ありえない職業で世界最強   作:ルディア

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遂にメインヒロイン登場です。それと初めて一万字超えました。つ、疲れた......。


第三話“迷宮の果てで”

仮拠点から旅立ったミノルは時に魔物の群れに囲まれ、時に「初見殺しかよ!?」とつっこんでしまう様な魔物の配置に苦戦し、時に神水をがぶ飲みしながら魔物の肉を喰らったり等々。色々あったが順調に迷宮を探索していた。現在ミノルの位置は三十五階層目の辺り。ステータスボードはこんな感じ。

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壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:55

天職:????

筋力:6925

体力:6530

耐性:6842

敏捷:6893

魔力:7952+5000

魔耐:6902

技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知][+通路探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔力吸収[+吸収力強化][+吸収治癒][+魔法吸収]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]・威圧[+服従][+恐慌]・創造[+消費魔力減]・念話

 

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分かった事はレベルの上がり具合に対してステータスの上昇が著しく低いという事と魔物肉を喰らっても技能が殆ど増えないという事。変わった事と言えば“念話”が追加された事、“神眼”に“通路探知”が追加された事、“魔法吸収”が“魔力吸収”に変わり、“魔法吸収”は“魔力吸収”の技能枠に入れられたという事である。所で三十五層にして未だにレベルが55なのには理由がある。ミノルは出来るだけ戦闘を避け、最短ルートで迷宮を攻略しているからなのだ。と言うのも“神眼”で下の層を見てみると通路の終わりはこの層の遥か下の層にある事が発覚、何日、いや何ヶ月掛かるか分からない状態なのでこうして急いでいる訳だ。この層に至る迄の間に一応一通り技能は試してみた。まだ解明されていないのは“神化”と“半不老不死”だけである。通常、技能には説明が付いている筈なのだがこの二つの技能だけは説明が飛んでおり使い方が解らないのだ。という訳で場面はミノル君に切り替わる。

 

「しっかしなぁ......。こんな感じでこの迷宮ぬけられんのかなぁ...。層ごと破壊しようとしても魔術的な結界が貼ってあって壊せないし......。」

 

流石大迷宮。過去にミノルの様な行為をした化物がいたのであろうか。その辺の対策はしっかりとられているようだ。

 

「そんな所に時間掛けるなら層の階数縮めろっていう話だけどな。」

 

大迷宮に対する冒涜である。創造主出てこい!と言わんばかりに怒りを背中に滲ませているミノルは今、三十六層に続く階段を降りていた。しかも、普通に降りるのではなく“神歩”を発動し飛翔しながら。二回目の発動となる“神歩”だが一つ欠点を発見した。この技能、移動スピードがミノルの歩く速度より遅い為戦闘や移動の際は全く使い物にならないのだ。戦闘に使うのであれば“空力”や“縮地”“豪脚”を使用した方が速度も距離も稼げる。もっとも、一番使えそうなのは“瞬光”なのだが...。それらの技能に“飛翔”と“浮遊”が追加されたのが“神歩”である。他の四つに比べ明らかに魔力の消費量が多い事、移動スピードが極端に遅い事、そもそも遠距離攻撃出来るならその技能要らなくね?等々短所はあるがミノル達が元いた世界では誰も成し得なかった“空を飛ぶ”という行為が出来るならどんな欠点も笑って許せる。これもまた浪漫である。

 

「...............迷宮から出たら移動用のアーティファクト、創造するか…。」

 

流石に笑って許せる許容範囲を超えたらしい。“神歩”を停止すると普通に歩いて階段を降りていく。速い。空を飛ぶより圧倒的に速い徒歩で移動しながらミノルは実用性と浪漫について永久に悩む事になるのだがそれはまた後のお話。

 

その後も順調に階層踏破数を上げていくミノルは第50層に到着した直後これまでの階では感じた事の無い強大な魔力を感知し身を震わせた。

 

