亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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今月中にはこの作品、終わると思います。


№71:悪の象徴

 同時刻、脳無格納庫にて。

「ったく、気味の悪い場所だな」

「非人道的にも程があるわ。こんな所で脳無を造ってたなんて……」

 オールマイト達が(ヴィラン)連合のアジトに突入し拘束したと同時に、ヒーロー達と警察は脳無格納庫を制圧していた。

 突入時こそ複数の脳無が一斉に襲い掛かったが、今回ばかりは相手が悪すぎた。何せ相手は歴戦のプロヒーロー達……どれだけ脳無が強力な〝個性〟を複数にして所持していたとしても到底敵う相手ではなかった。

 よって、突入してから一分も経たずに制圧が完了してしまったのだ。

「とりあえずは王手だけど……」

敵連合(むこう)にはジョーカーがまだあるからな、気ィ抜かねェようにしねェとな」

 そう言葉を交わした、その直後――

「止まれ貴様! 連合の者か!!」

「やれやれ、こんな体になってしまって……ストックも随分と(・・・・・・・・)減ってしまった(・・・・・・・)ね」

「「「っ!?」」」

 剣崎と同じ時代を生きた三人は、戦慄した。

 悠然と語りながら歩み寄る男から漏れた濃厚な殺気と強大な悪意、剣崎の憎悪や怒りとは違った、嫌でも感じ取ってしまうどす黒い感情――他のプロヒーロー達や警察は警戒するだけで何も感じ取ってないが、火永達だけは違った。

 本能が告げていた――「逃げろ、殺されるぞ」と。

「……不自由な体は、いつになっても窮屈な気がするよ……」

 そして男の二言目で、瞬時に過去の記憶が蘇った。

 若い頃、青春の高校時代に起きた事件を。

 

 ――オール・フォー・ワン、今度こそてめェの息の根を止めてやる。

 ――何も救えず、ただ怒りと憎悪に身を焦がすだけの君では僕に切り傷一つ付けられやしないよ。

 

 全てを理解した火永は叫んだ。

「逃げろお前らァ!! オール・フォー・ワンだァァッ!!」

『!?』

「さすがに気づくか……彼の同期なだけある。でも、もう遅いよ」

 そして――

 

 

           *

 

 

「出来れば弔の邪魔はよして欲しかったな……弔は成長してるんだ。教育者として、先生として、彼の邪魔はさせないよ?」

 たった一撃だった。

 たった一瞬だった。

 動きだしたこの男――オール・フォー・ワンを除いた万物が跡形も無く吹き飛ばされた。火永達も、ベストジーニストをはじめとしたプロヒーロー達も、応援に駆けつけた警察も、確保してたはずの脳無も、何もかもが蹂躙された。

 この世の悪の頂点と言えるオール・フォー・ワンが放った異次元の攻撃は、世界の終わりを連想させられる景色を生み、町を崩壊させた。絶望的な力を見せつけ、全てを覆したのだ。

「……?」

 ふと、近くにあった瓦礫から湯気が立ち上りドロドロに溶けた。

 そこから現れたのは、熱美だった。

「っ……何て事に……大丈夫!? 二人共! 皆!」

「ああ、何とかな……」

「何て力……これが……」

 それと共に、瓦礫がまるで小石を投げるかのように吹き飛び、火永と御船が血を流しつつも立ち上がった。

「これは驚いた、僕は全員を消し飛ばしたつもりだったんだ!! 普通なら常人が食らえば息の根が止まるか瀕死が確定なのに、立ち上がるとは……!! 随分と頑丈な体だね!! 忌々しい彼と同じ時代を生きただけある」

「っ……野郎……!!」

「それだけじゃない、ベストジーニストもだ。衣服を操って瞬時に端の方に寄せて威力を軽減させた。君の精神力・判断力・技術は並みじゃない!」

 感心するように平然と語るオール・フォー・ワン。

 あのオール・フォー・ワンによる悪魔的破壊力を有する攻撃が発動したと同時に、熱美はすかさず〝個性〟で発熱し、吹き飛ばされつつも壁や地面を高熱で溶かしながら無傷で済んだのだ。ベストジーニストも自らの〝個性〟を瞬時に発動し、威力を半減させたのだ。しかしさすがに無傷というわけではなく、プロヒーローや警察のほとんどが意識不明の重傷を負った。

 その中でも傷を負いつつも平然と立ち上がった火永と御船は、凄まじいの一言に尽きるだろう。

「そうか………こいつが連合の……!!」

「ジーニスト! 無事だったのか!」

 血を流しつつも起き上がるベストジーニスト。

 朦朧とする意識の中でも、最善を尽くそうとボロボロの体に鞭を打つ彼は、口を開いた。

「一流のヒーローは、絶対に――」

 

 ――トッ

 

 その瞬間、彼の視界は真っ黒になる。

「な、ぜ……!?」

 その一つの疑問と共に、彼は倒れた。

 なぜなら、熱美が手刀でベストジーニストを気絶させたからである。

「……こっから先は人間の出る幕じゃないわ」

「……実に賢いね、今時のプロヒーローにしては上出来だ」

 熱美の行動に、オール・フォー・ワンは感心した。

 彼女が動いたのは、オール・フォー・ワンに止めを刺されないようにするためだ。練習量と実務経験を基に構築された強さを持つベストジーニストだが、言い方を変えれば「〝個性〟そのものは大したことない」ということでもある。

