亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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そろそろ最終章に入ろうと思いましたが、林間合宿があったのを思い出したので、最終章は林間合宿後になります。
ご了承ください。


№55:林間合宿前

 骸骨カラス騒動から3日が経過した雄英高校。

 出久が属する1年A組の教室は、重々しい雰囲気が漂っていた。

「お前ら、今日は重大な発表がある」

 出久達が全員揃ったところで、相澤は口を開いた。

 実は昨日、出久はあの(ヴィラン)連合の死柄木弔と遭遇したのだ。出久が遭遇した際の死柄木はいつもの手形のマスクをはめておらず、パーカー姿のその辺でうろついてそうな雰囲気だったが、その顔は雄英高校襲撃事件での剣崎との死闘で負った生々しい大きな傷が刻まれていたという。

 幸いにも、その場にお茶子が現れて警察に通報したことで事無きを得たが、いずれにしろヒーロー側にとっては看過することのできない問題だ。

「この件を重く受け止めた俺達教師陣は、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル……行き先は当日まで明かさない運びとなった」

『えーーーっ!?』

 相澤の説明に驚く一同。しかし、これは英断とも言えよう。

 (ヴィラン)連合の死柄木(おやだま)が姿を現した以上、いつどこで何をしでかすかは皆目見当がつかない。剣崎という雄英高校の――(ヴィラン)側にとっては最凶最悪の――切り札を手中に収めているため、迂闊に手を出すわけにはいかないだろうが、林間合宿でも危険が付きまとう可能性は十分にある。教師陣は情報漏洩を阻止し、警備体制を強化するために準備を整えているという。

「それと…今回の緑谷の件を踏まえ、苦肉の策として(・・・・・・・)剣崎の参加も認められた」

「苦肉の策って…あの人は随分と信頼されてないんだな……」

「それだけ大きな存在なんだろうね」

 相澤の言葉に、生徒達は様々な声を上げる。

 確かに剣崎は強力だ。出久達だけじゃなく教師陣とも比べると、戦闘能力もくぐり抜けた修羅場の数も違う。味方である以上は非常に心強い存在だ。しかし力とは強大であればある程コントロールが難しいもの――裏を返せば、剣崎の動きによっては雄英側は教師陣も生徒達も予測不能の事態に陥る可能性もある。

 それらを踏まえての「苦肉の策」なのだ。

「剣崎は〝ヒーロー殺し〟を討伐したばかりだ……ステイン信奉者から憎悪という熱烈な視線を浴びている。その矛先が俺達雄英にも向いている可能性もある」

『……!!』

「……そういう訳だ、お前ら――当日までに色んな覚悟(・・・・・)を決めておけよ」

 

 

 同時刻、剣崎が住んでる部屋にて――

「こらストク。俺の髪の毛で遊ぶな……睡と大事な話があんだから。あとで構ってやるから大人しく……な?」

 ゆらゆらと揺れ続けている髪の毛を咥えて遊ぶ骸骨カラス――片足の関節が存在せず足先と切り離れているカラス――のストクを、剣崎は諫める。

 彼は今、ミッドナイトから今回の林間合宿についての説明を受けていた。

「――まァ、妥当な判断だな。そろそろ平和ボケから目を覚ますべき時期だ、神話や伝説は必ずしも永久とは限らない……」

 剣崎は資料に目を通し、林間合宿の合宿先を確認する。

「ねェ刀真……(ヴィラン)の襲撃って、林間合宿でもあるかしら?」

「十分あり得る。ただでさえ雄英バリアとやらを破って襲撃できたんだ、その気になれば雄英の追跡もできるだろうよ……だから俺ァお前らに目ェ配ってんだ」

「――え……?」

 剣崎の言葉に目を見開くミッドナイト。

 そう、剣崎は雄英側に内通者がいるのではないかと考えているのだ。彼は随分と前から内通者の存在を疑い、それが何者なのかを監視しているが……。

「睡……今回の林間合宿で、全てわかるぜ。もしこれで奴らが来たら、疑惑は確信に変わる」

 USJ襲撃をはじめとする一連の事件を重く見た雄英高校は、林間合宿の行き先を当初のものから変更した。それを知っているのは、現時点では雄英高校の教師陣と剣崎のみ。これでまた(ヴィラン)の襲撃に遭えば、それ以外の者――内通者による情報漏洩があったということになるのだ。