「...っ!?何だこれ......。魔力探知が自動発動したのか...?いや、そうじゃない。神眼の効果は目だけに発動する。今感じたのは俺の全身。だが目では見えなかった。じゃあ何だ?新しい技能か?」

 

これは技能では無く人が初めから持っている“第六感”という一種の能力である。だが、ミノルはこれを魔神化や半神になった影響で人間の数十倍研ぎ澄まされ、特に大きな魔力は感じる事が出来るようになったのだ。これを応用すれば魔力だけで人物を把握できる様になるのだがそれはまた別のお話。現状原因の分からないミノルはよく分からない魔力の波に唯々怯えるだけであった。

 

「だけど何だろう......。この魔力何か落ち着く様な...?」

 

兎に角先に進むミノル。知らず知らずのうちに魔力の発生源に向かっていたのは内緒にしておこう。暫く進んでいると燃えるような赤い毛の狐だろうか、4本の尾を揺らしながらミノルの方へ向かって来た。だがミノルは特に気にせずそのまま歩いていたが赤狐の方がミノルを瞳に捉え「グォォォォォ!!!」という雄叫びを上げ怒りに囚われ突進攻撃を仕掛けて来る。因みに“全種族言語理解”の技能を持っていたミノルは赤狐の言葉を理解する事が出来ていた。

 

「(コロス、コロシテクウ。クウ、クッテヤル......。)」

「魔物って皆こんな感じだけど理性持ってる奴はいないのかなぁ?」

 

“縮地”と“空力”を同時発動し超人的な脚力で宙に飛び上がり突進を避けたミノルは落下中にそんな事を尋ねる。当然返答は無いのだが。

 

「雷よ、拳に纏え“雷撃(サンダーショット)”。」

 

適当な詠唱の後拳というより腕に雷を纏わせたミノルが真下の赤狐に向かい鉄槌を下すと、ドッッッゴーン!!!という落雷同様の大音響が辺りに響き渡り一瞬視界がホワイトアウトする。やがてクリアになった風景に完全にノした赤狐の腹の上に座っているミノルの姿があった。因みに赤狐はもう起き上がる事は無いだろう。あのレベルの電流は恐らく通常の自然現象である落雷と同様だ。幾ら迷宮の魔物であろうが2億Vの電流に耐えられるはずがない。

 

「うーん.........やっぱ改善が必要だな。魔力込め過ぎないように且つ一撃で殺せる様になんてそこまで意識するのは苦労しそうだけど。」

 

因みにミノルは異世界に飛ばされた直後から人や動物を殺す事に躊躇いを持っていない。魔神化(?)した時から尚更である。チートスペックを持っていようが死ぬ事が証明されたので躊躇なんてしていられてないのだ。確かに殺す事に対して罪悪感を持たない訳ではない。「生きる為に仕方ないとは言え殺すのは余りにも.........。」という感情を「生きる為だから仕方ない。」という割り切った感情に変えているというか変わってしまったのである。だから殺しに躊躇はしない。そして変わった事と言えばこの迷宮に来てから有り得ない所から魔物が飛び出してきたり通常おかしい数の魔物の群れにこれまたおかしい場所で囲まれたりしたミノルは取り敢えず全てを疑う事にしている。宝箱を一回殴る、という感覚に近い。それはミノルがチキンだからとかそういう理由じゃないのかという意見もあると思う。だが決してそんな事は無い。無いったら無いのだ。

 

と、まぁこんな感じで迷宮を進んでいると(途中芋虫型の魔物に斬撃系の魔法を使ってしまい大変スプラッタな映像が流れたのだがそれは割愛。)何かの魔法陣が描かれた10m以上はあるだろう巨大な扉を見つけたミノル。

 

「何だこれ.........。ボス戦...いや中ボス戦か。」

 

“神眼”の効果で此処は迷宮の約半分頃という事を知っていた為恐らく此処が中間地点だろうと思っているミノルはそんな事を呟く。

 

「うーんと......神なる安らぎの光よ我に聖なる力と癒しを与えよ“神の息吹(ゴッドブレス)”。」

 

