亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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いろいろな事情で遅れました、申し訳ありません。
更新再開です。


閑話:〝ヴィランハンター〟を想う者達

 あれは今から16年ぐらい前だった。

 俺は街中に現れて暴れまくっていた(ヴィラン)達と戦っていた。この時、たまたまプロヒーローも来ていたため戦況は有利な方だった。だが…。

「動くな!! 動いたらこのガキを殺す!!」

「なっ……!」

「クソが……!!」

 迂闊だった。少女を人質にとるとは、どこまでも卑怯な奴らだ。銃を使えれば早撃ちで(ヴィラン)のみ狙撃できたろうが、生憎俺は拳で語る男…残念ながら奴らの要求に応えざるを得なかった。

 その時だった。何かが、凄まじい風切り音をあげて高速で接近してきた。

 それは駆けつけていた警察(サツ)の間を抜け、俺とプロヒーローの横を通り過ぎ、勢いを殺さず(ヴィラン)と少女の元に突っ込んでいった。

 

 シュバッ!

 

「ぐっ!?」

 俺はそれの正体を捉えた。ガキだ。しかも中坊だ。

 その小僧は短刀で敵の腕を一閃し、人質だった少女を抱き上げて高速で俺の隣に飛び退った。

 一瞬の出来事だった。俺やプロヒーロー、警察だけじゃなく、(ヴィラン)すら困惑してしまうほどの、一瞬の出来事だ。

「……大丈夫か?」

 深緑の癖毛をなびかせて、少女に微笑んだ小僧。

 少女の無事を確認すると、先程とは打って変わって殺気を放ちながら敵共を睨んだ。

「――明日の正義を背負う若き力に手を掛けようとするとは、敵ってのは全員救いようがないな。もっとも、悪者に慈悲など無用だがな……」

 その漆黒の瞳に宿るのは、憎悪だった。

 俺は今までに、(ヴィラン)を憎んでいる奴を数え切れないくらい見てきた。だが、この小僧だけは別格だった。あの小僧は、全ての(ヴィラン)を滅ぼすまで決して戦いを止めない復讐と執念の鬼だ。

さあ、悪者退治だ

 

 そう言うや否や、奴は(ヴィラン)共に目掛けて特攻した。

 それから先は、奴の独壇場だった。日本刀で次々に敵共を斬り捨て、蹴るわ殴るわの大暴れ。それでいて周囲への被害は最小限。被害とすれば、せいぜい返り血で道路や建物の壁、標識が汚れるぐらいか。

 個性は恐らく使ってない。いや、そもそも使うことすら出来ないのだろう。だったら日本刀で攻撃なんかしねェ。つまり、奴は純粋な戦闘力の高さで(ヴィラン)共を圧倒しているのだ。戦闘のセンスは、並大抵の(ヴィラン)やヒーロー以上……いや、もしかしたら俺以上なのかもしれない。

 それにただのガキの割には、あまりにも戦闘慣れしすぎている。どう考えても、あの小僧は死と隣り合わせの戦いを知っている。しかも敵とはいえ、殺すという行為に一切の躊躇がない。

 あの小僧が現れて3分で、敵共は皆殺しにされた。その強さは、俺の想像を遥かに超えていた。

「……全員殺したが、文句は言わせねェぞ。こういうゴミクズ共に情けをかけるとどうなるかわからないわけでもあるまいし」

 そして俺は始めて知った。アイツが巷を騒がす少年ヒーローだと。全ての(ヴィラン)を憎み、全ての(ヴィラン)を滅ぼさんとする〝ヴィランハンター〟剣崎刀真だと。

 あの小僧に遅れを取るわけにはいかない。俺もヒーローだ、ヒーローとして(ヴィラン)共と戦わねばならない。

 そう思うと同時に、俺はあの小僧に対して問いたかった。

 何故、そこまで生き急ぐのだと。これからお前は何十年も生きるというのに、何故その若さでその命を捨てるように生きるのだと。若き力よ、お前を暴走させたのは何だと。

 しかし、それを問う前に小僧は壮絶な死を遂げた。

 奴の悲願は成就されなかった。敵共はあの小僧が死んでから、再びその勢いを取り戻しつつある。それほど小僧は恐れられていたのだ。ならば、俺が奴の代わりにこの拳で敵共を打ち砕いてやろう。

 あいつのように、揺るがぬ信念を掲げて正義の敵を全て滅ぼしてやろう。このナックルダスターは、決して奴ら(ヴィラン)に屈さない。

 俺はそう決意し、この拳を振るうのだ。

 

 

           *

 

 

 時々、俺はあの少年……剣崎刀真を目指していたのではないかと考えることがある。

 利益を得るためでもなければ、地位や名声を得る為でもない。ただひたすらに己の信念と正義を貫く、自分が思い描く英雄(ヒーロー)のような名の知らぬ少年。奴は世間からは〝ヴィランハンター〟と呼ばれ、贋物のヒーロー達や警察から一目置かれているにもかかわらず、何の見返りも求めず、ひたすらに眼前の(ヴィラン)共を次々に狩りまくっていた。

