一方、神野区の繁華街では爆豪奪還の為に出久・轟・飯田・八百万・切島の五人がクラスメイトの反対を押し切って潜入していた。
八百万が脳無に付けた発信機を辿り、ここまで辿り着いたのだ。あとは脳無を追跡し、アジトまで向かうのみだ。
「……そういえば緑谷」
「? どうしたの轟君」
「剣崎はどうなんだ? 音沙汰無いと聞いているんだが」
轟の言葉に、目を見開く出久。
今回の一件で、剣崎はもう我慢ならないだろう。すぐにでも駆けつけて騒ぎ立てるはずだ。だがその予兆は一向に見られず、行く前にミッドナイトに剣崎の所在を確認したところ、会議室から出て以降行方もわからないというのだ。
剣崎のことだから、人知れず雄英から出発して――
(それとも、言うと不都合な事態になるのかな……?)
出久の考えている通り、剣崎は我武者羅に戦うのではなく、しっかり頭も使っている。あえてどこに行くかを誰にも言わないことで、何かしらのリスクを回避するという考えがあるのかもしれない。
しかし、それを理由に行動したとすると――
(まさか……内通者………!?)
そう考えた、その時――
――ギャア、ギャア……!
『!?』
すると、五人の前に白骨化した二羽のカラスが現れた。
剣崎の周囲にいるあの骸骨カラス達の内の二羽――背骨がほとんど欠如しているオサベと、踵が完全に欠損しているイヨだ。
「これは……」
「もしかしたら……剣崎さんがこの街にいるかもしれない!!」
剣崎の配下同然の骸骨カラスがいるということは、すでに彼がこの神野区に居るという証拠だ。もしかすれば、彼と合流できたら戦力増強に加えて爆豪を救出しやすくなるかもしれない。
そんな期待を持ち始めた五人に、近づく男が一人。
「……こんな所に雄英のガキか?」
『っ!!』
一斉に振り向くと、目の前に着物姿の男がいた。
殺気を放ってるわけではないが、只者ではない雰囲気を醸し出しており、少なくともプロヒーローではないことだけはわかった。
「あんた……何者だよ……」
「札付礼二……それが俺の名だ」
その名を聞き、出久達は顔を青ざめた。
札付礼二は、
その気になれば、出久達五人を殺すことも容易いだろう。
「まさか、僕達を殺しに――」
「別にやり合ってもいいが、俺はそろそろ足を洗おうと思ってる。それを示すために、お前らに手を貸そう」
『!?』
その言葉に、耳を疑う一同。
大物
何か裏でもあるのかと勘繰り、轟は問う。
「……いいのか? ここで警察を呼んだり手を出すのかもしれないぞ」
「その時はその時だ、お前らにも優先順位があるだろう?」
『っ!!』
礼二の言葉に絶句する出久達。
彼には出久達の目的がわかっているようだ。しかし今回の林間合宿の件で雄英高校側は謝罪会見を行うとはいえ、自分達が爆豪を救出するために来たことを察せられたのは想定外である。
「むしろお前達としては
不敵な笑みを浮かべつつジャキッと刀を鳴らす礼二に、出久達は顔を見合わせてから首を縦に振った。
礼二の後を着いていき、街を歩く出久達。しかし向かっている方向は、八百万が脳無に付けた発信機の示す位置とは違う方向だ。
恐らく脳無は
すると、礼二は自らが足を洗おうと思ったきっかけを語り始めた。
「俺が足を洗おうと思ったのは、俺の知る
『……』
「だが今は違う、時代は変わっちまった。どいつもこいつも現代社会を破壊することしか考えていねェ……俺も俺なりに抗ったが、時代のうねりに呑まれちまった」
『……』
「俺はカタギを傷つけることはあっても殺しはしない……俺のポリシーってのがあるからな。だが今時の連中はなりふり構わず、汚ェマネも平気でするようになった。プライドもクソもねェ三下が牛耳るようになってきたんだ」
悪党には悪党なりの信念と価値観がある。それはヒーローと共有することはできずとも、理解し合えるものでもあった。
だが時代は、礼二の理想とは真逆の方向へ向かった。互いに理解し合うことはできず、ただただ溝を深くしていくのみ。
「……今思うと、剣崎が言っていたことは正論だったな。昔やり合った時に言ってたよ、「時代が何度変わろうと……
どこか悲し気に語る礼二に、出久達は複雑な表情を浮かべるのだった。
*
一方、
ただし内容は、単なるマスコミの雄英叩きである。
「面白いだろ? ちょっとミスしただけのヒーローが責められる。彼らは少しミスをしただけであり、悪いのは俺達なのにだ。一番に責められるべきは俺達じゃないのか?」
「……」
爆豪は相変わらず目付きの悪い眼差しで睨んでいるが、困惑しているように見えた。
するとそこへ、無間軍を率いるシックス・ゼロが爆豪に語りかけてきた。
「少年――「正義」は何だと思うかな? 謝罪会見で頭下げれば正義なのか? 違う。正義とは敵対者を滅ぼして生き残った者だ。死人に口なし……淘汰された者は何を願っても何も語ることができないからだ」
「……」
正義の為に戦うのではない。勝った者が正義でありヒーローなのだ。負け続けるヒーローなど、民衆は必要とせず排除しようと動くのだ。
シックスはそう語っているように、爆豪は思えた。
(しかし、この少年の意志の強さは剣崎と似ているな……)
シックスは剣崎との戦いを思い返していた。
ヒーローのやり方を「生温い」と一刀両断し、無慈悲に同胞達を粛清し続けた死神や悪魔のような少年。自らの信念を――思い描く未来の実現の為に、あまりにも極端な手段で彼は成し遂げようとしていた。
ゆえにヒーローも
「君は素質こそあるだろうが……その芯の強さでは無理だろうな」
どこか嘲笑うように呟くと、今度は彼の部下であるホールマントが出入り口の扉に背を預けながら爆豪に訊いた。
「今生きているこの社会を維持するべく動く者が正しいのか。生き方を縛るこの世の中を変えようと動く者が正しいのか。それとも、別の考えを基に動く者が正しいのか。それを確かめるには、どうすればいいと思う?」
「……知るかよ」
「その答えは実に簡単だ――」
「ああ、殺し合えばわかる」
ブシュッ
「……は?」
突如刃こぼれの生じた刀が、ホールマントの脇腹から生えた。
それと共に鮮血が散り、彼は吐血し倒れた。
「これは……まさか……!!」
誰かがそう呟いた直後、黒い影が扉をすり抜けて現れた。
その正体は、この場にいる全ての
「お、お前はっ………!!」
「〝ヴィランハンター〟……剣崎、刀真っ……!!」
そう、あの剣崎だった。
《ついに来たか……》
「――俺の時間は終わりを迎えつつある……てめェらの勝ち逃げだけは許さねェぞ」
道連れを示唆する発言と共に、剣崎は「最期の戦い」を仕掛けた。