神位複合魔法の技能で創り出した魔法の一つ。自身に自動回復と身体能力強化の両方を補える補助魔法だ。詠唱を終えるとミノルの身体を神水を飲んだ時と似ている光が包み光が消えた時ミノルは柔らかな安心感と活力が漲ってくる感覚に思わずニヤケてしまった。やはり自分が作った魔法を使い、効果が出た時の達成感といったらないのだ。こんな感じで準備万端のミノルは扉に手を掛け引いた。ギィーという音と共にゆっくりと扉が開かれていく。

 

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扉の先には古代ローマにあった様な闘技場が造られており闘技場を囲む壁には観覧する為の席が幾つも用意されていた。そしてミノルがキョロキョロしながら闘技場に立つといきなり闘技場が揺れ初める。何かが動いてる様な音が振動と共に大きくなりやがて、闘技場の一部分が丸ごとくり抜かれミノルと対峙するような形で高さ10m以上はありそうな檻が現れた。恐る恐るその檻に近づこうとするミノル。だが、ミノルが近付く前にその檻の扉がゆっくりと開き、その中からミノルがこれまで会った魔物とは格が違う魔力と巨体を持った“巨人”が現れる。

 

「へぇ......中ボスはサイクロプスか。良い趣味してるね。ここ作った創造主さんはよ!!」

 

復活の咆哮を上げようとしている鎖を纏った一つ目鬼に“縮地”と“空力”を使い飛び上がるとその一つ目を潰すかの如く魔法で強化された身体能力に体重を乗せ飛び蹴りを放った。汚いとか言うな。戦術だ戦術。ミノルの想像以上にダメージの高い蹴りは一つ目鬼の咆哮を停止させよろめかせる程だった。間髪入れずに空中に“浮遊”を使い浮いた状態で詠唱を始める。

 

「火よ、水よ、風よ、雷よ、地よ、その力を刃と変え我に与えよ。“天地一閃(テンチイッセン)”!!!」

 

詠唱は相変わらず適当である。もうちょっとそれっぽい言葉もあったと思うがハジメや他の同志達に比べ厨二力が低いミノルはこの位が精一杯である。そもそも戦闘に於いて長ったらしい詠唱は命取りになるという言い訳を心の中でするミノルは魔法により創られた一つ目鬼の倍はあろう大きさの白い剣を手に纏わせ一つ目鬼を真上から一刀両断する。詠唱は幼稚だが威力は絶大。しかし、ガッキィン!!!という金属と金属がぶつかる音と感触に違和感を覚えふと下を見ると何とミノルの刃を片手で掴み取っている一つ目鬼がいた。唖然とするミノルを今度は一つ目鬼が白い剣ごと壁の方にぶん投げ目から光線を放った。ドゴーン!!!という壁に身体がぶつかる衝撃音の後バッッッッゴッッーン!!!!!!という光線が壁を破壊した強烈な音が響く。

 

「グッ!...ガハッ.........ま、マジかよ...。流石は迷宮の中ボス......。伊達じゃねぇな...。」

 

壁を壊される前に壁からずり落ちていたミノルは光線をモロに喰らっても随分余裕がある様だ。事前にかけていた自動回復の効果で致命傷には至らなかった、だが余りにも多過ぎるダメージ量にとうとう自動回復が切れてしまう。何とか壁にもたれ掛かり立ち上がると未だに闘志を孕んだ目で一つ目鬼を睨む。

 

「(どうする......。空中戦はこちらが不利だ......なら地上から魔法による遠距離攻撃で...)」

そこまで思考したミノルの脳裏に突如一つ目鬼が再び光線を放ちそれに反応できず呑み込まれる()()()()()()()()。“未来予知”の“自動発動”である。これはミノルを殺す、又は致命傷を負わせる攻撃が来る5秒ほど前

にその攻撃のビジョンを見せてくれるものである。つまり、

 

「(喰らったら......死ぬ!!!!)」

 