 元々強力ではない能力(こせい)など、奪ったところで何の役にも立たないとオール・フォー・ワンは判断するだろう――熱美はそう読んでいたが、何だかんだ言いつつも止めを刺すかもしれない。

 ならば、とっとと気絶させて手を出させないようにするのがいい。オール・フォー・ワンが動いたとなれば剣崎とオールマイトが来るはず……二人の抹殺を狙っているのなら、オール・フォー・ワン自身も無駄な体力を使ったり手の内を少しでも明かすのは避けるに決まっている。そう読んだのだ。

 そしてそれを察したオール・フォー・ワンも、賢明な判断をした彼女を称賛した。

「久しぶりね、オール・フォー・ワン。わざわざやられに来るなんて、さすが巨悪と言ったところかしら?」

「プロミネシア……あの時とは随分違うね。見違えたよ」

「あたしだって刀真に護られてばっかじゃなかったの。刀真の為に、刀真が目指した世界の実現の為に強くなったんだ」

「ハハハ、名前の通り熱い子だね。たった一匹の鬼(・・・・)の為に僕と戦うと?」

 剣崎を畜生の類のように言うオール・フォー・ワンを睨む熱美。

 すると、今度は――

「……ひでェ有様だな」

『!!』

 フラリと現れた男。

 その正体は、無間軍最高幹部たる札付礼二であった。

「れ、礼二……!?」

「礼二君……そうか、君は裏切ったね? 大切な同志の想いを踏み躙った」

「時代はもう変わったんだ、俺みたいな一本筋を通す(ヴィラン)は排除される。俺はもう〝そっち〟じゃ生きていけねェ野郎なんだ、お前に指図される義理は無い。それと裏切ったんじゃなく「足を洗うことにした」が正解だ」

 腰に差していた刀を抜いた礼二の言葉に、耳を疑う三人。

 ――礼二が足を洗う?

 大物(ヴィラン)の一人として〝平和の象徴(オールマイト)〟からも動向を注意された男が、(ヴィラン)活動を止めて表舞台から去ろうとしている。その最後の活動として、オール・フォー・ワンと戦う。

 どういう風の吹き回しなのか、三人は困惑する。

「僕に本気で勝てるとでも?」

「……その気だって言うのはマズイか?」

「いいや……ただ愚かだなって」

「人間バカやってナンボだよ」

 火永達と礼二の共同戦線で、オール・フォー・ワンに一矢報いるべく立ち上がった。

 

 

           *

 

 

 一方、礼二達と急遽別れた出久達は大急ぎである建物へ向かっていた。

「急ごう!! 剣崎さんがかっちゃんを追ってる!!」

「わァってらァ!!」

 出久を先頭に切島、八百万、轟、飯田が続く。

(かっちゃんを連れてった男……アレが礼二さんの言っていたシックス・ゼロ……!)

 出久は、数分前の会話を思い出す。

 

 

「着いたぞ……おっ、どうやら手入れを受けてる最中のようだ」

『!!』

 礼二の案内により、(ヴィラン)連合のアジトに到着した一同。

 黒煙が上がる中、オールマイトやシンリンカムイをはじめとした多くのヒーロー達がアジトのあるビルへ集結していた。

「ヒーロー達スゲェ…! 俺達が来るよりも早く善処してたんだな!」

「厳密に言うともっと早く動いてた奴もいたがな。まァこれで死柄木達は暫くは大人しくするしかないだろうな」

 その時だった。

 仮面を被った男がビルから飛び出て、爆豪を片手に宙を舞って連れ去っていった。

 それを追跡するかのように白骨化した鳥が飛び立ち、一人の男も穴から飛び降りた。

「あれはまさか!?」

「ってことは、さっきの……」

「ああ、爆豪の姿も見えた。あのカラス達は連れ去っていった奴を追ってるんだ」

 急展開を迎え、爆豪が別の場所へ移されたことを知る。

 すると礼二は懐から札を取り出し、宙に浮かせてペンを走らせた。

「……方角から予想すると、恐らく神野第4ビルディングだ。今は廃墟となってるが、無間軍が池袋にアジトを構える前はそこが根城だったな。シックスはそこで剣崎と決着(ケリ)をつける気か」

「じゃあ、かっちゃんはそこへ!?」

「――あいつ(・・・)のことだ、どうせ余興みたいな感覚だろう。ちなみにその札は目的地に着くと自動的に消滅する」

「礼二、さん……?」

「俺は何もしてやれなかった。(ヴィラン)を昔ながらの必要悪にしたかった。だがもうそれも叶わねェ………って、何してやがる。とっとと助けに行け」

 

 

(かっちゃん……!!)

「……緑谷、手は貸すのか?」

「え?」

 礼二との会話を思い返す中、轟に声を掛けられる。

 彼曰く、父・エンデヴァーから昔聞いた話で、シックスことシックス・ゼロは警察やプロヒーローも恐れる大物(ヴィラン)であり、並大抵の人間では勝てない相手だという。

 そんな人間を相手取るのかと、出久に問いているのだ。

「……剣崎さんのことだから、必ずシックスって(ヴィラン)をかっちゃんから離そうとするはず。だったら、その隙に僕達が!」

「……わかった、じゃあそれで行こう」

「そっちの方が都合もよさそうだしな!」

「早く行こう、もしかしたら戦闘が始まってるかもしれない!!」

「うん!」

 

 巨悪の始動と共に、出久達次代のヒーローも人知れず動くのだった。


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