことが沢山あった。何故、魔力を直接操れるのか。何故、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。何故、有り得ないほどの強さを持っているのか。何故、“神”という単語に必要以上に敏感に反応したのか。そもそもミノルは人間なのか。

 

 最初はだんまりを決め込んでいたミノルだったが自分だけ聞いておいてそれは無いと思ったのかポツリポツリと言葉を紡いでいく。

 

 この世界にクラスメイトと共に喚び出された事に始まり、恐らく一人だけ“半神”という有り得ない天職とステータスを提示され逃げ出した事。奈落の底に落ち死にかけ、魔に侵されながらもルナに出逢ったことで人間性を保っていられたこと。神に逆らったと聞いて自分はこの場所に来てはいけなかったのではないかと思い詰めていた事など時折自嘲気味に鼻を鳴らしながらツラツラと話していると突然ルナの方から「バンッ!」と机を叩く音が聞こえビクッとして顔を上げ前を見ると今まで見た事無いくらい怒りに身を震わせたルナの姿があった。ルナはユラユラと立ち上がるとこちらへ向かってくる。そして覚悟を決め目を瞑ったミノルにその鉄槌が下されることはなく、代わりにルナはミノルをきつく抱き締め耳元で囁く。

 

「.........何で言わなかった...」

「.........信じてもらえないと思った。だっていきなり目の前に居た男が魔神どうこう言うんだぞ?幾ら強くたってそれは無いって思うのが普通だろ?」

「じゃあ...何でミノルは私の事信じてくれたの...?」

「それは......」

 

 前世でオタクというものをやっていたからとは口が裂けても言えない。でもオタクをやっていなくてもルナの事は信じていたと思う。不確かな事だらけの世の中でそれだけは胸を張って言い切れた。

 

「...............俺の良心がまだ残ってたから...かな?」

「..........................................馬鹿...」

 

 無言でほっぺを抓られる。だがその仕草に怒りの痕跡は見えずどちらかと言うと「しょうがないなぁ」みたいな感じだった。暫く無抵抗でほっぺを抓られていたが不意にその手が止まりミノルを頬にそっと添えられた。

 

「...一人で抱え込まないで............私もミノルに救われた......私もミノルの力になりたい....だから.....お願い......私の事も...頼って...?」

「......ごめん。ルナ......」

 

 無言でルナを抱き寄せると声を押し殺す様にしゃくり上げる。辛かった。もし、天職の事や自分の気持ちを誰かに話せたらどんなに楽になっただろうか。奈落に落ちてからもずっと逃げ出した事を後悔した。頼りたかった。全部打ち明けてしまいたかった。変なプライドに邪魔されてずっと我慢していたものが崩壊したミノルは暫くの間ルナの背中を濡らし続けた。

 

 落ち着いたミノルがルナを膝の上に乗せその頭を撫でながら囁くような小さな声でルナに言った。

 

「.........ありがとう。けど此処で立ち止まってる暇はない。俺は故郷に帰りたい。その為に全力を尽くす。それだけだ。」

「............ミノルは帰るの...?」

「ああ......そうだが...?」

「............ミノルには帰れる場所があるんだね......。」

 

 その言葉を聞いてルナが置かれている状況を思い出す。もし妹と会えなかったらこの広い世界でまた一人になってしまうのではないか。それはあまりにも酷過ぎる。

 

「何なら......ルナも来るか...?」

「......ミノルの故郷に?」

「ああ、色々面倒な手続きはあると思うが俺の家に来ればいい。もしルナが来たいっていうならの話だが...」

 

 その言葉に深い絶望に落ちていたルナの目に光が灯った。暫くミノルを見つめていたがやがてコックリと大きく頷き、表情の乏しいルナの中で精一杯の笑顔をミノルに向ける。

 

「よし...じゃあ先ずはこの迷宮から脱出しないとな......」

「......うん......けど、ちょっと寝てもいい...?」

「....別に構わないが?」

「後もう一つ......私が寝るまで頭撫でてて?」

 

 上目遣いでそんな事を尋ねるルナに思わず見とれてしまう。そして徐々に惹かれてってるなぁと思いながら苦笑し二つ返事で快く引き受けると優しくゆっくり撫で始めた。

 

 その後暫くミノルはルナの頭を撫でていたが泣いたせいか自分も眠気に誘われていった。後には小さな寝息が二つ、重なって聞こえるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




強気なキャラが心を開いた人物にだけ弱い自分を見せるというのをやってみたかったです。ミノルのステータスプレートは次回の冒頭辺りに付けようかなーと考えております。色んな事詰め込んでちょっとごちゃごちゃしてしまったことについては反省しております。どうも描写をバッサリ端折る癖があるらしくこんな感じの文になってしまいました。次回からはそこも意識して書いていきたいですね。

次回の更新は明日か、明後日になります。


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