「ハァ……ハァ……!!」
「フッ……これで貴様にも本当の死が訪れるだろうな」
息を荒くして片膝をつく剣崎と、傷を負いつつも余裕の笑みを浮かべるシックス。
剣崎は〝個性〟によって得られた不死身の肉体がヒイラギによって封じられ、更にその強烈な
その証拠に、剣崎からは亡霊と化した彼ならばありえないモノ――赤い血が流れていた。
「しかし、それ程の手負いでその身のこなし……時は止まれど、その腕っ節は健在のようだな」
「ハァ……ハァ……!!」
本来の彼ならば激昂して襲い掛かるのだが、ヒイラギの力で剣崎は衰弱状態になりつつある。動きもキレが悪く全体的にムラが生じ、時折意識を失いそうになる表情にもなっている。ここまで追い詰められた先輩を見たのは初めてなのか、爆豪も困惑している。
(クソ……体の自由が利かねェし力も入りづれェ……おまけに全身が痛ェ……)
とはいえ、そんな不死身に近い朽ちた肉体から
「げに執念とは恐ろしきモノよ、意識を失いかけながらもまだ剣を握って暴れられるとは……」
「ゾンビ野郎……!」
すでに満身創痍の身体に鞭を打ち、なお立ち上がる。
剣崎は穢れに蝕まれつつあり、恐らくこの日が最期の戦いになる。オール・フォー・ワンとシックス・ゼロだけは過去の因縁に決着をつけるべく倒さねばならないのだ。
「ハァ……ハァ……!! 失せろ、死に損ないが………!!」
「〝成仏し損ない〟に言われたくはないな」
全身をズタズタにするような殺気を放つ剣崎を軽くいなすシックス。
「貴様にチャンスをやろう。今ここで敗北を認めるのならばその命を助け、お前の同志に手を出さぬようにすることを誓おう。この私を前に死に体のまま抗い続けたのだ、何も恥じることではない」
シックスの言葉には、嘘は無い。
元は「
ましてや自分を一度敗北に追い込んだ剣崎となれば、恨みこそあれど殺すには惜しい逸材と思っているのも事実――シックスは剣崎を認めているのだ。
「どうする?」
「……やなこった。てめェらに屈したら今までの人生が台無しになっちまう」
あの日以来、剣崎は人間をやめて己を血で染まらせ、穢れを纏って情と慈悲を捨てた。
全ては正義の為、己が課した誓い――「全
「俺ァてめェらに勝つために、人間やめたんだ」
「ハハハ……そうか。だが人間をやめた貴様に何ができる!?」
剣崎を翻弄し、拳打や蹴り、〝個性〟で生み出した糸を用いた攻撃を放つ。
刀と鞘を使ってどうにか受け切るが、全てを防いだわけではなく手足や肩に当たり血を流す。
(マジでヤベェ……どうするか……!!)
朦朧とする意識をどうにかつなぎ、策を考える。
すると――
「おい! あっちでスゴイ音してるぞ!!」
「かっちゃんは多分、ここに……!!」
「? 何者だ」
「っ……!!」
耳にしたことのある声が響く。
爆豪を救出しに来た、出久達の声だ。
(……声は大分近い……行ける!!)
剣崎は踵を返し、出入り口の方へと向かった。
「糸の張られてない外へ逃げ、体勢を立て直すか! 考えが甘いわ、その程度の策など私には通じん!! 勝負ありだ!!」
張った糸を跳び回ってよろよろとした足取りの剣崎を追う。
遠距離からの攻撃など必要ない。直接この手で死を与えられる。シックスは不敵な笑みを浮かべ襲い掛かるが――
「甘ェのはてめェだ……出久ゥッ!! 今だァ!!」
(――っ! まさか剣崎の奴、誘導して軌道を絞り、攻撃を当てやすく……ということは、あの声はもしや……!!)
剣崎がその場で屈むと、シックスの正面に拳を振るって出久が飛び込んできた。
そして「SMASH」の掛け声と共に拳が彼の顔にめり込み、そのまま真下へと叩き落とした。
*
一方、オールマイトは最大の宿敵であるオール・フォー・ワンと対峙していた。
「随分と遅かったじゃないか、オールマイト。ここからバーまで5km余り、脳無を送ってからすでに30秒経過しての到着……衰えたね」
「貴様こそ、何だその工業地帯のようなマスクは!? 大分無理をしてるんじゃないか!?」
善と悪の頂上決戦。
オールマイトは拳を振るい、オール・フォー・ワンはそれを受け止める。たったそれだけなのに、空気は震え衝撃で瓦礫が宙を舞う。
拳が離れた途端、双方は距離を置く。
「もう二度と同じ過ちは犯させん……貴様のような穢れた存在が、どれほど人々の大切な笑顔を奪って来たか………!! 今度こそ貴様を豚箱にぶち込んでやる!!」
「ハハッ、さすがはNo.1。やることが多くて大変だな……」
オールマイトの怒りを嘲笑うオール・フォー・ワン。
すると彼は大きく跳躍し、一瞬で懐に潜りこみオール・フォー・ワンに殴り掛かった。
「死柄木率いる連合に、貴様に加担した無間軍も、今ここで倒す!!!」
オール・フォー・ワンの眼前に、怒りの鉄槌が迫る。
直撃すれば、いくら「〝悪〟の支配者」である彼でも無傷では済まないだろう。
だが、次の瞬間――
ドゴォン!!