「生者達の目はごまかせても、死者(おれ)の目はごまかせねェよ……睡、もし林間合宿で襲撃に遭ったら火永達や文さんを動かすぞ。雄英高校始まって以来のドデケェ山になるはずだ」

 ミッドナイトにそう告げると、剣崎はコートの中からボロボロになった生徒手帳を取り出した。そして部屋に置かれたペンに手を伸ばすと手帳に書き込み始め、それを千切ってミッドナイトに渡した。

「これは……?」

「相澤に渡しといてくれ。この林間合宿で全てが決まるはずだ…どんな結果であれ、だ」

 すると剣崎は、胴体が大きく欠損した骸骨カラス・タイラと頭蓋骨が存在しない骸骨カラス・サワラに声をかけた。

「タイラ、サワラ。お前達は先に様子見をしろ……いわゆる視察ってやつだ」

 剣崎の言葉を理解したのは、二羽の骸骨カラス――タイラとサワラは飛び立っていった。

「さてと……次はどう動くか……」

 

 

           *

 

 

 警視庁では、病院から退院した加藤が水島からステインの件について聴いていた。

「――そうか、ステインは剣崎が……」

「はい……凄惨な現場でした」

 多くのヒーロー達を脅かした〝ヒーロー殺し〟ステインは、かつて(ヴィラン)達を脅かした〝ヴィランハンター〟剣崎によって討伐された。

 世間ではステインが剣崎に殺されたという事実は伏せられているが、多くの(ヴィラン)が剣崎の復活を感づいているらしく、ステイン信奉者が(ヴィラン)連合に集結しつつあるという。

「もはや剣崎のことはいつまでも隠し切れんな……」

「ええ……いつかは公表せねばならないのでしょうか?」

「さァな……」

 剣崎の活動によって、(ヴィラン)側の動きは抑えられつつある。それは剣崎がステインを討伐した実績が大きいだろうが、勢いだけでは倒すことはおろか傷一つ付けることすらできないと判断したからだろう。

(だが……妙な胸騒ぎがするな……)

 剣崎はステインを殺した。その事実は、ステイン信奉者を煽るには十分過ぎた。

 加藤は公安の同僚がいるのだが、その同僚から聞いた話によると、ステインが死んで以来信奉者達が彼を神格化しているという不穏な動きがあるという。その信奉者達が、もしも(ヴィラン)連合に接触したら――結果は言うまでもないだろう。

 では、次に(ヴィラン)連合が打つ手は…――

「嫌な予感がする……」

「え……?」

 加藤は、小さな声でそう呟いた。

 彼の脳裏をよぎったのは、最悪のシナリオ――(ヴィラン)連合によるヒーロー失墜と、剣崎とオールマイトの抹殺を目的とした最終戦争だった。




一応剣崎が飼い馴らす骸骨カラスを紹介します。

【ストク】
片足の関節が存在せず、つけ根と足先と切り離れている骸骨カラス。
名前の由来は崇徳院。

【タイラ】
胴体が大きく欠損しており頚椎が何本か存在していない骸骨カラス。
名前の由来は平将門。

【サワラ】
頭蓋骨が存在しない骸骨カラス。
名前の由来は早良親王。

【テンジン】
上腕骨が抉れていて普通なら絶対飛べない程に無残な姿の骸骨カラス。
名前の由来は天満大自在天神(菅原道真)。

【オサベ】
背骨がほとんど欠如している骸骨カラス。
名前の由来は他戸親王。

【タチバナ】
後頭部と胸部が大きく抉れた骸骨カラス。
名前の由来は橘逸勢。

【イヨ】
踵が完全に欠損している骸骨カラス。
名前の由来は伊予親王。


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