今月までに終わるかな……?
剣崎とシックスの戦いに介入した出久達。
自らの手ではないとはいえ、シックスに一矢報いたことで、剣崎は安堵の笑みを浮かべた。
「ハァ……ハァ……それにしても、助かったぞ出久君」
「剣崎さん、大丈夫ですか!? 傷が結構――」
「俺のことはいい。早く爆豪君を………」
出久達は囚われの身の爆豪の元へ駆けつけ、彼を縛っていた糸を解き始める。
「てめェら……」
「かっちゃん、無事でよかった……!!」
涙を流して笑みを浮かべる出久。
色々過去にあったが、幼馴染が
それが顔に出ていたため、爆豪は何とも言えない表情で視線を逸らしていた。
すると――
「くっ、油断したぞ……まさか受精卵が助太刀するとは……」
『!?』
血塗れでゆっくりと立ち上がるシックス。
血を流しながら不気味に微笑む彼に恐怖を感じたのか、出久達は冷や汗を流した。
「ハァ……ハァ……ちっ、しぶてェ野郎だな。今ので仕留めてもおかしくはねェと思ってたが………」
「当たり所がよかったのだよ……それに殺すのはマズイと思ったのか、ほんの少しだけだが力が弱まった。剣崎よ、お前の後輩は随分と
「ハァ……ハァ……そうだな、確かにお前の言う通りだ……だが時代は変わった、この子達は俺の想像を遥かに超える力を秘めている……」
16年の時を経て、ヒーロー社会に戻った剣崎。
彼はヒーローからその卵まで、平和ボケして腑抜けているかと思ってたが、それは誤りだった。出久も然り、爆豪も然り、
「本当ならここで始末したいが、オール・フォー・ワンを潰さなきゃいけねェ。いくらお前でもその傷じゃあ満足に動くことはできねェ。勝負ありだ」
「ぬかせェェェ!!」
激昂したシックスは、息切れする剣崎に襲い掛かる。
その瞬間――
ドンッ!!
「ぐはあっ!!」
剣崎は切り札の〝雷槍〟を放ち、シックスを吹き飛ばした。
しかしヒイラギの効果で体を蝕まれてるゆえか、破壊力は大分削がれておりシックスは未だに息がある。
「がっ……お、おのれ……」
バシィッ!
「!? ――氷、だと……!?」
「轟君!!」
シックスが立ち上がろうとした瞬間、轟が〝個性〟を発動して彼を氷漬けにした。
頭までは凍ってないが、手足は完全に分厚い氷に捕らわれているため身動きは取れないだろう。
「轟……そうか貴様、エンデヴァーの……!!」
「せっかく追い詰めといて、情をかけて逃がす程バカじゃねェよ」
「……わかるようになってきたじゃねェか」
すると剣崎は、体を引き摺るように動かしながら踵を返した。
「け、剣崎さん! 一体どこへ!?」
「……ケジメつけに行くんだよ。俺の時間には限りがあるんだ……」
*
一方、凄まじい激戦地となった神野の街中。
ここでは、オールマイトとオール・フォー・ワンによる因縁の戦いと、熱美による
「ハハッ、これは参ったな…………」
「どうしたその声は!? 貴様らしくないな!!」
忌々しげに口を開くオール・フォー・ワンに、オールマイトは満面の笑みを浮かべる。
今回の戦いは、オールマイトにとって戦い易かった。倒すべき巨悪に集中でき、心置きなく戦える。死柄木達は熱美達に任せられる。唯一気掛かりなのは爆豪とシックスだが、剣崎が追跡したためどうにかなるだろう。淡い期待ではなく、心から信頼できるからこそ、オールマイトはオール・フォー・ワンだけに意識を向けられるのだ。
それはオール・フォー・ワンにとって、不利に働く。ヒーローとは何かと大きくてたくさんのモノを抱える……それはオールマイトも同様だ。しかし今のオールマイトにはそれが無い。〝平和の象徴〟の動きを抑えられるしがらみが無いのだ。
(さて、どうしたものか……)
オール・フォー・ワンがオールマイトと戦う中、死柄木達もまた撤退に動く。
「ちょっと! 早く急いで!!」
「ここは撤退するしかない!!」
「先生……!!」
「あら? 女ヒーロー一人倒そうとしないどころか尻尾巻いて逃げるなんて、情けない限りね」
「何だと……!?」
「見え見えの挑発に乗るな!! 乗れば奴の思う壺だ!!」
熱美の挑発が癪に障ったのか、殺気を放って睨む死柄木。
しかし状況が状況――スピナーが彼を諫める。
「先生、先生って……あなたいくつ? いい年こいて恥ずかしいと思わないの?」
