「ついに来たか、剣崎……」
「待たせたな。シックス・ゼロ……それとオール・フォー・ワン」
《……!!》
血を流し倒れるホールマントを意にも介さず、ゆっくりとした足取りでアジトであるバーの中に入る。
そんな剣崎が気に食わなかったのか、それとも仕返しの為か、血を流しながら立ち上がるホールマント。
「うえあああああああああ!!」
殴りかかるホールマント。
剣崎はそれを紙一重で躱し、一閃。彼の腹部に一筋の線が走ると、そこから血が噴き出た。
「うぐっ……うおおおおおおおおっ!!」
それでもなお諦めず、渾身の一撃を剣崎の顔面に見舞う。
剣崎のひび割れた顔は砕け散り、顔面がクレーター状態になるが……剣崎はその状態で刀を豪快に振るい、胸を横薙ぎに深く裂いた。
ホールマントは吐血しながらぐらりと揺れ、大木のように前のめりに倒れた。
「ホ、ホールマントっ!!」
ホールマントを秒殺した剣崎は、陥没した顔をぐりんっと死柄木達に向ける。
パキパキと音を立てながら再生していく剣崎に、一同は絶句する。
「どうした? 邪魔な俺を殺したかったんじゃないのか?」
「ひっ――」
禍々しい殺気を放って威圧する剣崎。
初めて剣崎と会ったトゥワイスは、その殺気を浴びて怯む。
「それにしてもロクなのがいねェ。どいつもこいつも生きる価値無し……こいつら全員地獄に叩き落さねェとシメシがつかねェな」
怒りとも呆れとも言えない表情を浮かべる剣崎。
「そうそう、言っておくが……」
そう言うや否や、剣崎は偶然傍にいたトガヒミコに手を伸ばし、首元を掴んで壁にひびが生じる程の勢いで思いっきり叩きつけた。
「がっ……!!」
「トガっ!!」
「女だからって容赦しねェぞ、俺ァ。お前らが相手取ったプロヒーローは人権だのマスコミからの評判だので縛られる臆病者に過ぎない」
首を絞める力をじわじわと強くする。
トガはどうにか反撃しようとナイフを取り出して剣崎の胸に深々と突き刺すが、血は一滴も流れない。彼女は血液を摂取することでその血液の持ち主に変身できる能力の持ち主だが、朽ちた肉体の剣崎の前では無力同然だった。
朽ちた肉体を前に絶望的な表情を浮かべたトガを嘲笑うかのように、剣崎は言葉を紡ぐ。
「俺はそいつがどれだけ過酷な人生を生き、どれだけの地獄を見てきたのかに関しちゃあ同情以上はしないぜ。同情心を誘ってハメてくる奴はてめェらの業界じゃあゴロゴロいるからな。そうだ、一つ為になることを教えてやろう。世の中で一番恐ろしい人間はな……」
――俺みてェに失うモノが何も無い奴だ。
『っ……!!』
剣崎の言葉に、絶句して怯む一同。
己の命以外の全て――家族や周囲の人間からの愛情、叶えたい夢、明るい未来、戻るべき居場所などの大切なモノ。剣崎はそれを何十年も前に、一度にごっそりと命以外の全部を失い人生を狂わされた。幸せな日常が、一夜にして生き地獄に変わった。
非情な現実を前に精神に異常をきたしたのか、自暴自棄になったのか、人間らしさを捨ててケジメをつけるために自ら堕ちたのか、それら全てか……剣崎はあの事件以来血みどろの道を歩んだ。
それは死してなお変わらず、寧ろ今に至っては人間としての最低限の情もあるかどうか曖昧な程に冷酷で剣を振るっている。
「何だ? 命がまだあるじゃないかって面してるな………バカが、だからてめェらは甘ちゃんなんだ。そんな生温い思考回路だから、オールマイトに足すくわれんだよ青二才共」
「……何だと?」
殺気を込めて睨む死柄木。
すると剣崎は、トガを片手で掴み上げて力を込めた。
「――この業界に首突っ込んだ時点で、命なんざとうに捨ててらァ!!」
