更新再開です。
あれは今から16年ぐらい前だった。
俺は街中に現れて暴れまくっていた
「動くな!! 動いたらこのガキを殺す!!」
「なっ……!」
「クソが……!!」
迂闊だった。少女を人質にとるとは、どこまでも卑怯な奴らだ。銃を使えれば早撃ちで
その時だった。何かが、凄まじい風切り音をあげて高速で接近してきた。
それは駆けつけていた
シュバッ!
「ぐっ!?」
俺はそれの正体を捉えた。ガキだ。しかも中坊だ。
その小僧は短刀で敵の腕を一閃し、人質だった少女を抱き上げて高速で俺の隣に飛び退った。
一瞬の出来事だった。俺やプロヒーロー、警察だけじゃなく、
「……大丈夫か?」
深緑の癖毛をなびかせて、少女に微笑んだ小僧。
少女の無事を確認すると、先程とは打って変わって殺気を放ちながら敵共を睨んだ。
「――明日の正義を背負う若き力に手を掛けようとするとは、敵ってのは全員救いようがないな。もっとも、悪者に慈悲など無用だがな……」
その漆黒の瞳に宿るのは、憎悪だった。
俺は今までに、
「さあ、悪者退治だ」
そう言うや否や、奴は
それから先は、奴の独壇場だった。日本刀で次々に敵共を斬り捨て、蹴るわ殴るわの大暴れ。それでいて周囲への被害は最小限。被害とすれば、せいぜい返り血で道路や建物の壁、標識が汚れるぐらいか。
個性は恐らく使ってない。いや、そもそも使うことすら出来ないのだろう。だったら日本刀で攻撃なんかしねェ。つまり、奴は純粋な戦闘力の高さで
それにただのガキの割には、あまりにも戦闘慣れしすぎている。どう考えても、あの小僧は死と隣り合わせの戦いを知っている。しかも敵とはいえ、殺すという行為に一切の躊躇がない。
あの小僧が現れて3分で、敵共は皆殺しにされた。その強さは、俺の想像を遥かに超えていた。
「……全員殺したが、文句は言わせねェぞ。こういうゴミクズ共に情けをかけるとどうなるかわからないわけでもあるまいし」
そして俺は始めて知った。アイツが巷を騒がす少年ヒーローだと。全ての
あの小僧に遅れを取るわけにはいかない。俺もヒーローだ、ヒーローとして
そう思うと同時に、俺はあの小僧に対して問いたかった。
何故、そこまで生き急ぐのだと。これからお前は何十年も生きるというのに、何故その若さでその命を捨てるように生きるのだと。若き力よ、お前を暴走させたのは何だと。
しかし、それを問う前に小僧は壮絶な死を遂げた。
奴の悲願は成就されなかった。敵共はあの小僧が死んでから、再びその勢いを取り戻しつつある。それほど小僧は恐れられていたのだ。ならば、俺が奴の代わりにこの拳で敵共を打ち砕いてやろう。
あいつのように、揺るがぬ信念を掲げて正義の敵を全て滅ぼしてやろう。このナックルダスターは、決して
俺はそう決意し、この拳を振るうのだ。
*
時々、俺はあの少年……剣崎刀真を目指していたのではないかと考えることがある。
利益を得るためでもなければ、地位や名声を得る為でもない。ただひたすらに己の信念と正義を貫く、自分が思い描く
収益や地位、名声を得るための手段として人を救う贋物ではない。彼にとって「人を救う」という行為は、己の信念と正義を貫くための「義務的行為」なのだと俺は解釈した。
ヒーローは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。贋作が蔓延る世界の粛清の為に動いている俺から見れば、あいつはヒーローと認めるに足る存在だ。いや…むしろこの俺が心から認める程の輩か、俺がずっと追い求めてきたヒーローだったのかもしれない。
だが、あいつはもういない。16年前に
世界は、あいつを忘れた。収益や地位、名声を得るためではなく、己の信念と正義を貫くためだけに生身で敵達と戦ってきた少年ヒーローを。だから贋作が蔓延る世界になったのだ。
口では自分を殺していいのはオールマイトだけだと言ったが、あいつでも構わないと俺は思っている。ただ、一度だけでいい。あいつを…〝ヴィランハンター〟を
きっとあいつは、俺の言葉と信念に同調する筈だ…俺の掲げる「英雄回帰」に。
だから俺は…赤黒血染は、ステインの名を以って贋物共を排除するのだ。全ては、正しき社会の為に。
*
16年前だった。私が彼と最後に出会ったのは、とある墓地だった。
先代の継承者……お師匠から「剣崎を呼んでほしい」と頼まれた私は、彼が必ず行くであろう場所をくまなく捜索した。
そして、最後に立ち寄ったのが、彼の家族が眠る墓地だ。
「ここにいたか、剣崎少年」
「……」
「亡き家族への弔いか?」
「――じゃなかったら、ここに来たりしねェさ」
剣崎少年は家族の墓の前に立つと、キキョウの花束を献花した。
キキョウの花言葉は、確か「永遠の愛」だった筈。剣崎少年は亡き家族を愛し続けているようだ。
「君の母と私は、顔馴染みだった。君の事はそれなりに理解しているつもりだよ」
「生き急ぐ若造に、今更説教かよ? 悪いが……止まらねェぞ、俺は」
ぶっきらぼうに答える、剣崎少年。
私はどうしても、彼のことが心配だった。何故、死出の旅路を選ぶような生き方をするのか。何故、我が身を滅ぼしても構わないと思うのか。何故、まだ先の長い命を擲つのか。自己犠牲の果てに、剣崎少年が望むモノがあるのか。
彼の返事が分かっていても、私はそう問いたくなった。
「君は、死ぬつもりなのか……?」
「そうなっても仕方ねェな……全ては
憎悪を孕んだ目で、私を見据える剣崎少年。
私は自分に言い聞かせているかのような剣崎少年の言葉を静かに受け止め、彼の心の奥をくみとろうとした。
「――オールマイト……あんたは、
「……」
「重要な情報を持っている? 命までとるのは非情? 情けは人の為ならず? そんな戯言をいつまで言っているつもりだ? その一言でどれほどの犠牲を生んだか!! どれほどの憎しみと悲しみを生んだか!! それを「ヒーローとしての筋」だとまだ語り、
全ての
剣崎少年の怒りと憎しみの強さは、私想像を絶する程であった。
「――オールマイト。俺は「答え」を見つけたよ……」
剣崎少年はその時、今まで見たことの無い、私が初めて見る笑顔を作った。子供のような純粋さと無邪気さを孕んだ微笑みだ。
それはまるで、己が辿る末路を……早過ぎる最期を受け入れているような表情だった。
「じゃあ、俺は行く……
そう言って、剣崎少年は去っていった。
それが、私と彼の最後の会話だった。
あれから16年が経った。悪の支配者として君臨したオール・フォー・ワンは、5年前の壮絶な死闘により私の手で倒され、それにより
だからこそ、彼が貫こうとした正義を語り継がねばならない。彼の生き様を、少年少女達に伝えなければならない。それが私の……
今更ですけど、ステインとミッドナイトは同じ31歳なんですよね。そしてこの小説の主人公・剣崎も生きていたら31歳。
わォ…。