咄嗟に地に伏せるとその直後頭上を破壊の名を冠した光線が掠る。久しぶりに感じた『死』にミノルは動けなくなっていた。

 

「(怖い...怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!死にたくない死にたくない死にたくない!!!)」

 

一種の恐慌状態に陥り魔力変換の事をすっかり忘れたミノルに今度こそミノルを仕留める為に放たれた死神の白き鎌がミノルを貫いた.........。

 

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暗い意識の底でミノルは誰かと対峙していた。顔も見えず姿もぼんやりとしか捉えられない人物と。いや、既に“それ”は人の身では無いかもしれない。そんな何かがミノルに問い掛ける。

 

『クックック............。憐れだな、同情するほど。このままだと貴様はまず間違いなく死ぬ。どう足掻いてもな。だが一つだけその運命を覆せる方法があるんだが...。』

「っぁ!?だ、誰だ!?此処は何処だ!俺はどうなったんだ!?」

 

“声”と言うよりは“音”に近い様な人物の囁きと自分の立場に混乱するミノル。その人物は再び口を開いた。

 

『細い話はどうだっていい。だが今貴様は死にかけている。貴様が“承諾”さえすれば貴様は死ななくて済む。これだけだ。端的に言うと、な。』

「死にかけている......?そうかあの時サイクロプスの光線をくらって......。どうすれば俺は死なずに済むんだ?」

 

混乱する意識の中で自分が未来予知の後二回目の光線をくらった事を思い出す。どうやらこの人物の話によると生き返れる方法があるらしい。必死だった。死にたくないという感情だけがミノルをこの世に存在させていた。

 

『だから何度も言っているだろう。承諾しろ。()()()()()()()()()()()すればいい。簡単な事だろ?』

「それで助かるなら......。分かった承諾する。」

『確かに受け取った。じゃあ少し寝てろ。』

 

その言葉を最後にミノルの意識は完全に闇の中へと落ちた。

 

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現実の世界ではほんの一瞬の事だった。光線を受けて死んだ筈のミノルが何と再び立ち上がったのだ。よく見ると普段のミノルとは全くの別人と言っていいほど外見が変わり果てていた。まず、頭部の半分を占めていた赤髪が頭部を全て多い尽くし中途半端な灰色や黒は無くなった。変身前から絶大な魔力量だったがそれが可愛く見える程、圧倒的なそれこそ“神”の様な赤黒く対峙するだけで絶望に身が侵されるような魔力を纏いその挙動一つ一つが地を抉った。金色の瞳は相変わらずだがその目の奥に深い闇が灯る。

 

ニィっと口の端が釣りあがったと思うとコンマ一秒にも満たない時間で一つ目鬼の背後に現れる。転移魔法だろうか。原理はよく分からないが事実としてそこにはミノルがいた。そしてゆっくりと拳を一つ目鬼の腹に向かい突き上げる。当然拳は届かない。だが次の瞬間一つ目鬼の腹部に巨大な穴が現れた。現れたのではなく一つ目鬼の腹部が消滅したと表現するのが正しいのだがそう表現してしまうほど突然の出来事だった。一つ目鬼も驚愕しているのか背後を振り向き拳を振り上げる。だが腐っても迷宮の中ボス。腹部が何と再生を始めたではないか。この調子なら一分あれば元通りの体躯に戻るだろう。

 

「ククク...。」

 

それを見て尚不気味な笑い声を上げる。重力を感じさせない動きで宙に舞い上がると一つ目鬼がその拳を落とすより速くミノルが脚を振り上げ一つ目鬼の頭部目掛けて振り下ろす。またもやミノルの脚は当たらない。だが一つ目鬼の頭部はやはり潰れたや抉れたと表現するよりは“消滅した”と言うのが正しいであろう状態になる。つまり地についている二本足と再生した一部の肉体を残し一つ目鬼は断末魔を上げる暇もなく絶命したのである。だが、ミノルは掌を既に絶命している一つ目鬼に向け何かを呟く。瞬間、ミノルの掌から赤と黒と閃光が迸り一つ目鬼は細胞一つ残すことなく文字通りこの世界から消滅した。そして一言。

