申し訳ありません。ご指摘ありがとうございます。以後気を付けます。
「……ハァ……化け物め、俺のアジトを……!」
崩壊した廃墟から何とか脱出したステインは、剣崎の力に悪態をつく。
しかし、完全に崩れた廃墟からはすぐには出れないだろう――そう考えたステインは、神酒を探し始めた。神酒は剣崎を倒せる可能性が高い唯一の切り札……ここで無くしたとなれば勝ち目はほぼ無い。
「! 見つけた……」
瓦礫に埋もれた神酒の入ったボトルを見つけるステイン。不幸中の幸いか、瓦礫の隙間にハマっただけであり一応無事ではあるようだ。
(ボトルに入れ替えたのは正解だったか……)
元々は樽に納まっていた神酒を、携帯用にステインは入れ替えていた。どうやらそれが功を奏したようだ。だがそれを手にした途端…。
ビキキキ……ボゴォン!!
「!」
「ちっ……仕切り直しだな」
瓦礫を砕き割り、剣崎が現れる。
「さて…どうする。大人しく斬られるようなタマじゃねェだろうが、悪運も尽きたな」
剣崎は刀を構えると、力一杯踏み込んでステインに迫った。
「一思いにその首、刎ねてやらァ」
「それは貴様の方だ!」
ステインは手にしていたボトルの蓋を開け、神酒を剣崎の顔面目掛けて浴びせた。
神酒は剣崎の顔を濡らし、腕や胴体、足も濡らす。そのときだった。
「あ゛っ……う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
人間が出せる声とは思えないような声色で発狂する剣崎。肉を焼くような音と共に全身から黒い霧のようなモノが立ち昇り、言語に絶する程の激痛なのか刀を落として両手で顔を覆う。それと共に剣崎から強烈な圧が放たれ、至近距離にいたステインは細かい瓦礫と共に吹き飛んでいく。
「ぐあっ!?」
吹き飛ばされて地面に叩きつけられるステインだが、ふと彼は気付いた。剣崎の肉体の一部が、ぞっとするほど白かった肌が人間らしい血色が戻っていることに。それによく見ればひび割れたような傷からは
(まさか……!)
剣崎は神酒を浴びたことで超自然的能力の効果を失い始めており、放たれた圧はその超自然的能力の根源――エネルギーのようなモノだと解釈したステインは、笑みを浮かべた。いずれにしろ、物理攻撃が通じるような状態に陥ったのだ。
「……ハハァ……!!」
ステインは悪意に満ちた笑みを浮かべ、剣崎に一気に詰め寄り斬りかかる。
ドスッ!
人の肉に刺さった感触が、ステインに伝わる。
剣崎は、ほぼ完全に無力化している。急所ではないが、今の彼は物理攻撃が完全に通じる状態に陥ったことは証明された。
「ハァ……!!」
歓喜の笑みを浮かべ、ステインはナイフを取り出したが…。
ズドンッ!
「!?」
ステインの脇腹に剣崎の拳が減り込む。その衝撃は凄まじく、規格外のタフネスを誇るステインでも汗だくで片膝を突いてしまう程だった。
彼の身体を動かしているのは、計り知れない憤怒と憎悪の念だった。死してなお燃え続ける怒りと憎しみの業火は、もはや人ではなくなった彼を燃やし続けるのだ。
「ハァ……ハァ……ふざけやがって……!! 一遍死んでみるかこのクソガキがァ……!!!」
「っ――」
*
同時刻――
「ハァ……ハァ……!」
「フフフ……老いたなグラントリノ。あの頃よりも動きも鈍い、寄る年波は超えられないか?」
片膝を突いて右肩と左腕から血を流すグラントリノに対し、ほぼ無傷の状態で嘲りの笑みを浮かべる冷子。
グラントリノVS熱導冷子の戦いは、冷子が優勢でありグラントリノは窮地に立たされていた。
元々グラントリノは、現在隠居の身。指導力や技術も衰えていないとはいえ、老いには抗いきれない。一方の冷子は表立って事は起こさなくなったが現役バリバリの強豪。〝個性〟の相性も踏まえると、グラントリノが追い込まれるのはある意味では当然とも言えた。
(どうしよう……グラントリノが追い込まれてる!! 僕は何をしてるんだ……!?)
何もできずに立つ出久。目の前で苦戦しているグラントリノヒーローを助けたくても、冷子の力と気迫に押されて動けない。
(くっ……周囲の気温をコントロールして身体能力を制限させられたか……!!)
「止めだ、グラントリノ!!」
冷子はレイピアを構え、グラントリノの眉間を狙って突きを放った。
その時だった。
ガッ!
「!?」
「あなたは……剣崎さんの……!!」
「貴様は……〝プロミネシア〟!!」
助太刀に来たのは、〝プロミネシア〟こと炎炉熱美だった。
熱美は冷子の突きを白刃取りで止める。白刃取りをした熱美の掌からは血が流れ出ている。
「熱美、お前……」
「何とか間に合ったようね……〝
ジュワッ!!
「っ!?」
「刀身が溶けた!? 何て高熱なんだ!!」
何と一瞬で冷子のレイピアの刀身がドロドロに溶けてしまった。熱美の発する高熱が刀身に伝導して、あまりの温度の高さに溶けてしまったのだ。
得物を使えなくなった冷子は舌打ちし、それを目撃した出久は驚愕する。
「くっ……相変わらず面倒な女だ!」
「お互い様でしょ」
冷子の〝個性〟である「温度」は気温を操ることができ、上げるよりも下げる方が相手の運動神経を鈍らせることができるのでよく使う。しかし熱美の場合は最大2000度の熱を発生できるので、冷子にとって熱美は相性最悪な相手なのだ。
「くっ……仕方ない、今回はここで引き上げるとしよう。次は覚悟しろ〝プロミネシア〟」
捨て台詞を吐いて、冷子はその場から逃走した。
「大丈夫? グラントリノ」
「ああ、助かった……」
「熱美さん……ありがとうございます」
「いいや、礼を言うべき相手は刀真の方。刀真が睡を通じて私達に知らせてくれたの」
「剣崎さんが?」
出久は目を見開く。
剣崎の同期は名だたるヒーローであり、ミッドナイトを通じて連絡を取り合うことも簡単だろうが、先程襲撃に来た冷子の動きまでは予測できないはずだ。
しかし熱美曰く、剣崎は職場体験中にステインと戦う可能性が高いと読んで職場体験が終わるまで緊張を解かず警備を強化するよう口利きしたとのこと。それは御船や火永にも行き届いており、彼らもまた動いてるという。
「刀真の読みは大体合ってる……出久君、君もいざという時は戦いなさい。非常事態には非常事態に合った対応をするのもヒーローの務めよ」
その言葉に、出久は額に汗を浮かべる。
本来ならば職場体験中に〝個性〟を無断使用すれば処分が下されるが、そんなことなどどうでもいい状況……いや、そんなことを考える状況じゃなくなっているのだ。
「気を引き締めて。ここ数日はいつでも自分の背後に死神が立っていると思いなさい」
いつになく真剣な表情で、熱美は忠告したのだった。