出久がオールマイトに剣崎の伝言を伝えた次の日。
ものすごい速度で走りながら、オールマイトはスーツ姿で通勤していた。
(私なりに調べたが…空人間はどうやら「
敵連合は多くの
(空人間の〝個性〟は、相手を異空間へ閉じ込める〝個性〟…ならば緑谷少年はどうやって脱出できた?)
オールマイトの唯一の疑問は、出久がどうやって異空間から脱出できたかだ。
空人間が何らかの形で出久が〝無個性〟であるのを知り、「捨て駒にすらならない」と判断して殺す気も失せて異空間から強制的に放り出した…それがオールマイトの推測である。
(もっとも、
後々聞いてみた話だと、どうやら出久を攫ったのは空人間の仲間らしく、その後に出久は剣崎と遭遇した。
いずれにしろ、出久は
(何はともあれ、早く着かねばな!!)
そう思い、更に加速しようとした時だった。
突如悲鳴と共に発砲音と爆発音が響き渡り、オールマイトは思わず振り返った。
振り返った先には、パニックになって逃げる市民がいて、その先には銃火器を手にした
「いかん!」
人々のピンチに、オールマイトは
「俺達だってバカじゃねェよ。〝個性〟だけで勝てるとは思ってねェ…だから
暴れ回る
他の
「クソ、銃火器は卑怯だぞ……!!」
「質が悪いわ……」
シンリンカムイこと西屋森児と
現にシンリンカムイは腕を撃たれ、
「よし、止めだ!」
空人間は仲間達に告げ、二人に銃口を向けた。
その時だった。
「〝
その声と共に、強烈な風圧が敵達に襲い掛かった。
不意打ち同然だったため、避ける事すら出来ず吹き飛んでしまうが、そこは敵…何とか立ち上がる。
「な、何だ!?」
「何が起こった……!?」
そう戸惑う敵達の視線の先には、〝彼〟がいた。
「もう大丈夫! 何故って? 私が来た!!」
そう、オールマイトだ。
いつも通りの決め台詞と共に馳せ参じたオールマイトに、市民は歓喜しシンリンカムイと
圧倒的な実力と絶大な人気を誇る〝平和の象徴〟の登場に、
「オールマイト……!!」
「空人間だな? 私は確かめたいこともあって来た」
名指しで呼ばれた空人間は、オールマイトの言葉に反応する。
「オールマイト……何の用だ? お前に何を話せと?」
「16年前……雄英高校の生徒であった
オールマイトは遠回しに剣崎のことについて問うが……。
「――誰のことなんだか知らねェな……そんな奴がいたことすらわからねェ」
その答えに、オールマイトは内心残念に思った。
剣崎の件の真相がわからないままなのだから。
「どの道てめェは邪魔だ。〝先生〟のためにも死んでもらうぜ!!」
「むっ!! ならば、やってみろ!!」
オールマイトは特攻し、
結果から言おう……勝ったのは当然オールマイト。
活動時間は十分残っており、〝ワン・フォー・オール〟の圧倒的なパワーの前では銃火器も無力化され、成す術もなく
全てが終わると、
「彼の事はわからなかったな……」
オールマイトがそう呟いた直後に、それは起こった。
倒れて気絶した空人間が、ビクビクと痙攣し始めたのだ。それを見ていた市民やシンリンカムイと
それと共にどこからか地鳴りのような轟音が響き渡り、段々大きくなっていく。地震は起きていないが、市民の恐怖を煽るのには十分だ。
ふとオールマイトは、何かを感じた。それは不吉な予感というより、何かが自由になったような……いずれにしろ、言葉では言い表せないような何かを感じた。
10秒ぐらい経つと、空人間の痙攣はおさまり地鳴りのような轟音もピタリと止まった。
「……申し訳ない、ついついやり過ぎてしまったようだ。だがもう大丈夫!! この
オールマイトは咄嗟に、相変わらずのフランクさで市民に対し
それを知った市民は再び歓喜し、オールマイトの名を叫び彼を称賛した。
「ねェ、オールマイト……」
「先程の現象は一体……?」
「――それは私にもわからないが……何かが起きたのは明白だ」
オールマイトは、シンリンカムイとMt.レディと共に目を白くして仰向けで倒れる
*
剣崎は異空間の中で、無数に生えた枯れ木を日本刀で斬り倒していた。
一切の緑もなく死んだも同然の林と黒い雲がどこまでも続くこの異空間は、どこへ移動しようとも同じ場所を巡る。景色は一切代わり映えしない。
長い年月の間、何一つ変わらない。それでなお剣崎はこうして何らかの行動を起こすのは、気が狂うのを防ぐためでもあるが、それ以上に敵に対する怒りと憎しみの気持ちを滾らせ続けるためだった。
全ては、全
その時、地鳴りのような轟音が響き渡り、剣崎は枯れ木を斬り倒すのを中断した。
「何が起こって……っ!?」
ふと、剣崎は足元の黒い何か――自分の影があるのに気が付いた。
驚いて空を見上げると、16年の間、一度も目にしなかったモノがあった。
太陽だ。
「……日の光……!? そうか、ついにこの時が……!!」
剣崎は感極まったような顔をして黒い雲が段々晴れていく空を見つめた。
変化が生じたのは空だけではなかった。地面に積もっていた雪はみるみるうちに解け、枯れ木だらけの森は瞬く間に朽ちていき、塵のように散った。たった十数秒で、あの忌まわしき殺風景が消えたのだ。
剣崎はゆっくりと辺りを見回した。
見慣れた山や森、更には町が見える。そう、空人間の〝個性〟が解け、それにより元の世界と異空間の境界線も破れたのだ。
それはつまり、彼を異空間へ閉じ込め苦しませた空人間が、オールマイトまたはヒーロー達によって倒されたという事である。
すなわち、生ける亡霊として蘇った剣崎の悪者退治が――〝ヴィランハンター〟の復活による「全
「よくやった出久君…これで俺は自由だ!!!」
出久に対する感謝の言葉を上げ、暖かさと光を感じた剣崎は目を閉じて腕を広げた。
16年ぶりの太陽。
16年ぶりの青い空。
16年ぶりの風。
それら全てが、剣崎にとって何よりも愛おしく感じた。だがそんな穏やかな一時はすぐに終わりを迎えた。
「さあ、出掛けるぞ……悪者退治だ!!」
16年前に止まった時計が動き出し、剣崎が往時のように
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