 

「こんなものか...。もう少し楽しめると思ったんだが......。まぁいい。次に期待しよう。」

 

そこにあったのはこの世のあらゆる“恐怖”を知り尽くした者でも蹲って子供の様に泣きじゃくる様な“邪悪”と言うには安易すぎる“魔神”の姿だった。

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ミノルが目を覚ますと一つ目鬼はおらず、闘技場は半壊していた。頭痛で意識がやや混濁としているが取り敢えず五体満足の事に安堵する。髪は元のように半分が赤、もう半分が黒に一部が灰色に戻り魔力も通常通りの値に戻ったようだ。

 

「一体何だったんだ......。さっきのは......。助かった、のか?」

 

身体の埃を払うと改めて闘技場を見回す。身に覚えの無いクレーターや破壊の跡が所々に見える。混乱するミノルに何かが再び囁いた。

 

『(コロセ。)』

「な、何だ?」

『(コロセ。)』

「一体......誰が......。」

『(コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ、コロシテシマエ。ナニモカモ)』

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」

 

ミノルの中で何かが崩壊した。絶叫の中ミノルは悟る。そうだ。全部殺せばいい。一つ目鬼も何もかも自分に仇なす者は皆、

 

『「殺しテやル」』

 

ミノルの髪が先程の魔神(?)のように赤く染まる。魔力の増大はしていないがミノルを包む雰囲気が先程の魔神の様に絶望を象徴する様な禍々しいものに。変化が終わったミノルの瞳に迷いは無い。全てを殺し全てを壊しこの世界から元の世界に帰る。方法を探す為なら、また自分の道を塞ぐ者は誰であろうと、なんであろうと殺し壊す。そう決意するとゆっくりと歩き出す。先ずはこの迷宮から脱出する為に。

 

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ミノルは使い果たした魔力を回復する為に持っていた神水を浴びる様に飲んでいた。やがて回復が終わるとずっと一つ目鬼だとばかり思っていた魔力が消えない事に気づきその魔力の根源に向かう。魔力の根源は闘技場にあった隠し扉の向こう側にあった。そこには闘技場程ではないが巨大な扉が鎮座しており魔力はそこから漏れ出しているようだ。躊躇いなく其の扉を開けると思わず目を見張る。そこにはこの迷宮には場違いな高貴な部屋があったのだから。部屋を煌びやかに照らすシャンデリアに天蓋付きのベッド。壁に飾られた絵や所々に置いてある骨董品はどれも普通の生活をしていたらお目にかかれないような物ばかりだった。

 

「............誰かいるの...?」

 

その部屋の中央に魔力の根源は“居た”。正確に言うと上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い銀髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる蒼眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

「お前は......?」

「お願い.........助けて......。」

 

その声は長年使われていなかったのか掠れて殆ど聴き取れなかったが少女の必死さは充分に伝わった。だがミノルは

 

「断る。」

「そんな...何でもするから....。」

少女に背を向けると扉の方へ歩いて行く。どうせ助けた瞬間魔物が天井から降ってくるというオチであろう。罠ではないとしても少女の首に付いている立方体は明らかに封印魔具だ。ヤバい奴に違いない。

 

普通の人なら間違いなく助ける場面だろう。過去のミノルもそうしたかもしれない。だが、生憎ミノルは赤の他人に同情できるほどの余裕は残っていない。それをそのまま言葉にする。

 

「こんな所に封印されてるんだ。そんな奴を外に出す訳にはいかない。」

「待って...!お願い...!私は...私達は悪くない...裏切られただけ!」

 

ピクっと扉の方に向かっていたミノルの足が止まる。“裏切られた”その言葉に反応してしまったようだ。ミノルはいじめられていたクラスメイトを知っている。だがそのいじめに加担することは無かったが見て見ぬ振りをして過ごしていた。ある日そのクラスメイトに「何で知ってて助けくれなかったの?」と告げられ「意味が無い」と答えてしまった。その次の日にそのクラスメイトは自殺した。原因はいじめだろうが、とどめを刺したのはミノルだ。

