その夜、
自分はオールマイト抹殺計画を立てていて、オールマイトを恨む同胞達と共に明日実行に移そうとしていた。準備は万全だった。しかし、最後の作戦会議を終えてそれは起こった。
突如として刀をステッキのように突く少年が襲撃し、同胞三人が斬り殺されそのまま屋内戦になった。
一体どこから現れたのか。しかも、自分が選んだ精鋭の同胞達が、たった一人の少年によって赤子のように簡単に
新手の
「あ……ああ……! た……頼む、命ばかりは……!!」
「……ヒーローたる者、悪者に慈悲など無用」
「ひいっ!!」
少年は氷のような冷たい声で無慈悲に宣告し、それに恐れをなした
しかし、その直後に胸に衝撃と痛みが走った。
恐る恐る見ると、胸には刃こぼれが生じた短刀が深く突き刺さっていた。何の前触れもなく一瞬で凶刃に襲われ、
「な……何故こん、なモノ……が……俺の胸、を……!?」
「正義の名の下に、お前に死を宣告する」
ザシュッ!!
「ぎゃあああああっ!!」
彼は成す術もなく一閃され、大量の血を噴き出して床へ転がった。
「出会った
剣崎はそう呟きながら、
3時間後。
パトカーが集まり、バリケードテープが張られた建物。多数の警官が集まっており、その中には
彼はあのオールマイトと旧知の仲であり、その秘密を知る数少ない人物の一人でオールマイトから全幅の信頼を寄せている。そんな彼は今、部下である玉川三茶を連れて現場検証に来ていた。
「塚内警部……」
「これは酷いな……」
そんな彼が訪れていた現場は、凄惨を極めていた。
夥しい量の血と、数十人の
「通報によりますと、この建物から悲鳴が聞こえたとのことで……それが今から約3時間前でした。到着時は鍵が掛かっていたので、事実上の密室殺人です」
「つまり、施錠された状況で被害者は皆殺しというわけか」
「被害者は全員、
(……ということは、思想犯か?)
現場には武器だけでなく多数の金品があったが、それらの強奪は一切無い。つまり、利益ではなく自らの信念を下に犯行に及ぶ思想犯である可能性が高い。
そこで塚内が真っ先に頭に浮かんだのは、〝ヒーロー殺し〟の異名を持つ凶悪犯・ステインだった。各地でヒーローを襲撃し、これまでに17人を殺害して23人を再起不能に追い込んでいる彼は、時には
「〝
「……そうかもしれませんね――」
「いや、それは無いな」
二人が犯人をステインと見なして捜査しようとした時に、剃髪で顔に複数の刀傷が刻まれた壮年の男性がバリケードテープを越えて現れ待ったをかけた。
彼は、加藤旦蔵警部。塚内と同じ警部だが、その圧倒的な経験値で多くの
「この現場、不自然だとは思わないか?」
「何がです?」
「
「「っ!!」」
その言葉に、塚内と玉川は気付いた。
よくよく考えてみれば、今までこの現場では血痕や被害者の傷痕、犯人の足跡が証拠として出てきたが、
一体どうやって侵入したのか…出入り口は一つしかないので、何らかの個性でも用いて侵入したと二人は思うが…。
「ステインだけじゃねェが、普通なら窓を割るかドアを開けて正面から殺しにかかるだろう。そもそもここは郊外だ、多少なり乱暴な入り方をしてもバレないからな……」
「じゃあ、ステインじゃないとしたら一体誰が……?」
「――これは俺の長年の勘が正しければだが……こいつらを皆殺しにしたのは剣崎刀真だ。こんなマネするのはあいつ以外考えられん」
「!?」
剣崎刀真。
その名を聞くのは、塚内と玉川は久しぶりだった。〝ヴィランハンター〟の異名を持つ彼が12歳から15歳の間の3年間に行われた悪者退治は警察内でも有名で、その無慈悲な撲滅活動により年間犯罪発生率が一時的にだが例年の三分の一以下に低下しているデータも残されている。
「で…ですが加藤警部、彼は死んだはずです……それも16年も前にですよ?」
「言ったろ、長年の勘だとよ……だがこういう時に限って勘は当たるモンだ。俺は昔、あいつの家族が
「「……」」
「塚内、玉川……剣崎が本当に生きているなら、絶対に敵に回すな。あいつは
加藤がそう言った直後、一人の警察官が現れた。
「ハァ、ハァ……大変です! ここから5㎞離れた廃墟で、20人の遺体が発見されました!! どれも刃物で斬られた痕があり……殺人事件かと……!!」
「なっ……!!」
何と、すでに別の大量殺人事件が発生していた。
それが、もしも加藤の勘の通り、あの剣崎の仕業だとしたら……。
「加藤警部……!!」
「……すぐ
加藤は剣崎の復活を確信して、同時に戦慄した。
*
ここは、雄英高校周辺にある小さな墓地。
雄英高校の教師の一人である、ミッドナイトこと香山睡は、ある墓の前に立っていた。その墓には、「剣崎家之墓」と刻まれていた。
「――久しぶり。最後に来たのは2年前ね……」
そう墓に声を掛けるミッドナイト。
実はミッドナイトは剣崎と同期であり、ほんの数ヶ月だけだが彼女は「
「今日さ……どういう訳か何か嬉しい気がするの。2年ぶりにここへ来たからかしら?」
墓に声を掛けても、返事はこない。
死人に口なし……かつての相棒は戻ってこないのだ。それはミッドナイトもわかっている。
だが今日だけは……どこか違う感じがしたのだ。
「私は大丈夫よ、ちゃんとヒーローとして戦ってる」
ミッドナイトは、剣崎と共に過ごした
ヒーローコスチュームについてよく口喧嘩となり、戦闘では抜群のコンビネーションを発揮し、共に夢を馳せ未来図を語り、時には互いの正義感がぶつかり合うも、何だかんだ上手くいっていた。
不器用な男だと、何度心の中で笑ったことか。
「あなたは私によく言ってたわね、「ヒーローにとって、死は敗北ではない……逃げた時が敗北だ」って」
ゆえに、どんな時でも逃げずに
だから、ミッドナイトも彼に倣って逃げずに立ち向かう。それがヒーローであり、亡き彼への誓いだから。
「そろそろ行くわ……また来るから」
ミッドナイトは微笑み、その場から立ち去った。
しかしミッドナイトは思いもしなかっただろう……後にその剣崎と16年ぶりの再会を果たすとは。
この作品でミッドナイトはヒロインには…なるのかな?
まァ、話を更新次第色々と変えていきやす。
感想と評価、ぜひお願いします。