亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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完結です。


最終話:さらば、剣崎

 翌日、世間は騒然としていた。

 まず、オールマイトがトゥルーフォームで緊急記者会見を開き、ヒーロー活動に関する今後の対応を語った。彼は会見において、まだヒーローを引退こそしないが、一線を退いて後進の育成に全力を注ぐことと〝平和の象徴〟の時代が終わりつつあることを表明した。存在しているだけで悪の抑止力となったヒーローの弱体化は、人々からして観れば不安しかないだろう。

 次に、オール・フォー・ワンと札付礼二の処遇。警察と特殊拘置所・タルタロスの関係者の発表では、オール・フォー・ワンは特例中の特例として刑の確定を待たず特殊拘置所へ入れられた。数々の犯罪の手引きや(ヴィラン)連合に関する情報を探るため、刑の執行はまだだという。札付礼二の場合は、人命を奪うような凶悪犯罪を一件も起こしてないことやオール・フォー・ワン逮捕に協力してくれたこともあり、ある程度の厚遇で入れられたという。

 そして、シックス・ゼロ。彼はオール・フォー・ワン同様の処遇で入れられたが、その際に彼は出久達によって倒された上に人質を解放させられたことを証言した。雄英の生徒が危険を冒して助けに行き、何とオール・フォー・ワンに匹敵する悪党とされたシックスを倒したことで、世間から英雄だと称賛された。しかし一方でシックスが護送される写真には刀傷らしきものが複数あり、何者かと先に戦闘をしたのではないかと一部界隈から指摘された。これについてはシックスは黙秘し、出久達も「着いた頃には傷ついていた」と語っていることから今後の調査が期待されている。

 

 

           *

 

 

 2日後、東京のとある病院。

 病室の前には〝()(むら)(ゆう)()(ろう)〟という名札が貼られている。

 しかし、病室の中に居るのは――

「刀真……無事でよかった……」

「……別にあの場で死なせてもらってもよかったんだがなァ」

 そう、剣崎だった。

 先日――衝撃の余波で吹き飛ばされ、鉄筋に腹を貫かれた彼は意識を失い、救急搬送された。賢明な手術の末に一命をとりとめ、こうして生き残ることができた。ただし手術が終わって一日も経たない内に目が覚めるとは思えなかったのか、関係者から「お前は化け物か!?」と驚かれたが。

 そんな彼は、見舞いに来たミッドナイトと共にテレビを見ている。見ているのは、浦村警視監の記者会見であった。

《何か質問は? あ、じゃあそこの君》

《東同新聞の望田です。昨日の事件でオール・フォー・ワンなる(ヴィラン)と戦っていた少年は何者でしょうか?》

《彼は自らの名に関しては黙秘しているが、オール・フォー・ワンに恨みがあるという。札付礼二とも面識があることから、彼と敵対した若い(ヴィラン)と見て調査している》

《一部界隈からは、剣崎刀真が生きていたのではという指摘もありますが?》

《彼は16年も前に死んだ。警察の公式記録にもある。世の中には自らと同じ、または酷似した顔の他人が3人いるという……偶然似ていたと断定してもおかしくない》

 浦村は記者達の追及をことごとく回避する。

 それを見ていたミッドナイトは呟く。

「本当に無かったことにするのね……」

(ヴィラン)共への怒りと憎しみを振り撒き続けたまま〝剣崎刀真(ヴィランハンター)〟はこれで死んだ……今は一市民として名も経歴も戸籍も、全てを偽って志村優太郎として生きてる」

 あの事件以降、剣崎刀真に関する情報は全て闇に葬られた。

 マスコミは剣崎が生存していたのではないかという報道をしたが、番組に出演した評論家とコメンテーターの多くが「16年も前に死んだ〝個性〟を発現できてない人間が、見た目も変わらぬまま年を取らずに生き続けることは信じ難く、理解に苦しむ」という見解を示し、警察も先程のように「神野で逮捕されたのは、剣崎と酷似していた人物である」と公表したことにより、最終的には「剣崎と酷似した(ヴィラン)」として世間で認識されるようになりそうだ。