 

「(けど何でこんな時にアイツが...。)」

 

生きるか死ぬかの瀬戸際の領域で何故大昔に死んだ友人の事を思い出すのか。銀髪蒼眼の少女は縋るような目でこちらをじっと見つめていた。何分経っただろうか。深い溜息を吐きミノルが少女の下へ歩み寄る。

 

「裏切られたってどうゆう事だ?」

「私と私の妹、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前達はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私達……それでもよかった……でも、私達、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「封印って...どの位だ?」

 

「三百年位......。」

 

よくある話である。強大な力を持ち大きな権力を持つ善人は欲に溺れた悪人に嫉妬され恨まれ憎まれ、やがて殺される。だが殺せなかったのだろう目の前の銀髪蒼眼の少女と彼女の妹はこんな場所に封印されたのだ。

 

「お前と妹はどっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないとは何だ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……ふむ不死身の一種か。他は?」

「...後……魔力、直接操れる……陣もいらない」

「それは凄いな...。」

 

確かに強大な力だ。その技能とステータスを除けばミノルと同じ事が出来るのだ。この階層の入口からでも感じられた魔力と不死身というチートスペック。魔力操作ができるのならその魔力量にものを言わせてここら一帯を灰にするのなんて容易いだろう。過去の人々が恐れるのも無理はない。ミノルは一人で納得した。

 

「.........助けて。」

 

一人思考に耽っていたミノルに懇願するように呟く。助ける義理はない。裏切られようが、封印されようが強大な力を持っていようがミノルには全く関係が無かった。後はミノルの良心の問題である。

 

「.....................。」

 

長い沈黙の後深い溜息を吐きミノルは少女の立方体に手を掛け魔法を使うと魔神化の影響で赤黒く、いや殆ど漆黒に染まった魔力が黒い閃光と共に迸る。解除を試みて初めてわかったことだがこの封印魔具、並の魔術師が拵えたものでは無いらしく普通の人間が外そうとするなら神水を飲みながらでもびくともしないだろう。()()()()()()()。封印魔具の外し方は三つ。一つは対応する解封呪文を唱える事。これは最も魔力を消費せずに

外せるが難易度は他の二つに比べると桁違いだ。何故なら一つの封印魔具に対し対応する解封呪文は一つ。つまり現時点では不可能なやり方だ。二つ目は封印魔具その物を分解するという方法である。これは生産系の天職且つ相応の魔力量が無いと無理だろう。だが最後の一つ、ミノルが今行っている事に比べると魔力の消費は少ない。

 

最後の方法。それは封印魔具の許容範囲を超え封印魔具が耐えられなくなって崩壊するまで魔力を注ぎ込む事だ。今ミノルが手にしている封印魔具は先程述べた通り名の知れた封印師が造った物だ。つまり上の二つの方法とは比べ物にならない魔力が必要である。だからミノルにしか出来ない。力技である。

 

「(思ったより魔力の許容範囲が多いな...。だが今の俺なら...!)」

 

ミノルが注ぎ込んだ魔力量は超高位魔法を二発連続で使用した魔力量と等しい。だが未だに外れない封印魔具に更に魔力を込めていく。部屋中がミノルの漆黒の魔力で黒く照らされ夜になってしまったのかと錯覚する程であった。やがて、三百年形を変えずに銀髪蒼眼の少女の自由を奪い続けていた封印魔具はとうとうミノルの魔力に耐えきれずボンッ!という小さな爆発音と共に消滅した。

 

 

直後、少女の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、少女は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

 ミノルも座り込む。荒くなった呼吸音を押し殺す様に息を吐き吸う。頬には一筋の汗が流れ落ちた。放心状態になっている少女に懐から取り出した神水を飲ませると、自分もがぶ飲みする。その際、少女はずっと震える手でミノルの服の裾を掴み「ありがとう......」と呟いていた。その姿を見て流石に不憫に思ったのかミノルは空いてる手を少女の頭にポンと置いた。少女は我慢していたものが崩壊したのか自分の格好も忘れミノルの胸に顔を埋め泣きじゃくった。