 収益や地位、名声を得るための手段として人を救う贋物ではない。彼にとって「人を救う」という行為は、己の信念と正義を貫くための「義務的行為」なのだと俺は解釈した。

 ヒーローは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。贋作が蔓延る世界の粛清の為に動いている俺から見れば、あいつはヒーローと認めるに足る存在だ。いや…むしろこの俺が心から認める程の輩か、俺がずっと追い求めてきたヒーローだったのかもしれない。

 だが、あいつはもういない。16年前に(ヴィラン)達の罠に嵌まり、この世に遺体の欠片すら残さず死んだのだ。あいつと邂逅せぬまま、〝ヴィランハンター〟はこの世から去ったのだ。

 世界は、あいつを忘れた。収益や地位、名声を得るためではなく、己の信念と正義を貫くためだけに生身で敵達と戦ってきた少年ヒーローを。だから贋作が蔓延る世界になったのだ。

 口では自分を殺していいのはオールマイトだけだと言ったが、あいつでも構わないと俺は思っている。ただ、一度だけでいい。あいつを…〝ヴィランハンター〟を知りたい(・・・・)。あいつの正義を、信念を知りたい。贋物か、それとも本物か…あいつをこの目で確かめたい。

きっとあいつは、俺の言葉と信念に同調する筈だ…俺の掲げる「英雄回帰」に。

 だから俺は…赤黒血染は、ステインの名を以って贋物共を排除するのだ。全ては、正しき社会の為に。

 

 

           *

 

 

 16年前だった。私が彼と最後に出会ったのは、とある墓地だった。

 先代の継承者……お師匠から「剣崎を呼んでほしい」と頼まれた私は、彼が必ず行くであろう場所をくまなく捜索した。

 そして、最後に立ち寄ったのが、彼の家族が眠る墓地だ。

「ここにいたか、剣崎少年」

「……」

「亡き家族への弔いか?」

「――じゃなかったら、ここに来たりしねェさ」

 剣崎少年は家族の墓の前に立つと、キキョウの花束を献花した。

 キキョウの花言葉は、確か「永遠の愛」だった筈。剣崎少年は亡き家族を愛し続けているようだ。

「君の母と私は、顔馴染みだった。君の事はそれなりに理解しているつもりだよ」

「生き急ぐ若造に、今更説教かよ? 悪いが……止まらねェぞ、俺は」

 ぶっきらぼうに答える、剣崎少年。

 私はどうしても、彼のことが心配だった。何故、死出の旅路を選ぶような生き方をするのか。何故、我が身を滅ぼしても構わないと思うのか。何故、まだ先の長い命を擲つのか。自己犠牲の果てに、剣崎少年が望むモノがあるのか。

 彼の返事が分かっていても、私はそう問いたくなった。

「君は、死ぬつもりなのか……?」

「そうなっても仕方ねェな……全ては(ヴィラン)という悪を滅亡させるためだ。今のヒーロー達や国、警察のやり方では「真の正義」を遂行出来ない!!」

 憎悪を孕んだ目で、私を見据える剣崎少年。

 私は自分に言い聞かせているかのような剣崎少年の言葉を静かに受け止め、彼の心の奥をくみとろうとした。

「――オールマイト……あんたは、(ヴィラン)共に慈悲など無用とは思わないのか?」

「……」

「重要な情報を持っている? 命までとるのは非情? 情けは人の為ならず? そんな戯言をいつまで言っているつもりだ? その一言でどれほどの犠牲を生んだか!! どれほどの憎しみと悲しみを生んだか!! それを「ヒーローとしての筋」だとまだ語り、(ヴィラン)共に情けをかけるというのなら…俺は決して奴らに生き場所を与えず皆殺しにする!! (ヴィラン)共はこの剣崎刀真の手により、この世から一人残らず消え、滅亡する…(ヴィラン)共が蔓延るこの世界は、この〝ヴィランハンター〟が叩き潰すっ!!!」

 全ての(ヴィラン)共は――この世の悪は、〝ヴィランハンター〟の掲げる正義に打ち砕かれ、揺るがぬ憎悪を前に平伏すだろう。

 剣崎少年の怒りと憎しみの強さは、私想像を絶する程であった。

「――オールマイト。俺は「答え」を見つけたよ……」

 剣崎少年はその時、今まで見たことの無い、私が初めて見る笑顔を作った。子供のような純粋さと無邪気さを孕んだ微笑みだ。

 それはまるで、己が辿る末路を……早過ぎる最期を受け入れているような表情だった。

「じゃあ、俺は行く……(ヴィラン)のゴミクズ共と決着(ケリ)をつけてくる。全てが終わったら、築地の寿司でも奢ってくれよ。菜奈さんにはよろしく言っといてくれ」

 そう言って、剣崎少年は去っていった。

 それが、私と彼の最後の会話だった。

 

 

 あれから16年が経った。悪の支配者として君臨したオール・フォー・ワンは、5年前の壮絶な死闘により私の手で倒され、それにより(ヴィラン)の事件も減り続けていき、平和な時代になった。しかし志半ばで散った剣崎少年は、今の時代をどう思うかはこの私でもわからない。

 だからこそ、彼が貫こうとした正義を語り継がねばならない。彼の生き様を、少年少女達に伝えなければならない。それが私の……平和の象徴(オールマイト)の義務でもあるからだ。




今更ですけど、ステインとミッドナイトは同じ31歳なんですよね。そしてこの小説の主人公・剣崎も生きていたら31歳。
わォ…。

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