亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

60 / 83
林間合宿~死者はただ、敵を滅する~
№54:骸骨カラス騒動


 雄英高校は、広大な敷地面積を有している。剣崎は特別な事情を除いては、その広大な敷地面積内のみは自由に行動することを許可されている。

 当然その中では出会いがある。顔を知る人物から教職員、果ては動物まで…多種多様である。

 そんな中で、この日剣崎はこんな出会いがあった。

「……こいつは……」

 剣崎の前には、カラス達が立っている。しかしそのカラスは、あまりにもおぞましい姿をしていた。

 カラスは肉がほとんどついてない、羽と骨格だけのほぼ骸骨に近い姿だった。とても生きていられる状態ではないのに、首を動かして剣崎を凝視している。片足の関節が存在せずつけ根と足先が切り離れているカラスもいれば、胴体が大きく欠損しており頚椎が何本か存在していないカラス、挙句の果てには上腕骨が抉れていて普通なら絶対飛べない程に無残な姿のカラスがいる。にもかかわらず、そのカラス達は生きているかのように滑らかに動き飛んでいる。

「……」

 試しに手を伸ばしてみると、その手にカラスが飛び乗り、ギャアギャアと鳴き始めた。その直後に他のカラス達が嫉妬でもしたように剣崎に目掛けて飛び、彼の傍へと止まったり肩に乗ったりする。

 どうやら剣崎に懐いているらしく、表情筋どころか肉がほとんどついてない状態ではあるが何となく嬉しそうな仕草をしている。

「類は友を呼ぶ……か?」

 事の始まりは、20分前に遡る。

 いつも通り敷地内にある森で剣崎は肉体を鍛えていた。朽ちた肉体ゆえに筋力強化などできないが、戦闘センス――いわゆる直感力や技量などは低下するだろう。ただでさえステインから奪った刀の扱いにも慣れねばならないので、通常以上に厳しい修行を重ねた。

 そんな中、剣崎は地面に例のカラス達の死骸を発見したのだ。しかし奇妙なことにその死骸は肉だけがキレイに削がれており、羽と骨格がこれまたキレイに残っていたのだ。

 悪しき心を持った輩――(ヴィラン)の玩具となって捨てられたのだろうと、剣崎は考えた。その時に彼は、マッド・ピエロと呼ばれる道化師郎なる(ヴィラン)を思い出した。

 師郎は非常に無邪気であるが、その分残酷なことを平然としでかすろくでもない小僧だったな――剣崎はそう思い返す。師郎の残虐性は相当質が悪いということもミッドナイトから聞いている。

 かつて出会った際に、どさくさに紛れて捨てていった可能性も否定できない。雄英のセキュリティの低さに再び呆れると共に、そのカラス達を剣崎は憐れんだ。

 たった一つの命を、どこの馬の骨とも知れぬ小僧に弄ばれて無駄死ににさせられたのは、何と残酷なことか。人ではないが、己と同じ末路を辿っているように見えて、剣崎は言葉にしがたい複雑な感情を抱いた。

 せめて魂だけでも安らかに眠ることを祈り、目を閉じた……のだが、異変はその直後に起こった。

 剣崎は無意識に、その朽ちた肉体からどす黒いモノを放出した。それはカラス達の死骸へと降り注ぎ、数秒経って剣崎が目を開けた頃にはカラス達がゾンビとして――骸骨カラスとして蘇ったのだ。

 剣崎自身は知らないが、彼から放出したものは「穢れ」だ。死と憤怒と怨恨に満ちた穢れが、カラス達を自らと同じ存在にさせて蘇ったのだ。剣崎の〝個性〟は、未だ未知の領域が存在する。これもまた、亡霊の能力の一種なのだろう。

 そうとは知らず、剣崎は目の前で起こった現象に戸惑うばかりで、どうしようかと反応に困り、現在に至るのだ。

「……お前達も憎いか? (ヴィラン)が」

 その言葉に、骸骨カラス達はギャアギャアと鳴く。

 まるで自分の言葉を――人語を理解しているかのような反応に、剣崎は戸惑う。

「……短い付き合いだろうが、よろしくな」

 穏やかにそう言うと、骸骨カラス達は一斉に飛び立った。

 ――騒動にならなければいいが……。

 嫌な予感がし、剣崎は眉をひそめたまま骸骨カラス達を見届けた。

 

 

           *

 

 

「あ~、疲れた……」

 疲労困憊の出久は、水道へ向かう。

 先程の演習試験にて、彼は幼馴染の爆豪と共にオールマイトと戦った。その圧倒的なパワーを前に絶望的な状況に陥るが、何とかコンビネーションでオールマイトの裏をかいて試験に合格した。