 また、浦村の前にタルタロスの署長も緊急記者会見を行い「件の犯罪者は、特別な独房で仮釈放無しの終身刑に服すことになった」と公表した。その際に実力の高さではなく破壊主義的な思想が広まることを危惧し、タルタロスで働く全ての職員に対して全ての情報公開を禁じる特別措置を行ったことを明らかにした。記者会見に同席していた記者の多くは「国民の〝知る権利〟の侵害」と非難したが、署長の「件の犯罪者の思想が世間に広まって感化された者が暴れ始めたら、国民の生活と安全に甚大な被害をもたらす」と真っ向から論破してその場を収めた。

 雄英においても剣崎の情報は全て隠蔽され、USJの事件も剣崎のネタは徹底的に抹消された。当然生徒にも口外を禁じ、執拗なまでのもみ消しを行った。

 それは全て、剣崎の願いであった。過去の帳尻合わせのために、剣崎は己自身も殺したのだ。

「刀真の名も、呼べなくなるのかしら……」

「諦めろ、俺はもう終わったんだ。彼岸の成就こそ叶わなかったしオール・フォー・ワンとシックスに止めも刺せなかったが、まァあの状態ではどうにもならねェだろうから暫くは大丈夫だろうな」

「……」

「これでお別れだな。睡、今までせ――」

 剣崎が口を開いた途端、ミッドナイトが彼を抱きしめた。

 顔は彼女の胸の谷間に引き寄せられ、どこぞの峰田ならば血の涙を流すような光景だ。

「……何のマネだ、睡」

「餞別よ……〝ヴィランハンター〟剣崎刀真との……」

「……」

「……ここにいたのか」

「「!」」

 すると、剣崎の病室にオールマイトが訪れた。その後ろにはグラントリノや塚内達もいる。

 今のオールマイトは全身のほとんどが包帯や湿布で貼られており、見るからに痛々しそうな姿である。それでも院内を移動できるまで回復したのはさすがというところだろう。

「……病院から化け物屋敷に変わっちまったな」

「何だと青二さ――いだだだだだ!!」

 鼻息を荒くして一喝しようとした瞬間、激痛に苛まれるオールマイト。

 元からこういう人間であることを知っているからか、塚内達は苦笑いを浮かべるだけだ。

「……んで、何しに来やがったんだ即身仏」

「ガリガリから一旦離れようか、剣崎少年」

 オールマイトはよぼよぼとした足取りで剣崎のベッドの傍のイスに座る。

「……私の中にあった〝残火〟は少ない。社会は変わらざるを得ないだろう」

「たった一人に依存し続けたツケが回っただけだろうが。自業自得だ」

 今まで絶対に折れないであろうと言われ続けた〝平和の象徴〟の限界を一刀両断する剣崎。

 すると剣崎は、オールマイトの顔を見据えて冷たく言った。

「オールマイト。死柄木のクソガキがたとえ菜奈さんの家族であっても、所詮犯罪者は犯罪者……会う気なら確実に潰せ」

「!!」

「生死を懸けた戦場で迷う奴は真っ先に死ぬ……どんなに強くてもな。俺はてめェのその部分がダメだと今でも思ってるんだぜ」

 剣崎の言葉に、何も言えなくなるオールマイト。

 オール・フォー・ワンの口から語られたあの言葉を聞いた以上、オールマイトは死柄木を(ヴィラン)として見れなくなる。剣崎の言うことは、紛れも無く正論だろう。

「〝平和の象徴〟はまだ生きてるがよ……もうてめェは俺と同じ〝時代の残党〟なんだ。せいぜい次の世代を育むこったな」

「それに関してなんだが、剣崎少年……」

「……?」

 

 

           *

 

 

