最終回のビジョンもある程度いい感じだし…気長にやろうかな。
感想・評価、お願いします。
「ハァァッ!!」
「ぬんっ!」
ガギィィン!!
刀同士を叩きつける音が辺りを包み込む。
刃こぼれが生じた互いの刃が重なって火花を散らすと、ステインはナイフを取り出し剣崎の顔面にナイフを突き刺した。常人なら即死だが、相手は生ける亡霊――その程度の攻撃は無意味だ。
「小癪なっ……!!」
お返しとばかりに、剣崎の痛烈な左ストレートがステインの顔を抉る。
ステインはモロに食らい、大きく吹っ飛ぶ。いくら数十人のヒーローを死傷させてきた
しかし、顔に突き刺さったナイフを抜く剣崎の表情は未だに鋭い。
「さすがに強い……伝説とされるのも納得がいく」
常人なら気絶してもおかしくない一撃なのだが、ステインは何事も無かったように立ち上がった。
すると次の瞬間、ステインは剣崎の真上まで一気に跳び上がって刀を振り下ろした。が、止められてしまう。
「甘ェ」
「ちっ」
純粋な戦闘の経験値では、剣崎とステインでは桁レベルの差がある。そもそも相手は無個性状態の上に剣一本のみで大物達と渡り合った〝元人間〟――その圧倒的な力の差は、いくら剣刃を一度交えてその太刀筋を覚えているとはいえ到底すぐに埋められるようなものではない。
「ぬん!」
剣崎が一閃、横薙ぎに刀を振るった。
胴辺りを狙ったそれを受け止めるのは困難と悟ったのか、ステインは飛んで避ける。それを見た剣崎はすかさず上から真っ直ぐに打ち下ろすが、再度ステインは素早く避け、逆手に持ち替えて刀を横薙ぎに振るう。が、剣崎は鞘を用いてそれを受け止める。
両腕を事実上封じられたステインは、剣崎の顔面を蹴る。しかし剣崎は蹴りを食らいながら、その反動を利用して人体急所の肝臓を突いた。
「ぐっ……!?」
顔をしかめ、脇腹を押さえるステイン。
人体急所の一つである肝臓は、打たれると激痛をもたらし刺されると大量出血する。立っている相手を叩いたくらいでは内臓破裂まではいかないが、それでも十分なダメージを与えられる。素の実力が規格外であるステインも、これはキツイ。
「ハァ……ハァ……!!」
「まだだ」
ドォォン!!
剣崎は刀を利用して衝撃を伝導させる遠当て技〝雷轟・
剣崎の呼吸すらも許さない猛攻を前に、疲弊し息切れをするステイン。その隙に剣崎は一気に間合いを詰め、彼の首を掴んで壁に強く叩きつけた。
「がァッ……!!」
「――
声色に孕む嘲り、眼光に孕む殺意、醸し出される憤怒と憎悪……ひび割れたような顔面の口から零れる、地獄の底から響くような低い声が嫌という程に耳に入り、ステインは嫌悪感を露骨に示す。
「あの時代…俺が暴れてた頃ァてめェ程度はアリのようにいた。そんな激動の時代を生き抜いた俺に、お前のような辻斬り小僧が勝てっこねェだろう」
剣崎は止めを刺そうと刀を構えるが……。
ビシビシビシ…
周囲の柱に大きな亀裂が生じ始め、轟音が響き始める。
「……!?」
「――マズイな、力加減を間違えたか……?」
そう、先程剣崎が放った衝撃が老朽化した柱に致命的な損傷を与えてしまい、廃墟が崩れ始めているのだ。
そして止めを刺すのを一旦諦めてその場から退避しようとした瞬間、天井が崩落し――
*
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「アレは……!!」
塚内らと共に保須で警備をしていたオールマイトは、轟音と共に崩れる廃墟を目撃する。
この日にビルの爆破解体などしないし、そもそも爆破解体は都会ではしない。ふと思い出してみれば、どういう訳か剣崎は雄英にはおらず、それどころか朝っぱらから行方知らずだった。そこから導き出される
(剣崎少年……もしや……!!)
嫌な予感がしたオールマイトは、塚内らを置いて目にも止まらぬ速さで現場へ向かった。
(剣崎少年、まさか〝ヒーロー殺し〟と……!?)
そして、動いたのはオールマイトだけではなかった。
「小僧、急げ! 一刻を争う事態だぞ!」
「は、はい!!」
移動中に廃墟の崩壊を目撃したグラントリノと出久もまた、現場へ向かおうとしていた。
「――この職場体験の前に、ヒーロー達がステイン討伐の会議をしてな……そこで奴と出会った」
「!」
「ステインと剣崎の一戦は一切介入しないのが方針だが……民間人への被害なら別! ケガ人が出て多くの市民が巻き込まれとるかもしれんぞ! 早く急げ!」
その時だった。
「いかん、避けろ!」
「!?」
グラントリノの声を聞き、咄嗟に右へ動く出久。その直後、いつの間にか一人の女性がレイピアを突き出していた。あのままいたら、レイピアの刃が自分の体を貫通していたことだろう。
少しでも遅れていたら――そう思い、顔を青ざめる出久。
「……今のを避けるとは、あの男に鍛え上げられただけはある」
「っ――一体何の用だ、〝ヒートアイス〟!!」
グラントリノは、女の名を叫ぶ。
そう…出久を狙ったのは、かつて剣崎と死闘を繰り広げた超極悪
「攫いに来たのさ、そこの少年を」
「え…?」
冷子はレイピアの切っ先を出久に向け、自らの狙いは出久であると明言する。それを聞いたグラントリノは眉間にしわを寄せ、当の本人である出久は動揺する。
「剣崎を怒らせ、その怒りをヒーローへ向ける気か……!?」
グラントリノは、愛弟子を人質に取られたヒーロー達に怒りを向けさせて同士討ちを狙うのかと問う。だが冷子の狙いはグラントリノの推測の真逆だった。
「少年…お前を人質にすれば剣崎は怒る。怒りはあいつを強くさせる…同志を責めぬ剣崎は私に怒りを向け、殺しにかかるだろう。私はそんな剣崎を倒し、奴を私の玩具として手に入れたいのさ」
悪魔のような笑みで自身の目的を語る冷子。
そんな彼女に、出久は声をかける。
「……あなたは剣崎さんの強さを知らない。あの人がどれだけの実力者だと――」
「知らないのはそっちだろう? 〝ヴィランハンター〟剣崎刀真の話を聞くだけで鳥肌が立ち震えが止まらない程の強さと無慈悲さを。そんな
冷子の言葉に、嘲りも過信も、虚言も妄想も無かった。ただ、凶悪なまでの独占欲だけが存在していた。
「さて…この私に嬲られたいのなら来るがよい、グラントリノ……!!」
「っ……小僧、下がってろよ!」
冷子とグラントリノが、命懸けの戦いを繰り広げようとしていた。