 とはいえ、相手は〝平和の象徴〟――最強のヒーローなのだ。たとえ剣崎に鍛えられたとしても相手が相手……心身共にボロボロになるに決まっている。しかしそんなことも言ってられないので、とりあえず顔を洗ってスッキリしたいところだった。

 そして水道へ辿り着き蛇口を捻ようとした、その時だった。

 ギャアギャアと、傍で鳥の鳴き声がしたのだ。どんな鳥なのか、鳴き声がした方へ顔を向けると……。

「――は……?」

 出久は絶句した。羽と骨格だけのほぼ骸骨に近い化け物鳥が目の前に立っているのだ。

 さっきまで演習試験で爆豪と共にオールマイトと戦ったことに加え真夏日であったため、暑さで頭がおかしくなったのか――そう思った出久は、水道の蛇口を捻って水を出しバシャバシャと顔を洗い目を擦ってもう一度見る。

 何もいなかった。あの化け物鳥は気のせいだったのだと、安堵する出久。しかし一方で、嫌な予感も残っていた。

 彼が関わった剣崎は、16年の時を経て世に解き放たれた先の時代が生んだ怪物で、生ける亡霊である。あの化け物鳥も、剣崎と何かしらの関係があるのではないか。

 ふと、出久は妙に右肩が重く感じたのに気づいた。そこまで重いわけではないが、まるで鳥か何かが乗っているようである。

 恐る恐る見てみると――いつの間にか、あの化け物鳥が肩に乗っていた。

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」

 思わず絶叫する出久。

 その声を聞いて、クラスメイトが駆けつけた。

「緑谷君! どうし――」

「何があったん――」

「緑谷! 何があ――」

 お茶子や轟達が駆けつけると、それを見た一同は絶句した。どう考えても生きてるはずがない姿の化け物鳥がギャアギャアと鳴いている、その光景に。

 そんな目を疑うような光景に、女子は顔を青ざめ震え、男子は開いた口が塞がらない。

「な、何だよコレェェェェェ!? 怖ェよォォォォ!!!」

 ごもっともな叫び声を上げる峰田。

 その間にも化け物鳥――骸骨カラス達が集い始め、ついには包囲されてしまった。

「ちょ、これ……」

「ど、どうしよう……」

「た、救けを呼ぼう!! 相澤先生達に!!」

「できるか!! ただでさえ全員携帯持ってねェのに、あの化け物の群れん中突っ切れってか!? しかもどう見てもゾンビ系統だ!! 〝個性〟通じるのかよ!!」

「いや、でも早くしないとSAN値チェックが…!!」

 出久が指差す先には、骸骨カラス達に凝視され絶望と諦観の表情で震える女子勢が。

 この現状を打破すべく、男子勢は思考を張り巡らせる。すると…。

「オラァ!!」

 爆音と共に、爆豪登場。

 〝個性〟を発現しながら骸骨カラス達に特攻し、一気に退ける。

「かっちゃん!」

「ナイスタイミング、爆豪!!」

「クソを下水で煮込んだ性格の爆豪が天使に……!!」

「何やってんだクソ共…つーか誰だ天使とか言った奴!! 殺すぞ!!」

 いつも通りの横暴さが目立つ爆豪に、涙目で表情を明るくする一同。

 するとその直後だった。

 あの骸骨カラス達が爆豪の攻撃に怒ったのか、一斉に爆豪に襲いかかり嘴で攻撃したのだ。

「うおっ!?」

「か、かっちゃん!!」

 骸骨カラス達の猛攻。爆豪の爆破をものともせず集中攻撃を仕掛けるその光景を前に、出久は耐えきれず特攻しようとするが……。

「静まれ」

 地を這うような声が響き渡ると、どこからか剣崎が現れた。

「お前達、こいつらは俺の可愛い後輩だ。手を出すな」

 耳など無いはずの骸骨カラス達は、剣崎の声に反応して爆豪への攻撃を中止した。

 カラスは知能の高い生物。それは死んでゾンビのような状態になっても変わらないようだ。

「大丈夫か? つーか何してんだこんなところで。次の授業あるんだろ?」

 すると、出久がゆらゆらと歩きながら剣崎に近づき始めた。

 彼から放たれる若干の怒気を感じ、怪訝な顔をする剣崎。

「出久君……?」

「剣崎さん……かっちゃんに手を出さないでくださいっ!!!」

 

 数分後、騒ぎを聞きつけ駆けつけたミッドナイト達は、骸骨カラスの群れと口から上がごっそり吹き飛んだ剣崎に驚愕した。




ちなみに、この回に出てきた骸骨カラス達はこの話以降も登場します。

感想・評価、お願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。