 

泣き止む頃にはすっかりミノルに懐いておりミノルの背中に寄り掛かっていた。

 

「.........あの...名前は?」

 

 

何かを考える様に俯いていたミノルは不意に囁かれた事に多少ビクッとするが顔を上げると

 

「ミノル。壠瀧ミノルだ。お前は?」

「名前.........。あった、けどその名前嫌。ミノルが付けて......?」

 

上目遣いでそんな事を尋ねる少女は確かに可愛かった。確かにトラウマになっている時代の名前では嫌だろう。そんな我が儘を言えるようになったのはミノルに心を許している証拠かもしれない。悩む必要は無かったが改めて少女を見て多少なりとも考えてみる。汚れているが少し青が掛かった美しい銀髪に空の青よりも透き通る蒼眼がよく映えている。

 

「うーん......青.........空.........月.........吸血鬼......。ルーナ...。“ルナ”はどうだ?古い時代の言葉で月を意味する。」

「......ルナ。うん私はルナ。宜しくミノル......。」

 

その言葉を何度も口に出すては顔を綻ばせるルナ。気に入ってくれたようでなによりだが割と適当である。正直ここまで喜ばれると少々胸が痛い。

 

「うんまぁその何だ。そんな格好だと目のやり場に困るからこれ着とけ。“創造”」

 

ミノルの手から放たれた漆黒の魔力が形を変え黒い外套になる。それをルナに渡しあまり背後を見ないようにした。

 

「......ミノルの変態。」

 

顔を真っ赤にしたルナが漸く自分の格好に気付き不貞腐れたように呟くとその外套を慌てて羽織った。身長が百四十cm程しかないルナは外套を全部羽織ると引きずってしまっている。何とか外套が地面に着かないようにしている姿が微笑ましい。

 

その次の瞬間。ミノルの“未来予知”が自動発動する。そのビジョンを見たミノルは“縮地”を使いルナを抱え上げると扉の方へ飛び出したその直後一秒前までミノル達がいた頭上に真っ青な外殻を纏った巨大な“サソリ”が現れた。

 

「やっぱり罠かよクソッタレ!!」

 

当初ミノルが案じていた事が現実になってしまったようだ。恐らく、封印が解けた時の最後の砦だろう。侵入者とルナ諸共殺せと命令されているのであろう。悪態を吐きながら取り敢えずこんな狭い場所から出ようと詠唱を始める。

 

「灰よ。火の無い灰よ。薪の王の名の下に命ずる。我を守れ。“灰人形(ゴースト)”。」

 

するとサソリの行く手を阻む様に何処からとも無く灰が現れ数体の人間の形を構成していく。当然あの魔法で殺す気は無い。足止め程度で充分だ。灰人形でサソリを留めている間にルナを抱え外に飛び出した。直後部屋を破壊しサソリも外に出て来る。灰人形を一撃で屠った様だ。そんなサソリを見てニヤリと笑うミノルは狩人。いや唯の戦闘狂の目をしていた。

 

「上等だ。来いよ。一撃で仕留めてやる。」

 

 

 

 

 

 




もしユエに姉がいたらどんな感じだろうなーと作者の妄想全開で書いてみました。「ハジメのいた大迷宮と同じ所じゃないの?」と思う方がいるかもしれませんが理由は後々解るので暫く御付き合い下さいませ。結局吸血鬼なので月を意味する“ルナ”という安易な考えです。スペイン語で月を表しますね。それとルナの性格やスペックはユナとはまた違う感じにしたいなーと思っているのでもしかすると後で訂正入るかもしれません。次回、サソリモドキとのバトルです。それと余談ですがUAが1500を超えてました。見て下さった方ありがとうございます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。次回も最後まで読んでくれると幸いです。

次回の更新は明日か明後日になります。


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