そうやって何もかも他人に預け、頼りきりになり、何も考えない。
だからこそ、彼女は死柄木を嘲笑う。強大な
彼女の本心としては、先生に頼るという手段を否定はしない。人間は誰しも、生きている限りは必ず何らかの障壁とぶつかる。その障壁を越えるために先人の力を頼ったり借りたりするのも手段の一つだ。だが、何だかんだ言って自分の力で障壁を越えることが一番大事である。故に先生に依存する生徒など伸びないのだ。
熱美はそう言っているのだ。
「ああ、恥が無いから
「……せェ……」
「まァ、リーダーがリーダー。それも仕方ないか……」
「……るせェ……!」
「〝子ども大人〟なリーダーのわがままに付き合い、そして無様に生涯を閉じる。実に空虚な人生だと思わない?」
『っ……!!』
死柄木どころか連合のメンバーすらもどんどん煽っていく熱美。
そして止めの一撃を口にする。
「ホント同情しちゃうわ……オール・フォー・ワンなんて、仲間や敵を利用すること
――
「黙れェェェェェェェェェェ!!!」
熱美の煽りに、ついに死柄木の怒りが爆発した。
誰も手を差し伸べてくれなかった自分の元に、声こそ冷酷そのものでありながら手を差し伸べたオール・フォー・ワン。見て見ぬ振りをされ生きる意味すらも失った自分を助けに来た、唯一の
正義と名乗り平和を語るヒーローは、そうやって自分から何もかも奪ってきたのだ。本心であろうとなかろうと、関係ない。目の前の女を
「勝負あり、ね」
高熱で赤く発光する拳を振り上げる熱美。
自分を殺そうと迫る死柄木さえ討ち取れば、あとは烏合の衆。一番の厄介者さえ仕留めることができれば、連合は自然と消滅するだろう。
「これで終わり――」
シュバッ!
「っ!」
突如としてオール・フォー・ワンの触手が襲い掛かる。しかしそれは熱美ではなく、死柄木へと伸びている。
オール・フォー・ワンの触手は〝個性〟の強制発動ではなく、死柄木をあの黒い霧へと飛ばして逃がすためのモノ――そう判断した熱美は、死柄木から職種に狙いを変え、死柄木に届く前に掴み焼いていく。
「くっ……!」
高熱はオール・フォー・ワンにまでしっかり伝わっているのか、苦しそうな声を上げる。
しかし触手は一本ではない。掴まれていない残された触手を死柄木達に伸ばし、黒い霧に目掛けて弾いた。その中には気絶したコンプレスもいる。
「わっ!?」
「きゃあっ!!」
「っ! ダメだ先生! その体じゃあ――」
「安心しろ弔、君は君の戦いを続けるんだ――」
黒い霧は死柄木達と共に完全に消え、
「しまった、逃げられた……」
「おのれェ!!」
激昂したオールマイトの拳が迫る。
しかしオール・フォー・ワンは、冷静に「「転送」+「衝撃反転」」と唱える。
「させっかよ!」
「っ!?」
何かよからぬ気配を感じた火永が、鉄筋を〝個性〟で飛ばす。
オール・フォー・ワンは咄嗟に躱すが――
「燃えろ」
「何!?」
ふと、オール・フォー・ワンは自分の周囲に無数の札が囲むように浮いていることに気づいた。
札はオール・フォー・ワンに一斉に張り付き、爆発音と共に燃えた。
「ああっ! うぐう!?」
意表を突かれた援護射撃に、オール・フォー・ワンは苦しむ。
その隙を突き、オールマイトは彼に肉迫する。
「すまない! 〝DETROIT SMASH〟!!」
オールマイトの会心の一撃。
さすがのオール・フォー・ワンも、避けきることはできず食らってしまい吹き飛ばされる。
「ハァ……ヒーローは多いよな、守るもの。剣崎も然り、お前も然り、道理で手強いわけだ」
「礼二………」
ふと礼二が零した言葉を耳にし、オールマイトは驚く。
それは誰かが傷つき苦しむ姿を望むオール・フォー・ワンと違い、ヒーローに敬意を払うようにも聞こえる。昔から妙な部分が多かったが、彼は
「……感情的になる所は、昔と変わらないね。オールマイト」
『!!』
オール・フォー・ワンは、立ち上がった。
さすがに傷は負ったのか、所々火傷や打撲の痕がある。
「一体誰に似たんだか……いや、同じような台詞に変わらぬ折れぬその正義感。君はあの女共に似てるね。「ワン・フォー・オール」先代継承者の志村菜奈と、〝ヴィランハンター〟を産んだ剣崎優に」
『!?』
オール・フォー・ワンは、悪意に満ちた声で〝嗤った〟。