凄まじい衝撃がオールマイトを襲い、ビルを何棟も倒壊させながら彼を数百メートル先へ吹き飛ばしていく。
オール・フォー・ワンが放ったのは、「空気を押し出す」「筋骨発条化」「瞬発力×4」「膂力増強×3」の四つを組み合わせた〝空気圧縮及び放出〟。簡単に説明すると人間空気砲だが、その威力は絶大であり並大抵の生物なら成す術もなく吹き飛ばされ、最悪即死するレベルだ。
「――うん、我ながら素晴らしい威力だ。次はもう少し〝個性〟を……特に増強系を足してみるかな」
「オールマイト!!」
(あの程度で死にやしないとは思うが……マズイな……)
するとオール・フォー・ワンは、指先を赤い血管のような模様が刻まれた黒く鋭利な触手に変えると、それを黒霧の腹に突き刺した。
「黒霧、皆を逃すんだ」
「――ちょっ、何してんのよアンタ!? 彼はやられて気絶してんのよ!? アンタが一体何者か知らないけど、逃すことが可能ならさっきみたいに私達を逃してちょうだいよ!!」
「すまないねマグネ、僕のあの個性は特別でね……完全かつ安全に逃げ切るなら僕よりも座標移動の黒霧が適してる」
オール・フォー・ワンがそう言った直後、突如として黒霧の体から黒い霧が溢れだした。
「個性強制発動」という〝個性〟を使って、オール・フォー・ワンは黒霧の〝個性〟を強制的に発動してワープゲートを展開させたのだ。
「さあ、弔。仲間と共に逃げるんだ、僕が時間を稼ぐ」
「先生は……? 先生も逃げよう……だってアンタ、その体じゃあダメだろ? 下手すれば死――」
「弔、常に考えろ――君はまだまだ成長できるんだ。僕のことは気にするな、安心しろ」
まるで命を懸けて殿を務めようとするオール・フォー・ワンを死柄木が説得する光景。
しかし、ヒーローがそれを聞いて黙っている程甘くない。吹き飛ばされたオールマイトは目にも止まらぬ速さでオール・フォー・ワンに攻撃を仕掛ける。
そして、死柄木達の脅威はオールマイトだけではない。
「バカじゃないの? はいどうぞって逃がすと思ってるの? 子供でも
全身から高熱を放ち、熱美が迫る。
熱美の〝個性〟は、連合側にとっても無間軍にとっても分が悪すぎる。死柄木では掌で触れた物を粉々に崩す前に高熱で手を焼かれてしまうし、純粋な戦闘能力の時点で一斉に襲い掛かっても勝率は少ない。相性は最悪なのだ。
「オールマイト、あなたはオール・フォー・ワンに専念して。火永達は傷を負ってるからできる限りの援助で。私がこいつらを仕留める」
周囲の瓦礫が溶け始める程の高熱を発しながら、死柄木達に迫る熱美。
するとコンプレスが彼女の前に立った。
「仕方ねェ、一か八かだ!」
コンプレスは自分や対象の周囲の空間を球状に切り取り、ビー玉サイズにまで一瞬で縮小することができる。物や人を運んだり人の動きを封じたりできる便利な能力であり、その能力で彼女をビー玉に閉じ込めようというのだ。
しかし――
「……余所見していいの?」
「何?」
ドゴッ!
「グガッ!?」
コンプレス目掛けて瓦礫が飛び、直撃した。火永が〝個性〟で瓦礫を弾丸のように飛ばしたのだ。
モロに食らったコンプレスは、そのまま倒れ血を流して気絶した。
「コンプレス!!」
「誰一人逃がさないわ。降伏すれば命は保障するけど……どうせしないでしょ?」
「くっ……小娘が……!! 弔達の邪魔はさせ――」
「貴様の相手は私だろう!? オール・フォー・ワン!!」
「オールマイト………!!」
善と悪の頂上決戦は、善のリードで進む。