 そして、一週間が過ぎた。

 出久達――それと相澤――は雄英の敷地内にある新設の建物・ハイツアライアンスの前に集っていた。

 今回の一件で(ヴィラン)連合――に加えて逃げた無間軍構成員――の脅威を再確認した雄英は、これからはより危機意識を保ち生徒の命を守り育たねばならない。

 そこで雄英は、全寮制に変更した。安全性による保証が薄れ、生徒の命が危険に晒される恐れが高くなりつつある状況を終息させるためである。

 初めての雄英での寮生活に、生徒達は盛り上がるも――

「寮へ入る前に、色々棚上げた上で言わせてもらうよ――本来なら俺は、爆豪・耳郎・葉隠以外を全員除籍処分にしてる」

『っ!!』

 相澤の切り捨てた物言いに、息を呑む一同。

 彼は生徒達に一連の事件に関する思いを告げた。

「今後、暫くは混乱が続く。(ヴィラン)連合の出方が解らない以上、今雄英から人を追い出すわけにはいかねェ。行った者は勿論、把握しながら止められなかった者全て理由がどうあれ俺達の信頼を裏切ったんだ。お前らが負い目を感じるのなら、正規の手続きを踏み、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれると有難い。まあ、今すぐにって訳じゃないけどな………報告は以上。中に入るぞ。元気でいこう」

 相澤はそう指揮するが、未だに重たい空気が支配している。

 するとその空気を打ち破るかのように、寮の側の植木の前に麦わら帽子を被った青年が現れた。彼は枝きりを用いて植木の手入れを始め、黙々と作業をこなしていく。

「せ……先生、あの人は?」

「あ、ああ………ここで新しく働くことになった志村優太郎君だ。彼もまた、この寮で職員として生活することになる」

 相澤曰く、寮を運営する以上は環境維持が必要であり、外部から募集をかけたところ彼が名乗りを上げて採用されたという。

 ヒーローどころか〝無個性〟であるという今時珍しい人間ではあるが、昔は相当ヤンチャをやってたらしくかなりの腕っ節の持ち主であるという。

(……まさか……!)

 出久は、その青年――志村に見覚えがあった。

 この得体の知れない剣呑さ、麦わら帽子の下に見える、癖のある髪。志村なる人物は、かつて自分を無償で戦闘の指南をしてくれた、あの生ける亡霊と影が重なった。

「志村さん……いや、剣崎さん!」

「……」

「放課後、また修行させてください! 僕、もっと強くなりたくて――」

「……そりゃあ喋る遺体だけじゃ頼りねェよな」

 青年は麦わら帽子を取ると、獰猛な笑みを浮かべた。

 正体は、やはり剣崎だった。

「その顔……まさか、元に!?」

「話はあとだ、とっととやるべきこと果たすんだな」

 

 

 16年の時を経て蘇った亡霊ヒーロー〝ヴィランハンター〟。

 彼は多くの悪を討ち取り、悪の支配者や大物達の討伐に人知れず貢献し、次代の移り変わりと共に〝個性(のろい)〟から解放され、静かに終わりを迎えた亡霊は影で次代を支える道を選んだ。

 

 全ては己が課した信念のため、己が描いた未来のため。

 己が人生を擲ってその手を血で染めた彼は、凶人か、それともダークヒーローか。

 

 これは、人生を狂わされ修羅の道を辿ることを決意した一人の「亡霊」の物語。

 

 

 亡霊ヒーローの悪者退治 End




今月中に終わらせられてよかった……!

約1年と2ヶ月。ここまでお付き合いしていただき皆様、本当にありがとうございました。
感想・評価貰えると嬉しいです。
ですがもしリクエストあれば、本編終了後をちょこっと投稿するかもしれません。その時はまた。

『ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~』と『浅蜊に食らいつく溝鼠』は連載中なので、そちらも読んでくれると嬉しいです。

とにかく、今までありがとうございました。『亡霊ヒーローの悪者退治』はこれで終了です。

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