そう言って、トガをテレビ画面に向けて思いっきり投げた。
成す術も無く飛ばされたトガは、そのままふっ飛んでいきテレビを破壊した。
その隙に剣崎は刀を振るって爆豪の拘束器具を破壊し、彼を解放する。
「……ゾンビ野郎……」
「爆豪君……
「あ? ――まァ、まだ戦闘許可を解除されてはねェよ」
「ならいい。恐らく応援が来るまで時間が掛かる……それまでに俺ら二人で何人か殺しておく必要がある。目標は全滅、相手が殺す気で掛かる以上こっちも殺す気で行く」
「――いいぜ、五、六人ぶっ殺したる!!」
「その意気だ」
剣崎は刀を構え、爆豪は戦闘態勢に入る。
そんな二人を嘲笑うかのように、シックス・ゼロは口を開いた。
「オール・フォー・ワン、シックス・ゼロ……これ程の大物を相手に生きて帰れると? この
「……
「何?」
「フフ、どうやら致命的なミスを犯していることに気づいてねェようだな……」
剣崎は不敵な笑みを浮かべるが、その致命的なミスの意味が理解できず困惑する一同。
居場所がバレやすいことか、それとも「剣崎刀真を相手取った」という自信満々にも程があることか、はたまた別の要因か。
「ったく、しょうがねェなァ。じゃあお花畑の脳ミソで能天気なてめェらにどういう意味か教えてやるよ………
「っ!!」
剣崎はそう吠えると、爆豪に指示を飛ばした。
「爆豪君、デカイの頼むぜ」
「ああ、任せろっ!!」
剣崎が何を考えてるのかを察したのか、シックス・ゼロは顔色を変えて叫んだ。
「いかんっ!! あの爆破小僧を止めろ!!」
「もう遅い」
ボカァァァン!!!
*
「何だ!? 今の爆発音は!!」
その爆発音を耳にして叫んだのは、オールマイトだった。
いや、オールマイトだけではない。爆豪救出作戦に参加したグラントリノやエンデヴァー、シンリンカムイなどの歴戦のプロヒーローも気づいていた。
「神野区の方だな……」
グラントリノは呟く。
神野区は、オールマイトの旧友である塚内が尋問の末に手に入れた
「……」
オールマイトは思考に浸る。
爆豪には戦闘許可は解除されていない。それはつまり、いつでも戦闘してもよいということだ。ふと思い出せば、剣崎が行方不明のままだ。もしかしたら、剣崎が単身アジトに殴り込んで爆豪と共に戦っているのかもしれない。
「――急ごう、時間が無い!!」
そして、爆発音を聞いたのは、オールマイト達だけではなかった。
「今の爆発は……!!」
「かっちゃんが、暴れてる……!!」
「――時間が無さそうだな」
出久達と礼二も気づいていた。それもそのはず、あと十分程歩けばアジトに着くのだから。
「礼二さん、早く!!」
「……ダメだ、ここで待て」
「なっ……」
「暴れてるのはその爆豪ってガキだけか? もっと暴れると厄介なのが助けに行ったろ?」
その言葉に、出久達は目を見開く。
そう、爆豪を助けに行ったのはオールマイト達だけではない。
「剣崎さん……まさか……」
そう、剣崎が誰よりも早くアジトに辿り着くことに成功したのだ。
そしてアジト内に集う全ての
アジトは街中にある。爆破騒動でも起こせば、嫌でも気づく者が現れるしプロヒーローもすぐ駆けつける。剣崎は応援を呼ぶために爆破するよう
「あいつ……まさか……」
「……どうかしたんですか?」
「……この神野区が死屍累々の戦場になるぞ」
『!?』
剣崎最期の戦いが、火蓋を切った。
もうそろそろこの小説も終わりが近づいてきました。
週刊少年ジャンプ創刊50周年に加え、「家庭教師ヒットマンREBORN!」が舞台化したので、記念にリボーンの小説でもやろうかなと思ってます。(あくまで予定です)